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第223話 用意周到な計画

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「お嬢様といいルイス様といい、本当に単純でいいですね」
「あんたね、そうやって上手いこと王子使うの止めなよね」
「ではリアン様が淹れてくれますか?」
「え? 嫌だけど?」
「そこで即答すんすか!? ちょっと心配なんで俺も行ってきます」

 そう言って立ち上がったオリバーにキャロラインは申し訳無さそうに頭を下げた。

「ごめんなさいね、オリバー。頼めるかしら? 本当は私が行きたいけれど、ルイスはお茶を淹れる所は秘密だって言っていつも見せてくれないのよ」
「もちろんっす。キャロラインはアリスの監視しててほしいっす。こん中でアリスの暴走止められるのキャロラインだけなんで」

 苦笑いを浮かべてオリバーが言うと、キャロラインはコクリと頷いてアリスを見て小さなため息を落としている。相変わらずアリスは両手にお菓子を持って一心不乱にお菓子を食べているのだ。

「この子だけはもうほんと、いつまで経っても変わらないわね」
「キャロライン様、お嬢様はもう一生こうだと思うのでそろそろ腹をくくってください」
「……そうね。それにしてもミア、保護してきたリリーさんは大丈夫なの?」

 キリと共にノア達と入れ違いに戻ってきたミアに尋ねると、ミアはコクリと頷いた。

「はい。今はティナさんが他にどこか異常が無いか診察しています。ついでにリリーさんのお爺さんとお婆さんも一緒にお連れしたんですが良かったでしょうか?」
「もちろんよ! すぐに家の手配をするわ。しばらくはルーデリアに居たほうが安全だものね」
「はい! ありがとうございます!」

 勝手に一家全員を連れてきてしまったのでどうなるかと思ったが、やはりキャロラインは優しい。ルーデリアにはこんなにも素敵な王妃が居るのだとミアはこんな時はいつも誰にともなく自慢したくなる。

「どこが一番安全かしら?」
「アランの所がいいのでは? あそこは誰かが入り込んだらすぐに分かるでしょう?」

 シャルルが言うと、キャロラインは手を打って頷きアランを見ると、アランも当然だとでも言うように頷いた。

「もちろんうちはかまいませんよ。ではスマホ工場の領の一部屋を提供しましょう。領はうちの領地内にあるのでさらに安心です」
「ありがとう、アラン。それじゃあその方向でお願いするわ」

 そう言ってキャロラインはメイドを呼んでその旨を伝えると、メイド達は軽く頭を下げて部屋を出ていった。

「エリスさんがお爺さんとお婆さんと一緒に居るのよね?」
「はい。しばらくはティナさんとエリスさんが三人の護衛につくそうです。リリーさんはあちらにとっては最重要人物のようなので」
「そうなの?」
「はい。色んな事情を聞かせてもらいましたが、それ以上にアンソニー王が異常にリリーさんを探しているようなのです」
「どういう事?」
「キリさんが来られる前にリリーさんと少しだけ話をしていたのですが、どうも黒幕の男たちの顔を彼女はしっかり覚えているんですよ。それがあちらには大変都合が悪いようです」
「……そうなの。だったら余計に彼女を連れ戻させる訳にはいかないわね。でも変ね。どうして顔を知られているとマズイのかしら?」

 キャロラインが首を捻ったその時、突然部屋が光ってカインの声がした。

「あり得ない人があちら側に居るからだよ。そのリリーさんに会うことって出来るかな?」
「カイン! 驚くじゃないの!」
「ごめんごめん。で、会えそう? それとも無理かな?」

