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第224話 いくつになっても○○が似合う人
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『そう言えば……あの時のユアンはピアスをしていなかった。学生時代、命の次に大切だと言っていた金のピアス……』
『ピアス?』
『ああ。そのピアスこそが自分の正体のようなものだとか何とか訳の分からない事を言っていたんだ。それが今もどういう意味だったのかは全く分からないが』
それを聞いたノアが何かに気づいたかのようにアーロに詰め寄った。
『それってもしかして長細いピンじゃない? これぐらいの大きさの』
『あ、ああ、そうだ。何故知っているんだ?』
『思い出してよ! あの箱の中に入ってたパズルのピースと金のピン!』
ノアが言うと、アーロはようやく何かに気づいたかのようにハッとした顔をして立ち上がった。
『すぐにユアンの実家を調べる! あとリサを城でもどこでもいい、保護してくれ! もちろんジョーもだ!』
『分かった。すぐに手配するよ』
「――て、事があったんだ」
「……何てこと……そんな、嘘でしょ?」
「嘘じゃない。ユアンもあちらの仲間だ。だから金のピンを肌見放さず持っていた。ユアンの出自は分からないけど、あれは仲間の証なんだろうな。全ては用意周到に準備された事だったんだ」
「じゃ、じゃあどうしてユアンはアーロに固執したの?」
「それは分からない。アーロ本人にも分からないらしい。リズさんに固執したのは間違いなくアーロに何か恨みがあったからなんだろうけど、それが分からないんだ」
エリザベスに何か固執していたとするのなら、きっと今頃エリザベスはとうの昔に攫われるなり何なりしていただろう。
けれどエリザベスは今も元気に毎日バセット領で畑を耕しているし、息子のジョーだってグランでピザ屋をしている。
「どういう……事? ユアンの代わりに処刑されたのは一体誰なの?」
「分からない。それを確認するためにリリーに話を聞きたかったんだ。アーロにユアンの容姿を聞いてきた。もしもリリーが見た男の中にそいつが居たら、それは間違いなくユアンだ」
そこまで言ってカインは小さく息を吐いた。少しずつ全てのピースがはまりかけているようだ。
その頃キャロラインに言われた通り隣室に移動したキリとリアンはノアに全く同じ話をされていた。
「なるほど、だからお嬢様では無理だと仰った訳ですか」
「まぁそれだけが理由じゃないんだけどさ。ここに来てまさかユアンが生きてただなんてね。ほんと参っちゃうよね」
「……そんな事言いながら顔めっちゃ怖いんだけど?」
いつものようなニコッすら無いノアにリアンが言うと、ようやくノアが微笑んだ。
「ほんと? ヤバいね。余計に怯えさせちゃうかも」
「変態はアリスに関する事になると理性飛ぶからなぁ。しょうがないから僕が聞いてきてあげるよ。キリと」
「どうして俺もです?」
「あんたはあいつで理性飛ぶような事ないでしょ? 何よりも僕だけ女装は納得いかない!」
「それが本音ですね? 仕方ありませんね。俺ももう女装が似合うかどうかと言われたら微妙ですが、それでリアン様の心の平穏が保たれるのであればご一緒します。どのみち流石のノア様ももう女装は無理……ですよね?」
似合わないと思いたいが、何せ女顔のノアだ。そこは年をとっても微妙に似合ってしまうかもしれない。
「何で僕に聞くの?」
「いえ、何となく。今でもどこかで隠れて女装してたりしませんよね?」
「その言い方だと今までもどこかで僕が隠れて女装してたみたいになるんだけど?」
「いつかの為に、とか言ってしていないとは言い切れないな、と」
真顔で言ったキリにノアは苦笑いを浮かべてそれを否定した。
