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第151話 アリスの等価交換
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本気で照れて嬉しそうなので、何だか見ているこっちまで嬉しくなるし何故かとても誇らしくなる。アリスの子どもで良かったと思える。裏表が無いと言うのは素晴らしい。
「いつまでもそんな所で話し込んでいないで行きますよ。王を待たせる気ですか?」
「そうだったそうだった! はい、これ二人のお弁当ね。リュックに入れといたよ!」
「ありがとう、母さま」
「ありがとう」
「おうよ! それじゃあ皆、しゅっぱ~つ!」
アリスはそう言って全員が手を繋いだのを確認して妖精手帳を使った。
レヴィウス城に辿り着くと、ラルフ達は疲れ切った顔をしていた。
そこへティナが手提げ袋を持ってやってきた。
「エリス、遅くなってすまなかったな。これ、アリスの弁当だ」
「おお、わりぃ。ありがとな。あいつらは?」
ティナから弁当を受け取ったエリスは大きなため息を落としてソファに座り込んだ。その隣に腰を下ろしたティナはメイドが持ってきてくれたお茶を飲みながら視線を窓から見える中庭に移す。
「なんだよ、あいつら。完全にピクニック気分じゃねぇか」
苦笑いを浮かべたエリスの言葉にラルフ達も窓の外を見てようやく笑みを浮かべた。
「天気も良いし外で昼食か。羨ましい限りだな」
「嫁はどこへ行っても自由すぎやしないか。普通はまず挨拶に来るだろう?」
「それだけ僕たちを信頼してる。ノアが言ってた。アリスは嫌いな人には絶対に懐かないって」
「あー……あと宰相様、あいつにそういう常識期待しない方がいいと思いますよ。良くも悪くもあいつは自由だから」
腑に落ちない! と言わんばかりのオルトにエリスが言うと、オルトは渋々頷いてモノクルを外した。
「そうだな。そんな事は今更だったな。それで、さっきから何やら美味そうな匂いがするんだが?」
「え? ああ、アリスの弁当ですね、多分」
そう言ってエリスが弁当の蓋を取ると、そこには大きなハンバーガーが縦に並んで3つ入っている。その隣にポテトとやっぱり大きな唐揚げが2個ドンと置いてあり、とても肉々しい。
「相変わらず肉ばっかだな~あいつの弁当」
「いや、私のは野菜がメインのサンドイッチだぞ。ミアとレオのもだ」
「そか。ちゃんと人に合わせるって事を学んだんだなぁ」
それを聞いて思わず目尻を拭ったエリスを見てティナが苦笑いを浮かべた。一体幼い頃のアリスはどんな子どもだったのか謎である。
「美味そうだな。ティナ、俺達のは?」
オルトが言うと、ティナはそっと視線を泳がせる。
「もしかして、無い?」
「私達のは無いだなんて、どういう事だ?」
「いや、キリがその……普通の王様はそんな物食べないだろう、と……」
まさかこんなに弁当に食いついてくるとは思ってもいなかったのでティナもキリの意見に反対しなかったのだが、どうやらそれは大きな間違いだったようだ。
「嫁の唯一人間らしい所は料理だ。それに関してはうちのコックたちも嫁には一目置いている!」
「僕もアリスのご飯好きかな」
「私もだ。何てことだ。まさか私達の分が無いだなんて思ってもいなかったな」
しょんぼりとした顔をしたラルフを見てエリスは焦りながら立ち上がった。
「あー、じゃあ今からあそこに俺たちも混ざりましょうか! ここで話していても答え出ないし一旦休憩って事で!」
エリスがそう言って立ち上がると、ぞろぞろと全員立ち上がる。そんな中、セイがヒラリとマントを翻して部屋を出ていこうとする。
「セイ、どこへ行くんだ?」
