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第219話 金色のピン

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「カイ、次はこの子お願い」
「お嬢様はしないのですか?」
「したいけど、兄さまが私は止めときなって」

 そこまで言ってしょんぼりしたアミナスを見て何かを察したカイが赤ん坊を受け取る。

「アニーの首をへし折りそうになりましたもんね。止めておいて正解だと思います」
「う……そ、その節は大変ご迷惑を……」

 良かれと思ってした事だが、結果まだ首の座っていなかったアニーの首がもげ落ちそうな程強く背中を叩いてしまって皆にこっぴどく叱られたアミナスだ。せっかく助かった子達をそんな目に遭わせる訳にはいかない。

「ではあなたは眠った子を隣の部屋へ運んでください」
「うん!」

 それぐらいは出来る! 自信満々に頷いたアミナスは眠りについた赤ん坊達をせっせと隣の部屋に運び込んでいく。


「ライアン、布団が足りぬ!」
「よ、よし、あと何枚いる?」
「あと三枚だ! おお、よしよし。起きるなよ~起きるなよ~……」

 リーゼロッテとアミナスが運び込んでくる子たちに毛布をかけながら妖精王は必死になって今にも起きてしまいそうな赤ん坊達をあやしていた。

 我が子ですらこんなにも世話を焼いた事が無かった気がする。せっせと赤ん坊の世話をしながら妖精王はふと思った。こうやってマジマジと赤ん坊を見るのは初めてだ。

「これがいずれこうなって、ああなるのか……」

 妖精王は赤ん坊とライアンを見比べ、さらにルイスやアリス達を想像する。

「クロちゃんは違うの?」
「おい! 我はもうクロではないぞ! まぁいい。我らは生まれる時に選ぶのだ」
「選ぶ?」
「ああ、姿をな。だから我のように子どもの姿を選ぶ者もいれば先代のように老人の姿を選ぶ者もいる。まぁ大体は若い青年や少女の姿を選ぶがな」
「ふぅ~ん。自分で姿を選んで生まれるなんて面白いね! でも私はこのままでいいかな! めっちゃ可愛いし!」

 何だかちょっと想像出来ない世界だが、アミナスは自分ならどうするだろうと考えたけれど、自分の今の姿が気に入っているアミナスにとってはこの姿が一番しっくりくる。

「お主のその自信は一体どこからくるのだ?」
「え? だって、皆もそう思うでしょ?」

 首を捻ったアミナスを見てライアンとルークが真顔で頷く。そんな子どもたちを見て妖精王は苦笑いを浮かべた。

「なるほど、周りの環境のせいだな。特にノアの影響が強いのではなかろうか」
「旦那様の愛情はドロドロでしつこいのでお嬢様が完全に勘違いしてしまっても仕方ありません。ですがお嬢様、世界で一番可愛いのは誰が何と言おうとも母さんとアニーです」
「そうです。あの二人に太刀打ちできる人間など、この世には存在しません」

 最後の赤ん坊を抱いてやってきたレオとカイは真顔でそんな事を言いながら、手慣れた手付きで赤ん坊を蜘蛛の絨毯に寝かせる。

「こっちはこっちでキリの影響が強すぎるな」

 呆れた妖精王が苦笑いを浮かべると、そこへようやくレックスとオズワルドが戻ってきた。

「ちょっとこっちに来てほしい。手伝ってほしい事があるんだ」

 どことなく緊張したレックスを見て皆表情を引き締めて頷いた。きっとまた何かあったのだ。
 

 本当はあの会議室で集まりたかったが、赤ん坊が居るのであまり離れる事は出来ないと言うレオとカイの主張を聞いて、赤ん坊の部屋の斜め向かいにあった小さな休憩所に全員が集まった。

「狭いな」

 オズワルドが仕方なく膝にリーゼロッテを乗せて言うと、妖精王はルークの膝の上で頷いた。孫に抱きかかえられるこの状況を何と表現すればいいのだろうか。

「アミナス、じっとしてて。落っことすよ」
「うん!」

 ノエルの膝の上でモゾモゾするアミナスに困ったようにノエルが言うと、アミナスは良い返事をしてまたモゾモゾする。

「ノエル、重くなったら僕が代わる」
「うん、ありがとう。で、何を手伝うの?」
「これを見て」
「これ、ディノの鍵のピン?」
「うん。これが秋の庭にあったんだ。多分、誰かがそれを使ってあの部屋に出入りしてるんだと思う」

