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第77話 冬虫夏草で分かるオズワルドの力
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「ア、アリスー!! 何やってんの!!!」
「……お嬢様、お嬢様はどうしていつも余計な事ばかりするのでしょう……」
「ちょちょちょ! あんた、ほんともうどうなってんの⁉ ねぇ、コイツもう本当にどっか縛っといてよ!」
「アリスってば仲直りさせてあげようとしたの? 思いついてすぐに行動に移すのは時と場合を考えましょ? ね?」
「……目眩が」
「お嬢様!」
「……俺、何かもうどうでも良くなってきたな。ははは……はぁ」
「ちょっと俺、世界終わる前にドロシーとサシャに会ってくるっす」
「アラン様、ど、ど、どうしよう⁉」
「ど、どうすることも出来ませんよ! 相手は元とは言え妖精王ですよ⁉」
狼狽える仲間たちの目の前に一枚の紙切れがひらりと落ちてきた。それに続いて小さな箱が現れる。それに嬉々と手を出すのはやっぱりアリスだ。
「お返事だ! もう仲直りしてるよ、ばーか! だってさ! あとキャシーのバターサンドは美味しいって書いてある。お返し送ったから使って、だってさ! 何だろう~」
ガサガサと小包を開けるアリスの手から手紙をもぎ取ったノアは仲間たちと共に返事を読んだが、本当にアリスが言った通りの事が書いてある。
「おお! これは!!!」
「ひぃっ!」
アリスは箱を開けて目を輝かせた。
そんなアリスを見て何が入っていたのかと箱を覗き込んだカインの目に飛び込んできたのは、箱の中にぎっしり詰められた大量の何かだ。
何か、と表現したのはカインにはそれが何かさっぱり分からなかったからである。ただ一つ言えるのは、それがあまりにもグロテスクだったと言うことだ。完全に嫌がらせである。ところが――。
「オズワルドいいヤツじゃん! これ、ハンナ喜ぶぞ~~!」
「何が入ってたの、カイン顔真っ青だけど――ああ、冬虫夏草? へぇ、中々粋なもの寄越すね」
「本当ですね。それにしても凄い量ですね。これで3年分ぐらいは事足りるのでは?」
「ラッキー! これたっかいんだよぉ! アラン様も半分持って帰る?」
そう言ってアリスは無造作に冬虫夏草を掴んでアランに渡した。それを受け取ったアランは何とも言えない顔をして曖昧にお礼を言う。
「ね、ねぇアリス、それは何なの……? とても気味が悪いのだけど……」
「これですか? これは冬虫夏草ですよ! お薬とかの原料になる超貴重な奴です!」
「へ、へぇ」
その見た目の強烈さからキャロラインが思わず視線を逸らすと、そんなキャロラインを見てノアが笑った。
「そんな顔するけど、本当に高価なんだよ。それをこんな短時間でこの量を送りつけてくるなんて……凄いな」
妖精王の力を使えばこんな事も簡単に出来てしまうと言うことか。何気なくアリスがしでかした事だが、結果として分かったのは水の温度を変えた時もそうだが、やはり人間などが神には敵わないだろうと言うことだ。
「困ったな。戦争なんかになったらこれは悲惨な事になるかもしれない」
ポツリと呟いたノアに仲間たちはゴクリと息を呑んだ。
「それだけは絶対に阻止しないと。たとえ私達を犠牲にしても」
キャロラインのそんな言葉を聞いてアリスが立ち上がった。
「駄目です! 犠牲なんて絶対に払わない! 絶対に絶対に何か道がある! 私達はそうやっていっつも未来を掴んできたんだから! 今回も絶対に諦めない!」
「……アリス」
今回ばかりはアリスのお花畑抗議を聞いても素直に受け入れる事が出来ない。
でも、それはキャロラインだけではなかった。
◆
「気味悪がってるかな?」
「どうかな。相手はアリスだからね。あいつは変な物ほど喜ぶよ」
