67 / 97
連載
110 手帳の中身
しおりを挟む
「おにいさん……! こんにちは」
シーシュちゃんもお店を出していたらしい。意外な人物のお店に出くわして、俺は面食らった。
「シーシュちゃんも参加してたんだ」
「はい。……その、人混みがすごく苦手なんですが、農場の経営の助けになるかと思って……」
しかも売っているのは手のひらサイズくらいのぬいぐるみだった。
そういえば、二人で買物したときもぬいぐるみの材料を買っていたな。この日のためもあったのか。
「かわいいです!」
メリアはきれいに並べられたぬいぐるみを見て、目を輝かせた。
「よくできたぬいぐるみだね。見たことない生物だけど」
というか、かわいくデフォルメされてはいるが、どれもなんだか禍々しいモンスターなのだが。
「あ、はい。『異邦』のモンスターをぬいぐるみにしました」
「ああ、どうりで」
度々忘れがちだが、この気弱そうな女の子はあの恐ろしいモンスターの宝庫である『異邦』の中から来たのである。
今まで相当禍々しいモンスターを見てきたらしい。
「でも、見た目完全にぬいぐるみだけど、魔法道具なの?」
「はい。一度だけ攻撃魔法を反射するお守り『リフレクト・チャーム』を中に仕込んでいます」
「そんなもの作れるの!?」
お守り――チャームは、小さな金属の塊の形をした魔法道具だ。魔法石のように繰り返し使う事ができない消耗品だが、魔法を込めなくても効果を発揮する。
本当にお守り程度のものだという認識なんだけど、魔法を反射するなんて凄まじい効果のチャームは聞いたことがない。
「すごいね……」
「いえっ、私の力で作るチャームなので、反射できる魔法はたかが知れています。魔眼とか、直接相手を呪う魔法には効果ないですし、魔力のない物理攻撃にも効果はないですし……こんなの『異邦』じゃゴミ同然で、本当にただのお守り代わりなんです」
「お守りのレベルが異邦とこっちじゃ雲泥の差なんだけど……」
ぬいぐるみというのがシーシュちゃんらしいけど、なぜデザインを農場の家畜とかにしなかったのか。
「わあ……」
メリアはそのぬいぐるみに魅了されたらしく、ずっと並べられたモンスターに釘付けになっている。
「一つ買ってあげようか」
「いいんですか!?」
そんな欲しそうな顔されたらね……。
金属と樹木が混ざりあったような不定形のモンスターのぬいぐるみを購入した。
このデザインの現実の姿を想像してしまうと怖いのでやめておく。
「ありがとうございます! 大事にします!」
「うん、肌見放さず持っているんだよ?」
身を守るための方法が一つ増えたと考えよう。本人はチャームとは思っていなさそうだが。
「じゃ、がんばってね、シーシュちゃん」
「ありがとうございます! また今度、二人で遊びましょう!」
身を翻して進もうとしたとき――
「おっと」
どんっ、と歩いていた人に派手にぶつかってしまう。
「あっ、すいません!」
お互いよろめき、転びそうになるのをこらえる。
「いやいや、こちらもうっかりしていた。こちらこそすまないね」
黒髪の、三十代前半ほどの男の人だった。眼鏡をかけている、優しげな顔をした男性である。
男の人は、よろめいた拍子に手帳を落とした。
「手帳、落とされましたよ」
俺はすかさず拾って、男の人に差し出す。
「ああ、すまないね。重ねてうっかりしていたようだ」
――その時。
「――――!」
まだ、さきほどゴーレムの状態を確認したときに飲んだ『ディープインサイト』の効果が残っていたらしい。
手帳の内容が、頭の中に流れてきた。
【リトルハンドの手記】
製作者:ローシュ・リトルハンド
品質:5/10 通常品質
材質:紙、紐、インク
ローシュ・リトルハンド所有の手帳。
紙束に穴を空け、細い紐でくくっただけの簡素な作り。
メモ帳はよく使うため、間に合せの紙などでリトルハンドが簡単に自作する。
主に覚え書き(メモ)や魔法石のアイデアをここに書き記している。
走り書きで筆跡が汚いため、完全な詳細は他人には解読できない。
解読可能な書き込みから予想される主な内容
・魔法石『吸い寄せ呑み込む穴』『重力』『ヘビーストリングス』に関するアイデア
・長距離法撃兵器『バハインド・ゲイザー』に関するアイデア
・辺境伯居館の書庫には何がある? 予想一覧
・いかにロウレンス・クリムレットと取引をするか
→初手はイベント会場の攻撃か。
「!」
内容を理解すると、手帳を持つ手に力が入った。
リトルハンド……こいつが!?
