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第88話 魔除けにもなるアリスの姿絵
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ニッコリ笑ったノアを見て妖精王はコクコクと頷いた。魔力の無い妖精王など、ただのワガママな坊やである。しかも今はただの黒猫だ。
「それでルイス様、あの人達は奴隷商の下っ端なのですか?」
「ああ、そう言っていたぞ。俺たちの事が分からなかったみたいでな、シャルルを見てここから出たらまずは一番にシャルルをどうにかする算段をしていた」
「捕まっておいて呆れるぐらい悠長だね」
「それがね、変な事を言うんですよ。自分たちには妖精王がついている。だから必ずここから助けてくれるって」
そこまで言ってシャルルは振り向いてノアに言った。
「ね? 変でしょ?」
「変だね。元妖精王にしても現妖精王にしても絶対に味方ではないはずなんだけど」
ノアの言葉にクロがレックスの腕の中で頷いた。今までただの一度も妖精王が奴隷商に手を貸した事などないはずだ。もし貸していたとしたら、オズワルドがわざわざリーゼロッテを助けた意味が分からない。これが一体どういう事なのか解らないまま、気づけば一行は森を出ていた。
森の外にはキャメルを始めとする領地の人たちが騒ぎを聞きつけて森の入口までやってきていた。手にはそれぞれ鍬や斧を持っているので、いざという時は助けに来てくれるつもりだったのだろう。
「皆、すまん。この通り俺たちは無事だ! ありがとう」
ルイスが言うと、キャメルと領民たちはホッとした顔をしている。そんな領民たちをかき分けて誰かがこちらに向かって足早にやってくるのが見えた。ラルフだ。
「ノア! 一体何があったんだ! 心配したんだぞ! 子どもたちは無事なのか!? 嫁は……まぁ当然無事だな」
「あれ? 兄さんまで来てたの?」
「ラルフおじちゃんだ~!」
「ラルフおじさん、僕たちは大丈夫ですよ!」
勢いよくラルフに飛びついたアミナスを抱きとめたラルフはアミナスを抱いたままノエルとレオとカイを抱きしめる。
「そうか、皆無事か! ここに居るキャメルから連絡を貰って飛んできたんだ。それで、何があった?」
「んー……ここではちょっと。皆、帰る前にちょっとレヴィウス城に寄っていいかな」
「もちろんだ。あれの説明もしなければ」
鷹揚に頷いたルイスにシャルルも口を開く。
「あ、それから森の中に大きな繭が出来ています。それはどうやら罠のようなので近づかない方がいいかと思います。中に何人か捕えられていましたが、彼らは奴隷商の下っ端のようでした。放っておくかどうするかはそちらの判断に任せます。もし捕えるのであればこれを持って行くといいでしょう」
そう言ってシャルルが取り出したのは、いつぞやアリスがお守りだと言ってシャルルにくれたシエラの絵姿が入ったロケットだ。
「これを掲げながら近づくと襲ってこない……かもしれません」
さっき繭から出た時、繭から伸びた触手はアリスを観察するようにじっと見ていた。近寄ろうとしては躊躇う。そんな感じだったので、多分怖かったのだ。
「ちょっとシャルル! それ私がお守りにあげたやつじゃん!」
「だからですよ。私には本人がいるので、貸し出すだけです」
そう言ってシャルルはラルフにくっついてやってきた騎士団にアリスのとんでも絵姿を渡した。アリスの描いた物にはアリスの並々ならぬ執念のような物が宿っている。妖精の類ならすぐにそれに気づくだろう。そういう意味ではお守りと言うよりも魔除けである。
「あ、ありがとうございます。大事に扱います」
アリスの魔除けを受け取った騎士団長はそれをハンカチでくるんで大切そうに胸ポケットにしまうと深々と頭を下げる。
「ではお前たちここは任せる。私達は先に城に戻るが、帰りはこれを使え」
ラルフから妖精手帳を受け取った騎士団長はラルフにも頭を下げて騎士団の元へ戻り作戦会議を始める。
「それではキャメルさん、突然来ていざこざを起こしてしまい本当に申し訳なく思います。お預かりした物も必ず返しに来ますね」
「と、とんでもない! もしかしたらその繭が現れた事で森のドラゴンが騒いだのかもしれんません。我々も騎士団の方たちと調べてみます!」
「すまんな、キャメル。手を貸してくれてありがとう。屋敷の者たちにも礼を伝えておいてくれ。あと、くれぐれも無理の無いようにな」
「は、はいっ!」
キャメルが感動して思わずカサンドラの手を取ろうとしたその時、誰かがキャメルとカサンドラの間にニヤニヤしながら割って入ってきた。
「ねぇねぇ、キャメルってあのキャメル?」
「ん? 誰だ、お前は」
見たことのない女にキャメルが首を傾げて見下ろすと、女はニカッと笑って親指を立てた。そして言う。あの合言葉を!
