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第50話 肉は万能薬
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エリスの言葉にノアは膝にアミナスを乗せたまま顔を輝かせた。
「本当? 良かった。突然倒れたからどうしようかと思ったんだけど、やっぱり偽アリスに殴られた後遺症かな?」
「いや、極度の貧血だったらしい。あいつが貧血なんて珍しいが、今は双子がついてるから任せておこう」
キリが突然倒れた事でノアはすぐさまルイスの権力を振りかざして医者を呼びつけ、キリの手当に当たらせていた。その行動力は流石のエリスも驚きだった訳だが、長年ノアと付き合いのあるルイスとカインはそんなノアに苦笑いをしただけだったので、ノアのキリへの愛情も相変わらずである。
「極度の貧血? なんでまたそんな突然……」
隣で話を聞いていたカインが言うと、ノアも首を捻った。
「別に貧血になるような事、何も無かったと思うんだけどな」
貧血と言えば鉄分不足だが、キリは特に慢性的に貧血症という訳でもない。何なら栄養管理ばっちりのアリスのメニューをほぼ毎日食べているので、むしろ健康体だ。それが何故突然貧血など起こしたというのか。
ノアとカインとエリスは原因を考えていたが、その答えは案外あっさり発覚した。夜のアリスからの定期連絡によって。
子供達が寝静まった後、ようやく目を覚ましたキリも交えて大人たちはルイスの部屋に集まり、アリスに電話をした。
『はいは~い! 兄さま、チビ達は?』
いつでも元気なアリスにノアは目を細めながら言う。
「もう寝たよ。そっちはどうだった? 何かあった? こっちは特に何も無かったけど、キリが食事中に貧血で倒れてね」
「自分でも驚きです。よくミアさんが貧血気味なのだと言っていますが、またなったらすぐに言ってください。そしてどうかその日は安静にしていてください。あれはいけません」
生まれて初めて貧血というものになったキリは、貧血気味だと言いながらよく薬を飲んでいるミアを思い出して真顔で言った。意識を失う前のあの目眩がしょっちゅうだと思うとゾッとする。そんなキリの言葉にミアは困ったように笑って首を振る。
『大丈夫ですよ、私のは倒れるほどではないので。キリさんこそ大丈夫ですか? 鉄分不足でしょうか?』
「いいえ、いけません! 程度など関係ないのです。少しでも目眩がしたらもうその日は休んでください。レオとカイもそう言います」
「ミアさん、キリは言い出したら聞かないから。それから隠れて薬飲んでも絶対バレるから、そんな日は大人しくしてなね?」
『はい、ありがとうございます。それで、キリさんはもう大丈夫なんでしょうか?』
「ええ。肉を食べて寝れば落ち着きました」
「アリスがいっつも言うもんね。貧血には肉だ! 怪我にも肉だ! 病気にも肉だ! って」
「そうそう、昔っからこいつはそうなんだ。どんなに腹壊しても肉で治そうとするからな」
エリスの言葉にノアとキリも頷いたが、それを聞いてカインとルイスとリアンはギョッとしている。
『肉、万能薬すぎない?』
「え、肉ってそんな効果ある?」
「それを実践するお前らも凄いな」
病気の時など辛くて肉など喉をそもそも通らないのだが。ルイスの言葉にスマホの向こうの面々も頷いている。
「まぁあれです。アリスは中身がまんま野生動物のそれなので、驚きもしません」
呆れたシャルの言葉に全員が笑った所で、ふとルイスがキャロラインの顔色が悪いことに気付いた。
「キャロ? 何かあったのか?」
『え? ええ、ちょっと……テオに嫌われてしまって……』
「テオに? そんな訳ないだろう。一体何があったんだ?」
