292 / 746
第290話 仕掛けられた罠
しおりを挟む
三人がそんな事を話していると、正面からこちらに負けずとも劣らない一団が姿を現した。レヴェナだ。
「二人とも、来たわよ。私はこれから悪役令嬢になりきるわ!」
「は、はい!」
「楽しみです!」
気合を入れたキャロラインの言葉にアーシャは表情を引き締め、シエラが顔を輝かせているとレヴェナ一行がやってきた。
「あら、先触れも無しに三国の王妃様達が来ているだなんて信じられない情報が入ってきたから来てみれば! 本当にいらしてたんですのね。礼儀がなってなさすぎてデマだとばかり思っていたのに!」
「お邪魔していますわ、レヴェナ様。先触れを出そうとも思いましたが、あなた達がレヴィウス側からの和平交渉をぶち壊した事でどのみちメイリングはもう少しでレヴィウスになるのですもの。その前に今の状況を視察しておかないと、いざと言う時に動けないのでは困るでしょう?」
そう言って口元を隠して笑うキャロラインの顔には、明らかな侮蔑の居ろが浮かんでいる。
「嫌ですわ。むしろレヴィウスやルーデリアがメイリングになるかもしれませんのに!」
「それはありえませんわね。あなた達の計画は今や破綻寸前。それはあなたの旦那さまが一番感じているのではなくて?」
「何を仰ってるのかしら? 計画とか何の事だか分かりませんわ。戦って勝つ、それだけですわ」
「まぁ! 本気で言っているの? 可哀想に……あなたは何も聞かされていないのね。あなた達の言う科学の武器など、こちらに居る転生者からすれば赤子のような武器ばかりだと言うことも、こちらには一瞬で国を一つ滅ぼしてしまう核という武器がある事も」
核、という言葉を聞いてレヴェナが目を見開いてゴクリと息を呑んだ。
「核など……そんなもの、ある訳が……」
「無い、と言い切れて? あなた達が崇拝する姉妹星から来た方は、その核の餌食になったのでしょう? そしてこちらに居る姉妹星の人間は、その方よりもずっとずっと未来からやってきた方。これがどういう意味か、流石にお分かりでしょう?」
核など作れぬ! とアリスは言い切っていたし、ノアに至っては一番怖い武器は情報だとも言い切っていた。その情報をどう使うかで戦争の勝ち負けは決まる、と。
堂々としたキャロラインを見てレヴェナは唇を噛み締めてキャロラインを睨みつけてくる。
そんなレヴェナに畳み掛けるようにキャロラインが言った。
「おまけにあなた達には子供もおらず、どのみちメイリングには先がありませんわ。それとも、どこかにメイリング王の隠し子でもいらっしゃるのかしら?」
この言葉にレヴェナはさらに強い視線をキャロラインに向けてくる。
「無礼な! 私が愛されていないとでも!?」
「そんな事は言っていませんわ。子供が出来ない理由など沢山ありますもの。ですが、真っ先にそんな単語が出ると言うことは、あなたはアンソニー王に愛されていないのですね……可哀想な方」
「な、何ですって!? 私は! 誰かに同情されるほど落ちぶれていませんわ! 私は愛されています! この星から出る時、私も連れて行ってくれるとあの方は――」
その時だった。突然、レヴェナの体が大きく右に傾いだ。
「レヴェナ王妃!?」
思わずキャロラインが手を差し出そうとすると、レヴェナの周りに居た騎士たちが剣を差し出して来てそれは阻止されてしまう。
「王妃に触れるな! ようやくだな。おい、誰か連れて行け。王に報告も忘れるなよ!」
「はっ!」
そう言って騎士の一人が乱暴にレヴェナを担ぎ上げた。
その時、ちらりとレヴェナの手首に何か痣がある事に気付いたキャロラインがハッと息を飲むと、騎士はすぐさま踵を返して城へ戻っていく。
しばらくその場に立ち尽くしていた三人は、完全にレヴェナ達が見えなくなった所で互いの顔を見合わせる。
「まさかとは思うけれど……あいつら、王妃まで犠牲に?」
ポツリとシエラが言うと、キャロラインは眉根を寄せて頷いた。その時だ。あまりにも突然の出来事にそれまで俯いていたアーシャが、ふと何かを拾い上げて首を傾げている。
「どうかして? アーシャ」
「あ、いえ。レヴェナ様の物でしょうか? ブレスレットを落としていかれたようです」
「ブレスレット? まぁ、とても可憐なブレスレットね」
キャロラインはアーシャから受け取ったブレスレットを見て目を細めた。細かい銀細工が美しく、小さな枝珊瑚のプレートがついたブレスレットだ。