「筋肉は?」
「! 裏切らないっ! アリス嬢か!」
「そうだよ~! うわぁ~すっごい偶然! そっか、ここシュタだもんね! で、この子がカサンドラ? めっちゃ可愛いじゃん! やるな~このこの~!」
肘でキャメルを突くアリスにキャメルは顔を赤くしてアリスを引っ張ってカサンドラから距離を取ると、巨体を丸めてコソコソとアリスに耳打ちする。
「こ、こら! まだカサンドラには何も伝えていないんだ!」
「そうなの? 早く言っちゃいなよユー! あれは脈アリだよ!」
「ほ、本当か!?」
「本当だとも! 愛の伝道師アリスが言うんだから間違いない! アリスのアは愛のア!」
「ちなみにアリスのリは理不尽のリで、アリスのスはスカポンタンのスです」
「酷くない!? ほぼ悪口じゃん! あ、こっちはキリだよ。よく手紙にも書くあの失礼な従者! ふん!」
「手紙? お嬢様、いつの間にかキャメル様と文通をしていたのですか?」
「うん! 文通友達だよ! でもこのキャメルさんのおかげであの春雨ラーメンが出来たからね! 凄い人なんだ」
そう言ってニカッと笑ったアリスを見てキャメルは目を丸くしている。
「そ、そうなのか?」
「うん。あの春雨ラーメンね、元王妃様達に大人気なんだよ。近々製品化しようって話も出てるんだ! ありがとう、キャメルさん」
「いや、私は自分のためにだな……」
「それでいいんだよ! 私だって全部自分の為だよ! 自分が不便で作ったら誰かが喜んでくれた、それだけだもん。でも、それってお得だと思わない? 便利になるし感謝までしてもらえるんだから! ね!」
アリスが自分本位なのは今に始まった事ではない。それはしっかり自覚しているし、キリの言う通り理不尽な事もしょっちゅう言う。
「そ、そんなものか?」
「そんなものだよ~! 現に誰かが喜んでるじゃん! ひひひ! またバカ売れするぞ~~! そしたら謝礼金出すからね!」
親指を立てて笑うアリスを見てキャメルは苦笑いを浮かべて首を振る。
「そんなものはいい。それよりも、ずっと文通をしてもらえるか? 私と」
「もちのろんだよ! また遊びに来るよ! お土産持って。今日はもう行かなきゃだけど。はい、これキャメルさんにもあげる」
取り出したのは懐かしのカップリング厨カードだ。カードの趣旨を聞いてキャメルは声を出して一しきり笑うと、大切にそれを仕舞った。
「ありがとう、アリス嬢。君のおかげで自分のすべき事がはっきりと分かった気がする。これからもよろしく頼む」
キャメルは大きな手をアリスに差し出した。それをアリスはしっかりと掴んでニカッと笑う。
「うん! これからもよろしく! それじゃあ、カサンドラによろしくね!」
「ああ。気をつけてな。あまり無茶をして皆を振り回さんようにな」
「はいは~い! じゃね! 筋肉は!」
「裏切らない! ではまた」
そう言ってキャメルはおかしそうに笑いながらノシノシとカサンドラの元へ戻って行った。
「では我々も行きましょう。ノア様達がしびれを切らせています」
「うん!」
アリスはキリと小走りでノア達の元に戻ると、子どもたちとしっかり手を繋いだ。そんなアリスを見てラルフがポツリと「自由な嫁だな」と呟いたのを、アリス以外は誰も聞き逃さなかった。
「それでルイス様、あの人達は奴隷商の下っ端なのですか?」
「ああ、そう言っていたぞ。俺たちの事が分からなかったみたいでな、シャルルを見てここから出たらまずは一番にシャルルをどうにかする算段をしていた」
「捕まっておいて呆れるぐらい悠長だね」
「それがね、変な事を言うんですよ。自分たちには妖精王がついている。だから必ずここから助けてくれるって」
そこまで言ってシャルルは振り向いてノアに言った。
「ね? 変でしょ?」
「変だね。元妖精王にしても現妖精王にしても絶対に味方ではないはずなんだけど」
