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第173話 思い合う……二人?
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「ありがとう、影母さま。でもどうしてここに居るの?」
ノエルの問に影アリスは無言で先程ドアがあった場所を指差す。
「ついてきちゃったのかな?」
「多分。オズワルドが行けって言ったのかも」
レックスの言葉に頷いた影アリスは、そのまま足元をじっと見ていたかと思うと、一本の植物を指差した。そこにはレックスが言った通り、礼儀正しくて自信が無さそうな麦に似た植物が生えている。
「もしかして、これが米?」
「そうだと思う。僕が見たのと同じ」
レックスはそう言って周りの土を掘り起こして根っこごと取り出すと、それを持参してきたバケツに入れた。
「よく見ると沢山生えてるね! どれぐらい持って帰っていいのかな?」
ノエルが問うと、レックスは両腕で輪っかを作って見せた。
「これぐらい」
「分かった!」
二人は沼の側に生えている稲を丁寧に採取していく。そんな二人を見て影アリスも手伝ってくれたのだが、何せ力が強すぎて稲が痛むのでノエルから早々に戦力外通知を受けてしまった。
「バケツ、もう一つ持って来ればよかったね」
「うん。もう一杯だ。こうやって見ると麦と全然違う。どうやって食べるんだろう? 麦みたいに粉にするのかな」
「分かんない。でも母さまは小さい頃から米っていう食べ物の事をずっと恋しがってたってキリが言ってたから、きっと凄く美味しいんだと思う!」
本当はアリスは実際に米など食べた事はない。そういうプログラミングをされていただけなのだが、そんな事はノエルは知らない。
「楽しみだ。アリスの食事はいつも美味しいし、不思議で一杯だから」
「レックス、パスタ大好きだもんね。ディノも好きかな?」
「ディノはうどんを食べた時に感動してた。アリスが食事を作る時はディノは率先して感覚を繋いで来ようとする」
「そうなんだ? じゃあディノが目を覚ましたらうちでパーティーだね!」
おかしそうに笑ったノエルにレックスも笑顔を浮かべて頷いた。
そんな未来が来ればどれほど楽しいだろうか。ディノが地下に隠れなくても良い未来は、それはそれは楽しいに違いない。
やがて2つのバケツが一杯になるまで稲を採取した二人は、途中から楽しくなってしまって少しだけ採りすぎてしまった事をディノに侘びた。
「大丈夫、ディノも楽しかったみたい」
「そっか! 良かった。面白くてどんどん採っちゃったもんね」
「うん。泥に手を突っ込むのが気持ちよかった」
「ね! それじゃあそろそろ戻ろっか。皆もきっと心配してる」
「水はどうする?」
「一旦このバケツは置いてこないと」
そう言って元きた道をバケツをぶら下げて歩く二人の後を守るように影アリスがついてくる。
「あれは何ていう植物?」
「あれはパジオフィルム」
「あっちは?」
「シルフィウム」
「じゃああれは?」
「リャオニンゴクラドゥス」
「なんて?」
「リャオニンゴクラドゥス」
「早口言葉みたいだね! あれは?」
「オピウムポピー」
「ポピー? これも絶滅してるの? よく見る気がするけど」
「それは普通のポピー。これは本種のポピー」
言いながらレックスはそっと花を撫でた。
「よく覚えてるね。全部分かるの?」
「大体は分かるけど、こういうのは分からない」
足元に生えているどこにでもありそうな草を指差すと、ノエルも頷く。
「うん、これは分からないね。普通に庭に生えてる気がするもん」
ようやくドアがあった所までやってきた二人は、もう一度振り返って絶滅してしまった植物を見渡した。
「ごめんね……また、遊びに来るね」
ポツリと呟いたノエルの言葉を植物が理解したとは思えないが、その言葉を発した途端に風が吹いて植物たちは一斉にその身体を揺らす。
「喜んでるよ、大丈夫」
「そんな事分かるの?」
「僕の身体は石だから。土に生えるものとは相性が良いんだ」
レックスの言葉にノエルは少しだけ涙を浮かべて頷くと、レックスが出したドアをくぐった途端何かがノエルに真正面から飛びついてきた。
「やっぱりここだった! みんな~~~~! こっちだよ~~~!」
「アミナス?」
ノエルは飛びついてきたアミナスの身体を引き剥がして首を傾げた。ドアは消えていたはずだ。それなのにどうしてアミナスはここに居たのだろう?
