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第201話 アリスとアミナス専用寝具
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アミナスとレックスは寝室代わりに使うと決めた拠点の隣にある『ディノの子供部屋』に戻ると、ディノの寝室で見てきた事を話した。
「――と、言うわけだったんだよ! ディノね、こんなちっちゃくてね、めっちゃ可愛かったんだから!」
「お前ディノの寝室に入れたのか」
「入れたよ! ドヤ!」
思わずドヤ顔をしたアミナスだったが、後ろからレックスがポツリと言う。
「僕もびっくりしたんだけど、アミナスのポシェットに詰まってたのが全部ハンカチだった事にもびっくりした」
相変わらず淡々と言うレックスに子どもたちは笑い出す。
「アミナスはな、それはもうすぐに汚すんだ! 俺も毎年誕生日にはハンカチをプレゼントしているぞ!」
「俺もハンカチだよ。去年は渡したその日に枝に引っ掛けて破かれたけど」
そう言ってルークが遠い目をすると、何かを思い出したのかライアンも青ざめて頷く。
「お嬢様にはお二人が渡すような高級な絹で出来たハンカチなどいらないのです」
「そうです。お嬢様には麻で出来たバリバリの布で十分なのです」
「なんならアミナスは最近破れにくいって言って雑巾をハンカチ代わりにしてるからね!」
アリス特製の雑巾(枕カバー)をハンカチとして持ち歩いているアミナスを思い出してノエルが肩を震わせる。そんなアミナスを見てノアとキリがいつも不安そうに言うのだ。『どうしよう、どんどんアミナスがアリスに似てくる……』と。
そんな会話を聞いて生まれた時からアミナスの事を知っている妖精王が引きつる。
「お前たち笑い事ではないぞ! これでは厄災が二人になってしまうではないか! この星がアリス達に乗っ取られてしまう!」
「アミナスちゃん凄い! 麻で顔を拭いても痛くならないの?」
真っ白で繊細な肌を持つリーゼロッテには考えられない事であるが、アミナスはそういえば食事をする前も手を洗った後にゴワゴワのタオルで手をガシガシ乱暴に拭いていた。それでもアミナスの手は傷一つついていない。
「ならないよ! えっとね、気合だって母さまが言ってた! 私も母さまに似て肌強いんだ!」
「気合……ではないと思うけど」
ポツリと言ったレックスを無視してアミナスはリュックから麻で出来たハンカチをリゼに渡す。
「これリゼにあげる! お風呂で体洗う時これでこすると気持ちいいんだ! 特に背中とか超気持ちいいんだから!」
「それはアリス工房の『垢取り君』では?」
「間違いなくそうです。リゼさん、強く擦ってはいけませんよ。週に1回ぐらいに留めておくのがベストです。やりすぎたら皮が剥けます」
「えっ……あ、ありがとう、アミナスちゃん」
「うん!」
皮が剥けると聞いて怯んだリーゼロッテを他所にアミナスは頷いてその場に寝っ転がる。
「ここフワフワで気持ちいいね。レックス、この絨毯何で出来てるの?」
「これは蜘蛛の糸を集めて編んである。蜘蛛の糸は頑丈で切れにくいし凄く柔らかいから」
「へぇ、何の素材なんだろうってずっと思ってたんだけど、蜘蛛の糸なんだ? どうやって編んでるんだろう?」
「面白い素材だな! 確かにアミナスの言う通り不思議な弾力だ」
行儀が悪いと思いつつライアンも転がると、意外な弾力に頬を緩めて小さなアクビをしてしまった。
「はは、ライアン眠いんだろ?」
「眠くなどない! そういうルークだってもう意識を失う時間だぞ!」
「俺は大丈夫。父さんと違って夜更かしも出来る!」