「アリスのお弁当を分けてもらうには、等価交換でないと分けてくれない。ちょっと多めにお肉持ってくる。兄さん達は先に行ってアリス達が食べ終えるの阻止して」
「分かった。任せたぞセイ。では行こうか、オルト」
そう言って慌ただしく部屋を後にした3人を見ながらティナがポツリと言う。
「等価交換……とは?」
「お昼だお昼! いっただっきま~す!」
大口を開けてハンバーガーに齧りついたアリスを見てレックスは顔の大きさほどもありそうなハンバーガーを持ってゴクリと息を呑んだ。
「お肉ばっかりだ。これがハンバーガー?」
「そうだよ! レックスはまだ食べた事無かったっけ」
「うん。存在は知ってた。カイが教えてくれた」
「レックスをお嬢様が無理やり勧誘した時ですね。しかし奥様、これはちょっと大きすぎでは無いでしょうか」
どうやってこんなハンバーガーをお弁当箱に詰めたというのか。四角い弁当箱に無理やり詰めているものだから、取り出すとハンバーガーも四角くなってしまっている。
「え、そうかな? 育ちだざかりだからこんなのペロリでしょ?」
「育ち盛りでもこれはちょっと……無理かと」
「カイ、無理はしてはいけません。残ったらそこのバキューム親子――失礼しました。お嬢様とアミナスが食べてくれます」
「絶対わざと言ってるよね⁉ 喧嘩⁉ 喧嘩売ってる⁉」
「まさか! ゴリラに――いえ、お嬢様に敵うわけないじゃありませんか」
「また! また言った! ミアさん! 笑い事じゃないよ! こいつ絶対わざとだよ!」
「ふふふ、仲良しですねぇ」
相変わらずのアリスとキリのやりとりを聞きながらミアは分厚い玉子焼きが入ったサンドイッチを頬張る。美味しい。このうっすらと塗られた辛子マヨネーズがたまらない。
それからここにエリス達が混ざり、結局お弁当は全員で仲良く分け合って食べた。もちろん、セイが持ってきた大きなお肉も。
昼食を食べ終えた大人たちはそのまま今後の方針と最近の情報交換をする事になった。
一方子どもたちは一室に集まって誰も入って来られないように入念に鍵をかけてレックスが自身の話を子供達に伝えると、レオはその話を何度も頭の中で反芻しながら呟く。
「それではレックスは人間ではないと、そういう事ですか?」
「うん、違う。本来の僕はもう何百年も前に死んでる」
「ひえぇぇ! じゃあこのレックスは幽霊って事⁉」
「それも少し違う」
「でもどうして急に我々に話そうと思ったのですか? ノエル様にだけ話したあなたの択肢は正しかったように思うのですが」
この面子で誰が信頼出来るかと言えば、間違いなくノエル一択だ。レオとカイは秘密は漏らさないがバセット家の従者見習いなので聞かれたら答えなくてはならない。そしてアミナスはそもそも数には入れない方が良い。
「アリス・バセットの受難を読んだ。仲間というのはいいものだ。困った時、辛い時に仲間が居るのと居ないのでは違う」
「レックスは今までずっと一人きりで居たんだもんね……寂しかった?」
「分からない。ディノが眠りについた時は少しだけ寂しかったけれど、感覚では繋がっていたからあまり一人だとは思わなかった。でも今この旅を止めて一人になったら……それはきっと寂しいと思う」
孤独だと言うことにすら今まで気づいていなかっただけだったのかもしれないと気づいたのは、ノエルに全てを打ち明けた時だ。
全てを聞き終えたレオは小さな息を吐いて話しだした。
「……そうですか。分かりました。我々が常々父さんから言われている事があります。それは、バセット家や家族を守るために嘘や隠し事はした方がいい事もあると言うことです」
「もう一つあります。自分で考えるということです。我々は従者という立場上主人の命令には逆らえません。ですが、逆らった方がいいと判断した時はその限りではないと言うことです。現に父さんが奥様のお願いを丸々受け入れているのを俺は見たことがありません」
