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第129話 厚かましい人たち

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「はい。女王に出口の変更が出来たのなら簡単なのでは? と思ったのです。もう片方の出口もこちらのシュタではなく、メイリングに繋ぐことは可能ですか?」
「出来るよ。設定しとこうか?」
「え、そんな簡単にホイホイ変えられるの?」

 リアンが不思議そうに言うと、オズワルドはコクリと頷いた。

「簡単だよ。ここで魔法さえ使えればね」
「あ、それであちらのシュタの設定だけを変えたんすか!」
「そういう事。あっちはまだ坑道に入る前に眼が置いてあったからそこから弄れたんだ。でもここのはそうはいかない。妖精の加護がある者にはここの設定は弄れない。まぁあいつらにはその方が都合が良かったんだろうけど」

 言いながらオズワルドは鱗に触れて魔力を注ぎ込む。すると鱗は光り設定が描かれた魔法式が浮かび上がった。オズワルドはその一部を消して書き換えていく。

「はい、これで完了。あちら側の鱗の出口をメイリングの山奥に設定してやったよ」
「ありがとうオズ! よし! これで兄さま達に報告出来る――ん? なんだこれ」

 飛び跳ねたアリスはオズワルドの手を掴んでふと視線を下に落とした。鱗が置いてある台座に何かを削った跡があったのだ。よく見ると削った跡は裏側に続いている。それを辿ったアリスは台座の裏側に回って目を丸くした。

「こんなとこにも日本語だ!」
「なに? また下品なやつ?」
「ううん、今度のはまともなやつ。えっとね『これからどうすればいいのか分からない。俺だけが知る言葉もあの箱も、どうしてこんな事になってしまったのかも分からない。ディノ、せめて俺を食べてくれ。そして俺を死んだ弟に会わせてくれ』……だって」
「……なんすか、その悲壮な文は……」
「悲壮ですが何故こんな所にそんなものを残したのでしょうか」
「……誰かに気づいてほしかったんだよ、きっと。いっぱい辛い思いしたんじゃないのかな……写真撮っとこ。大丈夫だよ、誰かさん。ちゃんと読めたよ。もう悲しまなくていいよ」

 アリスは文字を写真に撮ってそっと台座を撫でた。すると不思議な事に文字は一瞬にして掻き消えてしまう。

「……消えちゃった……えっ! なんで⁉」
「そういう魔法がかかってたんだ。誰かが読んだら消える仕掛けになってただけ。表のは消そうとして台座を削ったけど消えなかったんじゃないか?」
「なるほど。消せないから削ろうとしたって事か。酷いことするんだから!」

 眉を寄せるリアンにオリバーも頷く。これはほぼ遺書ではないか。それを削ろうとするなんて……そこまで考えてオリバーはハッとした。

「もしかして今の文、何かめちゃくちゃ重要なんじゃないっすか?」
「なんで?」
「だって、削ろうとしたって事は見られちゃ困る内容だったって事っすよね?」
「言われてみればそだね。ちょっとアリス、写真見せてよ」
「うん。はい、これ」

 アリスはそう言ってリアンに写真を見せた。それを横からキリも覗き込んでいる。

「この箱とは何の事なんでしょう? 文字というのはお嬢様にだけ読める日本語とやらの事でしょうか?」
「何の事だかさっぱり分かんないけど、とりあえず僕たちも地上に戻ろ。もしかしたら外では何か進んでるかも」

 リアンの言葉に仲間たちは真剣な顔で頷いて一斉にオズワルドを見る。そんなアリス達にオズワルドはまた声を荒らげたのだった。

「ほんっとうに厚かましいな!」

 と。
 
 
 
