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第141話 昔話と点在する日本語
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「賑やかだな、エリス」
「全くだ。これはあれだ。子供達の家族がいっぺんに遊びに来た感覚に近いな」
「ははは! 本当だな。私は嫌いじゃないぞ」
「そうか? まぁティナがそういうならいいか。キリ! 何作るんだ? 俺たちも手伝おうか」
「あ、大丈夫です。お爺さんたちはそこらへんで孫と遊んでいてください」
「お、お爺さん……お、お前……言っとくがそれは気持ちの上での話で別に本当に俺はお前たちの父親になった訳じゃ――」
言いながら家に入っていくエリスを見ながら、まだぼんやりしているレックスの背中をそっとティナが押した。
「お前も入れ。家族だろう?」
「家族?」
「そうだ。外は冷える。温かい物を皆で食べよう」
「……うん」
胸の中がじんわりとする。鉱石で出来た心臓はいつだって冷たいはずなのに。レックスは思わず胸を押さえてティナに手を引かれて家に入った。
城に戻ったルイスとキャロラインは戻ってきていた蒼の騎士団から集まった情報をルーイとユーゴから聞いていた。
「でぇ、コレが女王が居たとこと元教会にあった日本語だよぉ。俺たちは読めないけどぉ、なんかこの言葉を解読しようとしてたみたいなんだよねぇ」
ユーゴは持ち帰った紙切れの切れ端と机に彫られた日本語の写真をルイスに見せた。続いてルーイも日本語が彫られた木の板を机の上に置く。
「こちらはシュタの隣町で見つかったものです。やはり日本語が使われています。持ち主の家は昔商店をやっていたそうで、あの昔話についても知っていると言っていました」
「なるほど。キャロ、やはり思った通りこの言語があちこちに散らばっているようだ。ノアに頼んで言語表を作ってもらうか」
「ええ、それがいいかもしれないわ。それにしてもちょっと探してきてもらっただけでこんなにも出てくるなんて。ノアの言う転生者は一人ではないという事かしら?」
「どうなんだろうな。転生者が一人でも、それを誰かに伝えた可能性もある」
「そうね。だとしたら既にその転生者自身はもう居ないかもしれないわね」
「ああ。言語と技術だけが引き継がれた可能性もあるな。よし、もう少し騎士団に周ってもらって、父さん達にも少し聞いてみるか」
「ええ」
はりきりだしたルイスを見てキャロラインは目を細めた。出会った頃のルイスはそれはもう泣き虫で、こんなのが将来王様になるのかと思っていた。学生時代はとても傲慢になってしまって、自分は王妃になるのだからそれに相応しくあろうとして感情を殺して人形のように生きていた。
けれど今のルイスはどうだ。アリスに言わせればまだおが屑だ! と言われるかもしれないが、随分頼れる存在になったと思うのだ。その証拠にどこへ行ってもルイスの評判は良い。庶民も貴族も分け隔てなく付き合うルイスの柔軟さがどこへ行っても評価されるようになったのだ。
キャロラインはそっとルイスの背中を撫でた。そんなキャロラインの突然の行動にルイスは驚いて振り返る。
「ど、どうした? 突然。はっ! べ、別にキャロの事を蔑ろにしている訳ではないぞ⁉ さっさと厄介事を終わらせたらまた家族でどこかへ行こうな! それまでしばらく忙しいが、俺は家族が一番大事だといつも思っているから!」
突然のキャロラインの行動にふと過ぎったのはノアのセリフだ。「あんまり蔑ろにしてたらそのうち逃げられるよ」という呪いのようなセリフを思い出して、ルイスは慌ててキャロラインを抱きしめて早口で言う。
「どうしたの? 突然。ふふ、知ってるわよ、ルイス。私もあなた達が一番大切よ」
