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第33話 影を盗む方法
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突然起こった事態に仲間たちはそれぞれの伝手を使って急いで対策をした。恐らくこれでは間に合わないだろう。それでも、何もやらないよりはマシだ。
時間を置けば冷えるのか、それともずっと一定の温度のままなのかも分からない状態だ。
ノアは急いでラルフにも連絡を入れた。きっとレヴィウスでも同じように混乱しているに違いないだろうから。そして思う。これはもう本気で妖精王に対抗出来る唯一の存在、始祖様を探した方がいいかもしれない、と。
城に戻ったキャロラインはアリスからの水質調査結果を受けて、着替える時間も惜しいと言わんばかりにルイスとアランを急かして宝珠の準備をするとその前に立って話し始めた。
「皆さん、どうか落ち着いて聞いてください。今、世界では大変な事が起こっています。既にお気づきの方も居ると思いますが、あちこちで突如水温が変わってしまうという事態が発生しています。不便ですがどうか焦らず、騒がず、今まで通りの日常を過ごしていてください。そして私から皆様にご報告です。今後の事態に対応する為、ここにチーム聖女を復活させる事を宣言いたします。どうか皆様のお力をあの時のようにお貸しください。よろしくお願いいたします」
キャロラインが宝珠に向かって頭を下げたのと同時にルイスも頭を下げた。
こういう演説は昔からキャロラインの方が上手い。流石聖女である。こんな時のルイスの役目はただ一つ、ひたすらキャロラインを支える事だ。
この事がきっかけでそれまでまことしやかに囁かれていた妖精王失踪の噂が全世界に一気に広まったのだった。
チーム聖女が再結成されると聞いて、国民達は察した。
あの戦争の後に出版されたライラの漫画で読む歴史に描かれていた事が本当だとすれば、戦争に至るまでの何年もの間、チーム聖女が様々な知恵と勇気を持って動き、そして戦争に至った事を知ったのだ。
チーム聖女が再結成されるということは、あの時に匹敵するような、もしくはそれ以上の事が起こるかもしれないという事だ。
国民達はこの演説を聞いて、それぞれがあの手この手でどうにか水の温度を下げる努力をした。キャロラインが言ったように、焦り慌てるのではなく、それぞれに解決策を探す事にしたのだ。
演説が終わったキャロライン達が屋敷に戻ると、そこには同じようにフォルスで演説を終えたシャルル達も戻ってきていた。
「そちらはどうでした?」
「まだ分からん。だが、チーム聖女を再結成すると言った途端、城の外から物凄い歓声が聞こえてきたぞ」
「そうですか。後はレヴィウスにも連絡をしないと――」
「そっちはもう僕がしておいたよ。今頃兄さんがやっぱり演説してるんじゃないかな」
とりあえず今できる限りの事を手配し終えたノアが言うと、シャルルもルイスも頷く。やはりノアは腐ってもレヴィウスの第四王子である。
「あとね、師匠にも言っておいた! お水がお湯になってるみたいだから、水に戻すいい方法があったら教えてね、って」
胸を張って言うアリスにリアンが頷く。
「そうなんだ。師匠さん達今シュタに向かってんでしょ? 何か見つかるといいけど……そういやさっき、うちの娘達からメッセージが届いたよ。近々アリス工房の新しい商品が見つかるだろう、ってさ」
「本当にそんな予言みたいな感じでメッセージ届くんだね」
感心したようなノアの言葉にリアンとライラが同時に頷いた。
「そうなんです。突然何かに取り憑かれたみたいにガクンってなるんです」
そして目を閉じたままメッセージを送ってくる娘たちに、リアンもライラもいつもビックリするのである。
そこに矢の魔法の解析に戻っていたチビアリスが矢を振り回しながら戻ってきた。
「皆、おまたせ! 分かったよ! 魔法の内訳!」
「! アリス!」
どんくさいのに矢を振り回すチビアリスは危険極まりない。アランは咄嗟にチビアリスを捕まえて、手から矢を受け取った。
「落ち着いてください、君が暴れると危ないから」
「ご、ごめん。そうだ! 分かったよ、内訳! すっごく巧妙に隠されてたんだけど、初めて見る魔法式だった。こういう奴なんだけど……アラン分かる?」
チビアリスはそう言ってメモ用紙をアランに渡すと、アランはそのメモを見て口元に手を当てて考え込む。
「この魔法式が紛れ込んでいたんですか?」
「うん。一斉に矢を撃つっていうのと、狙いを定める、の間に3つに分けてこれが入ってたの」
「どんな魔法式なんですか?」
「私も興味あります」
アランのメモに興味津々なシャルルとシャルがアランの手元を覗き込んで、やっぱり同じ反応をしている。
「初めて見る魔法式ですね。これだけだと何かを取るっていうのに近い気がするんですけど……」
「でも、これも入れると単純に切る、ですね」
「書いて使ってみてもいいんですが、何が起こるか分かりませんしね……」
実験が出来ないのではどうしようもない。何よりも不思議なのは――。
「全部特殊魔法ではないんですよ。一つずつはとても単純な魔法式を組み合わせて、それを巧妙に混ぜることで一つの魔法式で3つの事を一度に行ったようです」
魔法式には最低限のルールというものがある。大事なのは順番だ。水を作り出すという単純なものでも、詠唱や魔法式に書き出すとまずは空気中の水素を集める。凝縮する。水になるという魔法式や詠唱になるのだ。
「つまり矢を撃ち、的に向かわせ、何かを切り取った。最後のこれは集める、かな。なるほどね。混ぜる事で全部一瞬で済ませたって事か。だからこの矢が地面に刺さった途端に気配が消えたんだね」
いつの間にかメモを覗き込んでいたノアの言葉におかしそうにシャルが笑う。
「これで影を切り取ったんでしょうね。本当にピーターパンの世界のようです。だとしたらタンスの中にあるはずなんですが」
「ははは! じゃあ見つけたら足に影縫い付けるの? アリスには絶対させられないね」
「あんた達さ、盛り上がってるけどそんな話ししてる場合じゃなくない?」
そもそもなんだ、影を足に縫い付けるって。怖いわ!
