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連載
112 リトルハンドを追う
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昼が過ぎ、日が傾いてきた。マジッククラフト・マーケットは終わりまでの折り返しをすぎたあたりだろう。
俺はジェラードさんたちと『異邦』の入り口近くを歩いていた。
リトルハンドを追おうとしたときに会場にいたので、声をかけ、助けを求めたのだ。
パンツ男爵とグレントも一緒である。
「気球は――『異邦』の方を差していますね」
ジェラードさんが、先行する探知気球『ルキフゲ』を見上げながら呟いた。
会場には、ジェラードさんから辺境伯軍へ情報が伝えられた。
辺境伯軍の連絡系統はしっかりしていた。イベント本部に併設する形でリトルハンド対策本部がすでにあり、速やかに情報が軍に広まった。
クリムレット卿はこのことを予見して、策をすでに立てていた。
テロが起こったときのための指示は、あらかじめ決められていたのだ。
ただし、主力のほとんどはイベントを楽しみに来た人々を守るために使われる。
そして、イベントの来場客には、まだテロのおそれがあることが伝えられていない。
「まずは我々で真偽を確かめます。リトルハンドが動くのであれば、主力をある程度リトルハンド討伐に投入します」
「テロの真偽を確かめるまでは、下手に人々に呼びかけるわけにはいかないということですね?」
俺の問いに、ジェラードさんは頷いた。
「ええ、混乱を招けば、さらに人の命が失われる可能性があります。クリムレット辺境伯は、問題など何も起こらなかったかのようにしたいようです」
リトルハンドの手記によれば、イベントの参加者を人質にクリムレット卿と何らかの取引を行いたいらしいが……。
「リトルハンドは、何を取引したいんだろう?」
「見当もつきませんが……」
首を傾げるジェラードさんの横で、パンツ男爵が、
「クリムレット卿なら、心当たりがあるのでは?」
聡明そうな口調で呟いた。
「いや、無理難題を要求するつもりじゃねえのか? 土地とか金とかよ」
横でグレントが言った。
たしかにどちらもありえる。
「これから、本人に直接聞いたほうが早いですね」
「ですね……」
――カッッ!
突如、空を飛んでいた気球が爆裂し、粉々に砕ける。
「!」
「気づかれたか!?」
軽量化・量産化できたかわりに耐久力に難がある『ルキフゲ』では、魔法などで攻撃されればひとたまりもない。
もっとも、こういうときのために探知魔法が使える俺もついてきたわけだが……。
敵もそう簡単にたどり着かせてくれないらしい。
『ルキフゲ』が撃墜されてすぐに、森の中から、ガラの悪い男たちがぞろぞろと現れた。
「探知魔法は特別な魔法じゃない。相手にも使われたか……」
盗賊団などを金で雇ったのだろう。十数人の男たちに、すぐに囲まれる。
「……当然、入っているんでしょうなあ」
「体内に、『エクスプロージョン』の魔法石が」
俺とジェラードさんは構えた。
「どうせ本人たちはわかってねえだろうがな」
グレントが吐き捨てるように言った。
「ロッド殿、ご用心を。いざとなったら、自分が盾になります」
「大丈夫です。戦えますから」
「しかし……数が多すぎる。それに、体内の魔法石をどうにかしないと我々全員無事ではすみません」
四方から囲まれる。不意をつかれないようお互い背中を合わせながら構える。
おそらくリトルハンドがけしかけた敵。
俺たちを本気で阻止したいということは、やはり何かするつもりだろう。
「野郎ども、やっちまえ!」
盗賊の一人が号令をかける。
「ぎゃあああっ!」
襲われる前に、背後の盗賊が倒れた。
「がははっ。すまねえな、来るのが遅れちまった!」
アララドさんが、大太刀を抜いて盗賊を斬っていた。
「アララドさん! クリムレット卿は大丈夫なんですか!?」
「ああ、加勢するよういわれてな」
アララドさんが、俺たちを守るように立って大太刀を構えた。
「さっさと行け!」
「ありがとうございます! でも、体内にある魔法石への対処は!?」
「心配すんな」
アララドさんが収納の魔法石を指差した。
「こんなこともあろうかと、お前の作ったポーションをしこたま持ってきた。生きたまま体を刻んで、死ぬ前に魔法石を取り出してポーションで刻んだ傷を回復させれば犠牲者なく解決だ」
「こわっ! なんですかその力技!」
「だから早く行け! 行ってテロリストを止めてこい!」
身の毛のよだつ解決方法だが、爆発前にそれをやれればたしかに誰も死ななくて済む。いや、やっぱり怖い。心配しかない。
