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第227話 臭すぎる花
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どこでもいつでも元気なアミナスの叫び声に思わずノエルが苦笑いを浮かべると、隣でレックスがしょんぼりしている。
「いつもの事です。匂いで気絶でもしてくれたら静かでいいのですが」
「全くです。レックス、そんな顔をしなくても問題ありません。お嬢様は匂いぐらいではどうにもなりません。それよりも我々はピンを探しましょう」
そう言ってレオとカイは相変わらず淡々と部屋の壁付近まで近寄って、影アリスと共にピンを探している。
「レックス、アミナスは放っておいても大丈夫だよ。僕たちも探そう」
「うん。あれ、酷いと気絶するぐらい臭いんだけど……」
「そんなに臭いの? ここまでは臭ってこないけど」
「あまりの臭さに倒れる人が続出したからディノの魔法で匂いはあの花の周りにしか漂わないようになってる」
それほどに臭いショクダイオオコンニャクだが、アミナスは既に慣れてしまったのか、直ぐ側で花をしげしげと観察している。
「あんなに近くで見たら絶対にアミナスも臭くなると思う」
「そうなのですか? ではお嬢様には今後一切我々に近寄らないようにしてもらわないといけませんね」
「そんなに臭いのなら金輪際近寄るなと言っておかなければなりませんね」
「ここ出たらアミナスだけ速攻でお風呂だね」
同時に呟いた三人は互いの顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。
「二人共、あれでも僕の可愛い妹なんだよ?」
「可愛いかどうかは置いておいて、ノエル様の妹でなければ俺はすぐにでも絶縁しています」
「俺もです」
「……二人共……」
この二人の発言でアミナスが普段からどれほどこの二人に迷惑をかけているかがよく分かる。
ノエルは気を取り直して壁をくまなく探し出した。何せ細くて小さいピンだ。見落としてしまう可能性もある。
「ピンを出入り口代わりに使っていたんだとしたら、きっとドアノブの高さに設置してると思うんだ」
しばらくピンを探していたノエルがポツリと言うと、レックスもレオもカイも頷いた。
「という事は大体この高さぐらいでしょうか」
「だと思う。夏の庭のピンもこれぐらいの高さだった」
「では手分けしましょう。俺はこちら側から行きます」
「では俺はこちら側から」
双子は二手に分かれてドアノブの高さの壁を探しに行ってしまう。
「僕はこっち側から回る」
そう言って今度はレックスが影アリスを連れてノエルから離れて行った。
ノエルはまだ花の側にいるアミナスの所へ向かうと、匂いの届かないギリギリの所までやってきてアミナスに声をかける。
「アミナスー! そろそろ戻って……アミナス? 何してるの?」
ノエルが声をかけるとアミナスは既に花の観察は止めて、何か大きな石版の裏側でゴソゴソしているのが見えた。
「あ! 兄さま! ちょっとこっち来て!」
ノエルの声が聞こえたアミナスは大きな石版の裏からひょっこり顔を覗かせる。そんなアミナスを見てノエルが苦笑いを浮かべて言った。
「え、臭いんでしょ? あんまりそっちに行きたくないんだけど」
「大丈夫だよ! 匂いなんてすぐ慣れるよ!」
自信満々に言ったアミナスは大きな石版の裏側に戻ると、石版の中央に差し込まれている金色のピンをじっと見つめていた。そこへ顔の半分をハンカチで覆ったノエルがやってくる。
「で、何やってるの? 僕倒れそうなんだけど」
「ねぇねぇ兄さま、これ! 探してるのこれでしょ? なんかガッツリはまってるっぽいんだけど、この石版壊してもいいと思う?」
身体をズラしてノエルに金のピンを見せると、ノエルが驚いたように目を見開いてアミナスをグリグリと撫でた。
「アミナス! でかしたよ! よく見つけたね! こんな所にあったの」
「えへへ! まぁね! で、壊してもいいと思う?」
「それは駄目だと思う。ちょっと待ってて、影母さま連れてくる」
「うん!」
ノエルに言われた通りアミナスはそこで大人しく待っていた。どうにかして金色のピンが取れないかな~などと思いながらダメ元でピンを引き抜こうとピンに触れた途端、突然石版にピンクのドアがうっすらと現れたではないか!