ノアの言葉にクロがレックスの腕の中で頷いた。今までただの一度も妖精王が奴隷商に手を貸した事などないはずだ。もし貸していたとしたら、オズワルドがわざわざリーゼロッテを助けた意味が分からない。これが一体どういう事なのか解らないまま、気づけば一行は森を出ていた。
森の外にはキャメルを始めとする領地の人たちが騒ぎを聞きつけて森の入口までやってきていた。手にはそれぞれ鍬や斧を持っているので、いざという時は助けに来てくれるつもりだったのだろう。
「皆、すまん。この通り俺たちは無事だ! ありがとう」
ルイスが言うと、キャメルと領民たちはホッとした顔をしている。そんな領民たちをかき分けて誰かがこちらに向かって足早にやってくるのが見えた。ラルフだ。
「ノア! 一体何があったんだ! 心配したんだぞ! 子どもたちは無事なのか!? 嫁は……まぁ当然無事だな」
「あれ? 兄さんまで来てたの?」
「ラルフおじちゃんだ~!」
「ラルフおじさん、僕たちは大丈夫ですよ!」
勢いよくラルフに飛びついたアミナスを抱きとめたラルフはアミナスを抱いたままノエルとレオとカイを抱きしめる。
「そうか、皆無事か! ここに居るキャメルから連絡を貰って飛んできたんだ。それで、何があった?」
「んー……ここではちょっと。皆、帰る前にちょっとレヴィウス城に寄っていいかな」
「もちろんだ。あれの説明もしなければ」
鷹揚に頷いたルイスにシャルルも口を開く。
「あ、それから森の中に大きな繭が出来ています。それはどうやら罠のようなので近づかない方がいいかと思います。中に何人か捕えられていましたが、彼らは奴隷商の下っ端のようでした。放っておくかどうするかはそちらの判断に任せます。もし捕えるのであればこれを持って行くといいでしょう」
そう言ってシャルルが取り出したのは、いつぞやアリスがお守りだと言ってシャルルにくれたシエラの絵姿が入ったロケットだ。
「これを掲げながら近づくと襲ってこない……かもしれません」
さっき繭から出た時、繭から伸びた触手はアリスを観察するようにじっと見ていた。近寄ろうとしては躊躇う。そんな感じだったので、多分怖かったのだ。
「ちょっとシャルル! それ私がお守りにあげたやつじゃん!」
「だからですよ。私には本人がいるので、貸し出すだけです」
そう言ってシャルルはラルフにくっついてやってきた騎士団にアリスのとんでも絵姿を渡した。アリスの描いた物にはアリスの並々ならぬ執念のような物が宿っている。妖精の類ならすぐにそれに気づくだろう。そういう意味ではお守りと言うよりも魔除けである。
「あ、ありがとうございます。大事に扱います」
アリスの魔除けを受け取った騎士団長はそれをハンカチでくるんで大切そうに胸ポケットにしまうと深々と頭を下げる。
「ではお前たちここは任せる。私達は先に城に戻るが、帰りはこれを使え」
ラルフから妖精手帳を受け取った騎士団長はラルフにも頭を下げて騎士団の元へ戻り作戦会議を始める。
「それではキャメルさん、突然来ていざこざを起こしてしまい本当に申し訳なく思います。お預かりした物も必ず返しに来ますね」
「と、とんでもない! もしかしたらその繭が現れた事で森のドラゴンが騒いだのかもしれんません。我々も騎士団の方たちと調べてみます!」
「すまんな、キャメル。手を貸してくれてありがとう。屋敷の者たちにも礼を伝えておいてくれ。あと、くれぐれも無理の無いようにな」
「は、はいっ!」
キャメルが感動して思わずカサンドラの手を取ろうとしたその時、誰かがキャメルとカサンドラの間にニヤニヤしながら割って入ってきた。
「ねぇねぇ、キャメルってあのキャメル?」
「ん? 誰だ、お前は」
見たことのない女にキャメルが首を傾げて見下ろすと、女はニカッと笑って親指を立てた。そして言う。あの合言葉を!
