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第107話 オズワルドと初めての接触!
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しばらくすると影がまた動きを止め、元の配置に戻ったのを確認したオズワルドは抱えていたリーゼロッテを下ろした。
「何かあった?」
「うん、影が動いた。でももう止まった。侵入者なんて居ないだろうから、虫か何か見つけたんじゃないかな」
「虫? 刺す?」
「刺すのもいる。でも俺たちは刺されないよ。ディノと星の許可でここに来てるから」
「許可がいるの?」
「そうだよ。地下は妖精王の加護がついた者は入れない。俺もリゼも妖精王の加護が無いからね」
「そっか」
オズワルドとリーゼロッテは名もなかったのだ。妖精王に愛されているとは到底思えない。だからこそここに入る事が出来たのかと納得したリーゼロッテは、オズワルドの手を掴んだ。すると珍しくオズワルドが手を握り返してくる。
「温泉に行こう。今日はここに泊まる」
「うん! 秘密の温泉楽しみだね」
「新しい石鹸使ってみよう。ダニエルが殺菌効果があるって言ってたやつ」
「いい匂いかなぁ?」
「どうだろう。晩ごはんは何食べる?」
「アリスのシチューにする? 缶詰に入ったパンがまだあるよ」
「じゃあそうしよう。温泉はこっち」
オズワルドはリーゼロッテの手を握って歩き出した。そんなオズワルドにリーゼロッテが早足でついてくるけれど、オズワルドは足を緩めない。誰かに合わすなど、オズワルドはしないのだ。
「こっちこっち! なんかね、硫黄の匂いがすんのよ、こっちから!」
アリスは鼻をヒクヒクさせながらズンズン歩いた。既に仲間たちは疲れ切っている。
「ねぇ、もう結構歩いたんだけど? あんた、何万キロメートル先の匂い辿れんの?」
「リー君ってば嫌だなぁ! 何万キロは流石の私にも無理だよぅ!」
「嫌味だよ! 迷ったんじゃないの? って聞いてんの!」
すかさず突っ込むが、当の本人はもう歌に夢中だ。
「リアン様、お嬢様に嫌味は通じないとあれほど」
「そっす。荷物ちょっと持つっすよ」
「あ、そう? ありがと」
オリバーの言葉にリアンは自分のパラシュートを遠慮なく渡した。リアンは仲間たちには遠慮したり気は遣わない。仲間に塩対応だが、仲間以外にはもっと塩対応だ。
「リアン様はモブさんには心を許しているんですね」
「そうかな? 別にあんたにも気許してるよ」
「いえ、俺には最低限気は遣ってくれているように思います」
「そりゃそうでしょ。モブにだって多少は、ちょっとぐらいは気遣うよ。僕が全く、微塵も、これっぽっちも気を遣わないのなんてこの世でこいつぐらいだよ」
そう言ってリアンは残りの荷物をそっとアリスが背負うリュックの上に置いたが、アリスは一向に気付かない。そんなアリスを見てリアンは「ひひひ」と笑っている。
何も気付かないアリスを見てキリもそっと自分の荷物をアリスのリュックに括り付けてみたが、やっぱりアリスは気付かない。
「流石お嬢様です。鈍いのもここまでくれば天晴です」
「二人とも後で怒られてもしらないっすよ。ん? あ、硫黄の匂いしてきたかもっす」
呆れた視線を二人に向けながらオリバーが言うと、キリも頷いた。
「してきましたね。良かったです、今日中に辿り着けて。ですが、今日は確実にここで一泊ですね」
ため息を落としたキリにリアンもオリバーも諦めたように頷く。この状況を楽しんでいるのはやっぱりアリスだけだ。
さらに歩くと、どんどん硫黄の匂いが強くなってきた。それと比例するかのようにアリスのテンションもぐんぐん上がる。上がりすぎて今やスキップ状態だ。