「まぁまぁ二人とも。確かにそろそろ眠くなってきたし、僕たちもそろそろ寝ようよ。で、明日アミナスとレックスの言う春の庭に行ってみよう」
「その方がいいと僕も思う。今から廊下に出るのは危険。夜は動物たちがうろつき出すから」
夜は動物たちの時間だ。彼らは昼間は静かに自分たちの場所で過ごしているが、夜になると興味津々で地下の他の場所を歩きたがる。それは昔から変わらない。恐らくそうやってダイアウルフは地上に出てしまったのだろう。動物と聞いてアミナスは目を輝かせたが、間髪入れずに双子たちがアミナスにげんこつを落とす。
「いいから大人しく寝てください。ノエル様、どうします? お嬢様縛りますか?」
「いや、アミナスにって父さまが持たせてくれたシュラフ使おう。新商品だって言ってたよ」
そう言ってノエルがリュックから取り出したのはアミナスとアリス専用寝袋『拘束君』だ。頭からすっぽりと覆うスタイルの寝袋には目と鼻と口の部分に穴が開いている。中に入ると内側から開ける事が出来ず、頭の上と足の先の所に何故か太いペグを打ち込めるよう極太のリングがついていた。
「……それ、拷問道具とかじゃないの?」
呆れた視線を向けるオズワルドにノエルは苦笑いを浮かべた。
「母さまとアミナスの寝相が酷すぎるから。アリス工房の新商品って言うより、母さまとアミナス専用商品だよ」
「だろうな。そんなもん誰も好き好んで使わないだろ」
「でも中はフワフワで寝心地は最高なんだから! 中でちゃんと寝返りも打てるもん! はい、兄さま閉めて!」
商品開発の時にアミナスとアリスはもちろん寝心地を何度も試した。まるで真綿に包まれるような寝心地で最高に熟睡出来るのだ。手足は一切出せないし、夏場など蒸れて死にそうになるが。
「はいはい。それじゃあアミナスおやすみ」
「うん! おやすみなさい!」
目と鼻と口だけ出ているアミナスを見て皆は笑うのを堪えているのだが、アミナスはそんな事には全く気づかずすぐに寝息を立て始めた。
「アミナスちゃんの寝付きすごい」
「秒だったな」
あまりにも早い寝付きに感心したリーゼロッテとオズワルドも自分の寝袋を用意しだした。
「僕たちも寝よっか」
ノエルの言葉に子どもたちはそれぞれ持ってきたリュックから寝袋を取り出していたのだが、ふとそれをじっと見ていた妖精王が言った。
「我のは!?」
「え? あ、そう言えば妖精王の寝袋無いね」
「あー、ほんとだな。じゃあお前はあっちのベッド使えよ」
そう言ってオズワルドが指さした先には今にも朽ち果てそうな小さなベビーベッドが一つ置いてある。
「入る訳ないだろうが! わ、我はどこで眠ればいいのだ!?」
魔法も使えないので小さくなる事も出来ず右往左往している妖精王を見兼ねてノエルは自分の寝袋を妖精王に差し出した。
「これ使っていいよ。僕はどこででも眠れるから」
今でもしょっちゅうアミナスに付き合って森の中で木の葉に包まって眠るノエルだ。地面で眠る事など別にどうという事はないし、何より蜘蛛の糸絨毯は今まで踏みしめてきたどんな絨毯よりも心地よい。
「ノエル様にそんな事させる訳にはいきません。俺が貸します」
「その通りです。何ならお嬢様のを脱がしてあれに入りますか?」
ノエルにそんな事はさせられない双子が妖精王に自分たちのシュラフを渡そうとすると、レックスも妖精王にシュラフを差し出す。
「僕のも使って良い。蜘蛛の糸は柔らかい。石畳の上とは全然違う」
レックスもまた色んな所で野営をしている。冷たくて硬い石畳に比べれば蜘蛛の糸の絨毯は天国のように柔らかい。
「俺たちのも使っていいぞ! よく考えれば蜘蛛の糸の上で眠る事などこの先一生無いかもしれんからな!」
「ライアンの言う通りかも。父さんに自慢出来るし俺のも使っていいよ」
