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第148話 想像以上にエグイ牢

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 ノアはそれを思い出してまた笑いだした。そんなノアをカインとルイスが何とも言えない顔で見つめてくる。

「いや~おっかしい! 久しぶりにこんなに笑ったなぁ。モルガナおばさん浅はかすぎない? そんなさ、子供でも考えつきそうな作戦で兄さんを出し抜こうと思ったの? 冗談でしょ?」
「っ」
「ねぇ教えてよ。誰がそんな幼稚で間抜けな作戦考えたの?」

 小首を傾げてそんな事を尋ねるノアを見てモルガナのメイドが叫んだ。

「ルイス王! この無礼な男をここからすぐに外させてください! アメリア様に聞いた限りレヴィウスの四男は既に廃嫡済みなはず! 一般人がどうしてこの場にいるのでしょう? これはモルガナ様への不敬罪に当たるのでは⁉」
「いや、まぁお前の言いたいことは分かるが、罪人を問い詰めるのに不敬罪もクソもないと思うのだが」
「そうそう。だってそのおばさん大罪人だからね? この場で君もろとも処刑されないだけ大分マシでしょ? あ、ちなみに俺は宰相だからこんな発言しても君に責める権利ないからね」
「さ、宰相……様」

 メイドはそれを聞くなり青ざめて口を噤んだ。まさかこんなチャラい宰相が居るとは思わなかったメイドである。

 あの戦争の後英雄たちの本と姿絵がそこら中で売られたが、アメリアがあんな目に遭ったという事で誰もそれに手を出しはしなかった。自分たちはモルガナの、アメリアのメイドなのだから。

 けれどどうやら今はそれが裏目に出てしまったらしい。

 急にしおらしく黙り込んだメイドを見てモルガナはフンと鼻を鳴らす。威勢のいいことをいくら言っても所詮メイドだ。権力には弱い。

「言っておきますが、私をいくら尋問しても無駄ですよ。私はシスターです。神と共に生きることを決めた女。そもそもアメリアの行方も私は知らないので聞かれても答えようがありません」

 これは本当だ。モルガナはアメリアが今どこに居るのかは知らない。答えようがない。毅然とした態度で言い切ったモルガナを見て、ノアはニコッと笑った。

「別にあなたを尋問しようと思ってここに連れて来た訳じゃないんだけどな」
「では何故?」
「何故? 単純な話だよ。あなたがあそこから逃げる算段をしているっていう情報が入ったからだよ。それでね、兄さんたちと話したんだ。それじゃあルーデリアに連れて来ておこうってね」
「拘束される場所が変わるだけという事ですか。わざわざご苦労な事ですね。そんなデマに踊らされて」
「デマならそれに越した事はないよ。でも、確信が無くても無視することは出来ない。どれほど些細な事でもね。それを教えてくれたのはあなたの娘だよ。神と共に生きる覚悟を決めた女が不貞を犯して出来た子。いかにも復讐とかしそうでいいよね」
「……」
「さて、それじゃ新しい住処、残酷で有名なルーデリアの地下牢へようこそ!」

