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第38話 反抗期のテオ

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「テオはあいつらと年も近いし、何よりテオもあいつらの立派な幼馴染で今更アミナスに影響されるとも思わない。つまり、丁度いい」
「……分かったわ。伝えるわね。でもあまり期待はしないでね。あの子今、反抗期なのよ」

 こんな事になって最近ではしょっちゅう実家に顔を出すキャロラインだが、そのたびにテオに早くに嫁いだ事をグチグチと言われるのである。アリスに言わせればそれはただのヤキモチだと言うが、それでもキャロラインは少し悲しくなったりするのだ。

「反抗期か。じゃあライラに頼んでもらったらどうだ?」

 カインとキャロラインの話をじっと聞いていたルイスがふと言うと、キャロラインはパッと顔を輝かせた。

「そうね! そうしましょう! ライラー! ライラ~~~!」

 スマホを握りしめてライラを呼びに部屋を飛び出して行ったキャロラインを見てルイスとカインは肩を竦めて笑う。

「キャロラインは随分変わったよな」
「ああ。だが、俺はやっぱり今のキャロの方が好きだな」

 目を細めてキャロラインが飛び出して行った扉を見ていたルイスがポツリと言うと、カインは呆れたように微笑んだ。

 そこへ廊下からドヤドヤと賑やかな足音と話し声が聞こえてくる。それを聞いてルイスが腕を組んで笑った。

「アリス達だな。あいつらは本当にどこに居てもすぐに分かる!」
「ほんと、あれも才能だよ」

 ルイスとカインが笑いを噛み殺していると、噂の三人が言い合いをしながら姿を現した。

「だから! ここの蛇口はこうでないと格好良くないんだってば!」
「アリス、でもこの蛇口だと子供達がはしゃいで頭ぶつけたりしたらどうするの?」
「そうです。大体どうしてこんな無駄な彫像を彫ろうとするんですか。しかも何故それをご自分でしようとするんです?」
「つ、爪痕を……の、残そうかと……?」

 キリがアリスを見る目は完全に、こいつマジか、の目だ。

「アリスの爪痕はもう世界中のそこら中に残ってるでしょ? それで我慢しなさい。というわけでこのライオンのオブジェは却下。キリ、サイズ測って浴槽だけ発注かけてくれる?」
「分かりました。大理石とヒノキとどちらにします?」
「ヒノキ! ぜーったいヒノキ!!!」

 それだけは絶対に譲れない。露天風呂はヒノキでないと! 防虫、癒し効果、さらに削ればまた匂いが復活するという素晴らしい木、ヒノキ!

 ヒノキの良さについて力説するアリスにキリは特に反対する事もなく頷いてどこかに電話し始める。

「ふぅ、ルイス、一週間もすれば露天風呂出来ると思うよ。ちゃんと完成するのはもうちょっと時間かかると思うけど」
「あ、ああ。ありがとう」

 毎度毎度こうやってアリス工房の商品は決まっているのだろうか? ルイスはそんな事を考えながら疲れたように肩を叩いているノアに同情の目を向けると、ノアはそんなルイスの視線に気付いてにっこり笑って言った。

「感謝してね、ルイス。僕がアリスとくっつかなかったら、もしかしたらルイスがアリスの面倒を一生見ることになってたかもなんだよ?」
「うっ……あ、ありがとう」

 それだけは絶対に勘弁してほしいルイスが思わず謝ると、間髪入れずに隣に居たカインにおでこを打たれる。

「騙されんなよ! 元はと言えばノアが全部仕組んだ事だったろ⁉」
「はっ! 本当だな! ノア、お前というやつは!」
「ははは。ちゃんとしっかり考えてから返事しようね、ルイス王。さて、じゃカイン皆をどこに送り込む? 組分けは?」
「そうだな、それじゃあ――」