「わ、私のも使っていいよ。妖精王さん風邪引いたら大変だもん。だって、神様なんだよね?」
「俺はリゼが風邪引く方が困る。仕方ないな。俺の貸してやるよ」
「お、お前たち……」
「――と、言うわけだったんだよ! ディノね、こんなちっちゃくてね、めっちゃ可愛かったんだから!」
「お前ディノの寝室に入れたのか」
「入れたよ! ドヤ!」
思わずドヤ顔をしたアミナスだったが、後ろからレックスがポツリと言う。
「僕もびっくりしたんだけど、アミナスのポシェットに詰まってたのが全部ハンカチだった事にもびっくりした」
相変わらず淡々と言うレックスに子どもたちは笑い出す。
「アミナスはな、それはもうすぐに汚すんだ! 俺も毎年誕生日にはハンカチをプレゼントしているぞ!」
「俺もハンカチだよ。去年は渡したその日に枝に引っ掛けて破かれたけど」
そう言ってルークが遠い目をすると、何かを思い出したのかライアンも青ざめて頷く。
「お嬢様にはお二人が渡すような高級な絹で出来たハンカチなどいらないのです」
「そうです。お嬢様には麻で出来たバリバリの布で十分なのです」
「なんならアミナスは最近破れにくいって言って雑巾をハンカチ代わりにしてるからね!」
アリス特製の雑巾(枕カバー)をハンカチとして持ち歩いているアミナスを思い出してノエルが肩を震わせる。そんなアミナスを見てノアとキリがいつも不安そうに言うのだ。『どうしよう、どんどんアミナスがアリスに似てくる……』と。
そんな会話を聞いて生まれた時からアミナスの事を知っている妖精王が引きつる。
「お前たち笑い事ではないぞ! これでは厄災が二人になってしまうではないか! この星がアリス達に乗っ取られてしまう!」
「アミナスちゃん凄い! 麻で顔を拭いても痛くならないの?」
真っ白で繊細な肌を持つリーゼロッテには考えられない事であるが、アミナスはそういえば食事をする前も手を洗った後にゴワゴワのタオルで手をガシガシ乱暴に拭いていた。それでもアミナスの手は傷一つついていない。
「ならないよ! えっとね、気合だって母さまが言ってた! 私も母さまに似て肌強いんだ!」
「気合……ではないと思うけど」
ポツリと言ったレックスを無視してアミナスはリュックから麻で出来たハンカチをリゼに渡す。
「これリゼにあげる! お風呂で体洗う時これでこすると気持ちいいんだ! 特に背中とか超気持ちいいんだから!」
「それはアリス工房の『垢取り君』では?」
「間違いなくそうです。リゼさん、強く擦ってはいけませんよ。週に1回ぐらいに留めておくのがベストです。やりすぎたら皮が剥けます」
「えっ……あ、ありがとう、アミナスちゃん」
「うん!」
皮が剥けると聞いて怯んだリーゼロッテを他所にアミナスは頷いてその場に寝っ転がる。
「ここフワフワで気持ちいいね。レックス、この絨毯何で出来てるの?」
「これは蜘蛛の糸を集めて編んである。蜘蛛の糸は頑丈で切れにくいし凄く柔らかいから」
「へぇ、何の素材なんだろうってずっと思ってたんだけど、蜘蛛の糸なんだ? どうやって編んでるんだろう?」
「面白い素材だな! 確かにアミナスの言う通り不思議な弾力だ」
行儀が悪いと思いつつライアンも転がると、意外な弾力に頬を緩めて小さなアクビをしてしまった。
「はは、ライアン眠いんだろ?」
「眠くなどない! そういうルークだってもう意識を失う時間だぞ!」
「俺は大丈夫。父さんと違って夜更かしも出来る!」
「まぁまぁ二人とも。確かにそろそろ眠くなってきたし、僕たちもそろそろ寝ようよ。で、明日アミナスとレックスの言う春の庭に行ってみよう」
「その方がいいと僕も思う。今から廊下に出るのは危険。夜は動物たちがうろつき出すから」
