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第140話 鋼鉄メンタルアリス再び

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「ああ、ミアは相変わらず可愛いな。キリ、お前は果報者だ」
「はい、それは俺が一番よく知っています。なのでティナさん、ミアさんにはあまり近づかないでください。あなたの女子限定と一部の男子への魅了は危険です」

 ティナは高位の白魔法を使うが、それとは別に何故か異様に女子にモテるというステータスがついている。魔法ではないので、おそらくティナの性格や言動がそうさせるのだろう。

 そっとミアを自分の後ろに隠したキリを見てティナが笑った。

 そんなティナを横目にエリスはがっくりと項垂れて大きなため息を落とす。

「はぁぁ……やっと休めると思ったのに……これでアミナスまで戻ったら地獄だな」
「師匠、大丈夫です。ノエルとレオとカイとレックスが居ます。味方の方が多いです」

 さほど大きな声ではなかったけれど、しっかりとキリには聞こえていたようだ。

「まぁそうなんだけどな。アリス一人に俺たち3人でも手焼いたろ?」
「……確かに」

 おまけにそこに妖精王も混ざるのだと思うと少しだけこの采配を下したノアを恨みそうである。どう考えても問題児ばかりを押し付けられた感が否めない。

「で、どうしたんだ?」
「それが――」

 キリは玄関先で手早くエリスに事情を説明したが、それを聞いたエリスはがっくりと項垂れている。

「完全にハズレくじ引いてるじゃねぇか……」
「エリス、何をごちゃごちゃ言っている。もうじきアミナスが戻るぞ。ノエル達にも連絡しておいてやらないと」
「そうだな。ただうちの家にはそんな部屋数は無いんだが」
「大丈夫だよ! 私達ちゃんとテント持参してるから師匠、庭貸して!」
「お前、野営する気満々で来たのかよ。まぁ庭はいくらでも使えよ。花壇は荒らすなよ」
「はぁ~い! じゃ、ちょっと買い物行ってくるね! おっにく~おっにく~大陸のお肉はどんな味~?」
「お嬢様、まさかとは思いますがここでバーベキューするつもりじゃありませんよね?」
「まさかまさか! 流石の私もそんな立て続けにバーベキューしたら胃もたれするよぅ。だから今日はあっさりめに牛肉のタタキ作るつもりだよ! ぎゃん!」
「肉塊である事に変わりはありません! ミアさん、後で一緒に買い出しに行きましょう。お嬢様は柱に縛り付けておきます」
「は、はい」

 そんなやりとりをしばらく見ていたエリスとティナは顔を見合わせて苦笑いする。

「お前らは何年経っても変わらねぇなぁ」
「全くだ」

 ティナは笑いながらアミナスにアリス達が来ている事を伝えると、すぐさま返信が戻ってくる。

 しばらくして――。
 

「母さま~~~~~~~!!!!!」
「ほれ、煩いのが帰ってきたぞ」
「!」

 エリスの声にアリスはハッと顔を上げて視線を前方に向けると、通りの向こうからアミナスが物凄い勢いでこちらに向かって走ってくる。その後を追ってくるのはノエル達だ。

「アミナスぅぅ! ノエルぅぅぅ!」

 アリスも叫んだ。愛しい息子と娘だ。今すぐにでも抱きしめたい。

「母さまぁ~! とうっ!」
「ぐふっ!」

 アリスは弾丸のように飛びついてきたアミナスにどうにか耐えて微笑む。やはりアミナスは自分にそっくりだ。

 やがて遅れてやってきたノエルはアリスに飛びついてきたりはしないで、アリスの前で立ち止まってアリスを見上げて言った。

「……母さま、どうして吊るされてるの? 今度は何したの?」

 と。ノエルはやっぱりノア似だ。

「いやぁ~牛肉のタタキ作ろうとしたらキリに吊るされちゃって。ノエル、ちょっとこれ解いてくれない?」

 アリスがお願いするとノエルはちらりとエリスとティナを見て、二人が頷いたのを見てようやくアリスを吊るしている紐を解きにかかってくれた。

「かったい! レックス、ごめんちょっとここ持ってて」
「分かった。切ったほうが早い?」
「かもしれない。レオかカイ、切るもの持ってない?」
「すみません、持ってません」
「持ってても貸しません」