「おんっせんおんっせん! ひゃっほ~!」
「ねぇ、あいつなんであんな喜んでんの? 温泉目的で来た人みたいになってんじゃん」
「お嬢様は目の前の事にいつも全力投球なのです。全力すぎて本来の目的をすっかり忘れてしまうのです。そういう人です。良かったです。一応水着持ってきておいて」
「あんたも入る気満々じゃん! お泊りセットはかろうじて持ってきたけど、水着はないよ⁉」
「俺もっす」
「大丈夫大丈夫! 二人には新作水着を私が持ってきたから! キメッ!」
「……モブ、僕もう帰りたい」
「同感っす」
何故自分たちの水着までアリスが用意してきているのか。地下にこんな場所があるはずもないと思いこんでいた自分たちがまるで馬鹿みたいである。
「見てあそこ! 湯気が通路にまで出てきてるよ! ひゃっは~!」
「お嬢様! 走ったら滑って転びますよ!」
「大丈夫だよ~!」
アリスはキリの静止も聞かず湯気が立ち込める横穴に向かって走り出した。横穴に入ると、とても地下とは思えない程の大きな温泉が目の前に現れる。
アリスは温泉を一目見ておもむろに手を突っ込んで匂いを嗅いで味を確かめる。
「うおぉぉぉ! 素晴らしい! この匂い! この味! 超いい源泉!」
「そんなもの味で分かるんですか?」
「分かる!」
追いついてきたキリにアリスがコクリと頷くと、何かに気づいたようにふと視線を上げた。
「どうかしましたか?」
「……あっち側……誰かいる」
「え?」
アリスの言葉にキリは顔を上げてアリスの視線の先を見たが、湯気で何も見えない。
「何も見えませんが」
「いるよ、二人。おっきいのとちっさいの。……ちょっと見てくる」
アリスは背中の剣を取り出して反対側に向かって歩き出した。そんなアリスの後ろをやはりキリがピタリとナイフを構えてついてくる。
アリスもキリも気配を消すのは得意だ。あちらに気付かれないようそっと近寄り、音もなくスッと剣を相手の背中に向けた。不審者は二人でのんびりと石鹸で頭を洗っている最中だ。そこでふと、アリスがある事に気づいた。
「あれ? この匂い」
思わずアリスが呟くと、大きい方が急いで小さい方の体を引き寄せて自分の後ろに隠し、目を閉じたままこちらを振り返って何か呪文を唱えようとしたのだが、続くアリスの言葉を聞いて詠唱を途中で止めた。
「パパベアの石鹸だ! 新商品の殺菌君じゃん!」
「……その声……アリス?」
「そうだよ。ん? なんで私の名前知ってんの?」
突然名前を呼ばれたアリスが首を傾げて近寄ると、ようやく二人の姿が確認出来た。
大きい方は目を閉じてはいるが人間とは思えないほどの美しい男で、小さい方はやっぱり目を閉じたままこちらを伺っているピンクの髪の少女。
「オズワルドとリーゼロッテちゃん! 新商品買ってくれたの⁉」
思わず駆け寄るアリスに気づいたのかオズワルドは急いで詠唱して頭からお湯を被った。泡切ればっちりのパパベア石鹸はそれだけで綺麗に汚れも泡も落とす優れものである。
「アリス、どうしてここに? どうやってディノの封印を破った?」
「ディノの封印? そんなのあったの? ドアをガチャガチャやったら勝手に開いたよ」
「……勝手に開いた? 梯子はどうやって下りた? 許しが無ければ上の通路までしか行けないはずだ。だからここまでは女王達も来られなかったのに」
「あんなもんパラシュートで一発だよ! で、何で二人共こんなとこにいんの?」
首をかしげるアリスを見てオズワルドも首を傾げている。何だか話が噛み合わないが、そんな二人を横目に後ろからついてきていたキリがふとオズワルドの後ろに居るリーゼロッテに声をかけた。
「お久しぶりです、リーゼロッテ」
その声を聞いた途端リーゼロッテは目をこすって泡を落とすと、キリを見て笑顔を浮かべる。