「してないよ! まぁアリスに頼まれたらやぶさかではないけどね!」
「……だから何でそんな女装に乗り気なの? 本気で分かんないんだけど。あと僕も似合うかどうかはもう分かんないからね!?」
眉を吊り上げたリアンをノアとキリがじっと見てきたかと思うと、二人して同時に親指を立てる。
「あ、大丈夫! リー君はまだまだ全然いけるから!」
「大丈夫です。リアン様は多分一生女装が似合うと思います。それこそ年を取ったらお爺さんかお婆さんか分からないタイプになると思います」
「それ褒めてないよね!? もういい! あいつじゃないけど一言多いんだよ! あんたはいっつも!」
キリの言葉にそっぽを向いたリアンは、その後キャロラインが持ってきたドレスを着てカツラを被ると、鏡を見て愕然とした。
「いや~! リー君ちにあったリトさんの肖像画女装バージョンにそっくりだね!」
「見事ですね。やはりあなたは一生女装が似合うと思います」
「うっさい!」
自分でもそう思ってしまっただけにリアンが怒鳴ると、振り返ってキリを見てゴクリと息を飲んだ。
「お二人とも何も言わずとも顔が全てを物語っていますよ」
「あ、いや……うん、やっぱキリはもう無理かぁ~」
「そりゃそうです。あの時はまだ骨格も出来上がっていませんでしたし。ですが今は――とりあえずキツイです」
もう決して少年特有の華奢さは無い。背だって伸びたし骨格だって大分大きくなっている。
「という事は僕ももう無理かな。キャロラインのはもう入らないね。よしリー君! 君に全てを託すよ! はいこれ。ユアンの似顔絵」
「……」
笑顔で肩を叩かれたリアンはガックリと項垂れてノアから似顔絵を受け取って静かに頷いた。
その後キャロラインに案内されてリリーが居る部屋に辿り着いたリアンは、似顔絵を握りしめてチラリと振り返ると、ノアが頷いて見せた。
「リー君お願いね。これが分かれば少しだけ物事が進む。ていうか、少なくとも黒幕の一人は分かる」
「分かってるよ。それじゃあ行ってくる」
リアンは心配そうなキャロラインを後目にドアをノックすると、中からティナの返事が聞こえてきた。
「失礼します」
そう言ってリアンは出来るだけ甲高い声を出して部屋に入ると、そこにはティナと一人の少女が向かい合って座り、お菓子を食べながら本を開いて談笑している。
その光景はとてもではないがミアから聞かされていたような酷い扱いを受けた少女には見えない。
「やぁ、君は――えっ!?」
「久しぶり、ティナさん」
リアンを見るなりしばし正体が分からなかったのだろうティナは、リアンの正体に気づいて目をまん丸にしている。
「はじめまして、リオンと申します」
万が一リリーがチャップマン商会の事を知っていても困るので咄嗟に偽名まで使ったリアンは、何故か学生時代にアリスと共に叩き込まれたカーテシーを披露すると、少女も慌てて立ち上がって綺麗なカーテシーを返してくれた。
その所作だけで分かる。この少女が貴族出身だと言うことが。
「リ、リリーと申します。えっと……」
誰? リリーはそんな事を考えながら目の前の美女を前に失礼だとは思いながらも固まってしまった。どこか中性的な美しさに思わず見惚れてしまう。
「ああ、すみません。私はチャップマン商会から来ました。聞けばあなたは元々レヴィウスの北の方に住んでいらっしゃったとか。そこで王妃様に無理を言って取り次いで貰ったのです。私どもはそこへはまだ販路が築けていませんから。レヴィウスの北の方は何か特産物などありましたか?」
「と、特産物、ですか? えっと……」
思いもよらない客にリリーはホッと胸を撫で下ろした。どうやらリアンはどこかの刺客とかそういう訳ではないようだ。
リリーは安心したように席に座り直すと、既に懐かしい自宅を思い出した。