「ドアはちゃんと消してたのに、どうして?」
同じ様に不思議そうに首を傾げたレックスにアミナスは胸を張って言う。
「匂いと気配がしたんだよ! 何か二人共嗅いだこと無いお花の匂いがする!」
「秘密の花園に行ってたんだよ。はい、これお土産」
「秘密の花園!? 二人だけで!? ずるい! 私も行きたかった!!!」
バケツを受け取って駄々をこねたアミナスを見て苦笑いしていると、息を切らしながら走ってきたリーゼロッテが息を整えながら言った。
「じゃ、邪魔しちゃダメ、なんだよね?」
「はっ! そうだった! 思い合う二人を邪魔しちゃダメって師匠言ってた!」
それを聞いてノエルとレックスは互いの顔を見合わせてさらに首をかしげる。
「思い合う……」
「二人?」
何だかよく分からないが、アミナスは納得したようなので良しとしておく。
「で、兄さまこれ何?」
「米だよ。母さまが言ってたやつ」
「えっ!? ど、どこにあったの!?」
「だから秘密の花園だってば。これ母さまに持って帰ってあげよ」
「うん! 母さまも父さまも大喜びしちゃうね!」
言いながらアミナスはノエルとレックスの手からバケツを奪い取ると、そのまま今度はオズワルドの元に走っていく。その後をリーゼロッテがまた肩で息をしながらついていくのを見てノエルは微笑んだ。
「リゼちゃんと仲良くなれたんだね」
「リーゼロッテが勝手についてまわってるんじゃ?」
さっきから見ていると、はちゃめちゃなアミナスの後をリーゼロッテがぜぇぜぇ言いながらついて回っているようにしか見えないが。
レックスの言葉におかしそうに笑ったノエルは、続いてやってきた双子に事情を話すとこってりと叱られた。
「お嬢様なら分かりますが、どうしてあなたまで勝手な事をするのですか! 着替えを用意しておくので今すぐ温泉に入ってきてください!」
「ごめんなさい」
「ごめん」
「その服は自分で洗濯ですよ! レックスも!」
「はぁい」
「わかった」
申し訳なさそうに頭を下げたノエルは双子に分からないようにチラリとレックスを見て、いたずらな笑みを浮かべる。多分全く反省などしていない。
その後レックスに案内されて皆で温泉に入り、夕食の準備をしはじめた。その間にノエルとレックスは泥だらけの服の洗濯である。
「稲を持ち帰ってきたのか。ディノが許可を出したのか?」
「うん。ディノはアリスのやることに興味津々だから。でもこれをどうすればいいのか僕にはさっぱり分からない」
そう言ってレックスは食事をしながら部屋の端に置いてある稲の苗が大量に入ったバケツを見て呟いた。
同じ様にバケツに視線を向けたライアンも驚いている。
「稲というのか! あれも粉にして捏ねたりするのだろうか?」
「どんな味がするんだろう。爺ちゃん何か知ってる?」
缶パンを千切りながら言うルークに妖精王は何かを思い出すかのように首を傾げる。
「我にもさっぱりだ。姉妹星の一部の地域では主食だったようだが、調理方法までは分からん。しかし我も存在は知っていたが初めて見たな! ディノめ、なかなか粋なことをする」
絶滅していく生き物や植物の存在を憂いていたのはディノだけではない。歴代の妖精王たちも何かが絶滅する度にどうにも出来ない事を嘆いていたからだ。
妖精王は嬉しそうに言いながらバケツから穂を出す稲を見て顔を綻ばせる。
ノエルの問に影アリスは無言で先程ドアがあった場所を指差す。
「ついてきちゃったのかな?」
「多分。オズワルドが行けって言ったのかも」
レックスの言葉に頷いた影アリスは、そのまま足元をじっと見ていたかと思うと、一本の植物を指差した。そこにはレックスが言った通り、礼儀正しくて自信が無さそうな麦に似た植物が生えている。
「もしかして、これが米?」