 こうして、それぞれがあの時のように動き出した。

 
 やがて日が落ちて月が顔を出しだした頃、フィルマメントとミアが夕食の準備が出来たと皆を呼びに来た。それを聞いてキリがふと表情を曇らせる。

「ミアさん、ミアさんは料理を手伝ったりは……」
「してません! 私はセッティングしただけです!」
「ああ、それなら良かったです」

 顔を真っ赤にして怒鳴るミアにキリは安心したように小さく微笑んでミアの頭を撫でる。ここは本当にいつまでも新婚のようである。

 夕食を終えた頃、部屋ごと引っ越してきたのかと思うほど大荷物を抱えたテオがやってきた。

「姉さま、呼ばれたから来たけど?」
「テオ、ありがとう、助かるわ。あなたの部屋も用意してあるわ。こっちよ」
「うん」

 テオは荷物を抱え直してチラリと応接室を覗き込むと、ソファの端に座るライラを見つけて頬を染める。そんなテオに気付いたライラが小さく手を振ると、テオはさっと視線を伏せてしまう。

「テオ君、来てくれてありがとう」
「い、いえ! ぼ、僕も仲間だって認めてもらえたみたいで嬉しいです」
「うふふ。私もテオ君が力を貸してくれたらとても嬉しい! これからよろしくね」
「は、はい!」

 顔を真っ赤にしてそんな事を言うテオをアリスはニヤニヤしているが、リアンは白けた目でそんなテオを見て言う。

「言っとくけど、ライラは人妻だからね。手出したら承知しないよ」
「リ、リー君ってば!」

 テオがライラに抱いているのはただの憧れだ。それでもリアンがそんな風に言ってくれるのは嬉しいライラである。

 リアンの言葉にテオは顔を真っ赤にして頷くと、そのまま頭を下げてキャロラインの案内で部屋に向かってしまった。

 テオが完全に居なくなったのを確認したアリスはちらりとリアンを見てニヤニヤしている。

「ひゅーひゅー! 意外とリー君はヤキモチ焼きですなぁ!」
「うっさい! で、結局誰がどこに行くの」
「そうだったそうだった。はい、これリスト。まぁ、とは言えいつものメンバーだよ。アリス、キャロライン、リー君、ライラちゃん、オリバー、アランがA班。残りはB班ね。シャルルはフォルスに戻って何か情報集めてきて。このリストに名前が無い人たちは裏方お願い」
「全く以ていつも通りだな!」

 リストを見ながら言ったルイスにノアとカインはコクリと頷く。

「この組分けが一番バランスがいいんだよ。本当は三班に分けたいけど、それだと何かあった時対処しきれないなって」
「そうそう。あんま分散しても良くはないよな。で、裏方組にはこっち。フィルはマーガレットとレスターとルウ連れて妖精界の情報集めてきてほしい」
「分かった。パパの事も言っちゃっていい?」
「そうだな。もう隠せないだろうから、お義母さん達と相談してきてくれる?」
「うん」

 不安げに視線を伏せたフィルをカインは慰めるように抱き寄せた。そんな二人を横目にキリがミアにリストを渡している。

「ミアさんはチームキャロラインと共に王都で情報を集めてもらえますか?」
「分かりました」
「夜にはこちらに戻りますので安心してください。何かあったらすぐに連絡します」
「はい。キリさんも気をつけて」

 頷いたミアにキリは新しく新調したコロンボンの手帳を手渡した。

「アリスは水をお湯に変えた魔法の解析をお願いします。パープルを置いていくので、助手に使ってください」
「分かった。何か分かったら連絡するね」
「ええ、お願いします。あと、部屋は吹き飛ばさないようにね? ちゃんと結界は張っておくこと!」
「分かってるっ!」

 チビアリスの魔力はアランすら凌ぎそうなほど強力だ。ただ、鈍臭すぎてそれを使いこなせていない所が惜しい所である。そういう意味では何かと器用なアランとはいいコンビなのだ。
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