リリーが座ったのを見てリアンも席につくと、ちゃっかり用意されていたお茶を飲む。そんな光景をティナはまだ怪訝な顔をして見ていたが、しばらくして何かの作戦だと思ったのだろう。すぐに話を合わせてくれた。
『ピアス?』
『ああ。そのピアスこそが自分の正体のようなものだとか何とか訳の分からない事を言っていたんだ。それが今もどういう意味だったのかは全く分からないが』
それを聞いたノアが何かに気づいたかのようにアーロに詰め寄った。
『それってもしかして長細いピンじゃない? これぐらいの大きさの』
『あ、ああ、そうだ。何故知っているんだ?』
『思い出してよ! あの箱の中に入ってたパズルのピースと金のピン!』
ノアが言うと、アーロはようやく何かに気づいたかのようにハッとした顔をして立ち上がった。
『すぐにユアンの実家を調べる! あとリサを城でもどこでもいい、保護してくれ! もちろんジョーもだ!』
『分かった。すぐに手配するよ』
「――て、事があったんだ」
「……何てこと……そんな、嘘でしょ?」
「嘘じゃない。ユアンもあちらの仲間だ。だから金のピンを肌見放さず持っていた。ユアンの出自は分からないけど、あれは仲間の証なんだろうな。全ては用意周到に準備された事だったんだ」
「じゃ、じゃあどうしてユアンはアーロに固執したの?」
「それは分からない。アーロ本人にも分からないらしい。リズさんに固執したのは間違いなくアーロに何か恨みがあったからなんだろうけど、それが分からないんだ」
エリザベスに何か固執していたとするのなら、きっと今頃エリザベスはとうの昔に攫われるなり何なりしていただろう。
けれどエリザベスは今も元気に毎日バセット領で畑を耕しているし、息子のジョーだってグランでピザ屋をしている。
「どういう……事? ユアンの代わりに処刑されたのは一体誰なの?」
「分からない。それを確認するためにリリーに話を聞きたかったんだ。アーロにユアンの容姿を聞いてきた。もしもリリーが見た男の中にそいつが居たら、それは間違いなくユアンだ」
そこまで言ってカインは小さく息を吐いた。少しずつ全てのピースがはまりかけているようだ。
その頃キャロラインに言われた通り隣室に移動したキリとリアンはノアに全く同じ話をされていた。
「なるほど、だからお嬢様では無理だと仰った訳ですか」
「まぁそれだけが理由じゃないんだけどさ。ここに来てまさかユアンが生きてただなんてね。ほんと参っちゃうよね」
「……そんな事言いながら顔めっちゃ怖いんだけど?」
いつものようなニコッすら無いノアにリアンが言うと、ようやくノアが微笑んだ。
「ほんと? ヤバいね。余計に怯えさせちゃうかも」
「変態はアリスに関する事になると理性飛ぶからなぁ。しょうがないから僕が聞いてきてあげるよ。キリと」
「どうして俺もです?」
「あんたはあいつで理性飛ぶような事ないでしょ? 何よりも僕だけ女装は納得いかない!」
「それが本音ですね? 仕方ありませんね。俺ももう女装が似合うかどうかと言われたら微妙ですが、それでリアン様の心の平穏が保たれるのであればご一緒します。どのみち流石のノア様ももう女装は無理……ですよね?」
似合わないと思いたいが、何せ女顔のノアだ。そこは年をとっても微妙に似合ってしまうかもしれない。
「何で僕に聞くの?」
「いえ、何となく。今でもどこかで隠れて女装してたりしませんよね?」
「その言い方だと今までもどこかで僕が隠れて女装してたみたいになるんだけど?」
「いつかの為に、とか言ってしていないとは言い切れないな、と」
真顔で言ったキリにノアは苦笑いを浮かべてそれを否定した。
「してないよ! まぁアリスに頼まれたらやぶさかではないけどね!」
「……だから何でそんな女装に乗り気なの? 本気で分かんないんだけど。あと僕も似合うかどうかはもう分かんないからね!?」
眉を吊り上げたリアンをノアとキリがじっと見てきたかと思うと、二人して同時に親指を立てる。
