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第106話 ヒントはアリスのメモにあり!
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「リー君! 心の友よっ!」
勢いよく抱き着いて来ようとしたアリスを両手で押し留めてリアンは冷めた視線をアリスに向けた。
「何喜んでんのか知んないけど、逆だよ。あんたが居るから最悪の事態になるだろうなって諦めてんの。変態とだったら僕は諦めない。あいつは何とかするだろし、まず無茶しないから」
「ごもっともです。俺もそういう意味ではお嬢様が居る時点で大して驚きもしません。これがノア様だったら卒倒するかもしれませんが」
「ああ……そっすね。何か急に覚悟決まったっす」
「3人共失礼すぎないっ⁉ もういい! 私はこの硫黄の匂いをたどることにするっ! ふんっ!」
あんまりな仲間たちにアリスはフンと鼻を鳴らして歩き出した。そんなアリスに何だかんだ言いながら皆ついてくる。
「ねぇ、硫黄の匂いなんてする?」
「いいえ、全く。ですがお嬢様の鼻と舌と耳は唯一お嬢様の中で信用出来る部位なので」
「部位って。言い方が酷いんすよ、あんたいっつも」
「あんた達ごちゃごちゃうるさ~い! 何で寄ってたかってこんな可愛い女子の悪口ばっか言うのよっ!」
「はは、可愛い?」
「女子っすか」
「悪口ではありません。事実です」
3人は何だかんだ言いながらも迷子になっても全く動じないアリスに救われつつ、とりあえず水を探して迷路のような洞窟の中を徘徊しはじめた。
ラルフは子どもたちを連れてローズが予言した日記を持ち帰り、それをエリスに見せた。
「どうだ? エリス、何か分かるか?」
ジャスミンが予言したページに何かを書いた後のような窪みがあった。鉛筆を使ってその部分をこすると、うっすらとだが文字らしき物が浮かび上がったのだ。
「こりゃ何が書いてあんのかさっぱりですね。でもどっかで見たことある気がすんだよな……」
言いながらエリスは足に張り付いて離れないアミナスを引きずりながら部屋をウロウロと歩き回った。
「どうしてアミナスはエリスにくっついてるの?」
セイが尋ねると、アミナスはエリスのズボンから顔を離してニカッと笑う。
「なんかね、こっからお肉の匂いすんの! 師匠、お肉食べた? 私を置いてお肉食べたの?」
「な、何で分かったんだよ。わざわざ着替えたのに……ってかお前怖いわっ! 今一瞬浮気を疑われる旦那の気分だったわ! ほんっとにお前といいアリスといいなんでそんな鼻いいん……思い出した! アリスのメモだ!」
青ざめてアミナスを離そうとしていたエリスは、昔見せてもらったアリスのメモを思い出して叫んだ。確かあれはノアが見せてくれたのだ。アリスが寝ぼけて書いたメモの文字、それはこれと同じような形をしていたような気がする。
それをラルフに説明すると、ラルフとオルトは互いに顔を見合わせてノアにビデオ通話をした。
『今日は大忙しだね。今度はオルト兄さんか』
「ノア! そこに嫁はいるか?」
『アリス? 居ないよ。僕たちも連絡取れなくて困ってるんだよ』
「何かあったのか?」
困ったように眉を下げたノアにオルトが言うと、ノアは苦笑いを浮かべて事情を説明してくれた。
「な、なんだと⁉ シュタの地下にそちらに繋がる通路だと⁉ そういう事を何故早く言わないんだ!」
『それがね、今はそっちのシュタには繋がってないんだよ。メイリング城に繋がっちゃっててそっちから入れないんだよね。だからアリス達に調査に行ってもらったんだけど、連絡が取れなくてさ。こりゃ何かあったかなって話し合ってたとこ』
「お、お前はどうしてそんなに冷静でいられるんだ?」
『どうしてってアリスだもん。どうにかして出てくるよ。で、どうしたの?』
