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第78話 クロちゃんの楽しいダイエット計画
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「う、嘘をつくな! お前など知らないっ!」
「俺には全部視えている。お前の過去が、お前のシナリオが。お前はリゼを知っている。一瞬交わり離れたようだが、お前たちのシナリオは確かに交わった。もう一度聞く。お前はリゼを知っているな?」
「……」
オズワルドの言葉に男は冷や汗を流しながら震えた。ここで嘘を吐くのは得策ではない。そう判断した男が頷いた瞬間、腕と足に鋭い痛みが走り思わず叫んでしまった。一体何が起こったのか分からずどうにかオズワルドを見上げると、オズワルドはやっぱり蝋人形のような顔で男を見下ろしていた。
「お前はもう誰かの介助が無ければ生きられない。今まで見下してきた奴らに頭でも下げて面倒を見てくれと乞うがいい」
「なっ……や、嫌だ! こ、こんなの……嫌……いやら……いたい……いたい……」
頭の中に霞がかかったかのようにぼんやりとする。自分は誰だった? 一体ここで何をしている? いや、そもそも自分は何だ? 人間か? 植物か? 動物だったか? 動かないから石か何かか?
とうとう焦点が定まらなくなった男の姿を見て女が短い悲鳴をあげる。
「ひっ!」
「お前はリゼの事は知らないようだな。行け。二度と俺の前に姿を現すな。ああ、忘れる所だった。一つプレゼントをやるよ。せっかくノアがくれた暇つぶしだ。これぐらいはしてやる」
「いたっ!」
オズワルドが指を鳴らした途端、女の首元に何かが這いずるような違和感があった。皮膚のすぐ下を何かが奇妙に蠢く。
「俺特製の首輪だ。俺に善悪の区別はつかない。だが、お前のした事で今後誰かが不快な思いをすればその首輪はお前の首に徐々に食い込む。いずれ首を掻き切って落としてしまだろう。せいぜい気をつけて生きるんだな」
「ひいっ! と、取って! 取ってちょうだい!」
「無理だね。それはもうお前の中に入り込んだ。俺にもどうしようも出来ない。嬉しいだろ? 元妖精王の逆加護だ」
無表情のオズワルドを見て女は顔を歪ませる。その顔はあまりにも無慈悲で色仕掛けも泣き落としも何も効かなさそうだ。
オズワルドは最初に現れた兵士二人をちらりと見た。二人はその場でガタガタ震えて泣く女と、まるで石のように動かない男を青ざめて見下ろしている。
「お前たちは……なんだ、雇われただけか。コイツらを連れてさっさと消えろ」
「は、はい!」
兵士二人は急いで男女を担いで足早にその場を立ち去った。
それを見送ってオズワルドはくるりと振り返ってリーゼロッテを見下ろす。
「これでいい?」
「……うん」
別にあの男に何かされた訳じゃないけれど、孤児院で一番仲が良かった子があの男に買われた。その行き先をリーゼロッテは知らない。今どこに居るのか、果たして生きているのかも。
ふと一人の少女の顔を思い出して涙が溢れる。そんなリーゼロッテの頭をオズワルドが撫でた。
「この世は地獄でもあり天国でもある。一生その檻から逃げ出せない者、アリス達のように自分の力で這い上がる者、ただただ幸運に恵まれた者、逆に全ての幸運に見放された者、色んな者が居る。どれほど努力をしても変わらない事も多い。お前の友人は長く生きながらえるよりも早く転生した方が幸せになれる。俺が保証してやる」
そう言ってオズワルドは本をめくってリーゼロッテの友人の名前を探したが、思ったとおりすでに灰色になっている。
オズワルドはその名前の下に彼女の新しい名前を虹色の文字で書き込んだ。こうしておけば、彼女は誰よりも早く転生をして次の人生ではとびきり幸せな一生を送るだろう。何せ生まれた時から元とは言え妖精王の加護が付くのだから。
「ありがとう……オズ、ありがとう」
「うん。お礼はいいから顔洗って。何だかリゼ、カサカサしてる」
寒くなってきたからかリーゼロッテの頬と唇は最近カサカサだ。
「でもねオズ、石鹸で顔洗うと最近ほっぺがぴりぴりするの。唇も痛いよ」
「どうして?」
「分かんない」
二人はう~んと頭を悩ませながら、何となくアリスに手紙を書いた。
ついでだとばかりにキャシーのバターサンドもお願いしてお金も一緒に送ってみたのだった。
◆