テオとの一件依頼、改めて家族の大切さを思い知ったキャロラインだ。大事な人ほどちゃんと言葉にして伝えなければならない。キャロラインはそっとルイスに抱きついて、随分頼もしくなった胸に頬を寄せた。
「皆、久しぶりっす!」
「おお! 来たか、友よ!」
最初の頃に比べて随分大きくなった商隊馬車を覗き込んだオリバーが中で必死の形相で事務仕事をしていたダニエルに声をかけると、ダニエルはすぐさま顔を上げて嫌味なほど爽やかな笑顔を浮かべた。
「なんすか、その書類の山。エマは?」
「それがな、どっかの誰かさん達が提案したリサイクルがバカウケしててな! 皆あっちに駆り出されてんだよ!」
「そうなんすね。じゃあドロシーもそっち手伝ってくるっすか?」
オリバーが振り返ると、ドロシーはサシャを抱っこしたまま大きく頷く。
「そうしようかな。アリアもそっちに居るの?」
「ああ。サシャはアリアに任せとけよ。屋敷に集まってくるドレスやら家具やらの選定してきてくれ。あと赤ちゃん用のおもちゃとかも結構あるみたいだから好きなの持ってっていいぞ」
「分かった! それじゃあオリバー、ちょっと行ってくるね」
「っす。気をつけて。何かあったらすぐ連絡して」
「うん!」
そう言って嬉々してドロシーはサシャを連れて王都のど真ん中にあるチャップマン商会の本拠地に行ってしまった。そんなドロシーにそれまでにこにこしていたダニエルだったが、ドロシーが居なくなった途端につかつかと怖い顔をしてオリバーに近寄ってくる。
「な、なんすか」
「いや、俺はまだドロシーとお前が結婚して子供まで作った事を認めてないだけだ」
「まだそんな事言ってんすか⁉ どんだけっすか! フィリップス家の人たちだってもうそんな事言わないんすけど⁉ てか、サシャにメロメロなんすけど⁉」
鼻と鼻がくっつきそうなほどジリジリ近寄ってくるダニエルにオリバーが後ずさると、背中が何か柔らかい物に当たった。振り向くとそこにはリアンが意地悪な笑みを浮かべている。
「モブ、一生言われると思うから覚悟してなよ。よ! ダニエル久しぶり」
「リアン! お前はちっとも顔出さねぇな! なんだ、ちょっとデカくなったか?」
「この歳で身長なんて変わるわけ無いでしょ。バカなの?」
「相変わらずだよ、お前は。ライラもいんじゃん! よお、久しぶり!」
「ええ、久しぶりね、ダニエル。また書類の山に埋もれてるの? そんなアリスじゃないんだから、いつまでも手抜きしてちゃ駄目じゃない」
「いや、これ俺の本気出したスピードなんだけど……?」
相変わらず悪気のないライラの一言にダニエルがひきつると、リアンが腕を組んで笑う。
「ムリムリ。ライラは普段、変態とか宰相の書類さばき見てるからね。ちょっとやそっとのスピードじゃ納得しないよ」
「あいつらと比べんなよ! で、本題なんだが言われてたもん俺たちも探したけど、まぁ出るわ出るわ。結構あちこちに地底人の話は残ってんぞ」
「地底人って。まぁいいけど。とりあえずお茶の一つぐらい出してよ」
話しだそうとしたダニエルを止めてリアンがソファに座りながら言うと、ダニエルは苦虫を潰したような顔をして立ち上がる。
「こいつ本当に俺の従兄かよ? 何でこんな王族みたいになってんだ?」
「学生の頃からリー君はルイスの部屋が一番落ち着くとか言ってたんで今更っすよ。あと何かこういう態度この人似合うんすよね。てか、方向性は違えどあんた達そっくりっすよ」
「私もそう思うわ。安心して、ダニエル」
決して褒め言葉ではないがどこまでも天然なライラにダニエルは大きなため息をついて馬車を出ていった。
ダニエルがお茶の準備をして馬車に戻ると、机の上には何故か色んなお菓子が用意されている。
「なんだ、お前ら菓子持ってきてたのかよ」
「何か商隊の皆がくれた。僕が来るの珍しいからじゃないの」
