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第154話 オズワルドの小さな変化

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「なんだお前たち、ドロドロではないか!」
「パパ! どうしてこんな所にいるの!?」
「我か? 我は友人たちを案内していたのだ! そういうお前たちこそ何故ここに?」

 不思議そうに首を傾げた妖精王を見てフィルマメントは突然ポンと手を打った。

「そうだ! もしかしたらパパなら何とか出来るかも! パパ、ちょっと付き合って!」

 そう言ってフィルマメントはおもむろに妖精王の手を掴んだ。突然手を掴まれた妖精王は驚く間もなくそのままフィルマメントに引きずられる。

 何が何だかよく分からないが、引きずられるままに連れてこられたのは沢山の吸魂植物が群生する場所だ。

 その一本の木の前でロトが一生懸命声を張り上げて応援している。
「頑張れ! もうちょっとだ!」
「もう疲れたぞぉ~~。洋服だけ脱がせるなんて無理だぞぉ~~」
「無理でもやるんだ! でないと世界が滅びるかもしれないんだぞ! ほれ! 頑張れ! やれば出来る!」
「ロト~! パパ連れてきたよ! 鍵だけ取り出してもらお!」
「一体何の話だ! 今すぐ説明せよ!」

 引きずられる様にしてやってきた妖精王にフィルマメントは仕方ないとでも言いたげにため息をつく。

「キャスパーがまだ鍵持ってるんだよ。それを取り出したいの! はい、やって!」
「か、簡単に言うでない! 何度もいうが、我はそういうことに手は出せんのだ!」

 妖精王が言うと、フィルマメントは今思い出したとでも言うようにガックリと項垂れる。

「そうだった……こんな時パパ使えない……」
「なにおぅ!」
「俺がやってやろうか?」

 オズワルドが言うと、フィルマメントは驚いた顔をしてオズワルドを見つめる。まさかオズワルドが自分から言い出すとは思ってもいなかったようだ。

「う、うん。ありがとう」

 フィルマメントがお礼を言うと、オズワルドは頷いて徐に木に魔法陣を描いてそこに手を突っ込んだ。

「なになに!? なにしてるんだ!? 気持ち悪い!!!」
「すぐ済む」

 身を捩る木に言い聞かせてオズワルドはズブズブと木に手を突っ込んでいく。

 しばらくするとようやく何かが手にあたった。

「これかな」

 手に当たったのは生暖かい何かだ。多分これがキャスパーの皮膚だろう。

 キャスパーの身体をまさぐるようにあちこち触ると、指先が金属片に当たった。

「あった。引きちぎればいい?」
「た、多分。欲しいのは鍵だけだから」
「分かった」

 オズワルドは頷いて指先に当たった金属片を力の限り引っ張った。それと同時にキャスパーが木の中でゆっくりと蠢く。

「動くな! 気持ち悪い!」
「ごめんね、もうちょっとだけ我慢してね」

 叫ぶ木を宥めるようにレスターが木を撫でると、それを見てカライスとロトも木を撫で始めた。

「私達みたいに撫でたら痛くなくなる?」

 そんなレスター達を見ていたリーゼロッテがカライスに問う。

「どうだろうな。分からんが、少なくとも少し大人しくなった」

 カライスの言葉にリーゼロッテは頷いて木に声をかけながらレスターと同じ様に木を撫でる。

「大丈夫だよ。オズは痛い事しないよ」
「うぅ……もうダメだ、吐きそう……」

 皆で撫でた甲斐も虚しく木が前かがみになったその時、オズワルドが木からようやく手を抜いた。その手にはしっかりと小さな鍵が握られている。

「取れた。お疲れさん」

 そう言ってオズワルドが木の幹を軽く叩くと、木はゼェゼェ息をしている。しばらくして落ち着いたのか、木が突然「あれ?」と呟いた。

「何取ったんだ? 何か胸のつかえが取れた気がする」
「そりゃそうだ。この鍵にはディノの魔法がかかってる。思うように消化出来なかっただろ?」
「そうか! 全然溶けなくて困ってたんだが、それでか」

