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第291話 アリスの野生の勘
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キャロラインは振り返ってセイにペコリと頭を下げた。
「ありがとう、セイさん。私だったらあんな風に言えなかったわ」
「僕だって王妃みたいな事は言えない。お互い様。行こう。ここにもう用はない」
そう言ってセイが踵を返すと、三人の王妃達は拳を握りしめて頷いた。
「とりあえず、証拠品は見つかった。次を探そう」
アーロが言うと、仲間たちは全員神妙な顔をした。異様なほど仰々しくて豪華なこの部屋の次には一体何があるのか、考えるだけでもおぞましい。
豪華な部屋の隅々を探していると、次の部屋に繋がると思われる穴を見つけたのはシャルだった。
「ありましたよ、ここに」
「こんな所にぃ! よく見つけたねぇ」
シャルが見つけた穴は壁にかかっていた絵画の裏にあった。
「アーロぉ、あれ刺してぇ」
「ああ」
ユーゴに言われてアーロは壁の穴にピンを刺すと、壁にうっすらとドアが浮かび上がった。それを見てアーロは剣をいつでも出せるように構えると、次に出たのは陽の光がさんさんと照りつける暑い場所だ。
「ここは……なんだ? 外、か?」
確か自分たちは地下に入ったはずだ。それなのに何故こんなにも植物が生えているのか。もしかしてどこかの外と繋がっていたのかと思い首をひねるアーロの脇をアリスが走り抜けて行く。
「ねぇねぇ! ここきっと、ディノの夏の庭だよ~! 秋の庭とそっくり!」
アリスは辺りを見渡して感嘆の声を上げた。
見渡す限り見たことも無い植物ばかりが生えている。秋の庭と酷似しているので、ここは間違いなく秋の庭に違いない。
中にはアリスでも知っている植物もあるが、ここにあると言うことはこの星では既に絶滅してしまっているのだろう。
「ということは、ちょうどここですね。なるほど、私たちはてっきり通路でそれぞれの部屋が繋がっていると思っていましたが、どうやらそうではないようです。流石にそこまでの再現は出来なかったようですね」
アリスに続いて夏の庭に入ったシャルは地図に部屋の順番を書き込んで行く。
「でも変だよな。何でメイリング王の地下も金のピンで開くようになってるんだ?」
「それ僕も思ってた。ねぇ変態、なんで?」
「え? それを僕に聞かれても……」
地下を作ったのは自分ではないのでそんな事を聞かれても答えようがないが、それでも何かしらの答えを期待しているリアンの視線には抗えない。
「う~ん……そもそもメイリング王の地下は先代か次男が作った物だった……とか?」
「なるほど。その二人が作ったんだとしたらディノの加護を引き継いでてもおかしくないっすね」
「うん。その子孫たちがこんな使い方をしてるだけで、元々はもっと別の理由があって作られたのかもね」
「ふーん。なんか普通」
これが精一杯だと言わんばかりのノアを見てリアンが言うと、ノアは頬を引きつらせる。
「だから僕が作ったんじゃないんだってば! リー君はどんな答えを期待してたの!」
「何かこう、悪魔みたいな答え期待してた」
「……ねぇ、リー君の中で僕は一体どんな人って事になってるの?」
何だかリアンには本気で碌でもない人間だと思われてそうだ。思わずノアが問うと、リアンはノアがいつもするようにニコッと笑う。
「あんたが言ったんじゃん。僕の事も疑えって」
「いや言ったけど……まぁいいや。アリス、次の鍵穴どこらへんだと思う?」
「今探してる! 何となくこっちの方から嫌な雰囲気が漂っているような……」
壁伝いに歩きながらアリスは五感を研ぎ澄ました。