シレっとリアンが言うと、それを聞いてオリバーは呆れたように白い目をリアンに向ける。
「全くだ。これはあれだ。子供達の家族がいっぺんに遊びに来た感覚に近いな」
「ははは! 本当だな。私は嫌いじゃないぞ」
「そうか? まぁティナがそういうならいいか。キリ! 何作るんだ? 俺たちも手伝おうか」
「あ、大丈夫です。お爺さんたちはそこらへんで孫と遊んでいてください」
「お、お爺さん……お、お前……言っとくがそれは気持ちの上での話で別に本当に俺はお前たちの父親になった訳じゃ――」
言いながら家に入っていくエリスを見ながら、まだぼんやりしているレックスの背中をそっとティナが押した。
「お前も入れ。家族だろう?」
「家族?」
「そうだ。外は冷える。温かい物を皆で食べよう」
「……うん」
胸の中がじんわりとする。鉱石で出来た心臓はいつだって冷たいはずなのに。レックスは思わず胸を押さえてティナに手を引かれて家に入った。
城に戻ったルイスとキャロラインは戻ってきていた蒼の騎士団から集まった情報をルーイとユーゴから聞いていた。
「でぇ、コレが女王が居たとこと元教会にあった日本語だよぉ。俺たちは読めないけどぉ、なんかこの言葉を解読しようとしてたみたいなんだよねぇ」
ユーゴは持ち帰った紙切れの切れ端と机に彫られた日本語の写真をルイスに見せた。続いてルーイも日本語が彫られた木の板を机の上に置く。
「こちらはシュタの隣町で見つかったものです。やはり日本語が使われています。持ち主の家は昔商店をやっていたそうで、あの昔話についても知っていると言っていました」
「なるほど。キャロ、やはり思った通りこの言語があちこちに散らばっているようだ。ノアに頼んで言語表を作ってもらうか」
「ええ、それがいいかもしれないわ。それにしてもちょっと探してきてもらっただけでこんなにも出てくるなんて。ノアの言う転生者は一人ではないという事かしら?」
「どうなんだろうな。転生者が一人でも、それを誰かに伝えた可能性もある」
「そうね。だとしたら既にその転生者自身はもう居ないかもしれないわね」
「ああ。言語と技術だけが引き継がれた可能性もあるな。よし、もう少し騎士団に周ってもらって、父さん達にも少し聞いてみるか」
「ええ」
はりきりだしたルイスを見てキャロラインは目を細めた。出会った頃のルイスはそれはもう泣き虫で、こんなのが将来王様になるのかと思っていた。学生時代はとても傲慢になってしまって、自分は王妃になるのだからそれに相応しくあろうとして感情を殺して人形のように生きていた。
けれど今のルイスはどうだ。アリスに言わせればまだおが屑だ! と言われるかもしれないが、随分頼れる存在になったと思うのだ。その証拠にどこへ行ってもルイスの評判は良い。庶民も貴族も分け隔てなく付き合うルイスの柔軟さがどこへ行っても評価されるようになったのだ。
キャロラインはそっとルイスの背中を撫でた。そんなキャロラインの突然の行動にルイスは驚いて振り返る。
「ど、どうした? 突然。はっ! べ、別にキャロの事を蔑ろにしている訳ではないぞ⁉ さっさと厄介事を終わらせたらまた家族でどこかへ行こうな! それまでしばらく忙しいが、俺は家族が一番大事だといつも思っているから!」
突然のキャロラインの行動にふと過ぎったのはノアのセリフだ。「あんまり蔑ろにしてたらそのうち逃げられるよ」という呪いのようなセリフを思い出して、ルイスは慌ててキャロラインを抱きしめて早口で言う。
「どうしたの? 突然。ふふ、知ってるわよ、ルイス。私もあなた達が一番大切よ」
テオとの一件依頼、改めて家族の大切さを思い知ったキャロラインだ。大事な人ほどちゃんと言葉にして伝えなければならない。キャロラインはそっとルイスに抱きついて、随分頼もしくなった胸に頬を寄せた。