泣きそうな顔をしているキャロラインにルイスが問うと、横からしゃしゃり出てきたアリスが1から説明し始めた。
「なるほどねー。まぁ、どっちの気持ちも分かるよな。俺だって兄貴がメグと駆け落ちした時、やっぱ置いていかれたって思ったし」
『そうなんです。私が行っても開けてくれませんでした……』
しょんぼりと項垂れたライラをリアンがよしよしと撫でている。
話を隣で聞いていたノアはお茶を飲んで泣きそうな顔をしているキャロラインにゆっくり話しだした。
「誰しもが通る道だよそれは。親子だろうが兄弟だろうがいつかは独り立ちする日が来るんだし、大なり小なりそんな気持ちになる時が来るんだから。ただ今回のはちょっと可哀相かもね。テオは多分、キャロラインが本当に心配なんだよ。国母という立場も大事だし、もちろんキャロラインの夢だって応援したいって思ってるだろうけど、テオからしたら国母ではなくて君は姉なんだよ、これから先もずっと。テオは弟として姉を止めたのに、姉は国母の立場で答えてしまった。それがテオを傷つけたんじゃないの?」
『っ! 私……私ってば、何てこと……』
キャロラインはそれを聞いてとうとう涙を零した。
家族を守りたい、それに嘘はない。ただその家族の括りがどうやら民全員になってしまっていたようだ。未だに聖女と呼ばれるキャロラインだ。それで間違いは無いはずだ。
けれど、それは弟のテオや子供達からしたらどうなのだろうか? 寂しいと思うのではないだろうか。
無言で涙を零すキャロラインを見て、アリスはそっとよれよれになったハンカチを差し出す。
『兄さまはああ言うけど、キャロライン様は何も間違ってないと思うよ。もちろんテオ君も。どっちも悪くないんだから、仲直りもすぐだよ! 多分ね、キャロライン様はテオ君とお話する機会をもっと作ればいいと思うな!』
「そうです。なまじ歳が離れているので、会話が説教臭くなっているんですよ、キャロライン様は。そんなお母さんを通り超えておばあちゃんの目線で言われてもって感じです」
『せ、説教臭い……おばあちゃん……』
相変わらず忖度のないキリの言葉に思わずキャロラインの涙は引っ込んだ。
「まぁ、アリスとキリの言う通りです。あなたは姉です。母親ではないんです。親は庇護するもの、兄弟は支え合うものですよ」
シャルの言葉にキャロラインは素直に頷く。
『そうね……私はテオの母親ではないものね……明日、テオと話をするわ。一日中、鬱陶しがられても』
「うん、そうしてあげて。落ち着いたらどっか一緒に出掛けてきな。それで解決だよ。で、本題だけどアリス、キリの影を切り裂いたって?」
サラッと聞き流す所だったが、何かとんでもない事を言っていた気がしてノアが問うと、アリスは何てことないように頷いた。
『うん。だって、キリの似てないモノマネするんだもん。何か腹たっちゃって』
「いや、気持ちは分かるけど……もしかしてキリの貧血の原因、それかな。それ、大体何時ぐらい?」
『えっとね、ご飯食べる前だったから、18時ぐらいかな?』
アリスの言葉に全員が顔を見合わせて頷く。
「間違いなく、原因それだな」
「そうみたいだね。なるほど、影に危害を加えても本体に影響は無いって思ってたけど、そういう影響が出るのか」
「こ、これは一大事じゃないか⁉」
慌てるルイスにカインもノアも頷く。
「それにしてもお嬢様、よくもまぁ遠慮なく俺を切り裂いてくれたものです」
『キ、キリだって私の顔に傷つけたじゃん!』
「俺は傷だけですが、あなたは切り裂いたのでしょう?」
別に責めている訳ではないのだが、何故かアリスは焦っている。少しだけアリスのそんな反応が面白くなってきたドSのキリだ。
『だ、だって、避けないキリが悪いんだよっ! しかもその後くっついたんだから! あんた、めちゃくちゃ気味悪かったんだからね!』