翌日、妖精王は妖精王だと言うのに無意味に階段の上り下りをアミナスに強制されていた。手と足にはそれぞれ小さな石が詰まった袋を縛り付けられている。はっきり言って地獄だ。見ようによっては完全に動物虐待現場である。
「ひぃ、はぁ、ふぅ、ふぅ」
「遅い遅い! クロちゃん! もっとしっかり腕と足上げて!」
「ば、バカ言う、なっ! 何故、我が、こんな、事!!」
「痩せるんでしょ⁉ 食べないで痩せるのは危険! だから動け! 母さまの教えだよ!」
そう言ってアミナスはもう何度目かの階段を勢いよく駆け上がる。妖精王にだけ辛い思いはさせられないと言って自ら志願したダイエット作戦である。
「合言葉は!」
「き、筋肉……うらぎら……なひ……」
息も絶え絶えにどうにか合言葉を言った妖精王にアミナスはニカッと笑って親指を立てた。
「よしっ!」
「なにが、良し、だ……くそぅ……痩せる! 我は……乗り越えて……みせる!」
ここまで来たら何だか意地になってきた妖精王だ。
「すげぇ、アミナスさっきからずっと三段飛ばしで上ってる!」
「やはりアミナスは格好いいな!」
アミナスにベタぼれのルークとライアンはさっきから一向にスピードを落とさないアミナスを見て喜んでいるが、そんな子どもたちに今日も様子を見に来ていたテオは白い目を向けていた。
「こんな事で大丈夫なのかな」
ポツリと言うテオの隣でジャスミンがコクリと頷く。
「大丈夫。あの子達には遊びだって思っててもらった方がいいわ。それにお告げも今は入らない。という事は、このままでいいって事よ」
「お告げね。ジャスミンとローズのお告げはたまに凄く的外れだからな」
「ひどい! じゃあテオのお告げを聞いても、これからはもう教えてあげない!」
「ごめんってば」
フイとそっぽを向いたジャスミンを見てテオは苦笑いをしてアミナスを応援しているノエルを呼んだ。
「ノエル、レックスってどんな奴なの? まだライアン達も会った事ないんだよな?」
「うん。レックスはアミナスに興味津々なんだ。流石アミナスだよね」
「……それはどういう意味の興味津々な訳? ま、いいや。でもこの集まりには参加しないんだ?」
「そうだね。レックスは何ていうか、何か使命を持って動いてる感じだから、自分のすべき事をはっきりと知ってるのかも」
「子供なんだよな?」
「うん。見た目はね。でも中身は違うんじゃないかな」
そう言ってニコッと笑ったノエルを見て、テオは興味なさげに返事をする。
「そうなんだ。何かややこしい奴っぽいな。大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。ややこしい人なのかもしれないけどアミナスが懐いてる。僕もレックスの近くに居て嫌な感じが全くしない。それどころか凄く信頼出来るって思える。そういう意味では不思議な人だよ」
時々とても大人びた事を言うレックス。ディノと何か繋がりがあるようだが、それが一体何なのかは全く分からない。謎が多いはずなのに、不思議と信頼感がある。そういう意味ではオズワルドよりもずっと不思議な存在だ。
「じゃあ安心かな。で、なんで秘密基地あっちこっちに作ってんの?」
「ああ、それは出来るだけ父さま達のそばに居たくて。もし何かあった時、すぐにアミナスをゴー出来るように。テオは父さま達に言われて来たんだよね? やっぱり僕たちが定期的に傍受出来ないようにしてるのバレちゃった?」
「俺には全部視えている。お前の過去が、お前のシナリオが。お前はリゼを知っている。一瞬交わり離れたようだが、お前たちのシナリオは確かに交わった。もう一度聞く。お前はリゼを知っているな?」
「……」
オズワルドの言葉に男は冷や汗を流しながら震えた。ここで嘘を吐くのは得策ではない。そう判断した男が頷いた瞬間、腕と足に鋭い痛みが走り思わず叫んでしまった。一体何が起こったのか分からずどうにかオズワルドを見上げると、オズワルドはやっぱり蝋人形のような顔で男を見下ろしていた。
「お前はもう誰かの介助が無ければ生きられない。今まで見下してきた奴らに頭でも下げて面倒を見てくれと乞うがいい」
「なっ……や、嫌だ! こ、こんなの……嫌……いやら……いたい……いたい……」
頭の中に霞がかかったかのようにぼんやりとする。自分は誰だった? 一体ここで何をしている? いや、そもそも自分は何だ? 人間か? 植物か? 動物だったか? 動かないから石か何かか?