キョトンとしてそんな事を言うノアを見てオルトはなにかに納得したように頷く。
「まぁそうだな。いざとなったら穴を掘ってでも出てくるな、あの嫁は。だがそうか、嫁は居ないのか」
『アリスでないと分からない事?』
「恐らくな。さっきローズ嬢が予言をした日記に見慣れない文字が浮かんでな。それを見たエリスが昔嫁が書いた文字と似ているというものだから、嫁になら読めるかと思ったんだ」
そう言ってオルトはノアにノートを見せた。するとそれをしばらく見ていたノアが言う。
『えっと? 猫、鹿はメイリングに。熊と狼はレヴィウスに。狐と鳥はルーデリアに――だってさ』
「よ、読めるのか⁉」
『読めるね。日本語だから。で、アメリア達はこれを集めてたって事なのかな? この感じだと』
「ああ、恐らくな。お前の言うことはいつもよく分からないが、とりあえずありがとう。すぐに他のアジトも探しに行かせる」
『うん。こっちでも探しておくよ。ルーデリアのは多分エミリーが隠してたと思うから』
「頼む。それではまた連絡する」
『はいは~い』
ビデオ通話を切ったオルトが振り返ると、ノエルとアミナスが誇らしげな顔をしている。そんな二人の頭をオルトは優しく撫でた。
「お前たちの父と母は博識だな。誇りに思うといい」
「うん!」
「はい!」
両親を褒められた事でアミナスとノエルは満面の笑みを浮かべて子どもたちの輪に戻ると、こちらでも皆が感心したような顔をしている。
「やはりノアは王都に必要な人材だな! 宰相と組めば完璧だ!」
「でもずっと嫌がってるって父さんが言ってた。それに俺は無理強いは良くないと思う」
「そうよ。ノア様が居ないとチャップマン商会が大変な事になっちゃう!」
口々に話す子どもたちを見てすかさずテオが言う。
「ライアン、よく考えて。ノアが王都に来るって事は、アリスも王都に来るって事だよ」
それを聞いてライアンはハッとした顔をして青ざめた。
「うっ……そ、そうか。それは危険だな」
ルイスは未だにノアに王都に来いと冗談で言うが、半分ぐらいは多分本気だ。今まではライアンもそう思っていたが、よく考えればノアが来るということはアリスも来るという事なのだ。
「今度からは俺も父さんを止めるとしよう」
「それがいい」
「母さまも凄いもん! 熊だって一撃だよ!」
「アミナス、その凄いはちょっと違うと思うんだ。で、僕たちはこれからどうする? そろそろ皆も戻らないとあちこちに心配かけちゃうんじゃない?」
今日は妖精王に言われて皆で集まったが、本当は昼食を食べて戻る予定だったというのにもうすっかり夕方だ。そろそろあちこちから心配の連絡が入りそうな予感がする。
「そうだな! では今日はこれぐらいで解散しよう」
「うん、またね」
「じゃ、俺達は挨拶しに行こうぜ」
ライアンとルークが立ち上がってラルフに戻ることを伝えに行くと、そんな後ろ姿を見ていたテオが感心したように言った。
「あの二人、ちゃんと次期王と次期宰相の自覚あるんだ」
「そうでなきゃ困るよ。さ! 僕たちも皆が帰ったらお手伝いしに行こ!」
「うん!」
「ええ」
「はい」
こうして子どもたちはそれぞれに挨拶をして元の場所に戻っていった。
◆
「お花畑きれい! オズも来て!」
色んな所を歩いてきたけれど、こんなにも綺麗な花畑は見たことがないリーゼロッテがはしゃぐ。そんなリーゼロッテを横目にオズワルドはゴロンと花畑に転がった。
転がった拍子に花の香りがフワリとオズワルドを包んだ。
「甘い匂いがする。リゼみたい」
「私? 甘くないよ?」
「でもリゼみたいな匂いがする。この匂いは好きだな。果物が入ったクッキーと同じぐらい好き」
深呼吸をするようにオズワルドが空気を吸い込むと、地下だというのにどこからともなく風が吹いて散りかけていた花びらが舞い上がる。
その時だ。突然あちこちに配置してきた影が動いた気配がした。