「そうだねぇ。キリは母さまの言うことはほとんど聞かないもんね。父さまの言うことすらたまに聞かないよ」
「いつまでもそんな所で話し込んでいないで行きますよ。王を待たせる気ですか?」
「そうだったそうだった! はい、これ二人のお弁当ね。リュックに入れといたよ!」
「ありがとう、母さま」
「ありがとう」
「おうよ! それじゃあ皆、しゅっぱ~つ!」
アリスはそう言って全員が手を繋いだのを確認して妖精手帳を使った。
レヴィウス城に辿り着くと、ラルフ達は疲れ切った顔をしていた。
そこへティナが手提げ袋を持ってやってきた。
「エリス、遅くなってすまなかったな。これ、アリスの弁当だ」
「おお、わりぃ。ありがとな。あいつらは?」
ティナから弁当を受け取ったエリスは大きなため息を落としてソファに座り込んだ。その隣に腰を下ろしたティナはメイドが持ってきてくれたお茶を飲みながら視線を窓から見える中庭に移す。
「なんだよ、あいつら。完全にピクニック気分じゃねぇか」
苦笑いを浮かべたエリスの言葉にラルフ達も窓の外を見てようやく笑みを浮かべた。
「天気も良いし外で昼食か。羨ましい限りだな」
「嫁はどこへ行っても自由すぎやしないか。普通はまず挨拶に来るだろう?」
「それだけ僕たちを信頼してる。ノアが言ってた。アリスは嫌いな人には絶対に懐かないって」
「あー……あと宰相様、あいつにそういう常識期待しない方がいいと思いますよ。良くも悪くもあいつは自由だから」
腑に落ちない! と言わんばかりのオルトにエリスが言うと、オルトは渋々頷いてモノクルを外した。
「そうだな。そんな事は今更だったな。それで、さっきから何やら美味そうな匂いがするんだが?」
「え? ああ、アリスの弁当ですね、多分」
そう言ってエリスが弁当の蓋を取ると、そこには大きなハンバーガーが縦に並んで3つ入っている。その隣にポテトとやっぱり大きな唐揚げが2個ドンと置いてあり、とても肉々しい。
「相変わらず肉ばっかだな~あいつの弁当」
「いや、私のは野菜がメインのサンドイッチだぞ。ミアとレオのもだ」
「そか。ちゃんと人に合わせるって事を学んだんだなぁ」
それを聞いて思わず目尻を拭ったエリスを見てティナが苦笑いを浮かべた。一体幼い頃のアリスはどんな子どもだったのか謎である。
「美味そうだな。ティナ、俺達のは?」
オルトが言うと、ティナはそっと視線を泳がせる。
「もしかして、無い?」
「私達のは無いだなんて、どういう事だ?」
「いや、キリがその……普通の王様はそんな物食べないだろう、と……」
まさかこんなに弁当に食いついてくるとは思ってもいなかったのでティナもキリの意見に反対しなかったのだが、どうやらそれは大きな間違いだったようだ。
「嫁の唯一人間らしい所は料理だ。それに関してはうちのコックたちも嫁には一目置いている!」
「僕もアリスのご飯好きかな」
「私もだ。何てことだ。まさか私達の分が無いだなんて思ってもいなかったな」
しょんぼりとした顔をしたラルフを見てエリスは焦りながら立ち上がった。
「あー、じゃあ今からあそこに俺たちも混ざりましょうか! ここで話していても答え出ないし一旦休憩って事で!」
エリスがそう言って立ち上がると、ぞろぞろと全員立ち上がる。そんな中、セイがヒラリとマントを翻して部屋を出ていこうとする。
「セイ、どこへ行くんだ?」
「アリスのお弁当を分けてもらうには、等価交換でないと分けてくれない。ちょっと多めにお肉持ってくる。兄さん達は先に行ってアリス達が食べ終えるの阻止して」
「分かった。任せたぞセイ。では行こうか、オルト」
そう言って慌ただしく部屋を後にした3人を見ながらティナがポツリと言う。
「等価交換……とは?」
