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第37話 バセット領へのスカウト

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「あります。まぁ奥様の『お猿』と違って『ほとんど』がついているので、もしかしたら人間っぽい猿なのかもしれませんが」

 淡々というカイに今度はレックスが目を丸くした。

「アミナスはヒトではない?」
「いや、いやいや! ヒト! ちゃんと僕たちの目の前で母さまから生まれてきたから! 大丈夫だよ、異次元に力強かったりするけどちゃんとヒトだから! ちょっとお転婆な可愛い女の子だよ!」
「ちょっとお転婆?」
「可愛い女の子?」

 ノエルの言葉にレオとカイが揃って首をかしげるが、ノエルにとっては世界で一番可愛い大事な妹である。

 それにアミナスやアリスのステータスがおかしい元凶はシャルだという事も分かっているので、そこらへんが遺伝してしまったのだろう、きっと。ステータスまで遺伝するのかどうかは――分からないが。

 温泉から出てさっぱりした所に、先に温泉から出て屋台に買い物に行っていたエリスとアミナスが人数分のミックスジュースを持って戻ってきた。

「はい、これ! やっぱり温泉から出たらミックスジュースだよ!」

 全員にキンキンに冷えたミックスジュースを配ったアミナスは、首にタオルをかけたままごくごくと飲みだす。

 アミナスの膝の上では器用に妖精王が両手を使ってミックスジュースを飲んでいる。

「アミナス、お前髪ぐらいちゃんと乾かせよ。ほら、拭いてやるから」
「うん!」

 足をぶらぶらさせながらエリスに髪を拭いてもらうアミナスは、まるで本当にエリスの娘のようだ。

 そんな光景を見て温泉でこの旅の一行についてその関係性を聞かされたレックスがポツリと言った。

「血の繋がりが絶対じゃないんだ」

 レックスの言葉にレオとカイが真顔で言う。

「お嬢様だけではありません。バセット領はバセット家含め、全員変わっています」
「ただ、居心地はいいですよ。皆、自由です。身分差も種族も関係なくあんなに仲がいい領地を、俺達は他には知りません。何せここの奥様と旦那様がそういう人ですから」
「森にダイアウルフもドラゴンもいるしね」
「クマも狼も妖精もいるよ! きっとレックスも楽しいと思うな! 楽しみにしててね!」

 笑顔でそんな事を言うアミナスの言葉に皆はギョッとした。どうやらアミナスは旅どころか、レックスをバセット領にまで連れて帰る気らしい。

「おい待て、アミナス。お前、レックスは猫や犬の子じゃないんだぞ。そんなホイホイ連れて帰ったらアリスとノアが……いや、ハンナ達……も何も言わないな……えっと……あ! アーサーさんがビックリ……しないか。グレース! そうだグレースなら驚くんじゃないか⁉ なぁ?」
「なぁ? って言われても……別に何とも思わないんじゃないかなぁ、おばあちゃんも」
「そうですね。無駄ですよ、師匠。それにそれだけ探さないと出てこないって事は、もうそういう事です。諦めてください」
「ですがお嬢様、決めるのはレックスですよ。決して強要はしてはいけません」
「はぁ~い。じゃあ、私は旅の間に一杯レックスにうちの自慢するね! そしたらきっと住みたくなるから!」

 ニカッと笑ったアミナスを見て、レックスは思っていた。もう少しだけこの一行に付き合ってみよう、と。

「それで、今目指してるのはどこ?」
「シュタだよ! 父さまがやってる会社で扱えるような商品を探しに行くんだ~」
「そうなんだ。お父さん、会社やってるの?」
「うん! アリス工房って言ってね、乾電池が爆売れしてる! でもそれだけじゃ弱いから、もっと何かないか探しに行くんだ。母さま達もこうやって色んな所に言って色んな商品作ったって言ってたから、私達もお手伝いするの。ね? 兄さま!」
「うん」

 本当は違うが。ノエルはそんな言葉を飲み込んだ。アミナスとエリスと妖精王には黙っているが、本当の目的はディノを探すことである。
 
 
 
