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第128話 鉱石で出来たドラゴン

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「本体も影も似たようなものです。お花畑のくせに頑固なのです。こうなったらもう好きにさせておくしかありません」
「そうみたいだ。はぁ、余計なことしたな」

 自分でやっておいて何だが、アリスがここまで強情だとは知らなかったオズワルドだ。

「ところでこの道は下と違って全然舗装もされてないし、絵なんかも全くないんすね」
「下は迷子になったもんね、僕たち」
「ああ。ここはディノが大急ぎで鉱夫達を逃がすためだけに作った道だから」
「そうなんすか? 逃げた鉱夫達は全員地下に移住したんじゃないんすね」
「ほとんどはこの道を通って外に出たって聞いた。ていうかお前たち迷子になったの? これやるよ」

 そう言ってオズワルドは一枚の地図をリアンに渡した。興味本位で以前来たときに大雑把に描いた地図だったが、オズワルドはもう覚えてしまったのでいらない。

「ありがと」

 リアンがポシェットに地図を仕舞っていると、キリが何の飾り気もない通路を見て腕を組んで何か考え込んでいる。

「ここは武器を運び込むには十分な広さです。やはり女王たちはあの戦争の時この道を使ってルーデリアに武器を持ち込んだのでしょうか。ここへは妖精王もAMINASの力も関与できなかったようですから」
「だね。で、おまけにこの道があることをあんたが女王たちに教えたんだよね?」

 リアンがギロリとオズワルドを睨むと、オズワルドは悪びれる事もなくコクリと頷いた。

「そうだよ。俺はあの時ここに呼ばれたばかりで何が何だかさっぱり分からなかった。お前たちが戦争をしている事も知らなかったし、ただ分かってたのは人間はクソみたいな生物だって事だけ。とりあえず力を貸して大人しくしてるのが得策だって思っただけで、別にどっちが勝っても負けても良かったんだ」
「なんで? そう思ってたならなんで最後まであっちに手貸したの? こっち来て手伝ってくれたら良かったのに~」

 頬を膨らませてアリスがそんな事を言うと、オズワルドは薄く笑う。

「そっちには妖精王が居た。いい力試しだと思ったんだ。まぁ、あいつ特に何もしなかったけど」

 気づけばアリスが主体になって戦争は終わりかけていた。結局オズワルドが味方につこうが何をしようが教会側に勝ち目はなかったということだ。

「手は出せないって言ってたよ。妖精王は生物が行う物事に関して手は直接出せないんだってさ」

 自分が手を出せば世界が終わってしまう、と妖精王はあの時言っていた。万物を愛さなければならない妖精王という存在は、自然から生まれた妖精達の長であり、この星の管理者なのだ。

「窮屈な人生観だ。俺は好きにしたい。手を貸したいと思えば貸すし、貸したくないと思えば貸さない。こんなだから妖精王の名を剥奪された。それだけだ」

 オズワルドが冷たく言い放つと、その冷えきった手をリーゼロッテが握ってきた。リーゼロッテの手はオズワルドの手とは違って柔らかくて温かくて思わずオズワルドは暖を求めるようにその手を握り返す。そんな光景を見ていたアリスがニカッと笑った。

「私、根拠はないけど何となくオズは星の管理者向いてると思うけどな」

 アリスの言葉にリアンもコクリと頷く。

「僕もそう思う。あんた物知らないだけで十分優しいじゃん。好き嫌いが激しいってだけでさ」
「でもその好き嫌いで判断したらえらい事になると思うっす」
「そうかな? そうでもないと思うよ。自分の好きなものだけ寄せ集めて星創りゃいいじゃん。あんたは誰かの星を譲り受けるのは向いてないよ。でも自分で星を創るのは向いてると思うよ。誰かの真似はあんたには向いてない」
「そうだ! 全部終わったらいつか新しい星創ってディノ連れてってあげなよ! 二人で新しい理想の星創ればいいんだよ!」