「そっか。でもこれ凄く美味しい! あ、最後の一個だ。オズ食べていいよ」
そう言ってリーゼロッテは最後の一つをオズワルドに差し出した。それを受け取ったオズワルドは遠慮なくそれを一口で食べてしまう。そんなオズワルドを横目にリーゼロッテはバターサンドのカスがついた指を舐める。
「美味しい。でもキャシーって誰だろう」
「分かんない」
アリスからさっき突然送られてきた贈り物は、キャシーのバターサンドと言うらしいとオズワルドが教えてくれた。キャシーって誰だ? とは思ったが二人はそれを食べて目を輝かせた。
「最初は毒かと思ったけど、ただの美味しいお菓子だった。ちょっと拍子抜け」
「毒だったかもしれないの?」
「うん。だって、自分の事狙ってる相手にお菓子なんて普通送らないよ。俺なら絶対に送らない」
「そっか。そうかも。私も奴隷商のおじさんにお菓子なんて送りたいって思わないよ」
「だからアリスが変なんだ。あの時からあいつの考えてる事だけは全く分からない。他の奴らの思考なら何となく読めるんだけどな」
特にノアやカインなんてとても読みやすい。何故なら自分でもそうすると思うからなのだが、アリスだけは本気で何を考えているのか分からない。
二人がう~ん、とその場で唸っていると、数メートル先からガサガサと草木を分ける音がした。
オズワルドとリーゼロッテが顔を上げると、草木の向こうから兵士の服を着た男が二人を見つけるなり後方に向かって叫ぶ。
「い、いらっしゃいました! きっとこのお二人です!」
「なに! すぐ行く!」
兵士の声を聞いてさらに奥から誰かがドカドカとやってきた。オズワルドはリーゼロッテを自分の後ろにやり、すぐに詠唱できるよう身構える。
すると草木の間から転がるように出てきたのは一組の男女だった。男女は元は美しい衣装を着ていたのだろうが、今は泥や埃で全身ドロドロだ。
「あ、貴方様が、元妖精王様ですか⁉」
「……」
まるでオズワルドに飛びついて来るのではないかと思わせる勢いで駆け寄って来た二人は、リーゼロッテを無視してオズワルドの前で平伏した。
「わ、私めは貴方様の従順で優秀な民ジョン・サークスです。どうか、どうか御慈悲を!」
「私もでございます! エレナ・モンセントと申します! 貴方様の手足となって今後は暮らすと誓います! 何なりとお申し付けくださいませ!」
「……」
またか。オズワルドはそんな事を考えながら目の前の二人を蝋人形のような顔で見下ろしていた。そんなオズワルドの服の裾をリーゼロッテが握りしめる。
「オズ……」
リーゼロッテにはこの男の方に見覚えがあった。リーゼロッテが孤児院から連れ出されてオークションにかけられた時に会場に居た男だ。あそこには奴隷商達が集まり、奴隷を仕入れていた。
そんなリーゼロッテの思いなど知らないオズワルドはリーゼロッテを宥めるように言う。
「何もしやしないよ。でも目障りだなぁ」
今まではどこで何をしていても皆二人の事を気にも留めなかったというのに、何故か今日になって急に色んな人達がこうやってオズワルドの前に現れて同じような文言を言って平伏す。一体何が起こっているのかと相手の記憶を見ると、理由はすぐに分かった。ノアだ。
大方、邪魔な貴族の引導をオズワルドに引かせようとしているのだろう。
「そうはいくか。こんなゴミの始末を押し付けようったってそうはいかない。お前たちもどうせあれだろ? 奴隷を買ったとかそういうのだろ? 俺の知ったこっちゃないね」
「で、では許してもらえるのですか⁉」
「どうでもいい。人間の争いに巻き込まないでくれ」
言いながらオズワルドは一冊の本を取り出してその二人の過去を探る。一人は奴隷を買っては虐待をして嬲るのが趣味らしい。そしてもう一人は――。
「お前、リゼを知ってるのか? リゼ、この男を知っている?」