シーシュちゃんもお店を出していたらしい。意外な人物のお店に出くわして、俺は面食らった。
「シーシュちゃんも参加してたんだ」
「はい。……その、人混みがすごく苦手なんですが、農場の経営の助けになるかと思って……」
しかも売っているのは手のひらサイズくらいのぬいぐるみだった。
そういえば、二人で買物したときもぬいぐるみの材料を買っていたな。この日のためもあったのか。
「かわいいです!」
メリアはきれいに並べられたぬいぐるみを見て、目を輝かせた。
「よくできたぬいぐるみだね。見たことない生物だけど」
というか、かわいくデフォルメされてはいるが、どれもなんだか禍々しいモンスターなのだが。
「あ、はい。『異邦』のモンスターをぬいぐるみにしました」
「ああ、どうりで」
度々忘れがちだが、この気弱そうな女の子はあの恐ろしいモンスターの宝庫である『異邦』の中から来たのである。
今まで相当禍々しいモンスターを見てきたらしい。
「でも、見た目完全にぬいぐるみだけど、魔法道具なの?」
「はい。一度だけ攻撃魔法を反射するお守り『リフレクト・チャーム』を中に仕込んでいます」
「そんなもの作れるの!?」
お守り――チャームは、小さな金属の塊の形をした魔法道具だ。魔法石のように繰り返し使う事ができない消耗品だが、魔法を込めなくても効果を発揮する。
本当にお守り程度のものだという認識なんだけど、魔法を反射するなんて凄まじい効果のチャームは聞いたことがない。
「すごいね……」
「いえっ、私の力で作るチャームなので、反射できる魔法はたかが知れています。魔眼とか、直接相手を呪う魔法には効果ないですし、魔力のない物理攻撃にも効果はないですし……こんなの『異邦』じゃゴミ同然で、本当にただのお守り代わりなんです」
「お守りのレベルが異邦とこっちじゃ雲泥の差なんだけど……」
ぬいぐるみというのがシーシュちゃんらしいけど、なぜデザインを農場の家畜とかにしなかったのか。
「わあ……」
メリアはそのぬいぐるみに魅了されたらしく、ずっと並べられたモンスターに釘付けになっている。
「一つ買ってあげようか」
「いいんですか!?」
そんな欲しそうな顔されたらね……。
金属と樹木が混ざりあったような不定形のモンスターのぬいぐるみを購入した。
このデザインの現実の姿を想像してしまうと怖いのでやめておく。
「ありがとうございます! 大事にします!」
「うん、肌見放さず持っているんだよ?」
身を守るための方法が一つ増えたと考えよう。本人はチャームとは思っていなさそうだが。
「じゃ、がんばってね、シーシュちゃん」
「ありがとうございます! また今度、二人で遊びましょう!」
身を翻して進もうとしたとき――
「おっと」
どんっ、と歩いていた人に派手にぶつかってしまう。
「あっ、すいません!」
お互いよろめき、転びそうになるのをこらえる。
「いやいや、こちらもうっかりしていた。こちらこそすまないね」
黒髪の、三十代前半ほどの男の人だった。眼鏡をかけている、優しげな顔をした男性である。
男の人は、よろめいた拍子に手帳を落とした。
「手帳、落とされましたよ」
俺はすかさず拾って、男の人に差し出す。
「ああ、すまないね。重ねてうっかりしていたようだ」
――その時。
「――――!」
まだ、さきほどゴーレムの状態を確認したときに飲んだ『ディープインサイト』の効果が残っていたらしい。
手帳の内容が、頭の中に流れてきた。
【リトルハンドの手記】
製作者:ローシュ・リトルハンド
品質:5/10 通常品質
材質:紙、紐、インク
ローシュ・リトルハンド所有の手帳。
紙束に穴を空け、細い紐でくくっただけの簡素な作り。
メモ帳はよく使うため、間に合せの紙などでリトルハンドが簡単に自作する。
主に覚え書き(メモ)や魔法石のアイデアをここに書き記している。
走り書きで筆跡が汚いため、完全な詳細は他人には解読できない。
解読可能な書き込みから予想される主な内容
・魔法石『吸い寄せ呑み込む穴』『重力』『ヘビーストリングス』に関するアイデア
・長距離法撃兵器『バハインド・ゲイザー』に関するアイデア
・辺境伯居館の書庫には何がある? 予想一覧
・いかにロウレンス・クリムレットと取引をするか
→初手はイベント会場の攻撃か。
「!」
内容を理解すると、手帳を持つ手に力が入った。
リトルハンド……こいつが!?
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
3,181
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。