「あ、大丈夫! リー君はまだまだ全然いけるから!」
「大丈夫です。リアン様は多分一生女装が似合うと思います。それこそ年を取ったらお爺さんかお婆さんか分からないタイプになると思います」
「それ褒めてないよね!? もういい! あいつじゃないけど一言多いんだよ! あんたはいっつも!」
キリの言葉にそっぽを向いたリアンは、その後キャロラインが持ってきたドレスを着てカツラを被ると、鏡を見て愕然とした。
「いや~! リー君ちにあったリトさんの肖像画女装バージョンにそっくりだね!」
「見事ですね。やはりあなたは一生女装が似合うと思います」
「うっさい!」
自分でもそう思ってしまっただけにリアンが怒鳴ると、振り返ってキリを見てゴクリと息を飲んだ。
「お二人とも何も言わずとも顔が全てを物語っていますよ」
「あ、いや……うん、やっぱキリはもう無理かぁ~」
「そりゃそうです。あの時はまだ骨格も出来上がっていませんでしたし。ですが今は――とりあえずキツイです」
もう決して少年特有の華奢さは無い。背だって伸びたし骨格だって大分大きくなっている。
「という事は僕ももう無理かな。キャロラインのはもう入らないね。よしリー君! 君に全てを託すよ! はいこれ。ユアンの似顔絵」
「……」
笑顔で肩を叩かれたリアンはガックリと項垂れてノアから似顔絵を受け取って静かに頷いた。
その後キャロラインに案内されてリリーが居る部屋に辿り着いたリアンは、似顔絵を握りしめてチラリと振り返ると、ノアが頷いて見せた。
「リー君お願いね。これが分かれば少しだけ物事が進む。ていうか、少なくとも黒幕の一人は分かる」
「分かってるよ。それじゃあ行ってくる」
リアンは心配そうなキャロラインを後目にドアをノックすると、中からティナの返事が聞こえてきた。
「失礼します」
そう言ってリアンは出来るだけ甲高い声を出して部屋に入ると、そこにはティナと一人の少女が向かい合って座り、お菓子を食べながら本を開いて談笑している。
その光景はとてもではないがミアから聞かされていたような酷い扱いを受けた少女には見えない。
「やぁ、君は――えっ!?」
「久しぶり、ティナさん」
リアンを見るなりしばし正体が分からなかったのだろうティナは、リアンの正体に気づいて目をまん丸にしている。
「はじめまして、リオンと申します」
万が一リリーがチャップマン商会の事を知っていても困るので咄嗟に偽名まで使ったリアンは、何故か学生時代にアリスと共に叩き込まれたカーテシーを披露すると、少女も慌てて立ち上がって綺麗なカーテシーを返してくれた。
その所作だけで分かる。この少女が貴族出身だと言うことが。
「リ、リリーと申します。えっと……」
誰? リリーはそんな事を考えながら目の前の美女を前に失礼だとは思いながらも固まってしまった。どこか中性的な美しさに思わず見惚れてしまう。
「ああ、すみません。私はチャップマン商会から来ました。聞けばあなたは元々レヴィウスの北の方に住んでいらっしゃったとか。そこで王妃様に無理を言って取り次いで貰ったのです。私どもはそこへはまだ販路が築けていませんから。レヴィウスの北の方は何か特産物などありましたか?」
「と、特産物、ですか? えっと……」
思いもよらない客にリリーはホッと胸を撫で下ろした。どうやらリアンはどこかの刺客とかそういう訳ではないようだ。
リリーは安心したように席に座り直すと、既に懐かしい自宅を思い出した。
リリーが座ったのを見てリアンも席につくと、ちゃっかり用意されていたお茶を飲む。そんな光景をティナはまだ怪訝な顔をして見ていたが、しばらくして何かの作戦だと思ったのだろう。すぐに話を合わせてくれた。
応援ありがとうございます!
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