「そうだと思う。僕が見たのと同じ」
レックスはそう言って周りの土を掘り起こして根っこごと取り出すと、それを持参してきたバケツに入れた。
「よく見ると沢山生えてるね! どれぐらい持って帰っていいのかな?」
ノエルが問うと、レックスは両腕で輪っかを作って見せた。
「これぐらい」
「分かった!」
二人は沼の側に生えている稲を丁寧に採取していく。そんな二人を見て影アリスも手伝ってくれたのだが、何せ力が強すぎて稲が痛むのでノエルから早々に戦力外通知を受けてしまった。
「バケツ、もう一つ持って来ればよかったね」
「うん。もう一杯だ。こうやって見ると麦と全然違う。どうやって食べるんだろう? 麦みたいに粉にするのかな」
「分かんない。でも母さまは小さい頃から米っていう食べ物の事をずっと恋しがってたってキリが言ってたから、きっと凄く美味しいんだと思う!」
本当はアリスは実際に米など食べた事はない。そういうプログラミングをされていただけなのだが、そんな事はノエルは知らない。
「楽しみだ。アリスの食事はいつも美味しいし、不思議で一杯だから」
「レックス、パスタ大好きだもんね。ディノも好きかな?」
「ディノはうどんを食べた時に感動してた。アリスが食事を作る時はディノは率先して感覚を繋いで来ようとする」
「そうなんだ? じゃあディノが目を覚ましたらうちでパーティーだね!」
おかしそうに笑ったノエルにレックスも笑顔を浮かべて頷いた。
そんな未来が来ればどれほど楽しいだろうか。ディノが地下に隠れなくても良い未来は、それはそれは楽しいに違いない。
やがて2つのバケツが一杯になるまで稲を採取した二人は、途中から楽しくなってしまって少しだけ採りすぎてしまった事をディノに侘びた。
「大丈夫、ディノも楽しかったみたい」
「そっか! 良かった。面白くてどんどん採っちゃったもんね」
「うん。泥に手を突っ込むのが気持ちよかった」
「ね! それじゃあそろそろ戻ろっか。皆もきっと心配してる」
「水はどうする?」
「一旦このバケツは置いてこないと」
そう言って元きた道をバケツをぶら下げて歩く二人の後を守るように影アリスがついてくる。
「あれは何ていう植物?」
「あれはパジオフィルム」
「あっちは?」
「シルフィウム」
「じゃああれは?」
「リャオニンゴクラドゥス」
「なんて?」
「リャオニンゴクラドゥス」
「早口言葉みたいだね! あれは?」
「オピウムポピー」
「ポピー? これも絶滅してるの? よく見る気がするけど」
「それは普通のポピー。これは本種のポピー」
言いながらレックスはそっと花を撫でた。
「よく覚えてるね。全部分かるの?」
「大体は分かるけど、こういうのは分からない」
足元に生えているどこにでもありそうな草を指差すと、ノエルも頷く。
「うん、これは分からないね。普通に庭に生えてる気がするもん」
ようやくドアがあった所までやってきた二人は、もう一度振り返って絶滅してしまった植物を見渡した。
「ごめんね……また、遊びに来るね」
ポツリと呟いたノエルの言葉を植物が理解したとは思えないが、その言葉を発した途端に風が吹いて植物たちは一斉にその身体を揺らす。
「喜んでるよ、大丈夫」
「そんな事分かるの?」
「僕の身体は石だから。土に生えるものとは相性が良いんだ」
レックスの言葉にノエルは少しだけ涙を浮かべて頷くと、レックスが出したドアをくぐった途端何かがノエルに真正面から飛びついてきた。
「やっぱりここだった! みんな~~~~! こっちだよ~~~!」
「アミナス?」
ノエルは飛びついてきたアミナスの身体を引き剥がして首を傾げた。ドアは消えていたはずだ。それなのにどうしてアミナスはここに居たのだろう?
