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第228話 いつか二人で星を

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 大事にされすぎた弊害だな、とオズワルドは笑ってリーゼロッテを見ると、リーゼロッテは特に何も着ていないのに平気な顔をしている。

「リゼは寒くないの?」
「うん。冬でもずっと裸で外だったから平気だよ」

 奴隷生活はそれはもう過酷で、今のように服など着ている事の方が少なかった。

 何の気無しに言った事だが、それを聞いてライアンとルークと妖精王は眉を釣り上げて口々に怒った。そんな三人を見てリーゼロッテは慌てたが、オズワルドだけはそれに混じらず特に興味もない様子でリーゼロッテの頭を撫でた。

「我慢出来るのと寒くないのは違う。お前たちも魔法をかけるからこっちに来い」

 オズワルドが声をかけると、それまで奴隷商を口汚く罵っていたライアン達がすぐさま近くに寄ってきた。

 全員が集まってくるのを待ってオズワルドが魔法をかけると、途端に全員がホッとしたような顔をする。

「ありがとう、オズワルド」
「いいよ、これぐらい」

 皆に口々にお礼を言われたオズワルドは何てこと無い感じで返したが、心の中はまたじんわりと暖かくなった。お礼を言われると嬉しい。そう言ったアリスの言葉が蘇る。

「さて! では金のピンを探そうではないか!」
「妖精王、お前は俺から絶対に離れないで。お前が一番危なそうなんだ」
「な、何おぅ!?」

 思わず言い返そうとしたが、魔法も使えない自分では確かにオズワルドの言う通り危険が一杯である。

「金のピンは壁に差し込んであった。手分けして探そう。もし何かあったら叫べ」
「分かった。行こう、ライアン」
「ああ」

 こうして二手に分かれたオズワルド達は、それぞれ逆方向に壁を伝って歩いた。

「ところでオズワルド、お前はしょっちゅうここに来ていたのか?」

 妖精王が尋ねると、オズワルドは振り返りもせずに頷いた。

「そうか。我は妖精王だと言うのに本当に何も知らなかったんだな」
「それは仕方ないだろ。その為にディノはここを作ったんだから、お前が知ってたら意味ない」
「それはそうだが……ディノは我らの事をどう思っているのだろうな。憎んでいるのだろうか」
「さぁ? それはディノに聞かないと分からない。ただお前はここに入ることが出来た。それは他の妖精王には出来なかった事だろ?」

 何気なく言ったオズワルドの言葉に妖精王は顔を輝かせる。

「そ、そうか! 確かにそうだな。うむ、ディノが目覚めたらまずはあの券を渡そう!」
「ああ、一日下僕券?」
「違う! 一日何でも言うこと聞く券だ!」

 わざと意地の悪い笑みを浮かべたオズワルドを見て妖精王は急いで言い直しながら気づけば自分も笑っていた。

 オズワルドと妖精王の力は対等だ。だからこそこんなやりとりが出来るのかもしれない。今までずっと支配者側だった妖精王はとても孤独だった。制限も多いし迂闊に手も出せないし、オズワルドの言うように窮屈だったのだ。

「我は羨ましかったのだな、お前が」
「急に何だよ」
「お前は好き勝手出来る。我は出来ない。だから腹がたったのかもしれん。我がお前を消そうとした時、我は星を守りたいからだと思っていたが、本当はただ自由なお前が羨ましかっただけなのかもしれん」
「俺はお前が羨ましかったけどね。自分の星があってそこそこ上手いこと管理してる。俺たちにとって星の管理は夢みたいなもんだ」