とうとう焦点が定まらなくなった男の姿を見て女が短い悲鳴をあげる。
「ひっ!」
「お前はリゼの事は知らないようだな。行け。二度と俺の前に姿を現すな。ああ、忘れる所だった。一つプレゼントをやるよ。せっかくノアがくれた暇つぶしだ。これぐらいはしてやる」
「いたっ!」
オズワルドが指を鳴らした途端、女の首元に何かが這いずるような違和感があった。皮膚のすぐ下を何かが奇妙に蠢く。
「俺特製の首輪だ。俺に善悪の区別はつかない。だが、お前のした事で今後誰かが不快な思いをすればその首輪はお前の首に徐々に食い込む。いずれ首を掻き切って落としてしまだろう。せいぜい気をつけて生きるんだな」
「ひいっ! と、取って! 取ってちょうだい!」
「無理だね。それはもうお前の中に入り込んだ。俺にもどうしようも出来ない。嬉しいだろ? 元妖精王の逆加護だ」
無表情のオズワルドを見て女は顔を歪ませる。その顔はあまりにも無慈悲で色仕掛けも泣き落としも何も効かなさそうだ。
オズワルドは最初に現れた兵士二人をちらりと見た。二人はその場でガタガタ震えて泣く女と、まるで石のように動かない男を青ざめて見下ろしている。
「お前たちは……なんだ、雇われただけか。コイツらを連れてさっさと消えろ」
「は、はい!」
兵士二人は急いで男女を担いで足早にその場を立ち去った。
それを見送ってオズワルドはくるりと振り返ってリーゼロッテを見下ろす。
「これでいい?」
「……うん」
別にあの男に何かされた訳じゃないけれど、孤児院で一番仲が良かった子があの男に買われた。その行き先をリーゼロッテは知らない。今どこに居るのか、果たして生きているのかも。
ふと一人の少女の顔を思い出して涙が溢れる。そんなリーゼロッテの頭をオズワルドが撫でた。
「この世は地獄でもあり天国でもある。一生その檻から逃げ出せない者、アリス達のように自分の力で這い上がる者、ただただ幸運に恵まれた者、逆に全ての幸運に見放された者、色んな者が居る。どれほど努力をしても変わらない事も多い。お前の友人は長く生きながらえるよりも早く転生した方が幸せになれる。俺が保証してやる」
そう言ってオズワルドは本をめくってリーゼロッテの友人の名前を探したが、思ったとおりすでに灰色になっている。
オズワルドはその名前の下に彼女の新しい名前を虹色の文字で書き込んだ。こうしておけば、彼女は誰よりも早く転生をして次の人生ではとびきり幸せな一生を送るだろう。何せ生まれた時から元とは言え妖精王の加護が付くのだから。
「ありがとう……オズ、ありがとう」
「うん。お礼はいいから顔洗って。何だかリゼ、カサカサしてる」
寒くなってきたからかリーゼロッテの頬と唇は最近カサカサだ。
「でもねオズ、石鹸で顔洗うと最近ほっぺがぴりぴりするの。唇も痛いよ」
「どうして?」
「分かんない」
二人はう~んと頭を悩ませながら、何となくアリスに手紙を書いた。
ついでだとばかりにキャシーのバターサンドもお願いしてお金も一緒に送ってみたのだった。
◆
翌日、妖精王は妖精王だと言うのに無意味に階段の上り下りをアミナスに強制されていた。手と足にはそれぞれ小さな石が詰まった袋を縛り付けられている。はっきり言って地獄だ。見ようによっては完全に動物虐待現場である。
「ひぃ、はぁ、ふぅ、ふぅ」