「キリだ! あの時はどうもありがとう」
「どういたしまして。オズワルドは喜びましたか?」
「うん! すぐに無くなった!」
「何かあった?」
「うん、影が動いた。でももう止まった。侵入者なんて居ないだろうから、虫か何か見つけたんじゃないかな」
「虫? 刺す?」
「刺すのもいる。でも俺たちは刺されないよ。ディノと星の許可でここに来てるから」
「許可がいるの?」
「そうだよ。地下は妖精王の加護がついた者は入れない。俺もリゼも妖精王の加護が無いからね」
「そっか」
オズワルドとリーゼロッテは名もなかったのだ。妖精王に愛されているとは到底思えない。だからこそここに入る事が出来たのかと納得したリーゼロッテは、オズワルドの手を掴んだ。すると珍しくオズワルドが手を握り返してくる。
「温泉に行こう。今日はここに泊まる」
「うん! 秘密の温泉楽しみだね」
「新しい石鹸使ってみよう。ダニエルが殺菌効果があるって言ってたやつ」
「いい匂いかなぁ?」
「どうだろう。晩ごはんは何食べる?」
「アリスのシチューにする? 缶詰に入ったパンがまだあるよ」
「じゃあそうしよう。温泉はこっち」
オズワルドはリーゼロッテの手を握って歩き出した。そんなオズワルドにリーゼロッテが早足でついてくるけれど、オズワルドは足を緩めない。誰かに合わすなど、オズワルドはしないのだ。
「こっちこっち! なんかね、硫黄の匂いがすんのよ、こっちから!」
アリスは鼻をヒクヒクさせながらズンズン歩いた。既に仲間たちは疲れ切っている。
「ねぇ、もう結構歩いたんだけど? あんた、何万キロメートル先の匂い辿れんの?」
「リー君ってば嫌だなぁ! 何万キロは流石の私にも無理だよぅ!」
「嫌味だよ! 迷ったんじゃないの? って聞いてんの!」
すかさず突っ込むが、当の本人はもう歌に夢中だ。
「リアン様、お嬢様に嫌味は通じないとあれほど」
「そっす。荷物ちょっと持つっすよ」
「あ、そう? ありがと」
オリバーの言葉にリアンは自分のパラシュートを遠慮なく渡した。リアンは仲間たちには遠慮したり気は遣わない。仲間に塩対応だが、仲間以外にはもっと塩対応だ。
「リアン様はモブさんには心を許しているんですね」
「そうかな? 別にあんたにも気許してるよ」
「いえ、俺には最低限気は遣ってくれているように思います」
「そりゃそうでしょ。モブにだって多少は、ちょっとぐらいは気遣うよ。僕が全く、微塵も、これっぽっちも気を遣わないのなんてこの世でこいつぐらいだよ」
そう言ってリアンは残りの荷物をそっとアリスが背負うリュックの上に置いたが、アリスは一向に気付かない。そんなアリスを見てリアンは「ひひひ」と笑っている。
何も気付かないアリスを見てキリもそっと自分の荷物をアリスのリュックに括り付けてみたが、やっぱりアリスは気付かない。
「流石お嬢様です。鈍いのもここまでくれば天晴です」
「二人とも後で怒られてもしらないっすよ。ん? あ、硫黄の匂いしてきたかもっす」
呆れた視線を二人に向けながらオリバーが言うと、キリも頷いた。
「してきましたね。良かったです、今日中に辿り着けて。ですが、今日は確実にここで一泊ですね」
ため息を落としたキリにリアンもオリバーも諦めたように頷く。この状況を楽しんでいるのはやっぱりアリスだけだ。
さらに歩くと、どんどん硫黄の匂いが強くなってきた。それと比例するかのようにアリスのテンションもぐんぐん上がる。上がりすぎて今やスキップ状態だ。
「おんっせんおんっせん! ひゃっほ~!」
「ねぇ、あいつなんであんな喜んでんの? 温泉目的で来た人みたいになってんじゃん」
「お嬢様は目の前の事にいつも全力投球なのです。全力すぎて本来の目的をすっかり忘れてしまうのです。そういう人です。良かったです。一応水着持ってきておいて」