アララドさんは盗賊を斬りながら食い止める。その声に押されて、俺たちは前へと進む。振り返らない方が……よさそうだな、これは。
俺はジェラードさんたちと『異邦』の入り口近くを歩いていた。
リトルハンドを追おうとしたときに会場にいたので、声をかけ、助けを求めたのだ。
パンツ男爵とグレントも一緒である。
「気球は――『異邦』の方を差していますね」
ジェラードさんが、先行する探知気球『ルキフゲ』を見上げながら呟いた。
会場には、ジェラードさんから辺境伯軍へ情報が伝えられた。
辺境伯軍の連絡系統はしっかりしていた。イベント本部に併設する形でリトルハンド対策本部がすでにあり、速やかに情報が軍に広まった。
クリムレット卿はこのことを予見して、策をすでに立てていた。
テロが起こったときのための指示は、あらかじめ決められていたのだ。
ただし、主力のほとんどはイベントを楽しみに来た人々を守るために使われる。
そして、イベントの来場客には、まだテロのおそれがあることが伝えられていない。
「まずは我々で真偽を確かめます。リトルハンドが動くのであれば、主力をある程度リトルハンド討伐に投入します」
「テロの真偽を確かめるまでは、下手に人々に呼びかけるわけにはいかないということですね?」
俺の問いに、ジェラードさんは頷いた。
「ええ、混乱を招けば、さらに人の命が失われる可能性があります。クリムレット辺境伯は、問題など何も起こらなかったかのようにしたいようです」
リトルハンドの手記によれば、イベントの参加者を人質にクリムレット卿と何らかの取引を行いたいらしいが……。
「リトルハンドは、何を取引したいんだろう?」
「見当もつきませんが……」
首を傾げるジェラードさんの横で、パンツ男爵が、
「クリムレット卿なら、心当たりがあるのでは?」
聡明そうな口調で呟いた。
「いや、無理難題を要求するつもりじゃねえのか? 土地とか金とかよ」
横でグレントが言った。
たしかにどちらもありえる。
「これから、本人に直接聞いたほうが早いですね」
「ですね……」
――カッッ!
突如、空を飛んでいた気球が爆裂し、粉々に砕ける。
「!」
「気づかれたか!?」
軽量化・量産化できたかわりに耐久力に難がある『ルキフゲ』では、魔法などで攻撃されればひとたまりもない。
もっとも、こういうときのために探知魔法が使える俺もついてきたわけだが……。
敵もそう簡単にたどり着かせてくれないらしい。
『ルキフゲ』が撃墜されてすぐに、森の中から、ガラの悪い男たちがぞろぞろと現れた。
「探知魔法は特別な魔法じゃない。相手にも使われたか……」
盗賊団などを金で雇ったのだろう。十数人の男たちに、すぐに囲まれる。
「……当然、入っているんでしょうなあ」
「体内に、『エクスプロージョン』の魔法石が」
俺とジェラードさんは構えた。
「どうせ本人たちはわかってねえだろうがな」
グレントが吐き捨てるように言った。
「ロッド殿、ご用心を。いざとなったら、自分が盾になります」
「大丈夫です。戦えますから」
「しかし……数が多すぎる。それに、体内の魔法石をどうにかしないと我々全員無事ではすみません」
四方から囲まれる。不意をつかれないようお互い背中を合わせながら構える。
おそらくリトルハンドがけしかけた敵。
俺たちを本気で阻止したいということは、やはり何かするつもりだろう。
「野郎ども、やっちまえ!」
盗賊の一人が号令をかける。
「ぎゃあああっ!」
襲われる前に、背後の盗賊が倒れた。
「がははっ。すまねえな、来るのが遅れちまった!」
アララドさんが、大太刀を抜いて盗賊を斬っていた。
「アララドさん! クリムレット卿は大丈夫なんですか!?」
「ああ、加勢するよういわれてな」
アララドさんが、俺たちを守るように立って大太刀を構えた。
「さっさと行け!」
「ありがとうございます! でも、体内にある魔法石への対処は!?」
「心配すんな」
アララドさんが収納の魔法石を指差した。
「こんなこともあろうかと、お前の作ったポーションをしこたま持ってきた。生きたまま体を刻んで、死ぬ前に魔法石を取り出してポーションで刻んだ傷を回復させれば犠牲者なく解決だ」
「こわっ! なんですかその力技!」
「だから早く行け! 行ってテロリストを止めてこい!」
身の毛のよだつ解決方法だが、爆発前にそれをやれればたしかに誰も死ななくて済む。いや、やっぱり怖い。心配しかない。
アララドさんは盗賊を斬りながら食い止める。その声に押されて、俺たちは前へと進む。振り返らない方が……よさそうだな、これは。
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