「遅い遅い! クロちゃん! もっとしっかり腕と足上げて!」
「ば、バカ言う、なっ! 何故、我が、こんな、事!!」
「痩せるんでしょ⁉ 食べないで痩せるのは危険! だから動け! 母さまの教えだよ!」
そう言ってアミナスはもう何度目かの階段を勢いよく駆け上がる。妖精王にだけ辛い思いはさせられないと言って自ら志願したダイエット作戦である。
「合言葉は!」
「き、筋肉……うらぎら……なひ……」
息も絶え絶えにどうにか合言葉を言った妖精王にアミナスはニカッと笑って親指を立てた。
「よしっ!」
「なにが、良し、だ……くそぅ……痩せる! 我は……乗り越えて……みせる!」
ここまで来たら何だか意地になってきた妖精王だ。
「すげぇ、アミナスさっきからずっと三段飛ばしで上ってる!」
「やはりアミナスは格好いいな!」
アミナスにベタぼれのルークとライアンはさっきから一向にスピードを落とさないアミナスを見て喜んでいるが、そんな子どもたちに今日も様子を見に来ていたテオは白い目を向けていた。
「こんな事で大丈夫なのかな」
ポツリと言うテオの隣でジャスミンがコクリと頷く。
「大丈夫。あの子達には遊びだって思っててもらった方がいいわ。それにお告げも今は入らない。という事は、このままでいいって事よ」
「お告げね。ジャスミンとローズのお告げはたまに凄く的外れだからな」
「ひどい! じゃあテオのお告げを聞いても、これからはもう教えてあげない!」
「ごめんってば」
フイとそっぽを向いたジャスミンを見てテオは苦笑いをしてアミナスを応援しているノエルを呼んだ。
「ノエル、レックスってどんな奴なの? まだライアン達も会った事ないんだよな?」
「うん。レックスはアミナスに興味津々なんだ。流石アミナスだよね」
「……それはどういう意味の興味津々な訳? ま、いいや。でもこの集まりには参加しないんだ?」
「そうだね。レックスは何ていうか、何か使命を持って動いてる感じだから、自分のすべき事をはっきりと知ってるのかも」
「子供なんだよな?」
「うん。見た目はね。でも中身は違うんじゃないかな」
そう言ってニコッと笑ったノエルを見て、テオは興味なさげに返事をする。
「そうなんだ。何かややこしい奴っぽいな。大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。ややこしい人なのかもしれないけどアミナスが懐いてる。僕もレックスの近くに居て嫌な感じが全くしない。それどころか凄く信頼出来るって思える。そういう意味では不思議な人だよ」
時々とても大人びた事を言うレックス。ディノと何か繋がりがあるようだが、それが一体何なのかは全く分からない。謎が多いはずなのに、不思議と信頼感がある。そういう意味ではオズワルドよりもずっと不思議な存在だ。
「じゃあ安心かな。で、なんで秘密基地あっちこっちに作ってんの?」
「ああ、それは出来るだけ父さま達のそばに居たくて。もし何かあった時、すぐにアミナスをゴー出来るように。テオは父さま達に言われて来たんだよね? やっぱり僕たちが定期的に傍受出来ないようにしてるのバレちゃった?」
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