驚いたアミナスは急いで背中に担いだアリスとお揃いの剣を構え、まだ色の薄いドアに向かって力いっぱい切りつけた。
「きぇぁ~~~!!!!」
その途端石版はガラガラと大きな音を立てて崩れ落ち、アミナスの足元に金色のピンがコロンと転がってくる。
アミナスはそのピンを拾って青ざめた。石版を壊すなと言われたのに、あろうことか木端微塵に砕いてしまったのだ。ふと顔を上げると、はるか遠くに唖然とした顔をして立ち尽くすノエル達がこちらを見ている。
ヤバい。そう思った時には既に遅かった。
「ぎゃん!」
ツカツカと無言で駆け寄ってきたレオとカイに特大のゲンコツを落とされてしまう。
「あなたと言う人は! どうして何でも力任せにするんですか!」
「そうです! 大人しく待ても出来ませんか!?」
「だ、だって! ドア! ドアが出てきたんだもん! だから咄嗟に――」
「ドア? アミナス、どういう事?」
レオ達よりも一歩遅れてやってきたノエルとレックスにアミナスは事情を半泣きで説明した。するとそれを聞くなり、レックスがアミナスの肩をがっちり掴んでくる。
「アミナス偉い。そのドアこそ侵入者が使ってる奴だと思う」
「そうなのですか?」
「多分。アミナス、ドアが出てきた時の状況を詳しく教えてくれる?」
「分かった。あのね、最初は薄く輪郭が浮かび上がったんだよ。そしたら今度はドアに徐々にピンクの色がついてね」
それを聞いてノエルはゴクリと息を飲んだ。
「レックスが秘密の花畑のドア開いた時と同じだ」
「うん。全く同じ。やっぱりこのピンを媒介にしてるみたい。アミナス、大丈夫。ディノはこの石碑を壊した事怒ってないよ」
「ほ、ほんと?」
「うん、本当。この石版はこの花の匂いを閉じ込めるために立てられてただけで、別に無くても今は誰も困らない。ちょっと臭いだけ」
「ちょっと……ではありませんが」
「それを聞く限り、とても重要な石版だったのでは?」
辺りに立ち込める腐敗臭に思わずレオとカイは吐き気を堪らえた。嗅いだことのあるような無いような匂いに咽る。
「うっ……相変わらずだ、これ……」
とうとうレックスまで顔をしかめだしたのを見てノエルとアミナスは、今にも意識を失いそうな三人を引きずって春の庭を後にした。
そのまま皆で温泉に向かい、チャップマン商会の人気商品『王妃御用達! 消臭君 バラとカモミールのフローラル石鹸 これであたなも王妃様!』(ここまでが商品名である)で身体と頭を洗って匂いを落としていた。
一方オズワルド達は冬の庭に居た。
「さ、寒いな!」
「誰か! 誰か我を抱っこしてくれ! 凍えそうだ!」
冬の庭に入った途端、オズワルド以外の一同は目を見張った。辺り一面雪景色で、果てが見えない。廊下には雪など一粒も無かったというのに、流石冬の庭である。
植物たちは雪をかぶったまま、まるで枯れる寸前のように動かない。
「よ、妖精王! 俺で良ければ抱っこしよう!」
「おお! ライアン、すまぬ!」
震えるライアンに勢いよく飛びついた妖精王は、どうにかしてライアンから暖を取ろうとしてみたが、寒いものは寒い。
「そんな寒いかな? 俺平気だわ」
「……」
「……」
そんな事を言うルークが着ているのは、水鳥の抜けた羽で作られたダウンである。そりゃ暖かかろう。
ライアンと妖精王は揃ってルークを睨みつけた。
「お前たちはあれだな。一年中暖かい城の中で過ごしてるからこういうのに慣れてないのか」
「いつもの事です。匂いで気絶でもしてくれたら静かでいいのですが」
「全くです。レックス、そんな顔をしなくても問題ありません。お嬢様は匂いぐらいではどうにもなりません。それよりも我々はピンを探しましょう」