それを信じて歩いていると、ある場所まで来た時に何だか首の後ろがゾワゾワするのを感じた。
「ここだ!」
自分の勘を決して疑ったりしないアリスは、目を皿のようにして壁を凝視して小さな小さな穴を探す。
「アリス、どうだった? 何か見つかった?」
「多分ね、ここらへんだと思う! 首の後ろがゾワゾワするから!」
「本当? 背筋ゾクゾクじゃなくて?」
「違う。ゾワゾワする」
「……相変わらず凄いね。分かった」
アリスとアミナスの危険察知をする時の勘はバカには出来ないという事をノアは痛いほどよく知っている。
「キリー! アリスが首ゾワするって~!」
ノアが声を張り上げてキリを呼ぶと、何故かキリと一緒に仲間全員が寄ってきた。
「ここですか?」
「うん。多分間違いないと思う。あと首ゾワだから次の部屋はちょっとヤバいかも」
「分かりました。皆さん、武器をいつでも構えられるようにしておいてください」
真顔でそんな事を言うキリに仲間たちは揃って変な顔をしている。
「説明します。お嬢様は自分にとって不利益な事が起こると分かると背筋がゾクゾクするのです。例えば予告なしに抜き打ちで部屋の掃除をハンナがしにきた時や、よその領地からの招待状が届いた時などがそうです」
「待って、それは招待状が届いた時点で分かんのぉ? そんなの中身読まないと分かんないでしょぉ~?」
「いいえ。何ならポストに手紙が投函された瞬間からわかります。ですが今回はお嬢様は首がゾワゾワすると言っています。これはもっと危険です。お嬢様が首がゾワゾワすると表現する時は、大抵生き死にに関わる事柄が多いです。皆さん、気をつけてください」
「ねぇ! こいつそんな事まで分かんの!?」
「分かります。首ゾワのおかげで俺たちは今までに何度も命を助けられています」
リアンの言葉にキリが真顔で返すと、リアンは一瞬何か言い返そうとしてすぐに口を噤み、何かを考えるように腕を組んで頷く。
「まぁ……うちの子達もそうだもんね。それにアリスはライラの教祖だしあながち嘘でもないかも……」
「いや、もうあんたもアリスの事人間だと思ってないっしょ!?」
「嫌だなモブ。僕はただの一度もこいつの事を僕たちと同じ人間だと思った事なんてないよ。ライラがどんどんおかしな方向に向かおうとするから言ってただけで」
「……そういう心をライラちゃんは見透かしてたんじゃないっすか?」
「え! そうなのかな? おかしいな。僕は心の底からこいつの事を化け物だと思ってるんだけど、どうしてライラには大地の化身に変換されちゃったんだろう?」
「……何にしてもあんたがアリスに一番酷いって事は分かったっす。で、ここらへんにあるんすか? ――あ、あった」
オリバーはそう言って壁を見ながら尋ねたが、その視線の先に小さな穴が開いている事に気づく。
「でかしたモブ!」
「やったじゃんモブ!」
「やるな、モブ」
「案外持ってるんだな、モブは」
「モブ君も何気に運良いよねぇ」
「あんまモブモブ言うの止めてほしいんすけど!?」
リアンとカインまではもういい。今更だ。
けれど何故アーロやルーイやユーゴまでモブと呼ぶのか! 思わず眉を吊り上げたオリバーの肩を、唯一名前で呼ぶノアが叩いた。
「まぁまぁオリバー。とにかくお手柄だよ。アーロ、お願い」
「ああ」
アリスの勘が凄まじく当たるということは、この先には生死を左右する何かがあると言うことだ。
アーロは慎重に金のピンを穴に差し込むと、先頭をアリスに譲った。アリスが既に武器を構えて鼻息を荒くしていたからだ。
「アリス、部屋が狭いかもしれないから、何が出てきても暴れるのは程々にね?」
「わかってるっ!」
「時既に遅し、ですね」
元気に答えたアリスを見てキリがため息を落とした。もう何が何でも暴れる気まんまんのアリスだ。アリスがこうなってしまっては、自分たちに出来ることは巻き添えを食わないように自分の身を守る事だけである。