「俺ではなくて影が、でしょう? それよりも、くっついたんですか? 致命傷のような傷が、ですか?」
「本当? 良かった。突然倒れたからどうしようかと思ったんだけど、やっぱり偽アリスに殴られた後遺症かな?」
「いや、極度の貧血だったらしい。あいつが貧血なんて珍しいが、今は双子がついてるから任せておこう」
キリが突然倒れた事でノアはすぐさまルイスの権力を振りかざして医者を呼びつけ、キリの手当に当たらせていた。その行動力は流石のエリスも驚きだった訳だが、長年ノアと付き合いのあるルイスとカインはそんなノアに苦笑いをしただけだったので、ノアのキリへの愛情も相変わらずである。
「極度の貧血? なんでまたそんな突然……」
隣で話を聞いていたカインが言うと、ノアも首を捻った。
「別に貧血になるような事、何も無かったと思うんだけどな」
貧血と言えば鉄分不足だが、キリは特に慢性的に貧血症という訳でもない。何なら栄養管理ばっちりのアリスのメニューをほぼ毎日食べているので、むしろ健康体だ。それが何故突然貧血など起こしたというのか。
ノアとカインとエリスは原因を考えていたが、その答えは案外あっさり発覚した。夜のアリスからの定期連絡によって。
子供達が寝静まった後、ようやく目を覚ましたキリも交えて大人たちはルイスの部屋に集まり、アリスに電話をした。
『はいは~い! 兄さま、チビ達は?』
いつでも元気なアリスにノアは目を細めながら言う。
「もう寝たよ。そっちはどうだった? 何かあった? こっちは特に何も無かったけど、キリが食事中に貧血で倒れてね」
「自分でも驚きです。よくミアさんが貧血気味なのだと言っていますが、またなったらすぐに言ってください。そしてどうかその日は安静にしていてください。あれはいけません」
生まれて初めて貧血というものになったキリは、貧血気味だと言いながらよく薬を飲んでいるミアを思い出して真顔で言った。意識を失う前のあの目眩がしょっちゅうだと思うとゾッとする。そんなキリの言葉にミアは困ったように笑って首を振る。
『大丈夫ですよ、私のは倒れるほどではないので。キリさんこそ大丈夫ですか? 鉄分不足でしょうか?』
「いいえ、いけません! 程度など関係ないのです。少しでも目眩がしたらもうその日は休んでください。レオとカイもそう言います」
「ミアさん、キリは言い出したら聞かないから。それから隠れて薬飲んでも絶対バレるから、そんな日は大人しくしてなね?」
『はい、ありがとうございます。それで、キリさんはもう大丈夫なんでしょうか?』
「ええ。肉を食べて寝れば落ち着きました」
「アリスがいっつも言うもんね。貧血には肉だ! 怪我にも肉だ! 病気にも肉だ! って」
「そうそう、昔っからこいつはそうなんだ。どんなに腹壊しても肉で治そうとするからな」
エリスの言葉にノアとキリも頷いたが、それを聞いてカインとルイスとリアンはギョッとしている。
『肉、万能薬すぎない?』
「え、肉ってそんな効果ある?」
「それを実践するお前らも凄いな」
病気の時など辛くて肉など喉をそもそも通らないのだが。ルイスの言葉にスマホの向こうの面々も頷いている。
「まぁあれです。アリスは中身がまんま野生動物のそれなので、驚きもしません」
呆れたシャルの言葉に全員が笑った所で、ふとルイスがキャロラインの顔色が悪いことに気付いた。
「キャロ? 何かあったのか?」
『え? ええ、ちょっと……テオに嫌われてしまって……』
「テオに? そんな訳ないだろう。一体何があったんだ?」
泣きそうな顔をしているキャロラインにルイスが問うと、横からしゃしゃり出てきたアリスが1から説明し始めた。
「なるほどねー。まぁ、どっちの気持ちも分かるよな。俺だって兄貴がメグと駆け落ちした時、やっぱ置いていかれたって思ったし」