「皆、久しぶりっす!」
「おお! 来たか、友よ!」
最初の頃に比べて随分大きくなった商隊馬車を覗き込んだオリバーが中で必死の形相で事務仕事をしていたダニエルに声をかけると、ダニエルはすぐさま顔を上げて嫌味なほど爽やかな笑顔を浮かべた。
「なんすか、その書類の山。エマは?」
「それがな、どっかの誰かさん達が提案したリサイクルがバカウケしててな! 皆あっちに駆り出されてんだよ!」
「そうなんすね。じゃあドロシーもそっち手伝ってくるっすか?」
オリバーが振り返ると、ドロシーはサシャを抱っこしたまま大きく頷く。
「そうしようかな。アリアもそっちに居るの?」
「ああ。サシャはアリアに任せとけよ。屋敷に集まってくるドレスやら家具やらの選定してきてくれ。あと赤ちゃん用のおもちゃとかも結構あるみたいだから好きなの持ってっていいぞ」
「分かった! それじゃあオリバー、ちょっと行ってくるね」
「っす。気をつけて。何かあったらすぐ連絡して」
「うん!」
そう言って嬉々してドロシーはサシャを連れて王都のど真ん中にあるチャップマン商会の本拠地に行ってしまった。そんなドロシーにそれまでにこにこしていたダニエルだったが、ドロシーが居なくなった途端につかつかと怖い顔をしてオリバーに近寄ってくる。
「な、なんすか」
「いや、俺はまだドロシーとお前が結婚して子供まで作った事を認めてないだけだ」
「まだそんな事言ってんすか⁉ どんだけっすか! フィリップス家の人たちだってもうそんな事言わないんすけど⁉ てか、サシャにメロメロなんすけど⁉」
鼻と鼻がくっつきそうなほどジリジリ近寄ってくるダニエルにオリバーが後ずさると、背中が何か柔らかい物に当たった。振り向くとそこにはリアンが意地悪な笑みを浮かべている。
「モブ、一生言われると思うから覚悟してなよ。よ! ダニエル久しぶり」
「リアン! お前はちっとも顔出さねぇな! なんだ、ちょっとデカくなったか?」
「この歳で身長なんて変わるわけ無いでしょ。バカなの?」
「相変わらずだよ、お前は。ライラもいんじゃん! よお、久しぶり!」
「ええ、久しぶりね、ダニエル。また書類の山に埋もれてるの? そんなアリスじゃないんだから、いつまでも手抜きしてちゃ駄目じゃない」
「いや、これ俺の本気出したスピードなんだけど……?」
相変わらず悪気のないライラの一言にダニエルがひきつると、リアンが腕を組んで笑う。
「ムリムリ。ライラは普段、変態とか宰相の書類さばき見てるからね。ちょっとやそっとのスピードじゃ納得しないよ」
「あいつらと比べんなよ! で、本題なんだが言われてたもん俺たちも探したけど、まぁ出るわ出るわ。結構あちこちに地底人の話は残ってんぞ」
「地底人って。まぁいいけど。とりあえずお茶の一つぐらい出してよ」
話しだそうとしたダニエルを止めてリアンがソファに座りながら言うと、ダニエルは苦虫を潰したような顔をして立ち上がる。
「こいつ本当に俺の従兄かよ? 何でこんな王族みたいになってんだ?」
「学生の頃からリー君はルイスの部屋が一番落ち着くとか言ってたんで今更っすよ。あと何かこういう態度この人似合うんすよね。てか、方向性は違えどあんた達そっくりっすよ」
「私もそう思うわ。安心して、ダニエル」
決して褒め言葉ではないがどこまでも天然なライラにダニエルは大きなため息をついて馬車を出ていった。
ダニエルがお茶の準備をして馬車に戻ると、机の上には何故か色んなお菓子が用意されている。
「なんだ、お前ら菓子持ってきてたのかよ」
「何か商隊の皆がくれた。僕が来るの珍しいからじゃないの」
シレっとリアンが言うと、それを聞いてオリバーは呆れたように白い目をリアンに向ける。
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