上 下
44 / 97
連載

87 最後の項目を読む

しおりを挟む
ゴシャァ……!

という音がしそうなほど豪快に、サフィさんの膝が地面に崩れ落ちた。

「天井……なんで……」

サフィさんの工房から、ゴーレムの頭が突き出していた。
天井の一部が、ものの見事に破壊されている。

「すいませんでした……」

俺は頭を下げた。

「ううん、なんか、記憶が曖昧なんだけど、ぼくがロッドくんに『壊して』って言ってたような気がする」

「いや、それは気のせいです。全部俺のせいです。弁償させてくださいお願いします」

俺は象牙を売って余っていたお金をすべてサフィさんに渡した。

「足りなければ稼いで出します。冒険者になってきます」

「いや、天井が部分的に壊れたくらいだから問題ないと思うけど……」

話していると、

「できたぞ!」

スキアさんが上機嫌で工房の前に出てきた。
手には、虫眼鏡のようなものが握られている。

「隠匿魔法を破らずに文字化して映し出せるルーペだ! この本の性質に合わせて作ったからこの本にしか使えないが――ん? どうした?」

俺たちが消沈しているのを見て、スキアさんは首をかしげた。

「す、すごいですね。できたんですか? インクを壊さずに見れる道具が」

「このくらい余にかかれば軽いぞ」

この騒動の中道具を作ってくれていたらしい。

「おーいロッドー。酒なくなっちったー。おかわりくれよー」

続いて、アララドさんが酔っ払いながら顔を出すが、放っておいた。

アララドさんが俺の声を聞いてなくて本当によかった。心からそう思う。



大工さんの手配をし、今日のところは家に帰って、俺はソファに腰をかけた。

先にソファで寝ていたニアは、俺が帰ってきたのに気づいて顔を上げ、

「ふわぁー」

あくびをする。

「気楽だよな、お前は」

「ニァ?」

「今日も大変だったんだぞ」

ニアをなでながら、魔法書に目を通す。ニアはまた俺の膝の上に乗ってくる。

序文を開いて、読めない文字の箇所に目を移す。

いよいよだ。

俺はスキアさんからもらった、覗くことで隠匿魔法を無効にして読むことができるルーペでその文字を読んだ。


『魔眼付与』:一定時間の間、魔眼効果を付与する。


「――ま、魔眼!?」

魔眼は、見ることで見た対象に何らかの効果をもたらす能力だ。
たいてい呪いとかの、相手に対して不利益なものをもたらすことが多い。

伝説上では見るだけで相手を殺したり、石にしたりと、わりとなんでもありなものもある。

見るだけで相手に対して発動できるのがそもそも強力すぎる。

「とりあえず日記とかポエムじゃなくてよかったけど……」

飲めば魔眼の効果を得られるポーションということだろうか。
そんなもの、あるんなら絶対に作りたい。役に立つか立たないかはべつとして、作りたい。単純な好奇心の問題である。

俺は該当のページをめくり、本文を読み進める。

『閉鎖の魔眼』……効果は、記述されていない。ただ必要な材料と、製法だけ記されている。

材料は、マンドラゴラ、ヒガンバナ、妖精花……等、どれも高級な薬草である。

いや、まだそれらは手に入れることができるからいい。しかし最後の材料。

『霊獣の毛』

なにこれ。

「これは、作るのは無理だな。さすがに霊獣って……」

霊獣は、獣が長い年月をかけて精霊化した存在だといわれているが、ドラゴン以上のレア生物で基本的にお目にかかれない。

出会うことさえままならないのに、ましてや毛なんて。

魔眼付与は名前からして、とてつもない力だろうが……実現できなければ意味がない。

「ニァー」

ニアは後ろ足で立ちながら俺の胸を前足でふみふみしている。

「それに獣の毛を何? 煎じて飲むの? それはそれで嫌だなあ。すり鉢ですりつぶしても嫌だなあ」

「ニァー!」

「そのへんにいないかな、霊獣。で、俺に懐いてこないかな。……さすがにないか」

「ニァー! ニァー!」

「なんだニア、今日はやけに主張が激しいな。スキアさんみたいだぞ。おしっこか?」

仕方のないやつだ。

ただ、3つあるうちの1つ『ディープインサイト』は制作できそうだ。こちらは材料は現実的である。
時間のあるときに作ってみてもいいかもしれない。

「今度から、試飲は一人の時にやるか……」

今回みたいなことはもうごめんだからな。
本当は自宅を工房に改装して道具を揃えるのが手っ取り早いんだけど……今はお金が足りない。簡単なポーションとかなら作れるが、俺がしたいのは研究である。
今はサフィさんの工房で作って、自宅で試飲するしかないか。

「ニァ……」

「なんか不満気だな、ニア」

床にニアの毛がもさもさ転がっている。あとで掃除して捨てないとな……。

「ニァ……」

しかしこのルーペ、少し使うだけでもかなり魔力を消費するな。ありがたいが、燃費が悪いな……。



……『ローレライ』は、その後効能を調整し、誘惑効果を消して辺境伯軍にいくつか納品された。

そして、試験的に作った何本かは、俺の切り札として取っておくことにした。誘惑効果は、もちろんなしだ。

ーーーーーーーーーーーーーーー

【名前】ロッド・アーヴェリス
【戦闘力】361 : B
【魔力】199: D
【敏捷】217 → 234 : C
【工作】7110 → 7160 : SSS
【交渉力】367 → 379 : B
【功績】291 → 294 : C
【スキル】超集中
      上級魔法書読解
              詠唱省略【下級】

ーーーーーーーーーーーーーーー
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

最初に私を蔑ろにしたのは殿下の方でしょう?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:639pt お気に入り:1,956

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

BL / 連載中 24h.ポイント:52,633pt お気に入り:5,020

夜の帝王の一途な愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:85

旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:180

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

BL / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:298

真面目系眼鏡女子は、軽薄騎士の求愛から逃げ出したい。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:240

美少女水着パラダイス👙はエッチなことがいっぱい

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:51

小さいぼくは最強魔術師一族!目指せ!もふもふスローライフ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,313pt お気に入り:141

【全話まとめ】意味が分かると怖い話【解説付き】

ホラー / 連載中 24h.ポイント:88,650pt お気に入り:648

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。