低いオズワルドの声にリーゼロッテはコクリと頷いた。それを見て男が青ざめる。
「……お嬢様、お嬢様はどうしていつも余計な事ばかりするのでしょう……」
「ちょちょちょ! あんた、ほんともうどうなってんの⁉ ねぇ、コイツもう本当にどっか縛っといてよ!」
「アリスってば仲直りさせてあげようとしたの? 思いついてすぐに行動に移すのは時と場合を考えましょ? ね?」
「……目眩が」
「お嬢様!」
「……俺、何かもうどうでも良くなってきたな。ははは……はぁ」
「ちょっと俺、世界終わる前にドロシーとサシャに会ってくるっす」
「アラン様、ど、ど、どうしよう⁉」
「ど、どうすることも出来ませんよ! 相手は元とは言え妖精王ですよ⁉」
狼狽える仲間たちの目の前に一枚の紙切れがひらりと落ちてきた。それに続いて小さな箱が現れる。それに嬉々と手を出すのはやっぱりアリスだ。
「お返事だ! もう仲直りしてるよ、ばーか! だってさ! あとキャシーのバターサンドは美味しいって書いてある。お返し送ったから使って、だってさ! 何だろう~」
ガサガサと小包を開けるアリスの手から手紙をもぎ取ったノアは仲間たちと共に返事を読んだが、本当にアリスが言った通りの事が書いてある。
「おお! これは!!!」
「ひぃっ!」
アリスは箱を開けて目を輝かせた。
そんなアリスを見て何が入っていたのかと箱を覗き込んだカインの目に飛び込んできたのは、箱の中にぎっしり詰められた大量の何かだ。
何か、と表現したのはカインにはそれが何かさっぱり分からなかったからである。ただ一つ言えるのは、それがあまりにもグロテスクだったと言うことだ。完全に嫌がらせである。ところが――。
「オズワルドいいヤツじゃん! これ、ハンナ喜ぶぞ~~!」
「何が入ってたの、カイン顔真っ青だけど――ああ、冬虫夏草? へぇ、中々粋なもの寄越すね」
「本当ですね。それにしても凄い量ですね。これで3年分ぐらいは事足りるのでは?」
「ラッキー! これたっかいんだよぉ! アラン様も半分持って帰る?」
そう言ってアリスは無造作に冬虫夏草を掴んでアランに渡した。それを受け取ったアランは何とも言えない顔をして曖昧にお礼を言う。
「ね、ねぇアリス、それは何なの……? とても気味が悪いのだけど……」
「これですか? これは冬虫夏草ですよ! お薬とかの原料になる超貴重な奴です!」
「へ、へぇ」
その見た目の強烈さからキャロラインが思わず視線を逸らすと、そんなキャロラインを見てノアが笑った。
「そんな顔するけど、本当に高価なんだよ。それをこんな短時間でこの量を送りつけてくるなんて……凄いな」
妖精王の力を使えばこんな事も簡単に出来てしまうと言うことか。何気なくアリスがしでかした事だが、結果として分かったのは水の温度を変えた時もそうだが、やはり人間などが神には敵わないだろうと言うことだ。
「困ったな。戦争なんかになったらこれは悲惨な事になるかもしれない」
ポツリと呟いたノアに仲間たちはゴクリと息を呑んだ。
「それだけは絶対に阻止しないと。たとえ私達を犠牲にしても」
キャロラインのそんな言葉を聞いてアリスが立ち上がった。
「駄目です! 犠牲なんて絶対に払わない! 絶対に絶対に何か道がある! 私達はそうやっていっつも未来を掴んできたんだから! 今回も絶対に諦めない!」
「……アリス」
今回ばかりはアリスのお花畑抗議を聞いても素直に受け入れる事が出来ない。
でも、それはキャロラインだけではなかった。
◆
「気味悪がってるかな?」
「どうかな。相手はアリスだからね。あいつは変な物ほど喜ぶよ」
「そっか。でもこれ凄く美味しい! あ、最後の一個だ。オズ食べていいよ」
そう言ってリーゼロッテは最後の一つをオズワルドに差し出した。それを受け取ったオズワルドは遠慮なくそれを一口で食べてしまう。そんなオズワルドを横目にリーゼロッテはバターサンドのカスがついた指を舐める。
