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76 本屋へ行こう
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魔法書を開くときはいつもどきどきする。
プレゼントの中身を開けるときみたいに、どんな内容なのか期待感が高まる。
題名などを記す最初のページ――トビラには、なにやら難しい文字で本のタイトルが記されている。
魔法による自動書記の印刷ではない、手書きの文字だ。
「なんだこれ……読めん」
文字は、読めなかった。
日常的には使わない文字だ。
「これ……古代の文字に似てるな」
だいぶ昔の魔法書らしい。現代では使われていない古代文字が使われている。
「人間が大昔に使っていた文字ですね?」
「うん。ずごく難しい字だ」
身を寄せて、シーシュちゃんが開いたページを覗き見る。
肩が触れ合うけど、シーシュちゃんは気づかない。
シーシュちゃんの銀髪はさらさらで、いい匂いがする。俺は女の子には慣れていない。いかん、平静にならなければ。
「目次も、本文も?」
「うん、全然わからない」
俺は腕を組んだ。
「【古代文字に対応した辞書】が必要か。サフィさんちにもなかった気がするし……」
そもそも考古学に近い分野だ。俺はもちろんサフィさんも専門外だろう。
「今から本屋さんに探しに行きませんか? 私も気になります」
シーシュちゃんは提案した。
「それはありがたいけど……付き合ってもらっちゃっていいの?」
「はい! 私も買いたかったものがあるので!」
シーシュちゃんは、出身が特殊なだけで、ほかは普通の女の子だ。サフィさんやスキアさんを日常的に見ているので、余計にそう思う。
こういう休日もいいもんだなあ。
ほっこりしながら、俺は出かける支度をした。
そんなこんなで、二人と一匹、フーリァンの中にある本屋にやってきたが……。
「ないねえ」
本屋のおじさんに一蹴されてしまった。
「そうですか……ないですか」
「うちは魔法書も取り揃えてはいるが、一般に流通しているのしか置いてないからねえ。古代文字に関する本は研究書や専門書の中でも、かなりコアな部類に入るんじゃないか?」
おじさんに言われて、ぐうの音も出ない。
「専門書なら王都のほうが揃ってるんじゃないのかい?」
「うーん……確かに」
そりゃあ、そうか。
王都にはいろんな種類の本屋があるので、探している本は、あまりにマイナーなものでなければだいたい見つけられる。
けど、このへんじゃ本屋をやっているところも限られてくる。専門書ならなおさらだ。
「いや、でも、このへんにある店なら――」
本屋のおじさんは考えて、通りを指差して言った。
「ここから五件先に古書店があったはずだ。専門書も買い取ってるはずだから、あそこにならあるかもしれねえな」
古書店か。なるほど。
「ありがとうございます。行ってみます」
……五件先の古書店【ジオメトリック・コード】は、閉まっていた。
『本日は急遽お休みさせていただきます』
そんな札が入り口に貼られている。
「閉まってるかぁ」
「だめですか……」
タイミングが悪かったな。
「まあ、いいか。シーシュちゃんの買い物に付き合うよ。買いたいものあるんだよね?」
「なんか、すいません」
「せっかくだし、いろいろ見て回って遊ぼうよ。よかったらだけど」
「……はいっ」
シーシュちゃんは満面の笑みで、俺の腕に自分の手を絡ませる。
「シ、シーシュちゃん?」
「なんです?」
胸が……それほど小さくもない胸が当たっているのですが。
弾力のある柔らかい胸が、俺の腕に押し付けられて形を変えている。
シーシュちゃんは、やはり気づいていない。
「いや……なんでもないよ」
どう指摘すればいいのかわからない。気づいて……!
プレゼントの中身を開けるときみたいに、どんな内容なのか期待感が高まる。
題名などを記す最初のページ――トビラには、なにやら難しい文字で本のタイトルが記されている。
魔法による自動書記の印刷ではない、手書きの文字だ。
「なんだこれ……読めん」
文字は、読めなかった。
日常的には使わない文字だ。
「これ……古代の文字に似てるな」
だいぶ昔の魔法書らしい。現代では使われていない古代文字が使われている。
「人間が大昔に使っていた文字ですね?」
「うん。ずごく難しい字だ」
身を寄せて、シーシュちゃんが開いたページを覗き見る。
肩が触れ合うけど、シーシュちゃんは気づかない。
シーシュちゃんの銀髪はさらさらで、いい匂いがする。俺は女の子には慣れていない。いかん、平静にならなければ。
「目次も、本文も?」
「うん、全然わからない」
俺は腕を組んだ。
「【古代文字に対応した辞書】が必要か。サフィさんちにもなかった気がするし……」
そもそも考古学に近い分野だ。俺はもちろんサフィさんも専門外だろう。
「今から本屋さんに探しに行きませんか? 私も気になります」
シーシュちゃんは提案した。
「それはありがたいけど……付き合ってもらっちゃっていいの?」
「はい! 私も買いたかったものがあるので!」
シーシュちゃんは、出身が特殊なだけで、ほかは普通の女の子だ。サフィさんやスキアさんを日常的に見ているので、余計にそう思う。
こういう休日もいいもんだなあ。
ほっこりしながら、俺は出かける支度をした。
そんなこんなで、二人と一匹、フーリァンの中にある本屋にやってきたが……。
「ないねえ」
本屋のおじさんに一蹴されてしまった。
「そうですか……ないですか」
「うちは魔法書も取り揃えてはいるが、一般に流通しているのしか置いてないからねえ。古代文字に関する本は研究書や専門書の中でも、かなりコアな部類に入るんじゃないか?」
おじさんに言われて、ぐうの音も出ない。
「専門書なら王都のほうが揃ってるんじゃないのかい?」
「うーん……確かに」
そりゃあ、そうか。
王都にはいろんな種類の本屋があるので、探している本は、あまりにマイナーなものでなければだいたい見つけられる。
けど、このへんじゃ本屋をやっているところも限られてくる。専門書ならなおさらだ。
「いや、でも、このへんにある店なら――」
本屋のおじさんは考えて、通りを指差して言った。
「ここから五件先に古書店があったはずだ。専門書も買い取ってるはずだから、あそこにならあるかもしれねえな」
古書店か。なるほど。
「ありがとうございます。行ってみます」
……五件先の古書店【ジオメトリック・コード】は、閉まっていた。
『本日は急遽お休みさせていただきます』
そんな札が入り口に貼られている。
「閉まってるかぁ」
「だめですか……」
タイミングが悪かったな。
「まあ、いいか。シーシュちゃんの買い物に付き合うよ。買いたいものあるんだよね?」
「なんか、すいません」
「せっかくだし、いろいろ見て回って遊ぼうよ。よかったらだけど」
「……はいっ」
シーシュちゃんは満面の笑みで、俺の腕に自分の手を絡ませる。
「シ、シーシュちゃん?」
「なんです?」
胸が……それほど小さくもない胸が当たっているのですが。
弾力のある柔らかい胸が、俺の腕に押し付けられて形を変えている。
シーシュちゃんは、やはり気づいていない。
「いや……なんでもないよ」
どう指摘すればいいのかわからない。気づいて……!
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