「筋肉は?」
「! 裏切らないっ! アリス嬢か!」
「そうだよ~! うわぁ~すっごい偶然! そっか、ここシュタだもんね! で、この子がカサンドラ? めっちゃ可愛いじゃん! やるな~このこの~!」
肘でキャメルを突くアリスにキャメルは顔を赤くしてアリスを引っ張ってカサンドラから距離を取ると、巨体を丸めてコソコソとアリスに耳打ちする。
「こ、こら! まだカサンドラには何も伝えていないんだ!」
「そうなの? 早く言っちゃいなよユー! あれは脈アリだよ!」
「ほ、本当か!?」
「本当だとも! 愛の伝道師アリスが言うんだから間違いない! アリスのアは愛のア!」
「ちなみにアリスのリは理不尽のリで、アリスのスはスカポンタンのスです」
「酷くない!? ほぼ悪口じゃん! あ、こっちはキリだよ。よく手紙にも書くあの失礼な従者! ふん!」
「手紙? お嬢様、いつの間にかキャメル様と文通をしていたのですか?」
「うん! 文通友達だよ! でもこのキャメルさんのおかげであの春雨ラーメンが出来たからね! 凄い人なんだ」
そう言ってニカッと笑ったアリスを見てキャメルは目を丸くしている。
「そ、そうなのか?」
「うん。あの春雨ラーメンね、元王妃様達に大人気なんだよ。近々製品化しようって話も出てるんだ! ありがとう、キャメルさん」
「いや、私は自分のためにだな……」
「それでいいんだよ! 私だって全部自分の為だよ! 自分が不便で作ったら誰かが喜んでくれた、それだけだもん。でも、それってお得だと思わない? 便利になるし感謝までしてもらえるんだから! ね!」
アリスが自分本位なのは今に始まった事ではない。それはしっかり自覚しているし、キリの言う通り理不尽な事もしょっちゅう言う。
「そ、そんなものか?」
「そんなものだよ~! 現に誰かが喜んでるじゃん! ひひひ! またバカ売れするぞ~~! そしたら謝礼金出すからね!」
親指を立てて笑うアリスを見てキャメルは苦笑いを浮かべて首を振る。
「そんなものはいい。それよりも、ずっと文通をしてもらえるか? 私と」
「もちのろんだよ! また遊びに来るよ! お土産持って。今日はもう行かなきゃだけど。はい、これキャメルさんにもあげる」
取り出したのは懐かしのカップリング厨カードだ。カードの趣旨を聞いてキャメルは声を出して一しきり笑うと、大切にそれを仕舞った。
「ありがとう、アリス嬢。君のおかげで自分のすべき事がはっきりと分かった気がする。これからもよろしく頼む」
キャメルは大きな手をアリスに差し出した。それをアリスはしっかりと掴んでニカッと笑う。
「うん! これからもよろしく! それじゃあ、カサンドラによろしくね!」
「ああ。気をつけてな。あまり無茶をして皆を振り回さんようにな」
「はいは~い! じゃね! 筋肉は!」
「裏切らない! ではまた」
そう言ってキャメルはおかしそうに笑いながらノシノシとカサンドラの元へ戻って行った。
「では我々も行きましょう。ノア様達がしびれを切らせています」
「うん!」
アリスはキリと小走りでノア達の元に戻ると、子どもたちとしっかり手を繋いだ。そんなアリスを見てラルフがポツリと「自由な嫁だな」と呟いたのを、アリス以外は誰も聞き逃さなかった。
応援ありがとうございます!
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