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111 ローシュ・リトルハンド
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「……何か?」
男は手帳を受け取ろうとしている。
変に思われるとまずい。俺はそのまま男に手帳を渡す。
「いえ……あの、あなたの手帳なんですか? ずいぶん使い古していますが」
「ああ、そうなんだよ。私は魔法の研究をしていてね、アイデアはこうしていつも持ち運んでいる手帳に常に書くようにしているんだ」
「俺も研究者なのでわかります。後で書こうとすると忘れちゃいそうになるので」
「そうそう! そうなんだよ! 天才ならずっと覚えていられるんだろうけどね、私はメモがないと無理だね。そしてアイデアを精査したり整理したりするには、アウトプットが必要不可欠だ。メモ帳は私にとって最適解なんだよ」
「そう思います」
「あれ? きみ、もしかして……」
「……!?」
「辺境伯の次に開催の挨拶してた女の子に似てるね?」
「あ、まあ、よく言われますね……」
「でも声が違うね。もしかして家族にいるのかい?」
「いえ、赤の他人です」
ただ落ちていた手帳を拾っただけという可能性もあったが、話していてそうじゃないとわかった。
間違いない。
こいつが、ローシュ・リトルハンド……辺境伯領に違法の魔法石をバラ撒いていた、張本人だ。
「では、これで」
リトルハンドと思われる人物は、俺たちの前から立ち去る。
「…………」
焦りながら、それを見送る。
アクションを起こすのは、今はだめだ。ここにはメリアがいるし、無関係の人がたくさんいる。
俺が騒げば、自棄になって何をするかわからない。
かといって、このまま手をこまねいているわけにはいかない。
今のところ、体内に『エクスプロージョン』の魔法石を抱えた者は見つかっていない。
リトルハンドの手帳には、クリムレット卿と取引をすると書いている。
初手は、イベント会場の攻撃――つまり何らかの方法でここにいる参加者を人質にして、クリムレット卿に取引を持ちかける気である。
何の取引かはわからないけど、大勢の命が危険にさらされる事態だけは避けたい。
「メリア」
「はい?」
「ちょっと、ここでシーシュちゃんと一緒にいてほしいんだけど」
「どうしたんです?」
「えっと……トイレ、かな」
俺は苦笑いしながら答えた。
「トイレですか」
「お腹がとても痛いんだ。待っていてほしい」
「わかりました! いくらでもおトイレに行ってください!」
メリアは屈託なくうなずいた。
「必ず戻るよ。でも、ごめん、時間かかるかも」
「すごい爆弾を抱えてるんですね」
「そうだね」
事情を知らないとはいえ言い方もっとなかったのか。
「……シーシュちゃん」
「はい?」
「メリアを頼む。……それに、ちょっと、頼みたいことが」
シーシュちゃんに頼るのも申し訳ないけど、なりふり構ってはいられない。
俺はメリアに聞こえないようにシーシュちゃんに耳打ちして、メリアを守ってくれるよう頼む。
「……たぶん、大丈夫だと思います!」
「ありがとう」
「お気をつけて。でも、命が危ないときは逃げてくださいね」
「うん」
言ったけど、保証はできないな。
シーシュちゃんにメリアを預けて、俺はリトルハンドを追う。
探知気球『ルキフゲ』も使うけど、俺自身も探知魔法を使いながら探るしかない。
探知したときには手遅れだとまずい。リアルタイムで、行動を止めないと!
男は手帳を受け取ろうとしている。
変に思われるとまずい。俺はそのまま男に手帳を渡す。
「いえ……あの、あなたの手帳なんですか? ずいぶん使い古していますが」
「ああ、そうなんだよ。私は魔法の研究をしていてね、アイデアはこうしていつも持ち運んでいる手帳に常に書くようにしているんだ」
「俺も研究者なのでわかります。後で書こうとすると忘れちゃいそうになるので」
「そうそう! そうなんだよ! 天才ならずっと覚えていられるんだろうけどね、私はメモがないと無理だね。そしてアイデアを精査したり整理したりするには、アウトプットが必要不可欠だ。メモ帳は私にとって最適解なんだよ」
「そう思います」
「あれ? きみ、もしかして……」
「……!?」
「辺境伯の次に開催の挨拶してた女の子に似てるね?」
「あ、まあ、よく言われますね……」
「でも声が違うね。もしかして家族にいるのかい?」
「いえ、赤の他人です」
ただ落ちていた手帳を拾っただけという可能性もあったが、話していてそうじゃないとわかった。
間違いない。
こいつが、ローシュ・リトルハンド……辺境伯領に違法の魔法石をバラ撒いていた、張本人だ。
「では、これで」
リトルハンドと思われる人物は、俺たちの前から立ち去る。
「…………」
焦りながら、それを見送る。
アクションを起こすのは、今はだめだ。ここにはメリアがいるし、無関係の人がたくさんいる。
俺が騒げば、自棄になって何をするかわからない。
かといって、このまま手をこまねいているわけにはいかない。
今のところ、体内に『エクスプロージョン』の魔法石を抱えた者は見つかっていない。
リトルハンドの手帳には、クリムレット卿と取引をすると書いている。
初手は、イベント会場の攻撃――つまり何らかの方法でここにいる参加者を人質にして、クリムレット卿に取引を持ちかける気である。
何の取引かはわからないけど、大勢の命が危険にさらされる事態だけは避けたい。
「メリア」
「はい?」
「ちょっと、ここでシーシュちゃんと一緒にいてほしいんだけど」
「どうしたんです?」
「えっと……トイレ、かな」
俺は苦笑いしながら答えた。
「トイレですか」
「お腹がとても痛いんだ。待っていてほしい」
「わかりました! いくらでもおトイレに行ってください!」
メリアは屈託なくうなずいた。
「必ず戻るよ。でも、ごめん、時間かかるかも」
「すごい爆弾を抱えてるんですね」
「そうだね」
事情を知らないとはいえ言い方もっとなかったのか。
「……シーシュちゃん」
「はい?」
「メリアを頼む。……それに、ちょっと、頼みたいことが」
シーシュちゃんに頼るのも申し訳ないけど、なりふり構ってはいられない。
俺はメリアに聞こえないようにシーシュちゃんに耳打ちして、メリアを守ってくれるよう頼む。
「……たぶん、大丈夫だと思います!」
「ありがとう」
「お気をつけて。でも、命が危ないときは逃げてくださいね」
「うん」
言ったけど、保証はできないな。
シーシュちゃんにメリアを預けて、俺はリトルハンドを追う。
探知気球『ルキフゲ』も使うけど、俺自身も探知魔法を使いながら探るしかない。
探知したときには手遅れだとまずい。リアルタイムで、行動を止めないと!
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