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第98話 大人しいヒロインなんてあの桃で有名な人ぐらい

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 テオはジャスミンが見つめていた置物に近寄ってロープ越しにそれをまじまじと見つめていると、部屋の入り口が急に賑やかになった。

「ノエル! アミナス! お前たちは今度は一体何を見つけたんだ⁉」
「次から次へとうちの甥っ子と姪っ子達は騒動ばかり起こすな」
「ラルフおじさんとオルトおじさんだ~!」
「ああこらアミナス、よじ登るな。ベルトに足をかけるな」

 ずり落ちそうになったスラックスを押さえながら、ラルフはアミナスを抱き上げるとノエルを見下ろす。

「おじさん達、来てくれてありがとうございます。あの会議室に置いてある日記に変なページがあったんです。ジャスミンのお告げがあって調べていたら見つかりました。それからこの鍵がツボの中から見つかりました。どこの鍵なのかは分かりませんが」

 ノエルはそう言って先程見つけた鍵をそっとラルフに手渡すと、ラルフとオルトは目を丸くして子どもたちを見下ろした。

 この屋敷はそれこそエリスとその仲間たち、さらには騎士団が徹底的に調べ上げたものだ。

「よ、よく見つけたな……流石と言うべきか」
「驚いた。もうここからは何も出ないと思っていたが」

 オルトはノエルから小さな鍵を受け取ってその鍵を食い入るように見つめていたが、あいにく押収した物の中に鍵が必要になるものなど無かったはずだ。

「ねぇねぇ兄さま、あの箱の模様母さまが着てた着物の模様だよ」

 ジャスミンとテオがしげしげと眺めている置物を見てアミナスが言うと、ノエルもそちらに視線を向けて頷いた。

「え? あ、ほんとだ。確か青海波だっけ?」
「そうそう! 他のも知ってる模様だ! 可愛いなぁ! おじさん、あれ触ってもいい?」

 ラルフに頬を擦りつけながらそんな事を言うラルフはニコニコしながら頷いた。

「構わないぞ。何なら同じものを作ってやろうか?」
「うん! やったぁ!」
「ははは! アミナス、こそばゆいぞ!」
「……姪に甘すぎる。お手を触れないでください、とは」

 呆れたようにレックスが言うと、足元でクロも頷いている。そんな二人など無視してアミナスが置物に手を伸ばしてひっくり返したり振ったりしていると、どこかが壊れたのか、ガチャンと音がした。

 それを聞いてラルフとオルトが思わず顔を見合わせる。

「なんだ、今のは」
「おかしいな。我々が触った時には何も音はしなかったはずだが」
「もしかしたら壊れたのかもしれません。お嬢様が乱暴に扱うから」
「わ、私のせい⁉ ち、違うよ! ちょっと軽く振っただけだもん!」
「あなたの軽くは一般人の乱暴と同じです」
「まぁまぁ3人とも落ち着いて。僕たちが知ってる模様があるって事は、父さまなら何か分かるかも。アミナスそれ持ってて。写真撮るから」
「うん。ニカッ!」

 アリスと同じように置物を持ってニカッ! をしたアミナスごと写真に納めたノエルは、そのままノアにメッセージを送ったのだった。
 


「とうちゃ~く! ありがとね、ミントちゃん!」
「ギュ!」

 アリスは見知らぬドラゴンの背中から下りてポシェットに入れていたハンバーガーをドラゴンに渡すと、ドラゴンは一口でハンバーガーを食べてオリバーにまた頬釣りして飛び去ってしまった。

「一応聞くけど、何であの真っ赤なドラゴンにミントって名前つけんの?」
「え? 女の子だったし、三文字で呼んでって言うから」
「そんな話してた⁉ 嘘だよね? 絶対嘘だよね⁉」
「まぁまぁリー君、アリスが滅茶苦茶なのは今に始まった事じゃないっすから」
「そうです、リアン様。それよりもここが噂の教会ですか。思っていたよりも綺麗ですね」