『そうなんです。私が行っても開けてくれませんでした……』
しょんぼりと項垂れたライラをリアンがよしよしと撫でている。
話を隣で聞いていたノアはお茶を飲んで泣きそうな顔をしているキャロラインにゆっくり話しだした。
「誰しもが通る道だよそれは。親子だろうが兄弟だろうがいつかは独り立ちする日が来るんだし、大なり小なりそんな気持ちになる時が来るんだから。ただ今回のはちょっと可哀相かもね。テオは多分、キャロラインが本当に心配なんだよ。国母という立場も大事だし、もちろんキャロラインの夢だって応援したいって思ってるだろうけど、テオからしたら国母ではなくて君は姉なんだよ、これから先もずっと。テオは弟として姉を止めたのに、姉は国母の立場で答えてしまった。それがテオを傷つけたんじゃないの?」
『っ! 私……私ってば、何てこと……』
キャロラインはそれを聞いてとうとう涙を零した。
家族を守りたい、それに嘘はない。ただその家族の括りがどうやら民全員になってしまっていたようだ。未だに聖女と呼ばれるキャロラインだ。それで間違いは無いはずだ。
けれど、それは弟のテオや子供達からしたらどうなのだろうか? 寂しいと思うのではないだろうか。
無言で涙を零すキャロラインを見て、アリスはそっとよれよれになったハンカチを差し出す。
『兄さまはああ言うけど、キャロライン様は何も間違ってないと思うよ。もちろんテオ君も。どっちも悪くないんだから、仲直りもすぐだよ! 多分ね、キャロライン様はテオ君とお話する機会をもっと作ればいいと思うな!』
「そうです。なまじ歳が離れているので、会話が説教臭くなっているんですよ、キャロライン様は。そんなお母さんを通り超えておばあちゃんの目線で言われてもって感じです」
『せ、説教臭い……おばあちゃん……』
相変わらず忖度のないキリの言葉に思わずキャロラインの涙は引っ込んだ。
「まぁ、アリスとキリの言う通りです。あなたは姉です。母親ではないんです。親は庇護するもの、兄弟は支え合うものですよ」
シャルの言葉にキャロラインは素直に頷く。
『そうね……私はテオの母親ではないものね……明日、テオと話をするわ。一日中、鬱陶しがられても』
「うん、そうしてあげて。落ち着いたらどっか一緒に出掛けてきな。それで解決だよ。で、本題だけどアリス、キリの影を切り裂いたって?」
サラッと聞き流す所だったが、何かとんでもない事を言っていた気がしてノアが問うと、アリスは何てことないように頷いた。
『うん。だって、キリの似てないモノマネするんだもん。何か腹たっちゃって』
「いや、気持ちは分かるけど……もしかしてキリの貧血の原因、それかな。それ、大体何時ぐらい?」
『えっとね、ご飯食べる前だったから、18時ぐらいかな?』
アリスの言葉に全員が顔を見合わせて頷く。
「間違いなく、原因それだな」
「そうみたいだね。なるほど、影に危害を加えても本体に影響は無いって思ってたけど、そういう影響が出るのか」
「こ、これは一大事じゃないか⁉」
慌てるルイスにカインもノアも頷く。
「それにしてもお嬢様、よくもまぁ遠慮なく俺を切り裂いてくれたものです」
『キ、キリだって私の顔に傷つけたじゃん!』
「俺は傷だけですが、あなたは切り裂いたのでしょう?」
別に責めている訳ではないのだが、何故かアリスは焦っている。少しだけアリスのそんな反応が面白くなってきたドSのキリだ。
『だ、だって、避けないキリが悪いんだよっ! しかもその後くっついたんだから! あんた、めちゃくちゃ気味悪かったんだからね!』
「俺ではなくて影が、でしょう? それよりも、くっついたんですか? 致命傷のような傷が、ですか?」
応援ありがとうございます!
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