リアンの言葉にノアとシャルは互いに顔を見合わせて軽く咳払いをした。
「ごめんごめん、つい。ということは、ドンのあの足の傷は影を盗られたって事かな」
「え⁉ ドンまで盗まれてんのはヤバくない⁉」
ギョッとしたカインにノアもシャルも頷く。
「ヤバいよ。こんな訳の分からない魔法使うのも世界の水を全部お湯に変えたのも、間違いなく元妖精王の仕業だろうね。問題は元妖精王と例の二人組の正体がまだはっきりと結ばれてないって事だよ」
「え? でもスルガさんの所で銀泥棒をその二人組がやっつけたんすよね?」
「うん、でもそれは普通の人でも出来ない事はないよ。泥棒は呪いをかけられたって言ってたらしいけど、もう死んでしまった後だから呪いが発動したのか、実際にその二人に何かをされて死んだのかは誰にも分からない。分かるのは銀鉱山の入り口で泡吹いて亡くなってたって事だけなんだから」
「あ……そっか。別に影を盗んだり水をお湯に変えるほどの魔力はいらないんすもんね」
「そう。だからと言ってその二人組が違うグループだっとしても相当厄介だけど、そういうのはもうややこしいから止めて欲しいよね」
そう言って何かを思い出すようにチラリとシャルを見たノア。その視線に気付いたシャルはそっと視線を逸らした。何せ女王と仲間だと思いこむように立ち回っていた前科一犯のシャルである。
時間を置けば冷えるのか、それともずっと一定の温度のままなのかも分からない状態だ。
ノアは急いでラルフにも連絡を入れた。きっとレヴィウスでも同じように混乱しているに違いないだろうから。そして思う。これはもう本気で妖精王に対抗出来る唯一の存在、始祖様を探した方がいいかもしれない、と。
城に戻ったキャロラインはアリスからの水質調査結果を受けて、着替える時間も惜しいと言わんばかりにルイスとアランを急かして宝珠の準備をするとその前に立って話し始めた。
「皆さん、どうか落ち着いて聞いてください。今、世界では大変な事が起こっています。既にお気づきの方も居ると思いますが、あちこちで突如水温が変わってしまうという事態が発生しています。不便ですがどうか焦らず、騒がず、今まで通りの日常を過ごしていてください。そして私から皆様にご報告です。今後の事態に対応する為、ここにチーム聖女を復活させる事を宣言いたします。どうか皆様のお力をあの時のようにお貸しください。よろしくお願いいたします」
キャロラインが宝珠に向かって頭を下げたのと同時にルイスも頭を下げた。
こういう演説は昔からキャロラインの方が上手い。流石聖女である。こんな時のルイスの役目はただ一つ、ひたすらキャロラインを支える事だ。
この事がきっかけでそれまでまことしやかに囁かれていた妖精王失踪の噂が全世界に一気に広まったのだった。
チーム聖女が再結成されると聞いて、国民達は察した。
あの戦争の後に出版されたライラの漫画で読む歴史に描かれていた事が本当だとすれば、戦争に至るまでの何年もの間、チーム聖女が様々な知恵と勇気を持って動き、そして戦争に至った事を知ったのだ。
チーム聖女が再結成されるということは、あの時に匹敵するような、もしくはそれ以上の事が起こるかもしれないという事だ。
国民達はこの演説を聞いて、それぞれがあの手この手でどうにか水の温度を下げる努力をした。キャロラインが言ったように、焦り慌てるのではなく、それぞれに解決策を探す事にしたのだ。
演説が終わったキャロライン達が屋敷に戻ると、そこには同じようにフォルスで演説を終えたシャルル達も戻ってきていた。
「そちらはどうでした?」
「まだ分からん。だが、チーム聖女を再結成すると言った途端、城の外から物凄い歓声が聞こえてきたぞ」
「そうですか。後はレヴィウスにも連絡をしないと――」
「そっちはもう僕がしておいたよ。今頃兄さんがやっぱり演説してるんじゃないかな」
とりあえず今できる限りの事を手配し終えたノアが言うと、シャルルもルイスも頷く。やはりノアは腐ってもレヴィウスの第四王子である。
「あとね、師匠にも言っておいた! お水がお湯になってるみたいだから、水に戻すいい方法があったら教えてね、って」
胸を張って言うアリスにリアンが頷く。
「そうなんだ。師匠さん達今シュタに向かってんでしょ? 何か見つかるといいけど……そういやさっき、うちの娘達からメッセージが届いたよ。近々アリス工房の新しい商品が見つかるだろう、ってさ」
