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第80話 サッとふりかけるだけの優れもの!

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「お、お前怖いこと言うなよな。つまり、神様はこの世界に降りてきたのはいいけど何も知ら無さ過ぎて知り合いの俺たちに聞いてくるってそういう事?」
「そう。神様からしたら影を使って僕たちに嫌がらせみたいな事をしてくるのは戯れついてるぐらいの感覚なのかもね」
「その割には殺す気で襲ってくるので非常に迷惑なのですが」

 半眼でキリが言うとノアも頷く。戯れるの感覚が人間と神では違いすぎる。

 しばらく待っていると、オズワルドからまた手紙と箱が戻ってきた。

「なんて書いてあった⁉」

 それまで眠い目をこすっていたリアンが身を乗り出すと、アリスはそれを読み上げる。

「なになに? 塗ったらモチモチになった。これはダニエルの所でも売ってる? あと、キャシーって誰? だって!」
「近所のおばさんか! で、箱の中身は今度はなんなの?」
「今度はね~……あ! 妖精の粉みたい。ん? でも前に妖精王に貰った奴と違う色だ」

 アリスはそう言って箱の中の袋詰された袋を取り出した。以前妖精王に大量に貰った粉は虹色だったが、今度のは黒い。それを見て息を呑んだのはフィルマメントだ。

「そ、それ……妖精王の粉だよ……どうやって精製したんだろう……」

 妖精の粉は妖精たちの鱗粉を集めて時間をかけて精製したものだ。鱗粉は細かい粉なので出た端から集めなければそのまま空気中に溶けてしまう。中でも妖精王の鱗粉はさらに細かく宙を舞っている時間が本当に一瞬だ。おまけに細かすぎて精製出来るほどの量を集めるのは妖精王自身にも難しいと言われている。それ故に高価すぎてほとんど市場に出回らない。そもそも妖精王のそばに居る者にしかその鱗粉を集める事が出来ないので、妖精王の粉など幻中の幻だ。

「妖精王の粉⁉ フィル、本当に?」
「妖精王の娘の私が言うんだから間違いない! 妖精王の粉は死者も蘇らせる!」

 焼芋片手に立ち上がったフィルマメントの言葉に仲間たちは皆唖然としていた。流石のアリスもそれにはビックリだ。

「え、ど、どうやって生き返らせんの? 死んでるんだからもう飲んだり出来ないよね?」

 リアンの言葉にフィルマメントは妖精王の粉を翳して言った。

「死んだ人に振りかける! そしたらあっという間に元通り! 持病も治しちゃうすぐれもの!」
「そんな粉末スープみたいな事なの⁉ 塩スープに粉末スープ入れるだけであっという間に今日の食卓が豊かに! みたいなノリで言わないでくれる⁉」
「リー君、そのキャッチコピー頂き! で、そんな凄いのをこんなに貰ってどうしたらいいと思う?」

 アリスは困ったように首を捻り、とりあえずキャロラインに渡した。

「え? え⁉ わ、私が貰ってもどうしようもないわ! 誰もまだ死ぬ予定なんて無いもの!」
「しょうがないなぁ。ほら、貸して。アリス、人数分の小さな入れ物持ってきて」

 冷静そうに見えてプチパニックに陥っているキャロラインが言うと、ノアがキャロラインの手から妖精王の粉を取り上げて徐に全員分に分けるとそれを小瓶に詰めて皆に渡す。

「これから何があるかは誰にも分からない。全員が分けて持っているのが一番いいと思う。そして何かあった時はこれを遠慮なく使おう」

 そんな時が来ないに越したことはないが。ノアはそんな言葉を飲み込んだ。

「お嬢様、あなたの分だけは俺が預かります。こんな物どこかで落としでもしたら大変です」
「う、わ、分かった。流石に私もこれはちょっと荷が重い」

 いつになく素直に小瓶をキリに渡すと、キリはすぐさまそれを仕舞いに部屋に戻ってしまった。

 アリスはふぅ、と大きな息をついて早速オズワルドに返事を書いたけれど、その後返事は戻っては来なかった。
 
 
 
「久しぶりだな、勇者エリス。それからこちらがあの祠を祀っているキャメル・オドナー氏か?」

 急遽集めた蒼の騎士団を引き連れて朝からレヴィウスのシュタにたどり着いたルイスとシャルルを見て、この地に留まっていたエリスも朝からエリスに連れ回されているキャメルも口をあんぐり開けて言葉を失っていた。

 エリスにとってルイスはついこの間ノア達とやって来たし、なんだかんだ言いつつバセット領に行くと居たりするので慣れっこだが、シャルルの方はそうはいかない。大公シャルルは普段はあまり表には出てこないので有名だ。

「はじめまして。この度は突然申し訳ありません。シャルル・フォルスです。シュタの祠についてのお話を聞きたいのですが、ご存知の事だけで構わないのでお話をお伺いする事は出来ますか?」
「は、はい! あ、えっと、その」

 あまりにも突然の事にキャメルが目を泳がせていると、そんなキャメルの後ろからカサンドラが震える声で言った。

「キャメル様はお二人に立ち話をさせる訳にはいかないとお考えです。お屋敷にご案内いたします。勇者様もいらっしゃってください」

 カサンドラの機転にキャメルはハッとしてカサンドラに熱のこもった眼差しを向けると大きく頷く。

「その通りですとも! カサンドラ、案内は私がするので、先に戻って準備を頼む」
「はい! それでは、私はこれで失礼致します」

 震えながら頭を下げて走り出したカサンドラを見送るキャメルの切なげな顔は、完全に恋人を見つめる時のそれだ。

「ご案内します、どうぞこちらです」

 ゆっくりとキャメルは歩き出した。心の中ではカサンドラへの感謝が渦巻いている。あまりの事に全く動けなかった自分と違いカサンドラはとても勇敢だ。

「あちらの方は奥様ですか?」

 編んだ髪を揺らしながら駆けて行ったカサンドラを見てシャルルがからかうように言うと、キャメルは顔を赤らめて否定した。

「あ、あれはうちのメイドです! 元は奴隷商の元に居た娘をうちで引き取ったのです」
「おや、そうなのですか? 随分と親しい雰囲気だったのでつい誤解してしまいました」
「ははは、それは……カサンドラに迷惑でしょう」
「あなたに、ではなくて?」

 てっきり否定したのは身分の違いからだと思っていたが、どうやらそうではないようだ。シャルルの意地悪な質問にルイスもエリスもヒヤヒヤしていたが、当のキャメルはそれを聞いて大きな背中を丸めてしまう。

「私の見てくれはご覧の通りです。クマのように大きく太っているし、年齢だってあの子よりもずっと上。今までにもいくつもの縁談がありましたが、全部先方から断られる始末。こんな私がカサンドラを想うことなど許されるはずがありません。今はまだ」

 キャメルはそう言って苦笑いを浮かべる。

 外見がコンプレックスになり、中身まで卑屈になってしまっていた。そんな所にやってきたのがカサンドラだ。
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