そう言ってレオとカイは相変わらず淡々と部屋の壁付近まで近寄って、影アリスと共にピンを探している。
「レックス、アミナスは放っておいても大丈夫だよ。僕たちも探そう」
「うん。あれ、酷いと気絶するぐらい臭いんだけど……」
「そんなに臭いの? ここまでは臭ってこないけど」
「あまりの臭さに倒れる人が続出したからディノの魔法で匂いはあの花の周りにしか漂わないようになってる」
それほどに臭いショクダイオオコンニャクだが、アミナスは既に慣れてしまったのか、直ぐ側で花をしげしげと観察している。
「あんなに近くで見たら絶対にアミナスも臭くなると思う」
「そうなのですか? ではお嬢様には今後一切我々に近寄らないようにしてもらわないといけませんね」
「そんなに臭いのなら金輪際近寄るなと言っておかなければなりませんね」
「ここ出たらアミナスだけ速攻でお風呂だね」
同時に呟いた三人は互いの顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。
「二人共、あれでも僕の可愛い妹なんだよ?」
「可愛いかどうかは置いておいて、ノエル様の妹でなければ俺はすぐにでも絶縁しています」
「俺もです」
「……二人共……」
この二人の発言でアミナスが普段からどれほどこの二人に迷惑をかけているかがよく分かる。
ノエルは気を取り直して壁をくまなく探し出した。何せ細くて小さいピンだ。見落としてしまう可能性もある。
「ピンを出入り口代わりに使っていたんだとしたら、きっとドアノブの高さに設置してると思うんだ」
しばらくピンを探していたノエルがポツリと言うと、レックスもレオもカイも頷いた。
「という事は大体この高さぐらいでしょうか」
「だと思う。夏の庭のピンもこれぐらいの高さだった」
「では手分けしましょう。俺はこちら側から行きます」
「では俺はこちら側から」
双子は二手に分かれてドアノブの高さの壁を探しに行ってしまう。
「僕はこっち側から回る」
そう言って今度はレックスが影アリスを連れてノエルから離れて行った。
ノエルはまだ花の側にいるアミナスの所へ向かうと、匂いの届かないギリギリの所までやってきてアミナスに声をかける。
「アミナスー! そろそろ戻って……アミナス? 何してるの?」
ノエルが声をかけるとアミナスは既に花の観察は止めて、何か大きな石版の裏側でゴソゴソしているのが見えた。
「あ! 兄さま! ちょっとこっち来て!」
ノエルの声が聞こえたアミナスは大きな石版の裏からひょっこり顔を覗かせる。そんなアミナスを見てノエルが苦笑いを浮かべて言った。
「え、臭いんでしょ? あんまりそっちに行きたくないんだけど」
「大丈夫だよ! 匂いなんてすぐ慣れるよ!」
自信満々に言ったアミナスは大きな石版の裏側に戻ると、石版の中央に差し込まれている金色のピンをじっと見つめていた。そこへ顔の半分をハンカチで覆ったノエルがやってくる。
「で、何やってるの? 僕倒れそうなんだけど」
「ねぇねぇ兄さま、これ! 探してるのこれでしょ? なんかガッツリはまってるっぽいんだけど、この石版壊してもいいと思う?」
身体をズラしてノエルに金のピンを見せると、ノエルが驚いたように目を見開いてアミナスをグリグリと撫でた。
「アミナス! でかしたよ! よく見つけたね! こんな所にあったの」
「えへへ! まぁね! で、壊してもいいと思う?」
「それは駄目だと思う。ちょっと待ってて、影母さま連れてくる」
「うん!」
ノエルに言われた通りアミナスはそこで大人しく待っていた。どうにかして金色のピンが取れないかな~などと思いながらダメ元でピンを引き抜こうとピンに触れた途端、突然石版にピンクのドアがうっすらと現れたではないか!