「美味しい。でもキャシーって誰だろう」
「分かんない」
アリスからさっき突然送られてきた贈り物は、キャシーのバターサンドと言うらしいとオズワルドが教えてくれた。キャシーって誰だ? とは思ったが二人はそれを食べて目を輝かせた。
「最初は毒かと思ったけど、ただの美味しいお菓子だった。ちょっと拍子抜け」
「毒だったかもしれないの?」
「うん。だって、自分の事狙ってる相手にお菓子なんて普通送らないよ。俺なら絶対に送らない」
「そっか。そうかも。私も奴隷商のおじさんにお菓子なんて送りたいって思わないよ」
「だからアリスが変なんだ。あの時からあいつの考えてる事だけは全く分からない。他の奴らの思考なら何となく読めるんだけどな」
特にノアやカインなんてとても読みやすい。何故なら自分でもそうすると思うからなのだが、アリスだけは本気で何を考えているのか分からない。
二人がう~ん、とその場で唸っていると、数メートル先からガサガサと草木を分ける音がした。
オズワルドとリーゼロッテが顔を上げると、草木の向こうから兵士の服を着た男が二人を見つけるなり後方に向かって叫ぶ。
「い、いらっしゃいました! きっとこのお二人です!」
「なに! すぐ行く!」
兵士の声を聞いてさらに奥から誰かがドカドカとやってきた。オズワルドはリーゼロッテを自分の後ろにやり、すぐに詠唱できるよう身構える。
すると草木の間から転がるように出てきたのは一組の男女だった。男女は元は美しい衣装を着ていたのだろうが、今は泥や埃で全身ドロドロだ。
「あ、貴方様が、元妖精王様ですか⁉」
「……」
まるでオズワルドに飛びついて来るのではないかと思わせる勢いで駆け寄って来た二人は、リーゼロッテを無視してオズワルドの前で平伏した。
「わ、私めは貴方様の従順で優秀な民ジョン・サークスです。どうか、どうか御慈悲を!」
「私もでございます! エレナ・モンセントと申します! 貴方様の手足となって今後は暮らすと誓います! 何なりとお申し付けくださいませ!」
「……」
またか。オズワルドはそんな事を考えながら目の前の二人を蝋人形のような顔で見下ろしていた。そんなオズワルドの服の裾をリーゼロッテが握りしめる。
「オズ……」
リーゼロッテにはこの男の方に見覚えがあった。リーゼロッテが孤児院から連れ出されてオークションにかけられた時に会場に居た男だ。あそこには奴隷商達が集まり、奴隷を仕入れていた。
そんなリーゼロッテの思いなど知らないオズワルドはリーゼロッテを宥めるように言う。
「何もしやしないよ。でも目障りだなぁ」
今まではどこで何をしていても皆二人の事を気にも留めなかったというのに、何故か今日になって急に色んな人達がこうやってオズワルドの前に現れて同じような文言を言って平伏す。一体何が起こっているのかと相手の記憶を見ると、理由はすぐに分かった。ノアだ。
大方、邪魔な貴族の引導をオズワルドに引かせようとしているのだろう。
「そうはいくか。こんなゴミの始末を押し付けようったってそうはいかない。お前たちもどうせあれだろ? 奴隷を買ったとかそういうのだろ? 俺の知ったこっちゃないね」
「で、では許してもらえるのですか⁉」
「どうでもいい。人間の争いに巻き込まないでくれ」
言いながらオズワルドは一冊の本を取り出してその二人の過去を探る。一人は奴隷を買っては虐待をして嬲るのが趣味らしい。そしてもう一人は――。
「お前、リゼを知ってるのか? リゼ、この男を知っている?」
低いオズワルドの声にリーゼロッテはコクリと頷いた。それを見て男が青ざめる。
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