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第226話 そういう所が昔から大嫌い!
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「何てことはない、ただのおまじないだ。リリーよりもひどい顔をしている」
「そうかな? はは、僕もちょっとは心強くなったと思ってたんだけどな」
見た目が幼い少女なので余計に罪悪感が酷い。リアンはまた俯いて拳を握りしめた。
ふつふつと湧いてくるのが遠慮なく聞いてしまった自分への怒りなのかリリーを襲ったユアンへの怒りなのかは分からないが、こんな時アリスならどうするのだろうと考えてみたけれど、何も思いつかない。
「駄目だね。変態ぐらい心が強かったらこんな事で動揺なんてしないんだろうけどさ」
「あれの心の強さは異常だぞ? リー君は口は悪くとも根は優しいからな。リリーもそれを理解している、心配するな。リリーもなかなか強いぞ」
「……うん、ありがと」
「ああ。私はもう少しここに居るが、君はどうする?」
「戻るよ。とりあえずユアンが生きてるって事だけは分かったんだし、多分変態が知りたかったのはそこだろうし」
「そうか。分かった。あまり気を落とすなよ」
「大丈夫だよ。リリーさんが目を覚ましたら教えて。もう一回ちゃんと謝りたい。あとでお見舞いも送るよ」
「ははは、律儀だな。分かった、教える」
「ありがと。じゃね!」
「ああ、またな」
そう言って部屋を出たリアンをティナはドアが閉まるその瞬間まで見送った。
「リー君、君の良い所はちゃんと良心がある所なんだ。頼むからノアのようにはならないでくれよ。それに、君だって十分強いと私は思うがな」
言いながら苦笑いを浮かべたティナは、そのままリリーの寝室に向かった。
リリーの部屋を出てリアンがトボトボと歩いていると、曲がり角からこちらを伺うようにノアとキリがじっと見ている。
リアンは二人を見つけるなり足を早めると、乱暴にノアの胸にユアンの姿絵を押し付けた。
「おっと! どうしたの? 何か涙目だけど」
「ユアンは生きてるよ! 僕は自己嫌悪の真っ最中だよ! こんな事引き受けなきゃ良かった!」
ライラは話の内容的に雷を落とすかもしれないと言っていたノアの言葉を思い出してノアを睨みつけた。きっとノアの事だ。こうなる事も予測していたのだろう。
そんなリアンを見てノアはニコッと微笑む。
「ああ、やっぱりビンゴだったんだ? で、どうしてリー君は怒ってるの?」
「この絵姿見た途端あの子、吐いちゃったんだよ! あの子を襲ったのが他の誰でもないコイツだったんだ!」
「なるほど。それでリー君は罪悪感で怒ってる、と。まぁでもその反応で大体何されたか分かったよ。ありがとう、リー君。君がどう思っていても、これは君にしか頼めなかった」
「……だろうね」
「本当は僕が行きたかったけどね、そうしたら多分もっと追い詰めちゃっただろうからさ、ありがとう」
「だろうね! ほんっと、僕はあんたのそういう所が昔っから大っ嫌いだよ!」
ノアの作戦の為なら多少の犠牲に構いもしない所がリアンは昔から嫌いだ。
けれど、それをしなければ色々手遅れになっていたかもしれない事もよく分かっている。
リアンの捨て台詞に珍しくノアは眉を下げた。
「ほんとにごめん、嫌な役回りさせて。でもライラちゃんやキャロライン達にはこんな想いしてほしくなかったんだよ。同じ女性だからこそ余計に」
「……それは……まぁそうだけどさ」
リアンでさえこんなにも落ち込むのだ。これがライラやキャロラインだったらと思うと、絶対に耐えられない。
「かと言ってアリスなんかに行かせたらその場でユアンを狩りに行っちゃいそうだし、やっぱりどう考えてもリー君が適任だったんだ。だからリリーさんが男性を怖がらなかったとしても最初からリー君に頼んでたよ、僕は」