 そう言ってノアは美しい礼をしてモルガナとメイド、そして遅れてやってきた馬車に乗り込んだ者たちを騎士団に引き渡した。

 最後までメイドはノアを睨んでいたが、モルガナだけはどこか涼しい顔だ。きっと何か考えがあるのだろう。

 モルガナ達が出て行くのを確認したノアが大きく伸びをすると、ルイスが焦ったように言った。

「な、なあ。さっき騎士団から入った情報では捕まえたのは5人だよな?」
「そうだな。それがどうしたんだよ?」
「いや、うちの牢はそんなにジメジメした所は無いぞ?」

 ルーデリアはもともと平和な国だ。牢だってそんなに数はないし、基本的には重要人物を捕まえる為の牢なのでそこまで酷い場所は無い。

 焦ったルイスにカインとノアが顔を見合わせて笑った。それを見てルイスが引き攣る。

「お、お前たち何かしたのか?」
「嫌だなぁルイス、ここの牢がアリスの部屋より豪華なのは僕たちも知ってるよ! だから今回は特別に一つだけ牢を改造させてもらったよ。あ、ちなみにキャロラインからは了承を得て着手したから安心してね!」
「そうそう。お前も見てきてみな? エグいから。ていうか、どうやったらあんな牢思いつくわけ? 確かにあれなら場所は取らないけどマジで精神崩壊すんぞ?」
「んー……精神崩壊させる為に作った牢だから問題ないよ。牢を作ってくれた妖精たちと完全防音の魔法をかけてくれたアランに感謝だね。これが成功したら魔法石を使った持続魔法が世に普及するかも」
「お前、ついでに実験したのか?」

 一体どんな牢を作ったのかは知らないが、ルイスの質問にコクリと笑顔で頷くノアを見て頭を抱えた。

 それから数時間後、ルイスはカインとノアを連れて地下牢の様子を見に行ったのだが、想像以上に酷い牢に思わず息を呑んだ。

「いやぁ~ノアく~ん、この牢見てるだけでこっちが精神やられそうなんだけどぉ~」
「全くです。ですがやはり互いの声は聞こえていないようなので、実験は成功ですね」
「いや、まだ分かんないよ。もうちょっと様子見ようぜ」
「そうだね。持続力の耐久性は見ておかないと」

 青ざめるルイスとは違い、発案したノアとゴーサインを出したカインはケロリとしているし、ルーイとユーゴは何だかんだ言いながらも職務を全うしている。

「お、お前たち! この牢はなんだ⁉ こんな……あんまりだろう!」

 ルイスは淡々と話を進める仲間たちに声を荒らげてもう一度牢を見た。

 牢は本当に一番暗いジメジメした場所を改造したようだ。それは別にいい。別にいいが、問題は改造後の姿があまりにも酷かった。

 牢の中には石で出来た筒が二段に分かれて10個置いてあり、そこに一人分の身体が入るか入らないかぐらいの隙間が開いている。

 頭から足まですっぽりと入ってしまう石の筒の中に寝そべる状態で詰め込まれたモルガナ達は、さっきから足先だけをバタつかせているが何せ身体が一つ入るぐらいの隙間しかないし、開いているのは腰回りの小さな排泄用の穴だけだ。

「いいでしょ? 即席拷問牢。誰の手も染めずに自ら破滅に向かうスタイルだよ」
「お前ほんとに怖いわー……そういや舌噛まないようにしてるか?」
「してる。とはいえ舌噛みきって死ぬことなんて滅多に出来ないけどね。死ぬほど痛いだけでさ」

 牢の出入り口は開きっぱなしだ。入り口側からは足しか見えない。石牢にはアランの新しい魔法護符、暗闇くんが貼ってあるので中は真っ暗闇になっているはずだが、外からはちゃんと中が見える。

 罪人たちは何せ石に詰め込まれているので互いの顔は一切見えないし、魔法のおかげで互いの声も聞こえない。もちろん、こちらの声も。

「さて、どれぐらいで壊れるかな」
「な、なぁノア、何故こんな牢にしたんだ?」

 何故か楽しそうに笑うノアに悪魔味を感じつつルイスが恐る恐るノアに尋ねた。するとノアは何てことないように言う。

「人員をここに割かない為だよ。僕だってモルガナ一人なら普通に牢使おうと思ってたけど、兄さんが何人か居るかもって言うからさ、あ、こりゃ人足りないなと思ったんだよ」
「そうそう。で、すぐさま鉱石妖精呼んでこれ作ったって訳。あー、もっと時間あったらここらへんとか綺麗に組めたのになぁ」

 そう言ってカインが歪んだ石組を撫でて残念そうに言った。

「そ、そうか。えっと……とりあえず戻ろうか。これは放っておいてもいいのか?」
「さあ? 僕もこんな物作った事ないから何とも。まぁたまにひっくり返してやればいいんじゃないの?」
「ひっくり返すってどうやって?」
「別に下に固定されてる訳じゃないから。大人四人ぐらいで簡単にひっくり返るよ。そんな訳だからルーイさんとユーゴさん、たまに思い出したらひっくり返してあげてね」
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