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第203話 キャロラインVSレヴェナ

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「へぇ、地熱を利用するのか。不思議と蒸しただけの野菜なのに甘いな」
「美味いね。バセット領の野菜もだけど、何でこんなに甘いんだろう?」

 ライアンとルークがサラダを食べながら言うと、妖精王がパンを千切ってスープに浸しながら言った。

「土地柄もあるだろうが、恐らく薬品ではないか? 王都で主流の安い薬品を使った野菜とは味がまるで違う。とは言え人口が増えてきたのでああいうものを使うのを我は否定はしないが、もっと良いものが出来ればいいとは思うな。あとは管理だな。妖精が率先して手伝っている地域の物は美味い!」
「お前それが言いたかっただけだろ? 味なんてそんなに変わるか? リゼ、分かる?」
「分かんない。食べられるだけで幸せだから」

 毎日食事が出来るという事がどれほどに幸せな事か、リーゼロッテは痛いほど知っている。

 リーゼロッテの言葉に子どもたちは黙って自分たちが食べていた物を見て言った。

「そうだよな。味とかよりもまずは全ての人が毎日食事に困らないようにしなきゃなんだよな」
「ああ……父さんと母さんもいつも言ってる。誰も死なせない。それが王家の一番大切な仕事なんだって」

 リーゼロッテと仲良くなった事でライアンとルークの中に何かが芽生えた。今までにも爵位が低い人達と出会う機会は沢山あったし、苦労話も沢山聞いてきたが、リーゼロッテのような人と出会う機会は無かったからだ。

「俺たちしか出来ないんだよな。その為に俺たちは居るんだよな」

 ポツリとルークが言うと、ライアンも真顔で頷く。

「そうだ。俺たちの立場は決して上ではない。むしろ一番低いんだ。父さんはいつもそう思えって言う。お金と権利があるだけで立場は一番低いんだから、それを皆の為に使えって」
「まぁそれはちょっと極端だと思うけどね。父さまと母さまの言葉を借りれば、皆平等なんだよ。上とか下とかそんなのはないんだよ、きっと」

 何だか真顔でパンを丁寧に食べる二人にノエルが言うと、アミナスが立ち上がって拳を振り上げた。

「そうだよ! だから難しい事は大人に任せて子どもは今のうちにしっかり食べていっぱい遊んで、たっくさん寝て大人になった時に今度は皆の為に頑張る! そうしたらずっとずーっと皆幸せ! だからいっぱい食べていっぱい遊ぼう! ぎゃん!」
「お嬢様、食事中に行儀が悪いです」
「志は立派ですが、あなたは遊ぶの範疇をとうに超えているので自重してください。あと、アニーを巻き込まないでください」

 突然立ち上がったアミナスのせいでスープが少しだけこぼれてしまったレオとカイが遠慮なくアミナスにげんこつを落とした。そんな様子を見てリーゼロッテが珍しく声を出して笑う。

「皆面白いね、オズ」
「そうか?」
「うん。面白い。オズが拾ってくれたから皆に会えた。ありがとう、オズ」

 満面の笑みを浮かべてリーゼロッテがオズワルドを見上げると、オズワルドは不思議そうな顔をして曖昧に頷いた。


 その頃レヴィウスでは、ミアとエリスとティナは街に諜報に。ルイスとキャロライン、シャルル、カインは城で今日も戦っていた。

 今日も今日とて中庭では各国の王妃達の舌戦が繰り広げられていたのだが、実質レヴェナVSキャロライン・シエラである。

 ちなみにアーシャは立場上どちらにもつくことが出来ずに一人オロオロしていた。一番可愛そうな役回りである。

 レヴェナは優雅に紅茶を飲みながらキャロラインに尋ねた。

「そう言えば一度お聞きしたかったのだけれど、キャロライン王妃は聖女と呼ばれる事に対してはどう思っていらっしゃるの?」
「聖女と呼ばれる事について、ですか?」
「ええ。そう呼ばれるということはさぞかし素晴らしい志があるのでしょう? まさか気づいたら聖女と呼ばれていただなんて仰っしゃらないわよね?」