驚いたアミナスは急いで背中に担いだアリスとお揃いの剣を構え、まだ色の薄いドアに向かって力いっぱい切りつけた。
「きぇぁ~~~!!!!」
その途端石版はガラガラと大きな音を立てて崩れ落ち、アミナスの足元に金色のピンがコロンと転がってくる。
アミナスはそのピンを拾って青ざめた。石版を壊すなと言われたのに、あろうことか木端微塵に砕いてしまったのだ。ふと顔を上げると、はるか遠くに唖然とした顔をして立ち尽くすノエル達がこちらを見ている。
ヤバい。そう思った時には既に遅かった。
「ぎゃん!」
ツカツカと無言で駆け寄ってきたレオとカイに特大のゲンコツを落とされてしまう。
「あなたと言う人は! どうして何でも力任せにするんですか!」
「そうです! 大人しく待ても出来ませんか!?」
「だ、だって! ドア! ドアが出てきたんだもん! だから咄嗟に――」
「ドア? アミナス、どういう事?」
レオ達よりも一歩遅れてやってきたノエルとレックスにアミナスは事情を半泣きで説明した。するとそれを聞くなり、レックスがアミナスの肩をがっちり掴んでくる。
「アミナス偉い。そのドアこそ侵入者が使ってる奴だと思う」
「そうなのですか?」
「多分。アミナス、ドアが出てきた時の状況を詳しく教えてくれる?」
「分かった。あのね、最初は薄く輪郭が浮かび上がったんだよ。そしたら今度はドアに徐々にピンクの色がついてね」
それを聞いてノエルはゴクリと息を飲んだ。
「レックスが秘密の花畑のドア開いた時と同じだ」
「うん。全く同じ。やっぱりこのピンを媒介にしてるみたい。アミナス、大丈夫。ディノはこの石碑を壊した事怒ってないよ」
「ほ、ほんと?」
「うん、本当。この石版はこの花の匂いを閉じ込めるために立てられてただけで、別に無くても今は誰も困らない。ちょっと臭いだけ」
「ちょっと……ではありませんが」
「それを聞く限り、とても重要な石版だったのでは?」
辺りに立ち込める腐敗臭に思わずレオとカイは吐き気を堪らえた。嗅いだことのあるような無いような匂いに咽る。
「うっ……相変わらずだ、これ……」
とうとうレックスまで顔をしかめだしたのを見てノエルとアミナスは、今にも意識を失いそうな三人を引きずって春の庭を後にした。
そのまま皆で温泉に向かい、チャップマン商会の人気商品『王妃御用達! 消臭君 バラとカモミールのフローラル石鹸 これであたなも王妃様!』(ここまでが商品名である)で身体と頭を洗って匂いを落としていた。
一方オズワルド達は冬の庭に居た。
「さ、寒いな!」
「誰か! 誰か我を抱っこしてくれ! 凍えそうだ!」
冬の庭に入った途端、オズワルド以外の一同は目を見張った。辺り一面雪景色で、果てが見えない。廊下には雪など一粒も無かったというのに、流石冬の庭である。
植物たちは雪をかぶったまま、まるで枯れる寸前のように動かない。
「よ、妖精王! 俺で良ければ抱っこしよう!」
「おお! ライアン、すまぬ!」
震えるライアンに勢いよく飛びついた妖精王は、どうにかしてライアンから暖を取ろうとしてみたが、寒いものは寒い。
「そんな寒いかな? 俺平気だわ」
「……」
「……」
そんな事を言うルークが着ているのは、水鳥の抜けた羽で作られたダウンである。そりゃ暖かかろう。
ライアンと妖精王は揃ってルークを睨みつけた。
「お前たちはあれだな。一年中暖かい城の中で過ごしてるからこういうのに慣れてないのか」
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