「僕の心の心配を少しはしてほしいんだけど?」
頼られて嬉しいのか悲しいのかよく分からなくてノアを睨みつけると、ノアは肩を竦めて笑う。
「心配してるよこれでも! だからここで待ってたんだってば。絶対に怒って戻ってくるだろうなって思ってたから」
「……」
ノアの言葉を聞いてリアンは無言でノアのお腹にパンチをしたけれど、腹筋が相変わらず割れているノアはそんな事ではビクともしない。
ノアの言う通り、行き場のない怒りを抱えてリアンが戻ってくる事など容易に想像出来たのだろう。そしてそのまま部屋に戻れば皆が心配してくる。だからこそノアはここでリアンのサンドバックになるつもりで待っていたに違いないのだ。
「あー腹立つ! もう一回殴らせて!」
「どうぞ。いくらでも」
されるがままになりながらノアは全く別のことを考えていた。
リアンのこの状況を見るに、やはりあちらは相当えげつない事を平気でやってのけるようだ。これはもうこれ以上はリリーからは何も聞けないだろう。
けれどそれは最初から想定内だ。ユアンが生きているのかどうかさえ分かればそれでいい。アリスに危害を及ぼしそうな人物が生きている。それを聞いただけでノアの怒りも頂点に達しそうなのだ。
「ノア様、大丈夫ですか?」
キリはノアの怒りのステータスがとうとう振り切ってしまったのを見てコソコソとノアに尋ねると、ノアはニコッといつものように笑っただけだった。
皆はノアの事を激しく誤解しているようだが、ノアは実は相当に短気だ。結構ちょっとした事でいつも怒っている。それを顔に出さないだけなのである。
「大丈夫だよ、キリ。僕のお腹はこんな事ではどうにもならないよ。アリスの正拳突きはヤバいけどね」
「あ、いえそちらではなく。お嬢様とリアン様のパンチは比べてはいけません」
「あんた達! 人が一生懸命殴ってんのに何でそんな余裕なの!? そういうとこがムカつくんだよ! ちょっとは痛そうな振りしてよ!」
殴るだけ殴って少しだけスッキリしたリアンが言うと、ノアとキリは顔を見合わせて真顔で言った。
「わざとそんな事されたらされたでまた怒るでしょ? それにねリー君、アリスのパンチ一回食らってみな? 僕たちのパンチなんて、もうナデナデぐらいにしか思わないから」
「全くです。痛そうな振りすら出来ないぐらいお嬢様のパンチは破壊力が物理的に凄いです」
「絶対嫌だよ! あいつのパンチんなんて食らったら僕粉々だよ!」
眉を吊り上げて突っ込んだリアンを見て、ノアがようやく普通に笑った。
「大分調子戻ってきた? そろそろ部屋戻ろっか」
「……そだね。ありがと」
自分の中のモヤモヤが少しだけスッキリした事に気づいたリアンが頷く。
「いえ、リアン様は別にお礼を言う立場ではありません。どちらかと言えばノア様がお礼を言う立場かと」
「ほんとだ! ありがとう返して!」
「ははは、また無理な事言うんだから。ありがとね、リー君。さ、戻ろ。ていうかルイス達を会議に戻さないと」
そう言って踵を返したノアにキリとリアンが大人しくついてきた。
地上でそんな事になっている事など全く知りもしない子ども達は、意気揚々と金のピン探しをしていた。
アミナス達がまずはじめにやってきたのは春の庭だ。
「兄さま! 見て見てあのお花! すんごい形!」
「ほんとだね。アミナスはああいうおっきい花好きだね」
「うん! 小さいのも可愛いけどおっきい方が見応えあるもん! レックス、あれは何ていう花?」
「あれはショクダイオオコンニャク」
「変な名前! もっと近くで見てみたい~!」
「あ、あれは――早い、もう居ない」
「ははは! アミナスだから。で、何言おうとしたの? レックス」
「うん、あの花は腐敗臭が凄いから気をつけてって言おうと――」
最後までレックスが言い終えないうちに、はるか彼方のアミナスから叫び声が聞こえてきた。