オズワルドは体を起こすとすぐさまリーゼロッテを抱えてそのまま姿を隠す。
勢いよく抱き着いて来ようとしたアリスを両手で押し留めてリアンは冷めた視線をアリスに向けた。
「何喜んでんのか知んないけど、逆だよ。あんたが居るから最悪の事態になるだろうなって諦めてんの。変態とだったら僕は諦めない。あいつは何とかするだろし、まず無茶しないから」
「ごもっともです。俺もそういう意味ではお嬢様が居る時点で大して驚きもしません。これがノア様だったら卒倒するかもしれませんが」
「ああ……そっすね。何か急に覚悟決まったっす」
「3人共失礼すぎないっ⁉ もういい! 私はこの硫黄の匂いをたどることにするっ! ふんっ!」
あんまりな仲間たちにアリスはフンと鼻を鳴らして歩き出した。そんなアリスに何だかんだ言いながら皆ついてくる。
「ねぇ、硫黄の匂いなんてする?」
「いいえ、全く。ですがお嬢様の鼻と舌と耳は唯一お嬢様の中で信用出来る部位なので」
「部位って。言い方が酷いんすよ、あんたいっつも」
「あんた達ごちゃごちゃうるさ~い! 何で寄ってたかってこんな可愛い女子の悪口ばっか言うのよっ!」
「はは、可愛い?」
「女子っすか」
「悪口ではありません。事実です」
3人は何だかんだ言いながらも迷子になっても全く動じないアリスに救われつつ、とりあえず水を探して迷路のような洞窟の中を徘徊しはじめた。
ラルフは子どもたちを連れてローズが予言した日記を持ち帰り、それをエリスに見せた。
「どうだ? エリス、何か分かるか?」
ジャスミンが予言したページに何かを書いた後のような窪みがあった。鉛筆を使ってその部分をこすると、うっすらとだが文字らしき物が浮かび上がったのだ。
「こりゃ何が書いてあんのかさっぱりですね。でもどっかで見たことある気がすんだよな……」
言いながらエリスは足に張り付いて離れないアミナスを引きずりながら部屋をウロウロと歩き回った。
「どうしてアミナスはエリスにくっついてるの?」
セイが尋ねると、アミナスはエリスのズボンから顔を離してニカッと笑う。
「なんかね、こっからお肉の匂いすんの! 師匠、お肉食べた? 私を置いてお肉食べたの?」
「な、何で分かったんだよ。わざわざ着替えたのに……ってかお前怖いわっ! 今一瞬浮気を疑われる旦那の気分だったわ! ほんっとにお前といいアリスといいなんでそんな鼻いいん……思い出した! アリスのメモだ!」
青ざめてアミナスを離そうとしていたエリスは、昔見せてもらったアリスのメモを思い出して叫んだ。確かあれはノアが見せてくれたのだ。アリスが寝ぼけて書いたメモの文字、それはこれと同じような形をしていたような気がする。
それをラルフに説明すると、ラルフとオルトは互いに顔を見合わせてノアにビデオ通話をした。
『今日は大忙しだね。今度はオルト兄さんか』
「ノア! そこに嫁はいるか?」
『アリス? 居ないよ。僕たちも連絡取れなくて困ってるんだよ』
「何かあったのか?」
困ったように眉を下げたノアにオルトが言うと、ノアは苦笑いを浮かべて事情を説明してくれた。
「な、なんだと⁉ シュタの地下にそちらに繋がる通路だと⁉ そういう事を何故早く言わないんだ!」
『それがね、今はそっちのシュタには繋がってないんだよ。メイリング城に繋がっちゃっててそっちから入れないんだよね。だからアリス達に調査に行ってもらったんだけど、連絡が取れなくてさ。こりゃ何かあったかなって話し合ってたとこ』
「お、お前はどうしてそんなに冷静でいられるんだ?」
『どうしてってアリスだもん。どうにかして出てくるよ。で、どうしたの?』
キョトンとしてそんな事を言うノアを見てオルトはなにかに納得したように頷く。
「まぁそうだな。いざとなったら穴を掘ってでも出てくるな、あの嫁は。だがそうか、嫁は居ないのか」
