役立たずと捨て石にされたコミュ障皇女は、死地に送られ愛される

なかの豹吏

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 ――そうだ。 この通路の鍵は自分とジョルディ陛下しか持ってないとマリウス様が言っていた。 それに、お父様をドゼフと呼び捨てにするなんて……。

「……まさか、ジョルディ陛下なのですか?」

 フェリクス様も気づいた。 明らかに焦燥した表情で男性に尋ねると、

「それを聞くってことは、お前は本当にテオリカンの人間のようだ」

 答えは想像通り、この人はマリウス様のお父様、ジョルディ陛下だ。

「ぐっ……」

 フェリクス様が歯を軋らせる。 相手はドミトリノ王国の王、そして自身が適わなかったガイタ様より腕が立つと言われている人物だから。
 逆に私は安堵する。 これでマリウス様の元へ戻れると。

「テオリカンの人間がこの通路に居て、それも縛られた女を連れている。 訳が分からんが、まあ捨て置く訳にもいかんな」

「こっ、これはドゼフ陛下の命により行っていることなのです!」

「だとしても俺の国で、俺の目の前で人攫いを見逃せってのか?」

「そ、それは……」

 たじろぐフェリクス様に鋭い視線が刺さる。 どう言おうが言い逃れは出来ない。 でもその時、追い詰められたフェリクス様が何かに気づく。

「ジョルディ陛下の仰ることもわかりますが、私も私の陛下の命を遂行しなければなりません。 見たところ……陛下は丸腰のようですが」

 ――えっ。 ……本当だ、武器を持っている様子がない。 それじゃあいくらなんでも……。

「このまま通して頂けるなら私も剣を引きましょう、そうでないなら……」

「それはできないとさっき言ったが。 どうもテオリカンの人間は……」

「――しからば御免ッ!!」

 フェリクス様が斬り掛かる刹那、私は恐怖に目を瞑った。 

「っ……」

 そのすぐ後、音が反響する地下通路に人が倒れる音と、苦しげな呻きが響く。

「………」

 どうなったのか、怖くて目を開けられない。 その結果で私の運命も決まってしまうし、何よりどちらかが倒れたのはわかっているから。
 立っているそのどちらかが声を出すまで、私は目を開けられそうにない。

「――う゛ぅッ」

 え……なに? さっきと違う呻き声……まさか、相討ち?

「――!」

 目を開けると、立っていたのはジョルディ陛下だったのに、その陛下が吐血している。 どうして……打ち合った時に斬られた……の?

「は……はは……どうやら陛下は病んでいらっしゃるようだ」

 倒れたフェリクス様が笑う。 そうだ、アリーヤ様が言っていた、陛下はお身体を病んでいると。

「ならば好都合、この国の頼りはあのか弱き皇子となる……!」

 フェリクス様は打ち負けた。 でも笑ったのは彼で、ジョルディ陛下が膝をつき倒れる中、私は手を伸ばすことも出来ずに連れ攫われる。

 マリウス様のお父様、私の義父になる人に何もしてあげられずに―――。

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