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第155話 安全な場所

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「騎士団の後を追って本命のメイリングに向かうか、エミリーの方に向かうかどちらがいいかと聞いているんです! 難しすぎるかもしれませんが、せめて最後まで話は聞いてください!」
「ご、ごめんなさい。兄さま達はなんて言ってるの?」

 アリスが問うと、ラルフが口を開いた。

「ノア達からの情報によると、シュタで知り合った少年の両親がメイリングのどこかの坑道内に閉じ込められている可能性が高いらしい。が、アメリアがそこに居る可能性は低い。恐らくアメリアの居場所を知っているのはカールとエミリーではないか、というのがノアの見解だ」
「だったら先にエミリーとっ捕まえた方がいいと思うな! メイリングに行ってこっちの行動がバレるのはまずいと思う」

 アリスが言うと、キリがそっとアリスのおでこに手を当ててきた。

「大丈夫ですか、お嬢さま。そんなまともな事を言って頭が爆発したりしませんか」
「失礼な! 私だってたまにはちゃんと考えてるよ! 何年兄さまと一緒に居ると思ってんの!?」

 こんな時はいつもなら迷わず敵陣営に突っ込むアリスだが、今回はそうはいかない。ループをしている訳ではないし攻略がある訳ではないので絶対に間違える事は許されないのだ。

「私もアリス様に賛成です。メイリングには今不穏な噂も流れていますし」

 そう言ってミアは手帳を取り出して読み上げた。

「さっき街にキリさんと買い物に行った時、それとなく街の人達の話し声に聞き耳を立てていたのですが、メイリングに送られた貴族達は週に一度大きな幌馬車に乗せられてどこかへ連れて行かれるそうなんです。ちなみにこの話の出どころはその幌馬車から逃げてきたどこかの貴族のお嬢様だったようで、今はもうすっかり精神を病んでしまっていて話もまともに出来ない状態だとか」

 そこまで言ったミアに皆は驚いているが、キリだけは腕を組んでさも当然かとでも言うように頷いている。

「流石ミアさんです。ミアさんの耳は有意義な情報だけが集まる集音器になっているに違いありません」
「そ、そんな事は……あくまでもただの噂ですが、この逃げてきた方を探すのもいいかもしれないなと思ったんです」
「謙遜はしなくていいぞ、ミア。キリの言う通りお前の情報収集能力は優秀だ。では私がその役を引き受けよう」

 ティナがそう言ってミアを見るとミアは頬を染めてコクリと頷く。何度も言うが最近周りにアリス属性の女子しか居なかったので、こういう反応は本当に久しぶりだ。

「だったら俺も行く。何があるか分からんからな」

 そう言って立ち上がろうとしたエリスを見てラルフも頷いた。

「そうだな。ではそのどこぞのお嬢様の居場所を突き止め次第すぐに向かってくれ。私はアンソニー王に連絡をつけよう」
「兄さん、いきなり本拠地へ向かう気か?」
「いや、流石に私もそれはしない。けれど探りを入れるぐらいはしておこうと思う。ちょうど来週には各国の王が集まる会議がある。その時までに少しでも有意義な情報を入れておきたい」
「うん、そうして」

 相変わらず淡々としたセイに苦笑いを浮かべつつ視線をオルトにやると、オルトは頷いて皆の前に資料を配りだした。

「ノアにはもう送ってある。モルガナの居た教会のほぼ全ての者が黒だった。すぐにモルガナを逃さなかったのは、モルガナを利用しようとしていたようだ」
「モルガナを利用、ですか? 一体何にです?」
「モルガナの生活費として毎月匿名で多額の寄付が寄せられていたらしい。それが目当てだったようだ」
「間違いなくメイリング、もしくはカールからですね」
「ああ、そうだろうな。実際それを指導者は使い込んでいたようだ」