「本当にそんな予言みたいな感じでメッセージ届くんだね」
感心したようなノアの言葉にリアンとライラが同時に頷いた。
「そうなんです。突然何かに取り憑かれたみたいにガクンってなるんです」
そして目を閉じたままメッセージを送ってくる娘たちに、リアンもライラもいつもビックリするのである。
そこに矢の魔法の解析に戻っていたチビアリスが矢を振り回しながら戻ってきた。
「皆、おまたせ! 分かったよ! 魔法の内訳!」
「! アリス!」
どんくさいのに矢を振り回すチビアリスは危険極まりない。アランは咄嗟にチビアリスを捕まえて、手から矢を受け取った。
「落ち着いてください、君が暴れると危ないから」
「ご、ごめん。そうだ! 分かったよ、内訳! すっごく巧妙に隠されてたんだけど、初めて見る魔法式だった。こういう奴なんだけど……アラン分かる?」
チビアリスはそう言ってメモ用紙をアランに渡すと、アランはそのメモを見て口元に手を当てて考え込む。
「この魔法式が紛れ込んでいたんですか?」
「うん。一斉に矢を撃つっていうのと、狙いを定める、の間に3つに分けてこれが入ってたの」
「どんな魔法式なんですか?」
「私も興味あります」
アランのメモに興味津々なシャルルとシャルがアランの手元を覗き込んで、やっぱり同じ反応をしている。
「初めて見る魔法式ですね。これだけだと何かを取るっていうのに近い気がするんですけど……」
「でも、これも入れると単純に切る、ですね」
「書いて使ってみてもいいんですが、何が起こるか分かりませんしね……」
実験が出来ないのではどうしようもない。何よりも不思議なのは――。
「全部特殊魔法ではないんですよ。一つずつはとても単純な魔法式を組み合わせて、それを巧妙に混ぜることで一つの魔法式で3つの事を一度に行ったようです」
魔法式には最低限のルールというものがある。大事なのは順番だ。水を作り出すという単純なものでも、詠唱や魔法式に書き出すとまずは空気中の水素を集める。凝縮する。水になるという魔法式や詠唱になるのだ。
「つまり矢を撃ち、的に向かわせ、何かを切り取った。最後のこれは集める、かな。なるほどね。混ぜる事で全部一瞬で済ませたって事か。だからこの矢が地面に刺さった途端に気配が消えたんだね」
いつの間にかメモを覗き込んでいたノアの言葉におかしそうにシャルが笑う。
「これで影を切り取ったんでしょうね。本当にピーターパンの世界のようです。だとしたらタンスの中にあるはずなんですが」
「ははは! じゃあ見つけたら足に影縫い付けるの? アリスには絶対させられないね」
「あんた達さ、盛り上がってるけどそんな話ししてる場合じゃなくない?」
そもそもなんだ、影を足に縫い付けるって。怖いわ!
リアンの言葉にノアとシャルは互いに顔を見合わせて軽く咳払いをした。
「ごめんごめん、つい。ということは、ドンのあの足の傷は影を盗られたって事かな」
「え⁉ ドンまで盗まれてんのはヤバくない⁉」
ギョッとしたカインにノアもシャルも頷く。
「ヤバいよ。こんな訳の分からない魔法使うのも世界の水を全部お湯に変えたのも、間違いなく元妖精王の仕業だろうね。問題は元妖精王と例の二人組の正体がまだはっきりと結ばれてないって事だよ」
「え? でもスルガさんの所で銀泥棒をその二人組がやっつけたんすよね?」
「うん、でもそれは普通の人でも出来ない事はないよ。泥棒は呪いをかけられたって言ってたらしいけど、もう死んでしまった後だから呪いが発動したのか、実際にその二人に何かをされて死んだのかは誰にも分からない。分かるのは銀鉱山の入り口で泡吹いて亡くなってたって事だけなんだから」
「あ……そっか。別に影を盗んだり水をお湯に変えるほどの魔力はいらないんすもんね」
「そう。だからと言ってその二人組が違うグループだっとしても相当厄介だけど、そういうのはもうややこしいから止めて欲しいよね」
そう言って何かを思い出すようにチラリとシャルを見たノア。その視線に気付いたシャルはそっと視線を逸らした。何せ女王と仲間だと思いこむように立ち回っていた前科一犯のシャルである。
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