 アリスはすぐに暴れるからそのまま吊るしておいた方がいいと判断したカイの言葉にノエルが苦笑いを浮かべていると、突然アミナスが何を思ったかアリスを吊るしているロープを齧り始めた。

「ちょ、何してんの! こんな太いの歯で切れる訳――」
「切れた!」

 そう言ってアミナスがアリスから飛び降りた途端、アリスがボトリと落ちた。

 唖然とするエリスと子どもたちを他所に今度はアリスが「ふんぬっ!」と言って両手を縛っていたロープをひっぱると、ブチブチブチと音を立ててロープは無残にも引きちぎられてしまう。

「おお! 子どもたちよっ! 昨日ぶりっっ!!!」
「……」

 アリスはまるで何事も無かったかのように両手を広げて子どもたちを全員無理やり抱きしめると、その頬にキスして回ったけれど、アミナス以外は完全に硬直してしまっている。

「アリス、子どもたちの顔見てみろ」
「え?」

 見渡すと確かに子どもたちは完全に棒立ちである。

 けれど鋼鉄のメンタルを持つアリスはそれを感動したのだと受け取った!

「そっかそっか! 皆私に会えて言葉を失う程喜んでくれるなんて! 私も嬉しいよっ!」
「……母さま、苦しい」

 ギュウギュウ抱きしめられるノエルが無の表情で言うと、そんなノエルの手を心配したようにレックスが握って引っ張ってくる。

「あ、大丈夫だよレックス。これいつもの事だから。今までにも何回か僕たち母さまに抱きしめられすぎて落とされてるから」
「え」
「ちなみに俺たちもたまに落とされます。レックスも気をつけてください。奥様が本気を出したら骨も砕けますよ」
「怖い」
「大丈夫です。今の所骨を折られた方は居ません」
「……」

 昨夜はアリスはディノと似ているかもしれないと思ったが、どうやらその考えは改めた方がいいかもしれない。そう思うのにディノはそんなアリスをおかしそうに眺めているのが分かる。

「ところで奥様、どうしてここに?」
「うん、えっとねー……そう! クロちゃんがまた余計なことしでかさないか見張りにきたんだよ!」
「我をか⁉」
「うん!」
「何故⁉」
「だって、クロちゃん余計な事ばっかするし、話盛るし皆に迷惑かけるからねっ! キメッ!」

 本当はノエルが隠し事をしているのを見張っているように言われた訳だが、アリスはノエルの事をノアとキリと同じぐらいに信頼しているので、一番信用できない妖精王を見張るつもりで来ている。

 決して本来の目的を忘れている訳ではない!

「な、なにおぅ! 何がキメッ! だ! 我を誰だと思っているのだ!」
「でも本当の事でしょ? な~んにも言い返せないよね?」
「ぐぬぅぅぅ」
「そっか~! 母さまだけ来たの?」
「ううん。キリとミアさんも来てるよ。だからクロちゃん、さっきの私みたいになりたくなかったら余計な事しちゃ駄目だゾ!」

 アリスはそう言って魔力が戻ってもまだ黒猫の姿で居る妖精王の鼻を指先で突く。

「父さんと母さんも来てるんですね。アニーは?」
「アニーは危ないから乳母ーズのとこだよ」
「そうですか」

 それを聞いてホッと胸を撫で下ろした双子を見てアリスはニコニコしながら頷いた。そこへ買い物に出かけていたキリとミアが戻ってくる。

「ただいま戻りました。皆ももう帰っていたんですね。ところでお嬢様、どうして縄が解けているんです?」
「解いてくれたんだもん!」
「アミナスがね」
「最後は自分で引きちぎってた」

 胸を張って言うアリスにノエルとレックスが注釈を入れてくる。それを聞いてキリはチラリとアリスを見ていつものようにゲンコツを一つ落として家に勝手に入っていく。その後をぞろぞろと皆がついていった。
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