「くっさ! くっさい!!! なにコレ!?」
「……注意を最後まで聞かないから……」
「そうかな? はは、僕もちょっとは心強くなったと思ってたんだけどな」
見た目が幼い少女なので余計に罪悪感が酷い。リアンはまた俯いて拳を握りしめた。
ふつふつと湧いてくるのが遠慮なく聞いてしまった自分への怒りなのかリリーを襲ったユアンへの怒りなのかは分からないが、こんな時アリスならどうするのだろうと考えてみたけれど、何も思いつかない。
「駄目だね。変態ぐらい心が強かったらこんな事で動揺なんてしないんだろうけどさ」
「あれの心の強さは異常だぞ? リー君は口は悪くとも根は優しいからな。リリーもそれを理解している、心配するな。リリーもなかなか強いぞ」
「……うん、ありがと」
「ああ。私はもう少しここに居るが、君はどうする?」
「戻るよ。とりあえずユアンが生きてるって事だけは分かったんだし、多分変態が知りたかったのはそこだろうし」
「そうか。分かった。あまり気を落とすなよ」
「大丈夫だよ。リリーさんが目を覚ましたら教えて。もう一回ちゃんと謝りたい。あとでお見舞いも送るよ」
「ははは、律儀だな。分かった、教える」
「ありがと。じゃね!」
「ああ、またな」
そう言って部屋を出たリアンをティナはドアが閉まるその瞬間まで見送った。
「リー君、君の良い所はちゃんと良心がある所なんだ。頼むからノアのようにはならないでくれよ。それに、君だって十分強いと私は思うがな」
言いながら苦笑いを浮かべたティナは、そのままリリーの寝室に向かった。
リリーの部屋を出てリアンがトボトボと歩いていると、曲がり角からこちらを伺うようにノアとキリがじっと見ている。
リアンは二人を見つけるなり足を早めると、乱暴にノアの胸にユアンの姿絵を押し付けた。
「おっと! どうしたの? 何か涙目だけど」
「ユアンは生きてるよ! 僕は自己嫌悪の真っ最中だよ! こんな事引き受けなきゃ良かった!」
ライラは話の内容的に雷を落とすかもしれないと言っていたノアの言葉を思い出してノアを睨みつけた。きっとノアの事だ。こうなる事も予測していたのだろう。
そんなリアンを見てノアはニコッと微笑む。
「ああ、やっぱりビンゴだったんだ? で、どうしてリー君は怒ってるの?」
「この絵姿見た途端あの子、吐いちゃったんだよ! あの子を襲ったのが他の誰でもないコイツだったんだ!」
「なるほど。それでリー君は罪悪感で怒ってる、と。まぁでもその反応で大体何されたか分かったよ。ありがとう、リー君。君がどう思っていても、これは君にしか頼めなかった」
「……だろうね」
「本当は僕が行きたかったけどね、そうしたら多分もっと追い詰めちゃっただろうからさ、ありがとう」
「だろうね! ほんっと、僕はあんたのそういう所が昔っから大っ嫌いだよ!」
ノアの作戦の為なら多少の犠牲に構いもしない所がリアンは昔から嫌いだ。
けれど、それをしなければ色々手遅れになっていたかもしれない事もよく分かっている。
リアンの捨て台詞に珍しくノアは眉を下げた。
「ほんとにごめん、嫌な役回りさせて。でもライラちゃんやキャロライン達にはこんな想いしてほしくなかったんだよ。同じ女性だからこそ余計に」
「……それは……まぁそうだけどさ」
リアンでさえこんなにも落ち込むのだ。これがライラやキャロラインだったらと思うと、絶対に耐えられない。
「かと言ってアリスなんかに行かせたらその場でユアンを狩りに行っちゃいそうだし、やっぱりどう考えてもリー君が適任だったんだ。だからリリーさんが男性を怖がらなかったとしても最初からリー君に頼んでたよ、僕は」
「僕の心の心配を少しはしてほしいんだけど?」
頼られて嬉しいのか悲しいのかよく分からなくてノアを睨みつけると、ノアは肩を竦めて笑う。