 その頃地上組は全員でバセット領にいた。アーロに秘密箱の詳しい話を聞くためだ。

「災いの箱が3つ揃ったのか……」
「うん。で、2つの箱は開いたよ。残りはキャスパーのなんだけど、どうやら鍵はキャスパーがずっと持ってたみたいなんだよね」

 そう言ってノアは3つの秘密箱を机の上に置いた。2つの箱は既に開いていて中には動物を象ったパズルとピンが入っている。

「壊してはいけないのか?」

 アーロが問うと、すぐさまカインが首を振った。

「壊れないんだ。キャロラインがこれの上に氷柱を突き刺してもライラちゃんが雷ぶち当てても無理だった。多分そういう魔法がかかってるんだと思う」
「なるほど。ではキャスパーが持っている鍵を手に入れるしか無いということか。しかしキャスパーはまだ木に吸われたままだぞ?」
「ああ。だから困っている。アーロはこの箱について何か他に知っている事はないか?」

 途方に暮れるルイスにアーロは腕を組んで考え込んだ。

「そもそも俺が教会側についた時には既にこの箱はあったんだ。以前言ったようにアメリアはこの箱を災いの箱と呼び、エミリーとキャスパーにそれぞれ預けていたが元々はこの箱はある男が持っていて、それを教会が取り上げたという噂がメイリングで流れていたぞ」

 アーロの言葉にノアとカインは同時に首をひねる。また新たな謎だ。

「それは一体誰なんだろ? ていうかアーバンの母親も早く探してやらないと。時間はもうあんま残って無さそうだ」
「ああ。俺もすぐにラルフ王に連絡をとる」
「エリスさんにもお知らせした方がいいと思うわ。あの方なら王よりも自由に動き回れるのではない?」
「そうだな! では俺はラルフ王とシャルルに知らせる。ノア、勇者エリスへの連絡は任せたぞ」
「分かった。ん? ミアさん、どうかしたの? ライラちゃんも」

 それまで皆の話を黙って聞いていたライラとミアが互いにスマホを持って固まっている。それに気づいたノアが声をかけると、恐る恐るミアとライラがスマホをこちらに見せてくれたのだが、それを見て珍しくノアまで絶句してしまった。

「よりにもよってどうしてこんな事に……?」
「どうしたの? 一体何が――え? ……えっ⁉」

 二人のスマホを覗き込んだキャロラインは驚きすぎて思わず二度見をしてしまったが、ミアにキリから届いた写真にはアリスが二人で左右対称にキメッ! をして写っていた。そしてライラに届いたリアンから送られてきた写真にはアリスとオズワルドの間に恥ずかしそうにピンクの髪の女の子が笑って写っている。

「ちょっと待って、僕もう頭痛い。誰か頭痛薬持ってない?」

 こめかみを押さえてノアが言うと、そんなノアのスマホが鳴った。相手はアリスだ。ノアが急いで電話に出て怒鳴る前にアリスの元気な声が聞こえてくる。

『兄さま~! 今からバセット領に帰るよ~。オズとリゼちゃん連れてくからうちでバーベキューの用意しといて~! ふぅ~!』
『……ノア様、大変申し訳ないのですがそういう事なのでよろしくお願いします。あ、それから俺とリアン様とモブさんの影は無事に戻りました』
「え? は? ちょっとどういう事⁉ 何がどうなってんの――切れた……」

 一方的に電話を切られたノアは愕然としながら顔を上げて引きつった笑顔を浮かべる。

「皆、今日はパーティーだよ。今すぐうちに帰ってバーベキューの準備しよう」

 突然そんな事を言いだしたノアに皆は一瞬首を傾げて見せたが、ここに今度はカインにルークからビデオ電話が入った。

「ルーク? どうした? 何かあったのか?」
『うん、それが……あの、じいちゃん見つかって、それでちょっと話したいことあるから連れて帰るよ』
「え? なに? どういう事? ていうか俺たち今バセット領なんだけど、お前らも来るか?」

 カインの問にルークは戸惑ったように視線を泳がせたが、何か思いついたようにコクリと頷く。

『皆一緒の方がいいかも。それじゃあそうする。他の皆にも伝えとくよ』
「ああ、それじゃあまた後で」
『うん。あの……父さん、あんまじいちゃん怒んないでやってね』

 不安げなルークの声にカインは何かを察した。どうやらまた妖精王は何かしでかしたらしい。
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