 何かに納得したように木は葉を揺らして喜んだ。木の幹にはオズワルドが手を突っ込んだせいでぽっかり穴が空いてしまっているが、それよりも胸が詰まる感覚がなくなった方が嬉しい。

「この穴埋めなくていいの?」

 リーゼロッテが言うと、オズワルドは今度はさっきよりも小さな魔法陣を描いてそれを木の穴に押し込んだ。

「樹脂を詰めとく。これでスースーしないだろ?」
「悪いなぁ何から何まで! 何かお礼しないと。そうだ、これをやろう」

 そう言って木は頭を揺さぶった。すると、何かがコロンと落ちてきてそれがオズワルドの靴の先に当たる。

「何だ、これ」
「種だ。我々のな。どこに蒔いても一瞬で成長してドーム状になる。でも水は絶対にやってはいけない。その場で根付いてすぐに成長するからな。幼少期は手当り次第何でも食べるから要注意だ」
「ふーん。リゼ持ってて。俺はこんなの無くても触手があるから」

 種を拾い上げたオズワルドがそれをリーゼロッテに手渡すと、リーゼロッテはそれを受け取ってポシェットに仕舞った。

「ありがとう、不思議な木さん」
「いやいや、胸のつかえがとれてスッキリした。これでようやく消化出来るぞ」

 木は嬉しそうに笑って地面を根っこで揺さぶる。

「ありがとう、えっと……」

 レスターは嬉しそうな木を横目にオズワルドに近づくとそっと手を差し伸べた。

「俺の名前聞こうとしてる?」
「うん。あ、ごめん、僕はレスターだよ。それからこの二人は僕の大親友のロトとカライス」
「知ってる。俺はオズワルド」
「な、何ー!? オ、オズワルド!?」

 それを聞くなりロトが慌ててカライスの髪に潜り込んでいく。相変わらずロトは怖がりなのだ。そんなロトにはもう皆慣れっこなのでいちいち突っ込まない。

「妖精王に力を返したと聞いた。事情もフィル様から聞いている。俺からも礼を言う。ありがとう」
「僕からもありがとう、オズワルド」

 レスターはそう言って無理やりオズワルドの手をとると握手した。そんなレスターをオズワルドは不思議そうな顔をして見ている。

「どうしてお前たちが礼を言う? 俺と面識も無いし、ましてやお前たちにした事でもないのに」
「どうして……う~ん、僕たちもこの星に住んでるから、かな。アリスじゃないけどこの星に住む生き物は全員仲間だと僕も思ってる」
「アリスとはベクトルの違うお花畑だ」

 正直に呟いたオズワルドにレスターは吹き出した。

「そうだね! 僕も十分お花畑だ!」
「……なるほど、妖精がいかにも好きそうな奴だな」

 レスターの周りにはどこから集まってきたのか気づけばいつの間にか妖精たちがぞろぞろと集まってきてレスターにまとわりついてあちこち引っ張っているが、そんな妖精たちにレスターは嫌そうな顔一つしない。

 オズワルドはそう言ってチラリと妖精王を見た。妖精王も嬉しそうにレスターを見ている。

「では! 問題も解決したし、次は我の自慢の泉に案内してやろう!」
「パパ何にもしてない。オズワルド、ありがとう」
「ああ。早く持って帰ってやって。あいつらもうちょっとで完成させそうなんだ」

 オズワルドが言うと、フィルマメント達は首を傾げて頷き、挨拶もそこそこに妖精手帳を使って消えてしまった。

「完成させそうとは何をだ?」
「さあ? でもディノの何かなのは間違いないよ」

 もしかしたらもうすぐディノに会えるかもしれない。オズワルドはそんな事を考えながら意気揚々と歩く妖精王の後をついて行った。
 
 

 難しい話がすこぶる苦手なアリスは、さっきからずっと難しい話をしている仲間たちの話を聞いているふりをして今日の夕飯の事を考えていた。

「――というわけだそうです。お嬢様、どうします?」
「へぁ!? うん! それでいいと思う! ギャン!」
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