「心配してるよこれでも! だからここで待ってたんだってば。絶対に怒って戻ってくるだろうなって思ってたから」
「……」
ノアの言葉を聞いてリアンは無言でノアのお腹にパンチをしたけれど、腹筋が相変わらず割れているノアはそんな事ではビクともしない。
ノアの言う通り、行き場のない怒りを抱えてリアンが戻ってくる事など容易に想像出来たのだろう。そしてそのまま部屋に戻れば皆が心配してくる。だからこそノアはここでリアンのサンドバックになるつもりで待っていたに違いないのだ。
「あー腹立つ! もう一回殴らせて!」
「どうぞ。いくらでも」
されるがままになりながらノアは全く別のことを考えていた。
リアンのこの状況を見るに、やはりあちらは相当えげつない事を平気でやってのけるようだ。これはもうこれ以上はリリーからは何も聞けないだろう。
けれどそれは最初から想定内だ。ユアンが生きているのかどうかさえ分かればそれでいい。アリスに危害を及ぼしそうな人物が生きている。それを聞いただけでノアの怒りも頂点に達しそうなのだ。
「ノア様、大丈夫ですか?」
キリはノアの怒りのステータスがとうとう振り切ってしまったのを見てコソコソとノアに尋ねると、ノアはニコッといつものように笑っただけだった。
皆はノアの事を激しく誤解しているようだが、ノアは実は相当に短気だ。結構ちょっとした事でいつも怒っている。それを顔に出さないだけなのである。
「大丈夫だよ、キリ。僕のお腹はこんな事ではどうにもならないよ。アリスの正拳突きはヤバいけどね」
「あ、いえそちらではなく。お嬢様とリアン様のパンチは比べてはいけません」
「あんた達! 人が一生懸命殴ってんのに何でそんな余裕なの!? そういうとこがムカつくんだよ! ちょっとは痛そうな振りしてよ!」
殴るだけ殴って少しだけスッキリしたリアンが言うと、ノアとキリは顔を見合わせて真顔で言った。
「わざとそんな事されたらされたでまた怒るでしょ? それにねリー君、アリスのパンチ一回食らってみな? 僕たちのパンチなんて、もうナデナデぐらいにしか思わないから」
「全くです。痛そうな振りすら出来ないぐらいお嬢様のパンチは破壊力が物理的に凄いです」
「絶対嫌だよ! あいつのパンチんなんて食らったら僕粉々だよ!」
眉を吊り上げて突っ込んだリアンを見て、ノアがようやく普通に笑った。
「大分調子戻ってきた? そろそろ部屋戻ろっか」
「……そだね。ありがと」
自分の中のモヤモヤが少しだけスッキリした事に気づいたリアンが頷く。
「いえ、リアン様は別にお礼を言う立場ではありません。どちらかと言えばノア様がお礼を言う立場かと」
「ほんとだ! ありがとう返して!」
「ははは、また無理な事言うんだから。ありがとね、リー君。さ、戻ろ。ていうかルイス達を会議に戻さないと」
そう言って踵を返したノアにキリとリアンが大人しくついてきた。
地上でそんな事になっている事など全く知りもしない子ども達は、意気揚々と金のピン探しをしていた。
アミナス達がまずはじめにやってきたのは春の庭だ。
「兄さま! 見て見てあのお花! すんごい形!」
「ほんとだね。アミナスはああいうおっきい花好きだね」
「うん! 小さいのも可愛いけどおっきい方が見応えあるもん! レックス、あれは何ていう花?」
「あれはショクダイオオコンニャク」
「変な名前! もっと近くで見てみたい~!」
「あ、あれは――早い、もう居ない」
「ははは! アミナスだから。で、何言おうとしたの? レックス」
「うん、あの花は腐敗臭が凄いから気をつけてって言おうと――」
最後までレックスが言い終えないうちに、はるか彼方のアミナスから叫び声が聞こえてきた。
「くっさ! くっさい!!! なにコレ!?」
「……注意を最後まで聞かないから……」
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