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第127話 戻らない影アリス

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「ふざけてんの⁉ そのせいでどんだけ皆が心配したと思ってんだよ! じいちゃんは万能かもしれない。だけどじいちゃんにはこの星に奥さんも居るし子どもも居るし俺みたいに孫だって居るんだよ! それなのにどうして家族に一言の相談も無く勝手な事するんだよっ!」

 涙を浮かべて今にも妖精王に掴みかからんばかりの勢いのルークをライアンとノエルで必死に止めた。

 ルークの言葉に妖精王はアミナスの腕から下りてルークの側まで行くと、地面に頭を擦り付けて呟く。

「すまん……守りたかったのだ……前の戦争の時、我はほとんど何も出来なかった。だから……今度こそ守りたかったのだ……皆を……お前を……」
「だからって何で……何でなんだよっ!!!」

 とうとう泣き出したルークにそれまで静かに見守っていたレックスが口を開いた。
「彼は君たちの両親がしたような事を君たちにはさせたくなかった。彼は君たちの両親がどんな風に数々の試練や苦難を乗り越えたかをずっと見てきたからだ。同じことを孫の君や英雄の子どもたちにはさせたくなかっただけ」
「レ……レックス……そなた……」

 我の味方をしてくれるのか? と尋ねようとした矢先にレックスから辛辣な言葉が飛んでくる。

「だからと言って彼のした事は正解ではない。むしろ事をややこしくして周りに混乱を招いたのは、彼がまだ幼く短絡的だからだ。オズワルドをいきなり襲ったのも、言うなれば彼は自分のおもちゃを誰かに壊されるのを恐れただけにすぎない。それはあまりにも幼稚だ。あなたは万能ではない。万能な者などこの世には居ない。それが理解出来ないあなたは、幼い」
「……ぐぬ……」

 言い返すことの出来ない見事なまでの図星を突かれて妖精王は黙り込んだ。俯いたまま固まった妖精王をルークが抱き上げ静かに言う。

「アミナス、今日じいちゃん連れて帰ってもいいかな?」
「もちだよ! クロちゃん、たっぷり叱られてきてね! そしたら今度はコソコソしないで皆で力合わせて世界守ろ!」

 アリスがよくやるように親指を立ててニカッと笑ったアミナスを見て、ライアンが感心したように頷いた。

「やはりアミナスは心が広いな! 流石だ」
「うん! 私は心が広いのだ! ぎゃん!」

 ライアンの言葉に気を良くしたアミナスが自信満々に胸を張ると、すぐさまカイの強めのゲンコツが落ちてくる。

「そういう事は自分で言うものではありません。それにあなたのは心が広いのではなく、ただのお花畑なだけです」
「カイの言う通りです。ではこの後はどうします? 我々も戻りますか?」
「いや、僕たちはこのままでいいと思う。僕たちが側に居ない方が父さま達は自由に動けるし、ラルフおじさん達の話を聞いててもメイリングがまた何か始めようとしてるみたいだし」
「ええ。私もその方がいいと思う。何だか凄く嫌な予感がするの」
「そうだな。ノエルとジャスミンの言う通りかもしれん。俺たちが戻って俺たちが狙われたりしたら、それこそ母さん達は動けなくなってしまう。俺は英雄たちの足を引っ張るような事はしたくないぞ」

 寂しいが仕方ない。たった一時の感情に任せてキャロラインやルイスを窮地に追い込んだりはしたくない。子どもだからといって足を引っ張りたくはないのだ。

 ライアンの言葉に子どもたちは頷いてまた座り込んだ。

「せめてクロちゃんの魔力が戻ればなぁ~」

 アリス特製の殺人クッキーを齧りながらアミナスが言うと、ノエルもコクリと頷く。

「そうだよね。そうしたら僕たちももっと何か出来そうな気がするのにな。でも僕たちはオズワルド達に会ったこともないし……クロ、何かオズワルドが居そうな場所とかないの?」

