役立たずと捨て石にされたコミュ障皇女は、死地に送られ愛される

なかの豹吏

文字の大きさ
1 / 26

1,

しおりを挟む
 

 普段より一際豪華な夜会。 今夜は、他国の皇族や上級貴族を招いて開かれている。 
 私はホスト国であるテオリカンの皇女として、来賓の皆様のお相手をしなければいけない、のだけれど―――。

「おお、なんと可憐な」

「――っ」

 だ、誰か来た……。

「お初にお目にかかります、私はガランディア公国のニコロ・フラッテージと申します」

「ヴァレリアです。 初めまして」

 挨拶はできる。 でも――、

「テオリカンの三皇女は女神のごとき美しさと聞いておりましたが、噂以上でありますな」

「………」

 出来るのは挨拶くらい。 せっかく褒めてくれたのに、お礼を言って会話を弾ませるようなことが私には出来ない。

「きっと数年後、ヴァレリア様も人目を釘付けにする宴の華にお成りでしょう」

「………」

 物心ついた時から、―――ううん、きっと生まれた時からだ。 私は、何かに口止めされている。

 怖いの。 思いや、願いを口にするのが。

 そんなだから、昔からお話するのが苦手で、そうして上手く返事が出来ないでいると、

「……どうされましたか? 私に何かご無礼でも?」

 相手は眉を寄せ、困ったようになったり、不機嫌そうな顔になる。 すると、私は気持ちが焦ってもう何も言えなくなってしまう。

「ニコロ殿、お久しぶりです」

「――ん? おお、フェリクス殿ではないか」

 た、助かった……けど、

「ええ、是非その時はまた。 ニコロ殿、あとでゆっくりと語り合いましょう」

 そつなく会話を終え、フェリクス様は棒立ちして俯く私へと向きを変える。

「ありがとうございます、フェリクス様」

「いいのですよ、苦手を無理せずとも」

 確かに私は話すのが苦手。
 でも――、

「本日のドレスもとてもよくお似合いです。 淡く、優しい色がヴァレリア様には特に合う」

「……ありがとうございます」

 フェリクス様この人も苦手。
 自国の公爵家の令息で、昔から知っているから会話は少し出来るけれど。

「本当に、妖精のようで……」

 いつも舐め回すようにジロジロと見てくるし、何かにかこつけて触れてきたりする。 私はまだ十三でフェリクス様は二十歳、変な気持ちは無いと思うけれど、何だか……。

「ヴァレリア」

「………」

 気づけば、目の前に仁王立ちしたお姉様が立っていた。

「あなた、またフェリクス様を煩わせているの?」

「……ごめんなさい」

 これは、フェリクス様が悪いわけではないけれど、私に構わないでほしい理由の一つ。
 フェリクス様は最高爵位の公爵家令息、高身長で美男で、テオリカンの令嬢達の憧れの的だ。 特にパオラお姉様は熱を上げている。

「パオラ様、私は煩わしいなどと」

「わかっておりますわ。 ですが、あまり甘やかすのもヴァレリアの為になりませんもの」

 それから、お姉様は私の耳元で――、

「私とフェリクス様は他国の要人方を接待しなければならないの。 あなたは部屋に戻ってなさい、テオリカンの恥を晒すだけだわ」

 冷たく、苛立った声で言われ、私は下を向いて宴の場から消える。 


 ―――パオラお姉様が、元々鍵のかかっていた私の口にとどめを刺した。

 幼い頃、上手く話せない私をいつも馬鹿にしていて、たまたま転んだ時に大笑いされた。 私は思わず――、


『おねえさまもころんじゃえっ!』


 そう、言ってしまったのだ。
 思いを、口にしてしまった。

 怒ったお姉様は私を叩こうと近づき、その途中つまづいて転び、おでこに怪我をした。 その傷は、今も微かに残っている。

 それは、ただお姉様が転んだだけだけど、泣きじゃくるお姉様の姿を見て私は確信した。 これは、

 私がやったんだ、と―――。


 言われた通り夜会から消える、その去り際に――、

「ヴァレリアは外交のカードにならんな。 あれでは誰も欲しがらんだろう」

 お父様が零した、失望の言葉が鼓膜に突き刺さった。


 そして―――、


 その日からひと月もしないで、私はドミトリノ王国という、滅亡寸前と噂の隣国へと嫁がされた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。 魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。 多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

【完結】『偽り婚約の終わりの日、王太子は私を手放さなかった』~薄氷の契約から始まる溺愛プロポーズ~

桜葉るか
恋愛
偽装婚約から始まる、薄氷の恋。 貴族令嬢ミレイユは、王太子レオンハルトから突然告げられた。 「俺と“偽装婚約”をしてほしい」 政治のためだけ。 感情のない契約。 ……そう思っていたのに。 冷静な瞳の奥ににじむ優しさ。 嫉妬の一瞬に宿る、野性の熱。 夜、膝枕を求めてきた時の、微かな震え。 偽りで始まった関係は、いつしか—— 二人の心を“本物”へ変えてゆく。 契約期限の夜。 最初に指輪を交わした、あの“月夜の中庭”で。 レオンハルトは膝をつき、彼女の手を包み込む。 「君を手放す未来は、存在しない。  これは契約ではない。これは“永遠”だ」 ミレイユは、涙で頬を濡らしながら頷いた。 偽りの婚約は、その瞬間—— 誰も疑えない、本当の未来へ変わる。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

【完結】嫌われ公女が継母になった結果

三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。 わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。

顔がタイプじゃないからと、結婚を引き延ばされた本当の理由

翠月るるな
恋愛
「顔が……好みじゃないんだ!!」  婚約して早一年が経とうとしている。いい加減、周りからの期待もあって結婚式はいつにするのかと聞いたら、この回答。  セシリアは唖然としてしまう。  トドメのように彼は続けた。 「結婚はもう少し考えさせてくれないかな? ほら、まだ他の選択肢が出てくるかもしれないし」  この上なく失礼なその言葉に彼女はその場から身を翻し、駆け出した。  そのまま婚約解消になるものと覚悟し、新しい相手を探すために舞踏会に行くことに。  しかし、そこでの出会いから思いもよらない方向へ進み────。  顔が気に入らないのに、無為に結婚を引き延ばした本当の理由を知ることになる。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...