「ドアはちゃんと消してたのに、どうして?」
同じ様に不思議そうに首を傾げたレックスにアミナスは胸を張って言う。
「匂いと気配がしたんだよ! 何か二人共嗅いだこと無いお花の匂いがする!」
「秘密の花園に行ってたんだよ。はい、これお土産」
「秘密の花園!? 二人だけで!? ずるい! 私も行きたかった!!!」
バケツを受け取って駄々をこねたアミナスを見て苦笑いしていると、息を切らしながら走ってきたリーゼロッテが息を整えながら言った。
「じゃ、邪魔しちゃダメ、なんだよね?」
「はっ! そうだった! 思い合う二人を邪魔しちゃダメって師匠言ってた!」
それを聞いてノエルとレックスは互いの顔を見合わせてさらに首をかしげる。
「思い合う……」
「二人?」
何だかよく分からないが、アミナスは納得したようなので良しとしておく。
「で、兄さまこれ何?」
「米だよ。母さまが言ってたやつ」
「えっ!? ど、どこにあったの!?」
「だから秘密の花園だってば。これ母さまに持って帰ってあげよ」
「うん! 母さまも父さまも大喜びしちゃうね!」
言いながらアミナスはノエルとレックスの手からバケツを奪い取ると、そのまま今度はオズワルドの元に走っていく。その後をリーゼロッテがまた肩で息をしながらついていくのを見てノエルは微笑んだ。
「リゼちゃんと仲良くなれたんだね」
「リーゼロッテが勝手についてまわってるんじゃ?」
さっきから見ていると、はちゃめちゃなアミナスの後をリーゼロッテがぜぇぜぇ言いながらついて回っているようにしか見えないが。
レックスの言葉におかしそうに笑ったノエルは、続いてやってきた双子に事情を話すとこってりと叱られた。
「お嬢様なら分かりますが、どうしてあなたまで勝手な事をするのですか! 着替えを用意しておくので今すぐ温泉に入ってきてください!」
「ごめんなさい」
「ごめん」
「その服は自分で洗濯ですよ! レックスも!」
「はぁい」
「わかった」
申し訳なさそうに頭を下げたノエルは双子に分からないようにチラリとレックスを見て、いたずらな笑みを浮かべる。多分全く反省などしていない。
その後レックスに案内されて皆で温泉に入り、夕食の準備をしはじめた。その間にノエルとレックスは泥だらけの服の洗濯である。
「稲を持ち帰ってきたのか。ディノが許可を出したのか?」
「うん。ディノはアリスのやることに興味津々だから。でもこれをどうすればいいのか僕にはさっぱり分からない」
そう言ってレックスは食事をしながら部屋の端に置いてある稲の苗が大量に入ったバケツを見て呟いた。
同じ様にバケツに視線を向けたライアンも驚いている。
「稲というのか! あれも粉にして捏ねたりするのだろうか?」
「どんな味がするんだろう。爺ちゃん何か知ってる?」
缶パンを千切りながら言うルークに妖精王は何かを思い出すかのように首を傾げる。
「我にもさっぱりだ。姉妹星の一部の地域では主食だったようだが、調理方法までは分からん。しかし我も存在は知っていたが初めて見たな! ディノめ、なかなか粋なことをする」
絶滅していく生き物や植物の存在を憂いていたのはディノだけではない。歴代の妖精王たちも何かが絶滅する度にどうにも出来ない事を嘆いていたからだ。
妖精王は嬉しそうに言いながらバケツから穂を出す稲を見て顔を綻ばせる。
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