「あんたも入る気満々じゃん! お泊りセットはかろうじて持ってきたけど、水着はないよ⁉」
「俺もっす」
「大丈夫大丈夫! 二人には新作水着を私が持ってきたから! キメッ!」
「……モブ、僕もう帰りたい」
「同感っす」
何故自分たちの水着までアリスが用意してきているのか。地下にこんな場所があるはずもないと思いこんでいた自分たちがまるで馬鹿みたいである。
「見てあそこ! 湯気が通路にまで出てきてるよ! ひゃっは~!」
「お嬢様! 走ったら滑って転びますよ!」
「大丈夫だよ~!」
アリスはキリの静止も聞かず湯気が立ち込める横穴に向かって走り出した。横穴に入ると、とても地下とは思えない程の大きな温泉が目の前に現れる。
アリスは温泉を一目見ておもむろに手を突っ込んで匂いを嗅いで味を確かめる。
「うおぉぉぉ! 素晴らしい! この匂い! この味! 超いい源泉!」
「そんなもの味で分かるんですか?」
「分かる!」
追いついてきたキリにアリスがコクリと頷くと、何かに気づいたようにふと視線を上げた。
「どうかしましたか?」
「……あっち側……誰かいる」
「え?」
アリスの言葉にキリは顔を上げてアリスの視線の先を見たが、湯気で何も見えない。
「何も見えませんが」
「いるよ、二人。おっきいのとちっさいの。……ちょっと見てくる」
アリスは背中の剣を取り出して反対側に向かって歩き出した。そんなアリスの後ろをやはりキリがピタリとナイフを構えてついてくる。
アリスもキリも気配を消すのは得意だ。あちらに気付かれないようそっと近寄り、音もなくスッと剣を相手の背中に向けた。不審者は二人でのんびりと石鹸で頭を洗っている最中だ。そこでふと、アリスがある事に気づいた。
「あれ? この匂い」
思わずアリスが呟くと、大きい方が急いで小さい方の体を引き寄せて自分の後ろに隠し、目を閉じたままこちらを振り返って何か呪文を唱えようとしたのだが、続くアリスの言葉を聞いて詠唱を途中で止めた。
「パパベアの石鹸だ! 新商品の殺菌君じゃん!」
「……その声……アリス?」
「そうだよ。ん? なんで私の名前知ってんの?」
突然名前を呼ばれたアリスが首を傾げて近寄ると、ようやく二人の姿が確認出来た。
大きい方は目を閉じてはいるが人間とは思えないほどの美しい男で、小さい方はやっぱり目を閉じたままこちらを伺っているピンクの髪の少女。
「オズワルドとリーゼロッテちゃん! 新商品買ってくれたの⁉」
思わず駆け寄るアリスに気づいたのかオズワルドは急いで詠唱して頭からお湯を被った。泡切ればっちりのパパベア石鹸はそれだけで綺麗に汚れも泡も落とす優れものである。
「アリス、どうしてここに? どうやってディノの封印を破った?」
「ディノの封印? そんなのあったの? ドアをガチャガチャやったら勝手に開いたよ」
「……勝手に開いた? 梯子はどうやって下りた? 許しが無ければ上の通路までしか行けないはずだ。だからここまでは女王達も来られなかったのに」
「あんなもんパラシュートで一発だよ! で、何で二人共こんなとこにいんの?」
首をかしげるアリスを見てオズワルドも首を傾げている。何だか話が噛み合わないが、そんな二人を横目に後ろからついてきていたキリがふとオズワルドの後ろに居るリーゼロッテに声をかけた。
「お久しぶりです、リーゼロッテ」
その声を聞いた途端リーゼロッテは目をこすって泡を落とすと、キリを見て笑顔を浮かべる。
「キリだ! あの時はどうもありがとう」
「どういたしまして。オズワルドは喜びましたか?」
「うん! すぐに無くなった!」
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