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86 『ローレライ』その効能
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工房に戻ってくると、野次馬の女の人たちから黄色い声が上がった。
「あ、どうも……」
お辞儀をすると、さらに女の人からキャーキャーと声が上がる。
なんか、外の人たちの女性比率が上がっている。
今日は、妙に女性に人気になっている気がする。
ついに俺にもモテ期が来たんだろうか?
頭撫でるだけで惚れられる、そんな夢のような世界に来てしまったのだろうか?
思っていると、
「実験が終わったんなら、今度は私と遊びましょう?」
「私にエッチな実験して!」
「歌って!」
女の人が工房になだれ込んでくる。
「……いや、なんか、おかしい!?」
頭撫でるどころではなく、何もしていないのにモテている。
女の人はみんな目が据わっている。
怖すぎる。
何らかの呪いでも受けているかのようだ。
――このままでは、殺されるのでは?
血の気が引くような可能性に思い当たる。
「に、逃げ……」
逃げようとしたけど、逃げられない。入り口を女性たちに塞がれている。後ろに下がるしかない。
女性たちが一気に俺に向かって迫りくる。なぜかサフィさんやオズやメリアも一緒に迫ってくる。
「う、うおおお!?」
後退して、壁に背をつけてしまった。このままでは押しつぶされる!?
逃げ場、逃げ場はないか――!?
周りをキョロキョロすると、
「あっ」
スキアさんの部屋を塞ぐように、巨大なゴーレム『アトラス』が腰を下ろしていた。
「すいません、サフィさん!」
俺はゴーレムによじ登って、首筋に魔力を流した。
ゴーレムは勢いよく立ち上がって、
ドガァッ!
頭で工房の天井を派手に破壊する。
「もっと壊して……!」
下でサフィさんが恍惚の表情で言った。いや、そのリアクションはおかしいだろ!
ここはとりあえず逃げるしかない。
俺は壊れた天井から外に出て、住宅地の中を駆ける。
工房にいた女の人たちが、俺を追って走ってくる。いや、よく見たら男の人も追ってきている。
そういえば、俺が『ローレライ』を飲んでから、みんな様子がおかしくなった。
「…………っ!」
走りながら、俺はとっさに口元を押さえた。
これは『ローレライ』の効果によるものだ。
記述には『誘惑効果【中】が付加可能』とあった。付加していた覚えはないが……何の間違いか、意図せずその誘惑効果が含有してしまったのだ。俺の声に『誘惑効果【中】』が乗っている。あの魅了のされ方は、そうとしか考えられないほどに不自然だ。
……でもそれにしては、効能が大きすぎる。
全然【中】じゃねえ!
古代の価値基準なら【中】だっただけで、今の基準だと違うんだ、たぶん! 【特大】くらいだろ! 【特大】って基準があるのかわかんないけど!
調整で付加効果をなくさないととんでもないことになる!
改良の余地ありだ! 楽しいけど、楽しくない!
道端で空を見上げながら酒を飲んでいたアララドさんの横を通り過ぎる。
「おう! ロッドじゃねえか! 酒飲むか!?」
ここは無言にてスルー。
なんかもう300万の酒の瓶が半分くらいなくなっていたような気がするけど、そんなことはどうでもいい。今はそれどころじゃない!
「こっちだ! ロッドくん!」
走って逃げていると、ウェルトランさんが家の物陰から顔を出した。
俺に向かって手招きしている。
さすがエルフの長。魔法の薬による誘惑効果には惑わされていない様子だ。
「あ、ありがとうございます!」
駆け寄ると、ウェルトランさんは何らかの魔法を発動させる。
女の人たちは、俺たちがいなくなったと勘違いし、周囲を見回した後、どこかへ走っていった。
……隠匿魔法!
おそらく、あの魔法書にかけられている魔法と同質のものである。
ウェルトランさんの隠匿魔法で、俺たちは今誰にも認識されないようになっている。まるで誰もいないかのように、みんなを錯覚させているらしい。
ウェルトランさん、こんな魔法を使えたのか。どうりで神出鬼没だったわけだ。
「助かりました……すいません、ウェルトランさん」
「危ないところだったね、ロッドくん」
ウェルトランさんは俺の手を握る。
そしてもう片方の手を壁につき、俺を見つめ……え?