 そもそも罪人に寄付金が送られてくるなどありえない話なのだが、それを受け取る方もどうかしている。ましてやそれを使い込むなど考えられない事だ。

「それって楽しかったのかな?」

 それまで大人しく資料に落書きしていたアリスがポツリと言った。

「楽しいかどうかなど考えた事も無いが……」

 真面目なラルフが答えようとすると、エリスが大きなため息を落として言った。

「そりゃ楽しかったんじゃないか? 何もしなくても金が入ってくるんだぞ?」
「それ、楽しい? 私だったら楽しくないよ。最初はいいかもしれないけど、絶対途中で飽きてくるし申し訳なくなってきちゃうよ。だからやっぱり何かしよって思うよ」

 グリグリと鉛筆で服を塗るアリスに全員が黙り込んだ。

「お嬢様はたまに真理のような事を言いますね。確かにお嬢様の言う通りかもしれません。最初は好き勝手に使い込んでいたかもしれませんが、普通の人間はいずれ良心の呵責に耐えかねるでしょう。ましてや指導者です。本来ならば人を導く立場の人間なのですから、贅の限りを尽くした後、恩を返そうと何か始めようとしてもおかしくはありません」
「では他にも何か隠していると?」
「はい。その可能性が高いかと思います。もしもノア様がここに居たら、きっとイヤラシくねちっこくジワジワと相手が病むまで尋問すると思います」
「ノアなら、やる。賭けてもいい」

 キリとセイの言葉にラルフは頷いた。

「ではオルト、牢にいる奴らの余罪を調べてくれ。あと、どんなに些細な事でもいい。モルガナの情報もだ」
「分かった」

 オルトはアリスの前にそっと何も書いていない紙を置いてやってそのまま退出する。それを見ていたキリが呆れたように言った。

「皆さん、お嬢様に甘すぎませんか」
「兄さんは多分はみ出しそうだったのが嫌だっただけ」

 そう言ってセイがアリスを指差すと、アリスは何やら紙からはみ出しそうな勢いでまだ真剣に絵を描き続けている。もう何のためにここに居るのか分からない。

「とりあえず今日はここまでだな。子どもたちも待っているだろうし解散しようか」

 ラルフが立ち上がり言うと、アリス以外全員立ち上がる。そのままアリスを放置しようとしたエリス達にラルフは慌てて言った。

「待て待て! 嫁も回収して行ってくれ!」
「……ダメか。ほらアリス! そろそろ撤収だぞ! 続きは帰ってから描けよ」
「もうちょっと! もうちょっとだけ!」
「ダメだ! ほら行くぞ!」

 エリスは無理やりアリスを立たせて何を描いていたのかさっぱり分からない紙を持った。

 その後アリス達が子どもたちの所に戻ると、何故か子どもたちは皆難しい顔をしている。

「皆どうしたの~? アミナスまで難しい顔しちゃって!」
「母さま! ねぇねぇ母さま、地下って面白い所って本当?」

 やってきたアリスにアミナスがバカ正直に尋ねると、ノエルを始め子供たちは全員引きつった。それに気づいてアミナスも流石にハッとしたが、そこは流石アリスだ。

「面白かったよ! 見たことない虫とか居てね~知らない植物もいっぱいあった! そうだ! アミナス達も行ってきたら? ぎゃん!」

 突然のアリスからの提案にアミナス以外がギョッとする。

「突然何言い出すんだ、お前は!」

 どうして子どもたちだけで行かせようとするのか! エリスはそんな思いを込めてアリスの頭を打った訳だが、当の本人は頬を膨らませて不本意そうだ。

「だって地下のが安全だもん、絶対に。あそこは妖精王の加護が無い上にディノが認めた人しか入れないでしょ? だったらどこよりも一番安全だと思ったんだもん!」

 珍しく言い訳でもなく本当にそう思ったのだ。自分が一度行ってきたからよく分かる。あそこには不思議な魔法がかかっていて、気温も良いし何よりも過ごしやすかった。

 そんなアリスの言葉を聞いてキリが少し考えて口を開く。
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