 カインの問にミアが申し訳なさそうに視線を伏せた。

「それが……リリーさんは男性に恐怖心があって、エリスさんでも怯えてしまうんです」

 エリスは勇者と呼ばれる割には気さくで柔らかい雰囲気を持っていて、かなり人好きする人物だ。そんなエリスでもリリーは怯える。多分カインなど絶対に無理だろう。

 それを聞いてカインとノアは顔を見合わせる。

「なるほど。じゃこの手しかないな。リー君、準備して」
「は? 準備? 何の」
「何のって、決まってるでしょ? 女装のだよ」

 カインの言葉を引き継ぐようにノアが言うと、リアンは眉を吊り上げる。

「はあ!? 何で!」
「しょうだないでしょ? 男は駄目だって言うんだから。キャロラインに行ってもらってもいいけど、それじゃあ向こうが萎縮しそうだし、ライラちゃんだけだと内容的にブチギレて雷落としそうだし、アリスは言わずもがなでしょ?」
「だからって何で女装!? ていうか無理だよ! 僕だってもう結構おじさんだよ!? ねぇ!? そう思うでしょ!?」

 リアンは眉を吊り上げてオリバーを見たが、オリバーはそっとリアンから視線をそらした。そんなオリバーの足を思い切り踏んづけたリアンがライラを見ると、ライラは笑顔で手を叩いているではないか。

「……僕には仲間は居ないんだ……」
「リー君! 大丈夫! 私が居るよ! リー君の心友のアリスがいつだってリー君の味方だゾ!」
「……あんたは端から数に入れてないよ。言っとくけど僕だけ女装は嫌だから。あんたとあんたも女装しなよ。そうしたらしてあげる」

 苦肉の策でノアとキリを指差すと、ノアとキリは互いに顔を見合わせてコクリと頷いた。

「いいよ。じゃ、決まりね」
「あの時ほど着こなせるとは思いませんが、それでも構わないのなら」
「いいの!? 反対しなよ! ちょっとは嫌がんなよ!」

 一体どうなってんだバセット領の人たちは! リアンは思わずそんな言葉を飲み込んだ。

 理由はノアの冷たい笑顔に気づいたからだ。一体何を聞いてきたのか、どうやら相当にご立腹のようで、これ以上逆らうのは得策ではなさそうだとリアンは悟った。

「……分かったよ。状況教えて。それでいい?」
「うん、ありがとう。そいう訳だからキャロライン、ドレス用意して」
「え、ええ。すぐに用意するから隣の部屋で少し待っていてちょうだい」

 キャロラインは言われるがまま席を立つと、何故かそこにカインもついてくる。

「俺も行くわ。ちょっと聞きたい事もあるから」
「それは構わないけれど……それじゃあちょっと行ってくるわね」

 そう言ってキャロラインはカインを伴って部屋を出た。

 しばらく二人は無言で廊下を歩いていたが、ふとカインが足を止めて低い声で呟く。

「キャロライン、アリスちゃんの父親のユアン、あいつ生きてるよ」
「……え?」

 一体何を言われたのかが分からなくてキャロラインも足を止めて振り返ると、カインはいつになく真剣な顔をしていた。まるであの学生の時のような暗い顔だ。

「俺たちが思ってたよりもずっと、今回の事は用意周到に準備されてたのかもしれない」
「どういう事なの? 一体何を聞いてきたの?」
「アリスちゃんには絶対に言えない。約束出来る?」
「もちろんよ! 当然でしょう?」

 キャロラインも立派なアリス厨だ。アリスが悲しむような話をアリスにする訳がない。思わず睨みつけたキャロラインを見て、カインがホッとしたように笑った。

「ユアンが処刑された事自体が芝居だった。アーロが見た奴はユアンであってユアンじゃなかった可能性がある」
「……意味が分からないわ」
「俺たちにも分からない。ただ、モルガナは四人の人間の名前を出した。アンソニー、カール、アメリア、ユアン」
「それが……黒幕?」
「多分ね。俺たちはそれを調べる為にアーロの所に行ったんだ。そうしたら――」


 あの後三人でアーロの元に向かってモルガナに聞いた話をアーロにすると、アーロもまた唖然とした顔をしていた。

 確かに自分が見たのはユアンだったと譲らなかったアーロだが、ただ一点だけ何かを思い出したように言ったのだ。
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