 二人は方向性は全く違うけれど、共に志は同じだったのではないだろうか。だからこそ共鳴し合ったのだろう。

 リアンとアリスの言葉にキリもリーゼロッテも頷く。

「それは良い案かもしれません。オズワルドは愛がない訳ではありません。あなたは自分で納得しなければ愛せない、ただそれだけです」
「わ、私もそう思うよ、オズ。だってオズは私を助けてくれたもん。終わりかけだった私のシナリオを書いてくれたの、オズだもん!」

 リーゼロッテがオズワルドの手を握りしめて言うと、オズワルドは困ったように眉を下げた。

「それは、あいつらが奴隷が居ると楽しいって言ったからなんだけど」
「それでも! オズは私を打たない! 変な事もしない! ご飯も食べていいよって言ってくれる。手も……握ってくれる……」
「……それは当然だろ?」
「当然じゃない。奴隷はゴミと一緒だよ。好き勝手遊んで要らなくなったら壊して捨てる。撫でたり慰めたりそんな事しない」
「ほらね! リゼちゃんがこんなに懐いてんだもん。やっぱオズは私達の敵なんかじゃないよ! 妖精王は何を勘違いしたのかなぁ?」

 何故妖精王が猫になってしまう羽目になったのか本気で謎である。

「俺が敵? あいつそんな事言ってるの?」
「うん。次見つかったら殺されるーって」
「殺されかけたのは俺だよ。急に怒鳴り込んで来て俺を消そうとしたんだぞ? だから咄嗟にあいつの魔力を封印したんだよ。そしたら泣きながら猫になって逃げたんだ。別に俺はあいつの敵じゃないよ」
「えぇ? ……妖精王と言ってる事全然違うじゃん……あいつ何なの? 嘘つきなの?」
「今の話聞く限り話を捏造した挙げ句盛ったってとこっすかね」
「それを嘘って言うんだよ! じゃあちょっとあいつに魔力返してやってよ、オズワルド。あいつのせいでチビ達が巻き込まれて困ってるんだよ」
「別にいいよ。でも俺を消さないように約束はしてほしい。俺はまだこの世界を見てたい」
「それはもちろんだよ! 私が説教しとく! だからオズはゆっくり見て回りなよ。そだ! バセット領おいでよ! バーベキューしよ!」
「あんたはほんとに何でもバーベキューに持ってこうとするんだから! こいつじゃないけど、ルーデリアも見て回るといいよ。商会には出せない料理とかお菓子とか沢山あるから。それにしてもほんとこの道何もないね。ただの道なんだ」
「うん。もうすぐ行き止まり」

 オズワルドがそう言って道の先を指差すと、そこには紫色の扇型の何かが土台にしっかりと固定されていた。

 アリスがはしゃいでそれに近寄って触ろうとした所ですぐさまキリに止められる。

「何かも分からないのに安易に触るなとあれほど言ってるでしょう⁉ オズワルド、これは何です? 触っても大丈夫ですか?」
「それはディノの鱗だよ。触ったら眼が反応してメイリングに一直線」
「あっぶな! あんた本当に分かんない物に好き勝手触んの止めな⁉」

 思わず震えたリアンにアリスはしょんぼりと項垂れて頷くが、興味はディノの鱗に釘付けだ。

「これ何で出来てるの? 私にはアメジストに見えるんだけど」
「アメジストだよ。眼はラピスラズリで翼はアメジスト。ディノの身体はありとあらゆる鉱石で出来てる」
「すっご! 動いて喋る鉱石! 奇跡か!」
「その頃地上には植物と石しか無かった。だから苦肉の策だよ」

 そうは言いつつも鉱石で出来たドラゴンが空を飛ぶ姿が見たいオズワルドだ。だからこそこの星がディノの星だと知って嬉しかったというのに。

「ではこれが装置の中間を繋ぐ役割をしている訳ですか。ということは向こう側に同じものがあるという事か……。ところでオズワルド、こちらの鱗の出口の設定は今はメイリングなんですよね?」
「そう。お前、もしかしてあちら側の出口の設定変えようとしてる?」
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