 そう言いながら目の前のこぢんまりとした教会を見上げた。教会と言うよりはどう見てもちょっと立派な小屋だ。

「月いちでちゃんと掃除してんじゃない。で、問題はその秘密通路がどこにあるのかって話しだよ――ってあんた何やってんの⁉ じっとしとくって約束したでしょ⁉」

 キリと同じ様に屋敷を見上げていたリアンの目の端で、アリスが教会のドアに手をかけてガチャガチャやっているのが見えてリアンは思わず怒鳴った。

「え? ヒロインはいつだって余計な事するんだよ? でないとお話進まないもん」
「あんたはそうかもしれんないけど! 世のヒロインに謝んなよ!」
「謝んない! 程度は違えどヒロインっていうのはそういう生き物だよ! 自ら余計なことに頭どんどん突っ込んでくんだから! 毎回攫われて大人しく王子様待ってるお姫様なんてあの超有名な桃の人ぐらい――あ、開いた」
「それ誰――えっ、開いたの⁉」

 ヒロインへの解釈の違いに突っ込む前に教会の扉が開いてしまった。

 リアンはアリスの後ろからドアの中を覗き込んで一応ドアノブも確認する。アリスが馬鹿力を発揮してドアノブごと壊したかもしれないと思ったからだ。

「壊れてないよね? 鍵かかってなかったの?」
「壊してないよ! 鍵開いてたよ。ちょっと錆びてて開けにくかっただけ」
「ではそれを鍵がかかっていると勘違いしていたのでしょうか?」
「つか、そもそも鍵穴なんてどこにも無いんすけど」

 そう言ってオリバーがドアの表側を見てみても、どこにも鍵穴らしきものが見当たらない。

「そう言えば、あの指導者は一言も鍵がかかっているとは言っていませんでしたね。扉は閉じられている、とは言っていましたが。もしかしたら今までも何度か開けようと試みているのかもしれません」
「言われてみればそだね。じゃあ錆びてて開かなかったってだけ?」
「いえ、女王たちがここから出入りしていたのであれば、錆が原因ではないと思います。もしかしたら内側に何か細工がしてあったのかもしれませんね。それをお嬢様が壊してしまったのか、と」
「結局壊してんじゃん! まぁ外から見えないからいっか。何してんの? ほら、行くよ」

 キリの説明を聞いて一応アリスを睨んでおいたリアンだが、どのみちどうにかして入らなければならなかったのだ。いつぞやみたいにドアをバキバキに破壊されるよりは大分マシである。

 ドアを開けたリアンが皆に入るよう促すと、一番に飛び込んで行こうとしたアリスの腕を掴んだ。

「あんたはまだだよ。ほらモブ一番。次キリで次があんたね」
「なんでよぅ!」
「あんたは何するか分かんないからだよっ! つべこべ言わない! さっさと歩く!」
「ぶー!」

 アリスはまるで囚人の如くキリとリアンにがっちり挟まれて教会の中に足を踏み入れた。

「真っ暗っすね」

 教会の中は真っ暗で何も見えない。よく目をこらせばあちこちに松明を立てる場所があるが、生憎松明など誰も持ってきていない。と、その時後ろがパッと明るくなった。驚いて振り返ると誇らしげにアリスが両手で何かを掲げている。

「な、なんすか、それ」
「こんな事もあろうかと! 密かに開発していた懐中電灯! デス!」

 乾電池とセットで電球が大分普及してきた今、そろそろ明かりを持ち運びたい。そんな時に活躍するのがこの懐中電灯である!

「なんか見たこと無いものぶら下げてるなと思ったら、そんなもの持ってきてたの?」
「便利でいいんですが、持ち歩くには少し大きいのが難点なんです」
「そこなんだよね。まだ商品化までは厳しいんだよねぇ。でも今は超役に立つでしょ? ニカッ!」

 アリスは自慢げに胸をそらして大きな懐中電灯を掲げて周りを照らし出した。壁には一面に様々な壁画が彫られている。

「はいはい、えらいえらい。で、これ全部ドラゴンだよね」

 適当にアリスを褒めながら壁画を眺めるリアンにキリもオリバーも頷いた。壁は4面あって、そのどれにも緻密な壁画が描かれている。

「ドラゴンの歴史というよりは、この道の歴史のようですね。この一際大きなドラゴン、これがディノでしょうか」
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