「また何拾ったんっすか、アミナスは」
「さあ? アリス、キリ、どうやらまたバセット領に子供が増えるかもよ」
「大歓迎だよ! 楽しみだなぁ!」
「全く、本当にどこまでもお嬢様似ですね、アミナスは」
「いや~それほどでも」
「褒めてません! まぁでも今更です」

 諦めたようにキリが言うと、ノアはおかしそうに笑っている。

 アミナスは本当に小さい頃のアリスにそっくりで、戸惑うレックスが面白い。今から会うのが楽しみである。

 そんな事よりも今は水問題だ。何か外に解決のヒントはないものかと思ってノエルのブレスレットを聞いていたが、生憎まだ水問題が起こっていない時の録音のようで、なかなか水について誰も触れてくれない。

「アラン、これ早送りとか出来ないの? せめて日付選べるとか」
「出来ない事はないですが、そうすると一旦宝珠に移さないと。でも毎度毎度それは面倒でしょう?」
「確かに。じゃあさ、直接宝珠に落とし込めるように改造する事って出来ないの? 出来たらすっごく便利になると思うんだけど」

 軽く言ったノアにアランは顔を顰めて渋々頷く。相変わらずノアは人使いが荒い。
「やってみます。ルイス、一部屋研究用に改装しても構いませんか?」
「もちろんだ! 他にも必要な物があったらいつでも言ってくれ」

 この屋敷はもう皆のセカンドハウスだ。それぞれが使いやすいように改築していけばいい。ついでに部屋に露天風呂を作ってほしい。

「じゃ、とりあえず部屋割決めようぜ。夫婦同じ部屋にする? せっかくだから一部屋ずつ使う?」
「俺はどちらでもいいぞ。一人一部屋でも十分部屋数はあるからな」
「いや、アリスに一人部屋は絶対にダメ。どんな改造されるか分からないから」
 真顔でそんな事を言うノアにルイスとキャロラインは揃って頷いた。
「じゃあアリスはノアとキリに任せるとして、他は一人部屋でいいか?」
「構わないよ。じゃライラ、僕の部屋の隣ね」
「うん」

 ちゃっかりライラを隣の部屋に置くリアンはこう見えてライラ一筋だ。大人になっても美しいリアンはそれこそ男女問わずモテるが、ライラ以外の誰も相手になどしない。相変わらず警戒心は猫のように強いから、今でもずっと仲間たちしか友人が出来ないのである。

「じゃ、アリス行こうか。アランの宝珠改造が終わるまでに露天風呂の設計図を作っちゃおう。皆の部屋につけるんでしょ?」
「うん! ついでに外にもおっきな露天風呂作ろ! あとね、ドンちゃん達もこっちに呼ぼうよ」
「ああ、そうだね。ドンも影盗られてるし、その方がいいかも」

 言いながらノアは席を立ってアリスを引きずり、トーマスに案内されて応接室を後にした。

「じゃ、俺は兄貴と親父に連絡入れとくわ。ルイスはルカ様とステラ様に決まった事伝えて。ああ、あとキャロライン」
「なに?」

 突然カインに名前を呼ばれたキャロラインが首を傾げると、カインは真顔で話しだした。

「テオをこっちに連れて来といて」
「な……何故?」
「テオに子供達と俺達の橋渡し役をやってほしいんだ。スマホでもいいけど、俺達にはあいつら全部話さなかったりするだろうから」

 正に自分たちがそうだったのだ。子供達もきっとそうに違いないと踏んだカインの言葉に、キャロラインは少し考えて頷いた。

「確かにその通りね……特にルークやノエルは本当の事を隠したりしそうだものね」
「だろ? 信用してない訳じゃないけど、俺たちを気遣って黙っているって手段とりそうだからさ、あいつら」

 ノエルには腹黒さが今はまだない。

 けれど、流石ノアの子だけあって頭は非常に良い。そこに時々アリスの破天荒さがプラスされてしまう時があるとノアが以前嘆いていたのを思い出したカインは、自分たちの間にワンクッション置いてパイプ役になってくれそうな人物を探していたのだ。
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