「ところで、きみにエルフの里をあげよう」
「なんでじゃあああ!」
悪夢のような不思議な世界に迷い込む前に、ポーションの効き目が切れた。
「あ、どうも……」
お辞儀をすると、さらに女の人からキャーキャーと声が上がる。
なんか、外の人たちの女性比率が上がっている。
今日は、妙に女性に人気になっている気がする。
ついに俺にもモテ期が来たんだろうか?
頭撫でるだけで惚れられる、そんな夢のような世界に来てしまったのだろうか?
思っていると、
「実験が終わったんなら、今度は私と遊びましょう?」
「私にエッチな実験して!」
「歌って!」
女の人が工房になだれ込んでくる。
「……いや、なんか、おかしい!?」
頭撫でるどころではなく、何もしていないのにモテている。
女の人はみんな目が据わっている。
怖すぎる。
何らかの呪いでも受けているかのようだ。
――このままでは、殺されるのでは?
血の気が引くような可能性に思い当たる。
「に、逃げ……」
逃げようとしたけど、逃げられない。入り口を女性たちに塞がれている。後ろに下がるしかない。
女性たちが一気に俺に向かって迫りくる。なぜかサフィさんやオズやメリアも一緒に迫ってくる。
「う、うおおお!?」
後退して、壁に背をつけてしまった。このままでは押しつぶされる!?
逃げ場、逃げ場はないか――!?
周りをキョロキョロすると、
「あっ」
スキアさんの部屋を塞ぐように、巨大なゴーレム『アトラス』が腰を下ろしていた。
「すいません、サフィさん!」
俺はゴーレムによじ登って、首筋に魔力を流した。
ゴーレムは勢いよく立ち上がって、
ドガァッ!
頭で工房の天井を派手に破壊する。
「もっと壊して……!」
下でサフィさんが恍惚の表情で言った。いや、そのリアクションはおかしいだろ!
ここはとりあえず逃げるしかない。
俺は壊れた天井から外に出て、住宅地の中を駆ける。
工房にいた女の人たちが、俺を追って走ってくる。いや、よく見たら男の人も追ってきている。
そういえば、俺が『ローレライ』を飲んでから、みんな様子がおかしくなった。
「…………っ!」
走りながら、俺はとっさに口元を押さえた。
これは『ローレライ』の効果によるものだ。
記述には『誘惑効果【中】が付加可能』とあった。付加していた覚えはないが……何の間違いか、意図せずその誘惑効果が含有してしまったのだ。俺の声に『誘惑効果【中】』が乗っている。あの魅了のされ方は、そうとしか考えられないほどに不自然だ。
……でもそれにしては、効能が大きすぎる。
全然【中】じゃねえ!
古代の価値基準なら【中】だっただけで、今の基準だと違うんだ、たぶん! 【特大】くらいだろ! 【特大】って基準があるのかわかんないけど!
調整で付加効果をなくさないととんでもないことになる!
改良の余地ありだ! 楽しいけど、楽しくない!
道端で空を見上げながら酒を飲んでいたアララドさんの横を通り過ぎる。
「おう! ロッドじゃねえか! 酒飲むか!?」
ここは無言にてスルー。
なんかもう300万の酒の瓶が半分くらいなくなっていたような気がするけど、そんなことはどうでもいい。今はそれどころじゃない!
「こっちだ! ロッドくん!」
走って逃げていると、ウェルトランさんが家の物陰から顔を出した。
俺に向かって手招きしている。
さすがエルフの長。魔法の薬による誘惑効果には惑わされていない様子だ。
「あ、ありがとうございます!」
駆け寄ると、ウェルトランさんは何らかの魔法を発動させる。
女の人たちは、俺たちがいなくなったと勘違いし、周囲を見回した後、どこかへ走っていった。
……隠匿魔法!
おそらく、あの魔法書にかけられている魔法と同質のものである。
ウェルトランさんの隠匿魔法で、俺たちは今誰にも認識されないようになっている。まるで誰もいないかのように、みんなを錯覚させているらしい。
ウェルトランさん、こんな魔法を使えたのか。どうりで神出鬼没だったわけだ。
「助かりました……すいません、ウェルトランさん」
「危ないところだったね、ロッドくん」
ウェルトランさんは俺の手を握る。
そしてもう片方の手を壁につき、俺を見つめ……え?
「ところで、きみにエルフの里をあげよう」
「なんでじゃあああ!」
悪夢のような不思議な世界に迷い込む前に、ポーションの効き目が切れた。
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