 暗い箱の中から見える明るく光る星たちは憧れだった。いつか自分だけの星を持ちたい。たとえそんな未来など無いのだとしても、そう思わずには居られなかった。

 二人して黙り込むと、二人と手を繋いでいたリーゼロッテが突然笑いだした。

「全然違う所に居たのに同じ気持ちになるなんて不思議。あの本みたいにに二人の名前も近い所にあったのかな?」
「……俺たちの……本?」

 リーゼロッテの言葉にオズワルドはゴクリと息を呑む。同じように妖精王も息を飲んでいる。

「そんな物ある訳――ないよな?」
「分からない。どこからが本物でどこまでが偽物かなんて誰にも分からない。世界ってそういうもんだろ?」
「……確かにそうだ。世界は、星は不確定要素で満ち溢れている。我らにも本があったとしても何も不思議ではないな」

 何かに納得したように妖精王が頷くと、それを見てリーゼロッテも嬉しそうに笑った。

「やっぱり二人は仲良しだったんだ! アリス達が言ってたみたいに、いつか二人で星を創れたらいいね!」
「……ああ」
「ああ、そうだな。それは楽しそうだ! まずは何を創る!? オズワルド! 基本はやはり海だろうか? 今までにない創りにしたいと思わないか!? 我が思うにここは奇をてらってだな、いっそ陸から――」
「……」

 何とも微妙な顔をしたオズワルドと、嬉々として新しい星について語りだす妖精王の温度差は酷いが、それでもリーゼロッテは嬉しそうだったから、まぁ良しとしておくオズワルドだった。

 
 どれぐらい黙って二人であるいていたのか、ふとルークが何かを思い出したかのようにライアンに話しかけてきた。

「ライアンはさ、王様になるのどう思ってんの?」
「何だ、急に!」
「だってさ、俺たちってもう将来決まったようなもんじゃん。そういうの、お前はどう思ってんのかなってずっと思っててさ」

 自分は宰相家に生まれて小さい頃から自分も宰相になるんだと思って生きてきた。カインは小さい頃の事をあまり話してはくれないからルークも心の内を打ち明けにくい。そこで同じ立場のライアンはどう思っているのだろうと思っただけなのだが、予想以上にこの質問はライアンを悩ませたようで、その後ライアンは完全に黙り込んでしまった。

 しばらくして。

「さっきの話なんだが、そもそも俺は果たして無事に王になれるのだろうか?」
「なに、自信ないの?」
「いや、そういう訳では無い……と言いたいが、多分エイダンの方が王に向いている気がするんだ」

 ライアンは自分の本質のようなものを既に何となく分かっている。自分は王になる器ではないと。

「エイダンの方が向いてる? まだ分かんないだろ、そんな事。エイダンまだちっちゃいんだから」
「だが既に賢王になる資質が見え隠れしている気がする」

 真顔でそんな事を言うライアンを見てルークが突然噴き出した。

「お前、それはただの兄馬鹿じゃないの? 俺はお前が王でないと宰相なんてやりたくないんだけど」
「ルーク……そ、そうか?」
「うん。父さんがよく言うんだよな。ルイスじゃなかったら俺、宰相辞めてたなって」
「……そ、それはどういう意味だろうか……」

 言葉だけ聞くと友情っぽい感じだが、ルークの言い方がどうもそんな風にはとれない。何となくいい意味ではなさそうなのだが? 思わずそんな言葉を飲み込んだライアンにルークが意地悪に笑った。

「そのまんまの意味だって。親友で兄弟みたいだから気兼ねなく何でも言える。だからこそ父さんは今も宰相やってるんだよ」

 そこまで言ってルークはカインのその後の言葉を思い出して笑いを噛み殺した。

 いつだったか、カインは夕食の時にフィルマメントに言っていた。

『いやぁ~あいつアリスちゃん並みにお花畑だからさ、扱いやすいの何のって。この間親父と兄貴と飲んだけど親父真顔で羨ましがってたよ。ルイス王はいいな。ルカなど本当に最悪だったんだぞ、って』

 そんな話をカインがしていた事は決してライアンには言えないが、ルークはまだ考え込んでいるライアンに言った。

「まぁ未来なんてどうなるかなんて分かんないもんな。ライアンが王になるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。アリスがいっつも言うもんな。嫌な事を嫌々してたって良くなる訳ないじゃん。好きな事をするに越したこと無い! って」
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