 にっこりと笑みを浮かべたレヴェナはキャロラインを上から下まで舐めるように見た。シンプルではあるが仕立ての良い真っ白なドレスは着る人を選ぶだろう。自分に自信がないとなかなかこんなドレスは着ることが出来ない。こういう無駄に自信満々な女が大嫌いなレヴェナが言うと、そんなレヴェナの言葉にキャロラインは慈悲深く微笑んだ。

「そのまさかですわ。私は気づけば聖女と呼ばれていました。私自身は特に何もした覚えはありません」

 これは少しだけ嘘だ。キャロラインが聖女と呼ばれるようになったのは『アリスとキャロラインの仲良く聖女半分こ』計画に則って、ノアとカインが根回ししたのだから。

 けれどそれをわざわざレヴェナに教えてやる事もないし、メイリングがあの教会に手を貸して戦争をけしかけてきた事は周知の事実だ。

「そうなの。大した志もないのに聖女と呼ばれるだなんて、よほど運が良いのかしら?」
「レヴェナ様の仰る通り運もあるでしょう。仲間たちの手助けもありましたから。まぁ、国民や兵士に洗脳紛いのことをして無理やり信者を増やした聖女もいらっしゃったようですけれど」

 冷笑を浮かべたキャロラインにレヴェナは顔色一つ変えずにわざとらしく驚いて見せる。

「あら、そんな方がいらっしゃったの? 恐ろしい事をするものねぇ。でもあなたはそんな事をせずとも今の地位を築いたのでしょう? 素晴らしいですわね。是非その手腕をご教授いただきたいものだわ」
「……へっ、ざけんなよ白々しい。もう皆知ってるっつーの」

 レヴェナの言葉を聞いてシエラは俯いて小声でポツリと言った。それが聞こえたのかアーシャとキャロラインが引きつって二人してシエラの手を握りしめてくる。

「ご教授だなんて。私は王妃として国民達の幸せの為に動いただけですわ。私からすれば逆に何をすれば国民からそっぽを向かれるような事態になるのかそちらの方が不思議でなりません」

 怒りで口調が激しく乱れるシエラにヒヤヒヤしながらキャロラインがレヴェナを見ると、レヴェナは口元を扇で覆った。

「まぁ、そんな方もいらっしゃるの?」
「ええ、そのようですわ。どこのどなたなのでしょうね? ああ、もしかしたらまだ御本人のお耳には入っていないだけかもしれませんわね。何せその国は酷い恐怖政治のようなので」

 この一言にレヴェナはとうとう黙り込んだ。この反応からしてやはりメイリングでも今の王家の行動は色々と問題になっているのだろう。

 そこに追い打ちをかけるようにキャロラインは言う。

「国が違えば舵の取り方もそれぞれですわ。正解など誰にも分かりませんが、ただ一つ言えるのは民を踏みつけて得た物など、いざという時に何の役にも立たないと言う事です。私の親友の従者がいつも言いますの。数に勝るものは無いと。その通りだと思いますわ。私達なんて国民に反旗を翻されては一溜りもありませんもの」

 静かに言ったキャロラインの言葉をレヴェナが鼻で笑った。

「それは違うと思いますわ。圧倒的な力の前では民がいくら団結したとしても些細な事ですもの」
「……おこがましいな、おい。神様味方につけたって思い込んで馬鹿じゃん。頭ん中に砂でも詰まってんじゃないですか~?」

 またボソリと悪態をついたシエラを見兼ねてアーシャがほほほ、と笑ってシエラの手の甲をつねる。

「圧倒的な力というのが何かは私達には分かりませんが、その圧倒的な力によって全てを滅ぼされる可能性というのを少しも考えないのですか?」

 やけに自信満々なレヴェナにキャロラインが問うと、レヴェナは不思議そうにキャロラインを見た。

「圧倒的な力を持つ者よりも優れた力が我々にあるとすれば何も不思議ではないでしょう? その力のせいで遠くない未来にこの星は滅びるかもしれませんが」
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