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第76話 推しのグッズ

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 うっとりと手を組んでそんな事を言うアリスを見てノアとキャロラインが引き攣る。

「ほ、ほらね。こんな人も居るんだよ。ていうかアリス! それはほんっとうに止めてね? 毎晩キャロラインのドレスと寝るとか悪夢見そうだから」
「失礼ね! でもアリス、本当にそれは止めてちょうだいね? 何だかちょっと……その……か、飾っておいてちょうだい! ね!」
「お姫様、はっきり気持ち悪いから止めろって言っていいんだよ。あと、着ろとは言わないんだね」
「それは仕方ありません。お嬢様がキャロライン様のドレスなど着たら、ミジンコがドレスを着ているようになってしまいます。何よりお嬢様のサイズにキャロライン様のドレスをリメイクするのは至難の技です。特に胸囲の辺りが」
「確かに! ヤバい、ウケる」

 真顔でそんな事を言うキリにリアンは声を出して笑った。そんなリアンとキリをアリスが睨みつけ、キャロラインは何だか申し訳無さそうな顔をしている。

「あんたミジンコがドレス着たとこ見たことなんてないでしょ⁉ めちゃめちゃ可愛いかもしんないじゃん! ていうか、タオル3枚ぐらい詰めれば私だって着れるもん!」
「怒り方がちょっとズレてるよ、アリス。あと4枚はいるんじゃないかな」
「兄さままで! もう知らない! キャロライン様のグッズは全部私が買い占めるから! ぜ~んぶ抱きかかえて寝るから! ふん!」

 そっぽを向いたアリスを見てリアンがさらに笑う。

「あ~あ~怒らせた! 僕し~らない」
「言っとくけど私、リー君も推しだから。今まで黙ってたけど、リー君とライラは心友(最早親友でもない)でズッ友だから。そんな心友のグッズも全部私の物だから!」

 半眼でそんな事を言うアリスにライラは目を輝かせるが、リアンは青ざめて震えながらオリバーの腕を掴む。

「や、今回は俺は巻き込めないっすよ⁉ ね? アリス」
「うん、モブのは別にいい」
「ほらね! ってか、何なんすかね⁉ 何かちょっと寂しいようなイラっとするような複雑な気分なんすけど⁉」

 思わず声を荒らげたオリバーを見てリアンが悲しげに視線を伏せる。

「大丈夫。モブのは売れ残るだろうけど、ちゃんと僕が引き取るからね」
「いや、それも腹立つんすけど⁉ 何で売れ残る前提なんすか⁉」 

 そもそも仲間内でも最も庶民のオリバーに売るものなどない。服はクタクタになるまでリメイクして、何ならそれでサシャの服をドロシーが作るのだから。

 そうする事で仕事でオリバーが家に居なくてもサシャはずっとオリバーの服に包まれてるから寂しくないね! などと言って笑ったドロシーをめちゃくちゃ抱きしめたのは誰にも秘密だ。

「気を取り直して。そんな訳だからキャロライン、取り急ぎあっちこちから服集めてそれは一旦贈ろう。で、その時にリメイクのポスターも一緒に送る。で、どうかな? リー君」
「いいと思う。メイリングにはうちの販路も全然作れてないし、いい宣伝にもなるよ。で、そのポスター、レヴィウスにはあんたが送ってよ。なんちゃって妖精には戻ってきたら話そ」

 ぽんぽん決まる話にキャロラインもライラもミアまで目を輝かせている。

「何だか懐かしいしやっぱり楽しいわね! こうやって物事が運ぶときは」
「はい! ワクワクしてしまいます!」
「私も。何だか学生時代に戻ったみたい。じゃあリー君、私がポスター担当してもいい?」
「もちろん。最初からそのつもりだよ。ぼくはちょっとダニエルに連絡してくるよ。ついでにオズワルド達の話も仕入れてくる」
「うん、よろしく」

