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第149話 突然の訪問者

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「分かりました。食事はどうします?」
「あー……まぁ目の前に置いてあげれば食べるんじゃない? 手が使えないから皿からじかに食べなきゃだけど。どこまでプライドへし折れるか見ものだなぁ」

 ノアはそんな事を言いながら牢を出ていく。その後をルイスとカインが慌てて追ってきた。

「あまりそうは見えないが、お前もしかして相当怒っている……のか?」

 ルイスの執務室に戻る途中ルイスが言うと、ノアはニコッと笑って振り返った。

「もしかしなくても相当怒ってるよ。何せ家族を巻き込んだんだからね。何よりも子ども達まで巻き込んだのを僕は許せない。君たちは違うの?」

 真顔に戻ったノアが言うと、ルイスとカインの顔つきが変わる。

「そうだな。ノアの言うとおりだ」
「でもそれが戦争なんだよな。いつだって一番に被害に遭うのは子どもたちや国民なんだよ。俺たちはそうなる前に手を打たなきゃならない。残酷だとは思うしルイスの気持ちも分かるけどな」
「それで、さっきの質問なんだがどうしてあんな牢に? 人員を割かない為だけだったら縛るだけで良かったんじゃないのか?」
「色仕掛けをさせない為だよ。転がってる石に誰も欲情なんてしないでしょ? 神の妻が聞いて呆れるほどあの人は貞操観念緩いからね。今頃レヴィウス城でもあそこの指導者もろとも掴まってんじゃない? 内通者があの教会に居たのは明白なんだから」
「聞こえないし見えないんだからそこまでする事ないんじゃない? とは俺も言ったんだぞ? でもこいつ、一度決めたらテコでも動かないじゃん、昔から」

 けれどやっぱりそこまでやっておいて良かったと後からいつも思うので、相変わらずノアのエグい牢造りにサインをしたカインだ。

「あとはね、この間も言ったけど精神を壊すためだよ。人間ってね、光を遮断して孤独になるとおかしくなる。でもそれよりも手っ取り早いのが、硬くて冷たい物で身体の自由を奪う事なんだよ」
「そ、そうなのか?」
「そうだよ。皮膚から受ける感触って大事でね、柔らかくて温かい物に触れてるとホッとするけど、冷たくて硬い物をずっと触ってると苦しくなってくるんだ。どんどん思考がネガティブな方に向かう。それはどんな生き物でもそうだよ。おまけに身体が動かせないのは相当なストレスになる。だからあの牢はうってつけなんだよ」
「そ、そうか……色んな思惑が詰まった牢なんだな」

 ポツリと呟いたルイスにノアは笑った。

「まぁでもこの牢の話はここだけの話にしておいて。アリスとか子どもたちには絶対に言わないでね」
「俺もフィルとルークには知られたくないなぁ」
「嫌われたくない人達だな。誰にも言わん、安心しろ。というか言えんわ!」

 死んでもキャロラインにも絶対言わない! ルイスは心にそう誓って執務室に戻った。

「それにしても、やっぱりアメリアはモルガナに会いに行ってたんだね」
「ん? 知らないと言っていなかったか?」

 ノアの言葉にルイスが首をかしげると、カインが首を横に振った。

「アメリアが老婆になってる事を知ってただろ? 戦争の後に会ってなきゃそんな事知らないはずだ」
「……確かに」
「居場所を知らないっていうのは本当かもだけどね。でもヒントは知ってるかもしれない」

 そう言ってノアは地下牢がある方角を見下ろして鼻を鳴らした。



 オズワルドはアリスから貰ったシュラフに包まってまだぬくぬくと眠っていた。ちなみに外側にはテントだ。これがあれば虫も入ってこないし冷たい風も入ってこない。オズワルドの隣ではリーゼロッテがまだぐっすり眠っている。そんな二人の元に突然姿を現したのは妖精王だ。