「ありがとう、セイさん。私だったらあんな風に言えなかったわ」
「僕だって王妃みたいな事は言えない。お互い様。行こう。ここにもう用はない」
そう言ってセイが踵を返すと、三人の王妃達は拳を握りしめて頷いた。
「とりあえず、証拠品は見つかった。次を探そう」
アーロが言うと、仲間たちは全員神妙な顔をした。異様なほど仰々しくて豪華なこの部屋の次には一体何があるのか、考えるだけでもおぞましい。
豪華な部屋の隅々を探していると、次の部屋に繋がると思われる穴を見つけたのはシャルだった。
「ありましたよ、ここに」
「こんな所にぃ! よく見つけたねぇ」
シャルが見つけた穴は壁にかかっていた絵画の裏にあった。
「アーロぉ、あれ刺してぇ」
「ああ」
ユーゴに言われてアーロは壁の穴にピンを刺すと、壁にうっすらとドアが浮かび上がった。それを見てアーロは剣をいつでも出せるように構えると、次に出たのは陽の光がさんさんと照りつける暑い場所だ。
「ここは……なんだ? 外、か?」
確か自分たちは地下に入ったはずだ。それなのに何故こんなにも植物が生えているのか。もしかしてどこかの外と繋がっていたのかと思い首をひねるアーロの脇をアリスが走り抜けて行く。
「ねぇねぇ! ここきっと、ディノの夏の庭だよ~! 秋の庭とそっくり!」
アリスは辺りを見渡して感嘆の声を上げた。
見渡す限り見たことも無い植物ばかりが生えている。秋の庭と酷似しているので、ここは間違いなく秋の庭に違いない。
中にはアリスでも知っている植物もあるが、ここにあると言うことはこの星では既に絶滅してしまっているのだろう。
「ということは、ちょうどここですね。なるほど、私たちはてっきり通路でそれぞれの部屋が繋がっていると思っていましたが、どうやらそうではないようです。流石にそこまでの再現は出来なかったようですね」
アリスに続いて夏の庭に入ったシャルは地図に部屋の順番を書き込んで行く。
「でも変だよな。何でメイリング王の地下も金のピンで開くようになってるんだ?」
「それ僕も思ってた。ねぇ変態、なんで?」
「え? それを僕に聞かれても……」
地下を作ったのは自分ではないのでそんな事を聞かれても答えようがないが、それでも何かしらの答えを期待しているリアンの視線には抗えない。
「う~ん……そもそもメイリング王の地下は先代か次男が作った物だった……とか?」
「なるほど。その二人が作ったんだとしたらディノの加護を引き継いでてもおかしくないっすね」
「うん。その子孫たちがこんな使い方をしてるだけで、元々はもっと別の理由があって作られたのかもね」
「ふーん。なんか普通」
これが精一杯だと言わんばかりのノアを見てリアンが言うと、ノアは頬を引きつらせる。
「だから僕が作ったんじゃないんだってば! リー君はどんな答えを期待してたの!」
「何かこう、悪魔みたいな答え期待してた」
「……ねぇ、リー君の中で僕は一体どんな人って事になってるの?」
何だかリアンには本気で碌でもない人間だと思われてそうだ。思わずノアが問うと、リアンはノアがいつもするようにニコッと笑う。
「あんたが言ったんじゃん。僕の事も疑えって」
「いや言ったけど……まぁいいや。アリス、次の鍵穴どこらへんだと思う?」
「今探してる! 何となくこっちの方から嫌な雰囲気が漂っているような……」
壁伝いに歩きながらアリスは五感を研ぎ澄ました。
それを信じて歩いていると、ある場所まで来た時に何だか首の後ろがゾワゾワするのを感じた。
「ここだ!」
自分の勘を決して疑ったりしないアリスは、目を皿のようにして壁を凝視して小さな小さな穴を探す。
「アリス、どうだった? 何か見つかった?」