夜は動物たちの時間だ。彼らは昼間は静かに自分たちの場所で過ごしているが、夜になると興味津々で地下の他の場所を歩きたがる。それは昔から変わらない。恐らくそうやってダイアウルフは地上に出てしまったのだろう。動物と聞いてアミナスは目を輝かせたが、間髪入れずに双子たちがアミナスにげんこつを落とす。
「いいから大人しく寝てください。ノエル様、どうします? お嬢様縛りますか?」
「いや、アミナスにって父さまが持たせてくれたシュラフ使おう。新商品だって言ってたよ」
そう言ってノエルがリュックから取り出したのはアミナスとアリス専用寝袋『拘束君』だ。頭からすっぽりと覆うスタイルの寝袋には目と鼻と口の部分に穴が開いている。中に入ると内側から開ける事が出来ず、頭の上と足の先の所に何故か太いペグを打ち込めるよう極太のリングがついていた。
「……それ、拷問道具とかじゃないの?」
呆れた視線を向けるオズワルドにノエルは苦笑いを浮かべた。
「母さまとアミナスの寝相が酷すぎるから。アリス工房の新商品って言うより、母さまとアミナス専用商品だよ」
「だろうな。そんなもん誰も好き好んで使わないだろ」
「でも中はフワフワで寝心地は最高なんだから! 中でちゃんと寝返りも打てるもん! はい、兄さま閉めて!」
商品開発の時にアミナスとアリスはもちろん寝心地を何度も試した。まるで真綿に包まれるような寝心地で最高に熟睡出来るのだ。手足は一切出せないし、夏場など蒸れて死にそうになるが。
「はいはい。それじゃあアミナスおやすみ」
「うん! おやすみなさい!」
目と鼻と口だけ出ているアミナスを見て皆は笑うのを堪えているのだが、アミナスはそんな事には全く気づかずすぐに寝息を立て始めた。
「アミナスちゃんの寝付きすごい」
「秒だったな」
あまりにも早い寝付きに感心したリーゼロッテとオズワルドも自分の寝袋を用意しだした。
「僕たちも寝よっか」
ノエルの言葉に子どもたちはそれぞれ持ってきたリュックから寝袋を取り出していたのだが、ふとそれをじっと見ていた妖精王が言った。
「我のは!?」
「え? あ、そう言えば妖精王の寝袋無いね」
「あー、ほんとだな。じゃあお前はあっちのベッド使えよ」
そう言ってオズワルドが指さした先には今にも朽ち果てそうな小さなベビーベッドが一つ置いてある。
「入る訳ないだろうが! わ、我はどこで眠ればいいのだ!?」
魔法も使えないので小さくなる事も出来ず右往左往している妖精王を見兼ねてノエルは自分の寝袋を妖精王に差し出した。
「これ使っていいよ。僕はどこででも眠れるから」
今でもしょっちゅうアミナスに付き合って森の中で木の葉に包まって眠るノエルだ。地面で眠る事など別にどうという事はないし、何より蜘蛛の糸絨毯は今まで踏みしめてきたどんな絨毯よりも心地よい。
「ノエル様にそんな事させる訳にはいきません。俺が貸します」
「その通りです。何ならお嬢様のを脱がしてあれに入りますか?」
ノエルにそんな事はさせられない双子が妖精王に自分たちのシュラフを渡そうとすると、レックスも妖精王にシュラフを差し出す。
「僕のも使って良い。蜘蛛の糸は柔らかい。石畳の上とは全然違う」
レックスもまた色んな所で野営をしている。冷たくて硬い石畳に比べれば蜘蛛の糸の絨毯は天国のように柔らかい。
「俺たちのも使っていいぞ! よく考えれば蜘蛛の糸の上で眠る事などこの先一生無いかもしれんからな!」
「ライアンの言う通りかも。父さんに自慢出来るし俺のも使っていいよ」
「わ、私のも使っていいよ。妖精王さん風邪引いたら大変だもん。だって、神様なんだよね?」
「俺はリゼが風邪引く方が困る。仕方ないな。俺の貸してやるよ」
「お、お前たち……」
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