「お昼だお昼! いっただっきま~す!」
大口を開けてハンバーガーに齧りついたアリスを見てレックスは顔の大きさほどもありそうなハンバーガーを持ってゴクリと息を呑んだ。
「お肉ばっかりだ。これがハンバーガー?」
「そうだよ! レックスはまだ食べた事無かったっけ」
「うん。存在は知ってた。カイが教えてくれた」
「レックスをお嬢様が無理やり勧誘した時ですね。しかし奥様、これはちょっと大きすぎでは無いでしょうか」
どうやってこんなハンバーガーをお弁当箱に詰めたというのか。四角い弁当箱に無理やり詰めているものだから、取り出すとハンバーガーも四角くなってしまっている。
「え、そうかな? 育ちだざかりだからこんなのペロリでしょ?」
「育ち盛りでもこれはちょっと……無理かと」
「カイ、無理はしてはいけません。残ったらそこのバキューム親子――失礼しました。お嬢様とアミナスが食べてくれます」
「絶対わざと言ってるよね⁉ 喧嘩⁉ 喧嘩売ってる⁉」
「まさか! ゴリラに――いえ、お嬢様に敵うわけないじゃありませんか」
「また! また言った! ミアさん! 笑い事じゃないよ! こいつ絶対わざとだよ!」
「ふふふ、仲良しですねぇ」
相変わらずのアリスとキリのやりとりを聞きながらミアは分厚い玉子焼きが入ったサンドイッチを頬張る。美味しい。このうっすらと塗られた辛子マヨネーズがたまらない。
それからここにエリス達が混ざり、結局お弁当は全員で仲良く分け合って食べた。もちろん、セイが持ってきた大きなお肉も。
昼食を食べ終えた大人たちはそのまま今後の方針と最近の情報交換をする事になった。
一方子どもたちは一室に集まって誰も入って来られないように入念に鍵をかけてレックスが自身の話を子供達に伝えると、レオはその話を何度も頭の中で反芻しながら呟く。
「それではレックスは人間ではないと、そういう事ですか?」
「うん、違う。本来の僕はもう何百年も前に死んでる」
「ひえぇぇ! じゃあこのレックスは幽霊って事⁉」
「それも少し違う」
「でもどうして急に我々に話そうと思ったのですか? ノエル様にだけ話したあなたの択肢は正しかったように思うのですが」
この面子で誰が信頼出来るかと言えば、間違いなくノエル一択だ。レオとカイは秘密は漏らさないがバセット家の従者見習いなので聞かれたら答えなくてはならない。そしてアミナスはそもそも数には入れない方が良い。
「アリス・バセットの受難を読んだ。仲間というのはいいものだ。困った時、辛い時に仲間が居るのと居ないのでは違う」
「レックスは今までずっと一人きりで居たんだもんね……寂しかった?」
「分からない。ディノが眠りについた時は少しだけ寂しかったけれど、感覚では繋がっていたからあまり一人だとは思わなかった。でも今この旅を止めて一人になったら……それはきっと寂しいと思う」
孤独だと言うことにすら今まで気づいていなかっただけだったのかもしれないと気づいたのは、ノエルに全てを打ち明けた時だ。
全てを聞き終えたレオは小さな息を吐いて話しだした。
「……そうですか。分かりました。我々が常々父さんから言われている事があります。それは、バセット家や家族を守るために嘘や隠し事はした方がいい事もあると言うことです」
「もう一つあります。自分で考えるということです。我々は従者という立場上主人の命令には逆らえません。ですが、逆らった方がいいと判断した時はその限りではないと言うことです。現に父さんが奥様のお願いを丸々受け入れているのを俺は見たことがありません」
「そうだねぇ。キリは母さまの言うことはほとんど聞かないもんね。父さまの言うことすらたまに聞かないよ」
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