 そう言ってレックスはノエルにピンを手渡してお茶を一口飲んだ。そしてふと気付く。こんな仕草が随分人間らしくなったのではないか、と。

「これが他の部屋にもあるかもしれないって事?」
「そう。だから早く探さないと。このままじゃディノの地下があいつらに荒らされる」

 そんな事は絶対に許さない。強い口調で言ったレックスを見て、ようやく子供達は危機感を抱いたようだ。

「でもどうしてそんな重要な物を刺しっぱなしにしてたんだろう?」

 ノエルの言葉に全員が首を捻った。

「それってさ、誰でも通れるようにする為……だったとか?」
「ルーク! それはどういう意味だ!?」

 妖精王がルークに掴みかからんばかりの勢いで近寄ると、ルークは驚いたように目を丸くして早口で言った。

「じいちゃん痛いよ! だってあいつらはそんな大事な物刺しっぱなしにしたりしないでしょ? だとしたら、それ意外の人が使うとしか考えられない!」
「ルークの言う通りだ。すぐさま探そう! だが赤ん坊はどうする?」

 ライアンが言うと子供達はハッとした顔をして一斉に赤ん坊が眠っている部屋を見る。

 誰かが残るか、そうでなければ連れて行くか。そんな事を考えていたその時、オズワルドのスマホが鳴った。

「ど、どうしてオズワルドはここでスマホを使えるんだ⁉」

 ここに下りてから魔法という魔法が使えず、連れて来ていたレインボー隊でさえただの人形になってしまっていて、スマホなど今やただの薄い箱になってしまっているというのに、オズワルドのスマホはどうやら地下でも使えるらしい。

「え? スマホここでも一定の場所で使えるよ? ねぇルーク」
「ああ。なんだ、ライアン知らなかったのかよ?」
「ど、どういう事だ? 俺のは全く使えないぞ⁉」

 キョトンとするノエルとルークにライアンは口をあんぐり開けてアミナス達を見てみたが、アミナス達もそれを聞いて慌てて自分のスマホを確認しているがやはり使えない。

 そんな子ども達を見てオズワルドが鼻で笑った。

「俺は誰の魔法にも干渉していないからな。でもたとえ一部でも地下でスマホが使えるようになっているのは問題だな」
「ディノの加護が弱まってるか外からの干渉が強くなってるのかも。急がなきゃ」

 ノエルとルークの話を聞いたレックスが真顔で言うと、皆神妙な顔をして頷いた。
 

 オズワルドがノアからの電話を終えて無事に赤ん坊を地上に送り出した子どもたちは、2つのチームに分かれて行動を開始した。

「それじゃあ僕たちはレックスチームね。春の庭に行くよ」

 ノエルはそう言ってアミナスの手をしっかりと握る。

「俺達はオズワルドチームだな。まずは冬の庭を目指すか!」

 胸を張ったライアンにオズワルドが無言で地図を渡してくる。

「ん? なんだ?」
「いや、何となくだけどお前が一番フラフラしそうだ。これ持ってて」
「……分かった」

 信用されていないのだろうが、こうもはっきり言われると少しだけしょんぼりしてしまうライアンだ。

 そんなライアンの袖をリーゼロッテが引っ張った。

「その地図、凄く大事だからライアン様に渡したんだと思う」
「リ、リゼ……そうか! ありがとう! さぁ行くぞ!」

 リーゼロッテからのフォローにライアンは顔を輝かせて意気揚々と歩き出す。そんなライアンの後ろ姿を見てルークがポツリと言った。

「リゼちゃんありがとう。ライアン元気になったみたい」
「? うん、良かった」

 何故お礼を言われたのかはよく分からないが、とにかくライアンが元気になって良かった。それに万が一という事もある。どこかではぐれてしまった時の為に地図は必要だ。
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