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しおりを挟む奥様と挨拶を終えて、クリード様は遅くなるといけないので町に戻られました。 わたしは奥様と共に港へ向かい、おば様とおじ様をはじめ、心配をおかけした港の皆さんに謝罪をさせて頂きました。 その時、
「今夜は皆でお食事会をしましょう、私の家に来てくださいな」
奥様が港の皆さんをご招待して、今夜はにぎやかなお食事会となったのです。 沢山ご迷惑をおかけしたのに、戻ったわたしを歓迎してくれた皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。
「さあっ! 売るほど海の幸はあるからたらふく食ってくれよっ!」
おじ様の張り切った声、明るい皆さんの顔を見ると、大好きなこの街に戻ってきたんだと実感します。
「ヴィオラ、ぼくはかえってくるってしんじてたよっ」
「はい、ありがとうございます」
わたしの膝に乗り、爛々とした目を向けてくるリース様。 そうです、あの時身を投げていたら、この愛らしいお顔も二度と見れなかった。
絶望して自暴自棄になり、もう何も無いなんて思うのは自分勝手だと思い知りました。 人の死はその人だけのものではない、こうして関わりを持った人達に悲しみをもたらすのだと。
「ヴィオラ、あんな部屋引き払ってアンタはアタシのとこに住み込みにしなっ」
「おば様、それなのですが……」
部屋は引き払うつもりです。 ですが、わたしには新しい夢があるのです。 それをお伝えしようとした時、
「あー、そういやカイロ公爵が若い画家を屋敷に囲ったって聞いたな。 そいつがヴィオラの――」
「このバカ息子ッ! 余計な話するんじゃないよッ!!」
「――いッ……てぇなかぁちゃんッ! 何すんだよっ!」
「……そうですか」
そういう事だったのですね。 才能を認められ貴族の方に見初められた。 それでハキーム様はわたしの元から去ったのですね。
「気にするんじゃないよヴィオラ、どんなに成功したってね、不義理な人間は最後に寂しい人生を送るもんさ」
おば様はわたしを気遣う言葉をかけてくださいました。 ですが、わたしは本当に強がりではなく思うのです。
「大丈夫ですおば様、わたしには皆さんのような素敵な人達が居てくれます」
「……そうかい? まあ、お世辞にも素敵とは言えないのも居るけどね」
「――そりゃ俺じゃねぇよなかかあ!?」
「入ってくんじゃないよウツボッ!」
それに今は……
「やりたい事もあるんです。 今度はきっと……」
「……なんだい、まさかあの色男と……」
そうでした、おば様はクリード様とお話しているんでしたね。 そう、懲りないわたしはまた、新しい夢を描いている。
「だっ、だめだよ! ヴィオラはもうどこにもやらないからねっ!」
リース様が膝で暴れたと思うと、
「ヴィ、ヴィオラ? まさかあなたクリード様と……―――ダメよっ! あなた男を顔で選んで失敗するタイプなのね!?」
……ええと、奥様はハキーム様のお顔は知らない筈では? クリード様……と呼ぶのも少し不自然に感じますが……。
◆◇◆
設備の整ったアトリエ、少年は頭を抱え手を動かせないでいる。
「どうしてなんだ……。 何もかも上手くいく筈だったのに……」
カイロ公爵とその娘ジーナ、二人に見せた傑作の予感は予感のまま、完成に近づく様子を見せない。
「――そうだ……ここは芸術の街ゴッゴーシュ、才能ある無名の画家は探せば居る筈だ」
追い詰められたハキームは、諦め切れない野望を繋ぐ何かを見出した。
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