「起きろ~! もうすっかり日は高いぞ!」

 突然現れた妖精王はそう言ってオズワルドのシュラフを無理やり剥いた。

「んー……んん? 何でお前、ここに居んの」

 急に寒くなったオズワルドは暖を取ろうとリーゼロッテのシュラフを引き寄せて抱えると、目を擦りながら妖精王を見る。

「うむ、いい質問だ! 我は大変義理堅い! 故にお前達に迷惑をかけしてしまった事をずっと悔やんでいたのだ!」
「あ、そう。それで?」
「お前と我が使える力は同じなのだから今更我が何をしようともお前たちの役に立てるとは思えん。だから我は考えに考え抜いて思いついたのだ! さあ、これを受け取れ!」

 そう言って妖精王が二人に差し出したのは『一日何でも言うことを聞く券』だ。お小遣いを使い果たしてノエルに集っていたアミナスがノエルに代わりに渡していたのを妖精王は思い出した。とは言えあの券が実際に使われている所は見たことがないのだが。

 自信満々にオズワルドに券を渡した妖精王は胸を張ったけれど、その券を受け取ったオズワルドは思い切り吹き出した。

「こんな物貰ってもどう使うんだよ? 本当に何でも言うこと聞くの? 俺が例えばこの星が欲しいって言ったら?」
「そ、そういうのじゃない! あくまでも日常的な事に使う券だ! アミナスはそう言っていた!」
「ふぅん? じゃあ案内してよ。俺たちまだ妖精界に行ったことないんだ」
「それは構わんが、リゼはどうする? 人間が妖精界に入ると今なら絶賛みんな年を取るぞ?」
「それは困る。年を取るということは寿命が縮まると同義。どうしたらリゼも行ける?」
「加護を付けるしかあるまい。だが我々は加護の種類は選べ――」
「分かった」

 オズワルドは妖精王の話を最後まで聞かずに小さな魔法陣を宙に書き、それをリーゼロッテのおでこに貼り付ける。するとリーゼロッテのおでこが淡く光り、魔法陣はそのままリーゼロッテのおでこに吸い込まれた。

「ど、ど、どうやったんだ⁉」
「普通に俺の成分をリゼに渡しただけだけど?」
「な、なるほど……その手があったか。お前は本当に自由だな」

 何故今まで思いつかなかったのか! 一感情で個人に理由なく加護を付ける事が出来ない妖精王は愕然としていると、ようやくリーゼロッテが目を覚ましてしきりにおでこをさすった。

「おはよう、リゼ」
「うん、おはようオズ。何か急におでこ温くなったんだけど……」
「俺の加護をリゼに付けたんだ。リゼ、朝食を食べたら今日は妖精界を見に行こう。妖精王が案内してくれるらしい」

 オズワルドが言うと、リーゼロッテは顔を輝かせて頷く。

「妖精界に行けるの⁉ 昔仲間が話してくれたんだ! 妖精界はそれはそれは綺麗な所なんだって。私達が死んじゃったら皆妖精に生まれ変わって、妖精界で幸せに暮らせるって言ってたけど、ほんと?」
「それは嘘だな。妖精は妖精にしか生まれ変わらん。人間もまた然りだ」

 はっきりと言い切った妖精王の言葉にリーゼロッテはシュンと項垂れた。

「そっか、嘘なんだ」
「リゼは妖精になりたいの?」
「うん。そうしたらオズともっと長い間一緒に居られるかもしれないもん」
「俺と一緒に?」
「うん。ずっとオズと居たい」
「……」

 何だか目の前でイチャつきだした二人を妖精王は何とも言えない顔をして見ていた。

 いまいちこの二人の関係が分からない。分からないが、オズワルドもリーゼロッテも互いを必要としているようだ。妖精王は何だかニヤニヤしそうになるのをグッと堪らえて内ポケットに入っているカップリング厨会員カードを思い出した。無理やりアリスに持たされたが、今ようやく理解出来た気がする。帰ったらこの話をしてやろう。

 そんな事を妖精王が考えているとも知らず、モジモジするリーゼロッテを見下ろしたオズワルドは顔を上げて真顔で言った。

「そうか。なら妖精界の事も勉強しておいた方がいいな。妖精王、すぐに準備する。しばらく待って」
「うむ、構わんぞ」
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