 もうすっかり妖精王に敬語を使うのを止めたノエルに妖精王は引きつりながら答えた。

「うむ。オズワルドは不思議な男でな。だからこそ我も探し出すのにこんなにも時間がかかってしまったのだが、あいつは時々姿をこの世界から消してしまうのだ」
「姿を消す、とは? どこかへ隠れているという事ですか?」
「それがさっぱり分からんのだ。星から出た訳ではないのだが、突然後を追えなくなる。だから我も奴を探し出すのに時間がかかってしまったのだ」
「どこに行ってるんだろう? じいちゃんの力が及ばない所に隠れてたって事なのかな」
「だとしたら地下だが、あそこは……」

 そこまで言って妖精王は言い淀んだ。そんな妖精王にルークが怖い顔をして詰め寄ってくる。

「じいちゃん、もう隠し事は無しだよ」
「分かっている! 地下は確かに我の力は及ばん。だがあそこは星の内部だ。そんな隠れる場所など無いはずだが……」
「……」

 考え込む妖精王を他所にノエルとレオとカイは黙り込んでいた。ノア達から流れてきた情報では、地下には何か大きな秘密がある。

 けれどそれは妖精王には伝えない方がいいのだろう、きっと。そう踏んだノエル達はその事をずっと黙っていた。そんな三人をじっと観察するように見ていたのはレックスだ。
 

 集会が終わってアミナスがエリスと戻って行った後、ノエルの部屋にレックスがやってきた。

「レックス! どうしたの? 今日はオルト兄さんの所に行かなかったんだね」
「行かなかった。少しノエルと話がしたかった。さっきどうして地下の事を黙ってた? 君たちは地下の秘密を知っているはずなのに」
「ディノが地下で眠っているかもしれないって事? だって、それ言っちゃったらディノに迷惑がかかっちゃうよ。特にアミナスなんかは喜んで地下に行こうとすると思うんだ。でもまだその時じゃない。そう言ったのは君だよ? レックス」
「……」
「父さまがいつも言うんだ。物事にはタイミングというものがあって、それが全て噛み合わさった時に初めて動き出すんだよ、って。僕もそうだなって思う。まぁ母さまなんかはそれを無理やり力づくで噛み合わせようとするんだけどね。それで噛み合っちゃうから不思議」

 正反対な両親を思い浮かべて苦笑いしたノエルにレックスは深く頷いた。

「ノエルはノアによく似てる。僕はディノの大切な物を探すためにここに居る。良かったら手伝って欲しい」

 ディノは眠りにつく前にレックスに言った。「いつか信用に値すると思った者が現れたら、迷わず友人になりなさい。私にお前が居るように、お前にも誰かが必要なはずだ」と。

 そう言ってディノは長い眠りについてしまった。自分の願いをレックスに託して。

「もちろんだよ! それはどんな物なの? ディノの宝物って事?」
「疑わないの?」
「疑わないよ! アミナスと僕の特技なんだよ。人を見抜く才能は母さま譲りなんだ。これはバセット領の皆のお墨付きだよ」
「……」

 そう言ってニコッと笑ったノエルを見て思わずレックスも釣られて笑ってしまった。これはもう友人と呼んでもいいのだろうか?

「それに友達が困ってるのに助けなかったって知ったら、一晩豚小屋の刑食らっちゃう」
「友達? 僕の事?」
「そうだよ。これだけ一緒に旅してるんだもん! レックスはもう友達だよ! 僕はそう思ってる。アミナスなんかは家族だと思ってると思うよ」
「そっか……友達……うん、友達」

 何かを噛みしめるように言うレックスを見てノエルは笑う。じっとノエルを見てこの時の事を絶対に忘れないようにしようと心に刻んだ。
 
 
 
「いい加減戻れよ」

 オズワルドの言葉に嫌だ! と影アリスは首を振って意地でもリーゼロッテを離そうとしない。おまけにポシェットにも戻ろうともしない。

「こいつと居た事で感化されて本来の自分を取り戻しちゃったんじゃないの?」

 さっきからオズワルドと影アリスの押し問答を見ていたリアンが言うと、オズワルドは諦めたように大きなため息を落とした。
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