『アリスでないと分からない事?』
「恐らくな。さっきローズ嬢が予言をした日記に見慣れない文字が浮かんでな。それを見たエリスが昔嫁が書いた文字と似ているというものだから、嫁になら読めるかと思ったんだ」
そう言ってオルトはノアにノートを見せた。するとそれをしばらく見ていたノアが言う。
『えっと? 猫、鹿はメイリングに。熊と狼はレヴィウスに。狐と鳥はルーデリアに――だってさ』
「よ、読めるのか⁉」
『読めるね。日本語だから。で、アメリア達はこれを集めてたって事なのかな? この感じだと』
「ああ、恐らくな。お前の言うことはいつもよく分からないが、とりあえずありがとう。すぐに他のアジトも探しに行かせる」
『うん。こっちでも探しておくよ。ルーデリアのは多分エミリーが隠してたと思うから』
「頼む。それではまた連絡する」
『はいは~い』
ビデオ通話を切ったオルトが振り返ると、ノエルとアミナスが誇らしげな顔をしている。そんな二人の頭をオルトは優しく撫でた。
「お前たちの父と母は博識だな。誇りに思うといい」
「うん!」
「はい!」
両親を褒められた事でアミナスとノエルは満面の笑みを浮かべて子どもたちの輪に戻ると、こちらでも皆が感心したような顔をしている。
「やはりノアは王都に必要な人材だな! 宰相と組めば完璧だ!」
「でもずっと嫌がってるって父さんが言ってた。それに俺は無理強いは良くないと思う」
「そうよ。ノア様が居ないとチャップマン商会が大変な事になっちゃう!」
口々に話す子どもたちを見てすかさずテオが言う。
「ライアン、よく考えて。ノアが王都に来るって事は、アリスも王都に来るって事だよ」
それを聞いてライアンはハッとした顔をして青ざめた。
「うっ……そ、そうか。それは危険だな」
ルイスは未だにノアに王都に来いと冗談で言うが、半分ぐらいは多分本気だ。今まではライアンもそう思っていたが、よく考えればノアが来るということはアリスも来るという事なのだ。
「今度からは俺も父さんを止めるとしよう」
「それがいい」
「母さまも凄いもん! 熊だって一撃だよ!」
「アミナス、その凄いはちょっと違うと思うんだ。で、僕たちはこれからどうする? そろそろ皆も戻らないとあちこちに心配かけちゃうんじゃない?」
今日は妖精王に言われて皆で集まったが、本当は昼食を食べて戻る予定だったというのにもうすっかり夕方だ。そろそろあちこちから心配の連絡が入りそうな予感がする。
「そうだな! では今日はこれぐらいで解散しよう」
「うん、またね」
「じゃ、俺達は挨拶しに行こうぜ」
ライアンとルークが立ち上がってラルフに戻ることを伝えに行くと、そんな後ろ姿を見ていたテオが感心したように言った。
「あの二人、ちゃんと次期王と次期宰相の自覚あるんだ」
「そうでなきゃ困るよ。さ! 僕たちも皆が帰ったらお手伝いしに行こ!」
「うん!」
「ええ」
「はい」
こうして子どもたちはそれぞれに挨拶をして元の場所に戻っていった。
◆
「お花畑きれい! オズも来て!」
色んな所を歩いてきたけれど、こんなにも綺麗な花畑は見たことがないリーゼロッテがはしゃぐ。そんなリーゼロッテを横目にオズワルドはゴロンと花畑に転がった。
転がった拍子に花の香りがフワリとオズワルドを包んだ。
「甘い匂いがする。リゼみたい」
「私? 甘くないよ?」
「でもリゼみたいな匂いがする。この匂いは好きだな。果物が入ったクッキーと同じぐらい好き」
深呼吸をするようにオズワルドが空気を吸い込むと、地下だというのにどこからともなく風が吹いて散りかけていた花びらが舞い上がる。
その時だ。突然あちこちに配置してきた影が動いた気配がした。
オズワルドは体を起こすとすぐさまリーゼロッテを抱えてそのまま姿を隠す。
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