「多分ね、ここらへんだと思う! 首の後ろがゾワゾワするから!」
「本当? 背筋ゾクゾクじゃなくて?」
「違う。ゾワゾワする」
「……相変わらず凄いね。分かった」
アリスとアミナスの危険察知をする時の勘はバカには出来ないという事をノアは痛いほどよく知っている。
「キリー! アリスが首ゾワするって~!」
ノアが声を張り上げてキリを呼ぶと、何故かキリと一緒に仲間全員が寄ってきた。
「ここですか?」
「うん。多分間違いないと思う。あと首ゾワだから次の部屋はちょっとヤバいかも」
「分かりました。皆さん、武器をいつでも構えられるようにしておいてください」
真顔でそんな事を言うキリに仲間たちは揃って変な顔をしている。
「説明します。お嬢様は自分にとって不利益な事が起こると分かると背筋がゾクゾクするのです。例えば予告なしに抜き打ちで部屋の掃除をハンナがしにきた時や、よその領地からの招待状が届いた時などがそうです」
「待って、それは招待状が届いた時点で分かんのぉ? そんなの中身読まないと分かんないでしょぉ~?」
「いいえ。何ならポストに手紙が投函された瞬間からわかります。ですが今回はお嬢様は首がゾワゾワすると言っています。これはもっと危険です。お嬢様が首がゾワゾワすると表現する時は、大抵生き死にに関わる事柄が多いです。皆さん、気をつけてください」
「ねぇ! こいつそんな事まで分かんの!?」
「分かります。首ゾワのおかげで俺たちは今までに何度も命を助けられています」
リアンの言葉にキリが真顔で返すと、リアンは一瞬何か言い返そうとしてすぐに口を噤み、何かを考えるように腕を組んで頷く。
「まぁ……うちの子達もそうだもんね。それにアリスはライラの教祖だしあながち嘘でもないかも……」
「いや、もうあんたもアリスの事人間だと思ってないっしょ!?」
「嫌だなモブ。僕はただの一度もこいつの事を僕たちと同じ人間だと思った事なんてないよ。ライラがどんどんおかしな方向に向かおうとするから言ってただけで」
「……そういう心をライラちゃんは見透かしてたんじゃないっすか?」
「え! そうなのかな? おかしいな。僕は心の底からこいつの事を化け物だと思ってるんだけど、どうしてライラには大地の化身に変換されちゃったんだろう?」
「……何にしてもあんたがアリスに一番酷いって事は分かったっす。で、ここらへんにあるんすか? ――あ、あった」
オリバーはそう言って壁を見ながら尋ねたが、その視線の先に小さな穴が開いている事に気づく。
「でかしたモブ!」
「やったじゃんモブ!」
「やるな、モブ」
「案外持ってるんだな、モブは」
「モブ君も何気に運良いよねぇ」
「あんまモブモブ言うの止めてほしいんすけど!?」
リアンとカインまではもういい。今更だ。
けれど何故アーロやルーイやユーゴまでモブと呼ぶのか! 思わず眉を吊り上げたオリバーの肩を、唯一名前で呼ぶノアが叩いた。
「まぁまぁオリバー。とにかくお手柄だよ。アーロ、お願い」
「ああ」
アリスの勘が凄まじく当たるということは、この先には生死を左右する何かがあると言うことだ。
アーロは慎重に金のピンを穴に差し込むと、先頭をアリスに譲った。アリスが既に武器を構えて鼻息を荒くしていたからだ。
「アリス、部屋が狭いかもしれないから、何が出てきても暴れるのは程々にね?」
「わかってるっ!」
「時既に遅し、ですね」
元気に答えたアリスを見てキリがため息を落とした。もう何が何でも暴れる気まんまんのアリスだ。アリスがこうなってしまっては、自分たちに出来ることは巻き添えを食わないように自分の身を守る事だけである。
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