 席を立ったリアンに向かってノアが手を上げて返事をすると、ついでにアリスの頭をよしよしと撫でる。

「やっぱり僕のアリスは天才だよ。僕も同じ記憶があるはずなんだけど、どうにも思いつかないんだよね」
「それは元の作りが違うからでは? ノア様は基本的に何でもご自分でこなしますが、お嬢様はそうではありません。突拍子もない事をしでかす天才ではありますが、何をやらせても雑いの一言に尽きます。それ故他の方の力を借りる他ないのです」
「そうそう! 基本的には私、他力本願だからな~! って、酷くない⁉」

 全く以てキリの言う通りなのだが、何だか人に言われると癪に障る。アリスがキリを睨むが、そんな二人を見てノアはいつものようにニコニコしている。

「ふふふ! でもアリスがそんなだから色んな事が始まるんだもの。アリスはずっとお猿さんのままで居てね」
「ライラ! 心の友よ! やっぱりライラのグッズも誰にも渡さんぞ!」
「もうアリスってば! じゃあ私はアリスのグッズを集めるわ!」
「何だか楽しそうね。では私はあなた達とミアのグッズを集めましょう」
「お、お嬢様! わ、私も参戦します! お嬢様のグッズを一つでも多く入手する為に! アリス様、勝負です!」
「お! いいよいいよ~! だが負けん!」

 キャッキャ言いながらハグし合う4人をしばらく見ていたカインがポツリと言う。

「それ、別に販売しなくても皆で交換すれば良くね?」
「カイン! シっす! 女子がこうやって盛り上がってる時は男は口を挟まない方がいいっす!」

 こんな時にいつもうっかり口を挟んでルイスがボロ雑巾になるのを何度も目の当たりにしてきた。それをカインに伝えると、思い出したかのように神妙な顔をして頷く。そこへリアンが戻ってきた。

「喜んでたよ。妖精たちも乗っかろうかなってさ。あと二人組、この間会ったみたいだよ」

 突然声のトーンを落としたリアンにはしゃいでいた仲間たちが真顔に戻る。

「どこで会ったの? 皆無事なのよね?」

 キャロラインが問うと、リアンは頷く。

「もちろん。王都だよ。普通に買い物に来たみたい。その時ダニエルは丁度居なかったらしいんだけど、対応したコキシネルがあれは絶対に良くない者だったって。魔力が妖精王とは違って禍々しすぎるって」
「禍々しい魔力……どういう事だろう? 元は同じ妖精王なんだよな?」
「そのはずだよ。他には何か言ってなかった? 何買ったって?」
「石鹸。それからレトルト食品とラーメン買ってったって」
「随分庶民的な買い物をするのね……どうするつもりかしら」
「どうするって、食べるしかなくない? あと、何かリーゼロッテが引きずられるみたいに連れて行かれてたって言ってた。喧嘩でもしたのかな」
「喧嘩? 喧嘩は立場が対等な時でないと出来ないっていうけどな」
「そうだね。という事は、リーゼロッテはオズワルドの友人、もしくはそれ以上の何かって立ち位置なのかな? で、喧嘩をしたけど置いて行ったりはしない。それぐらいあの二人の仲は親密って事か……」

 カインとノアの言葉に仲間たちはゴクリと息を飲む。

「で、でもリーゼロッテはまだ子供なのでしょう?」
「それはそうだけど、その子供と付き合って結婚まで漕ぎ着けたオリバーという良い見本がここに」

 そう言ってノアがそっと手のひらでオリバーを指し示すと、オリバーはギョッとした顔をして首を振る。

「ちょ、誤解を招く表現止めてほしいんすけど!」
「冗談だってば。実際二人がどういう関係なのかは分からないけど、どっちにしても禍々しい魔力って言うのが気になるね」

 もしかしたら負の方に傾いてしまっているのか? ノアが考え込むと、隣でアリスは相変わらずお菓子を食べながら首を傾げた。

「そう言う時は美味しい食べ物で全部解決だよ! よし! 良い事考えた!」

 言うなりアリスは徐に実家から持ってきたキャシーのバターサンドを妖精手帳に包んで、そこに『オズワルド・リーゼロッテ(キャシーのバターサンド食べて早く仲直りするんだぞ☆)』と書いた。その途端に包は虹色に光って皆の前から消える。

 一体何が起こったのかよく分からなかった仲間たちは一瞬ポカンとしてしまったが、すぐにハッとする。
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