「キャロライン様……その枝珊瑚のプレート何だかその……バラに……見えません?」
ブレスレットをキャロラインの後ろから覗き込んでいたシエラが声をかけると、キャロラインとアーシャもそれに気づいたのかハッとして枝珊瑚の部分を凝視して小さな悲鳴を上げた。
「ほ、ほんとだわ! これ、バラが彫ってあるわ!」
「バラって……あの刻印ですか!?」
「そんなまさか! あ、でもそう言えばレヴェナ様の手首に何か痣があったのよ……ちょうどブレスレットが当たるような場所に……」
「それってやっぱり……」
三人はそう言ってもう一度顔を見合わせてゴクリと息を飲む。
「ちょっといい?」
「あ、セイさん。ええ、構わないわよ。どうかして?」
固まって動かない三人を見かねたのか、騎士団の中からセイが一歩キャロライン達の方に向かって歩いてきた。
「それ、見せて」
「え、ええ。どうぞ」
「ありがと」
ブレスレットを受け取ったセイはしげしげとブレスレットを見つめて顔を上げる。
「やっぱり。この珊瑚のプレートここに来るまでに店に売ってた。ここまで綺麗じゃなかったけど」
「そ、それは……どういう事?」
「もしキャロライン王妃が見たレヴェナの手首の痣がこのブレスレットによって出来たものなら、これを身に着けてる人全員が危ないかも」
「! 大変だわ!」
それを聞いてキャロラインは辺りを見渡して力いっぱい叫んだ。
「皆、聞いてください! もしもここにこの珊瑚のプレートで出来たアクセサリーを着けている方がいたら、それをすぐに外してちょうだい! ここに居なくても知り合いや家族に着けている人が居たら、すぐに外すように伝えてほしいの!」
それを聞いて集まってきていた人たちは皆、キョトンとしている。そりゃそうだ。突然やってきて王妃と喧嘩をした挙げ句、着けているアクセサリーを外せなどと言われても、皆戸惑うに決まっている。
何て説明すればいいのかキャロラインが考えていると、セイがキャロラインの前に立って大きく息を吸い込んだ。
「ここに集まっている者たち、よく考えろ。レヴェナ王妃はどうして倒れた? 彼女の手首にはバラの痣があった。そんな物がそんな場所に出来る理由は? バラの刻印は何の象徴だった? すぐさまアクセサリーを外せ。これはアンソニー王からお前達に仕掛けられた生贄の為の悪魔のアクセサリーだ」
「……」
決して声を張り上げた訳でもないのによく通るその声は、流石レヴィウスの王子だ。ノアと同じように隠しきれない威厳がある。
セイの言葉を聞いて集まっていた数人の人たちが急いで着けていたアクセサリーを外して地面に投げ捨てる。
数人がそんな行動を取るとあとはまるで波のようにその動きが伝播していき、地面には無数のアクセサリーが打ち捨てられていた。
「さあ、早く帰って周りの人達にも伝えてちょうだい! ここはあなた達の国よ! たった数人の王族の支配なんかに負けないで! あなた達がこの国を救うのよ!」
キャロラインが叫ぶと、集まった人たちは弾かれたように走り出した。 やがて広場にはキャロライン達しか居なくなる。
「二人とも、来たわよ。私はこれから悪役令嬢になりきるわ!」
「は、はい!」
「楽しみです!」
気合を入れたキャロラインの言葉にアーシャは表情を引き締め、シエラが顔を輝かせているとレヴェナ一行がやってきた。
「あら、先触れも無しに三国の王妃様達が来ているだなんて信じられない情報が入ってきたから来てみれば! 本当にいらしてたんですのね。礼儀がなってなさすぎてデマだとばかり思っていたのに!」
「お邪魔していますわ、レヴェナ様。先触れを出そうとも思いましたが、あなた達がレヴィウス側からの和平交渉をぶち壊した事でどのみちメイリングはもう少しでレヴィウスになるのですもの。その前に今の状況を視察しておかないと、いざと言う時に動けないのでは困るでしょう?」
そう言って口元を隠して笑うキャロラインの顔には、明らかな侮蔑の居ろが浮かんでいる。
「嫌ですわ。むしろレヴィウスやルーデリアがメイリングになるかもしれませんのに!」
「それはありえませんわね。あなた達の計画は今や破綻寸前。それはあなたの旦那さまが一番感じているのではなくて?」
「何を仰ってるのかしら? 計画とか何の事だか分かりませんわ。戦って勝つ、それだけですわ」
「まぁ! 本気で言っているの? 可哀想に……あなたは何も聞かされていないのね。あなた達の言う科学の武器など、こちらに居る転生者からすれば赤子のような武器ばかりだと言うことも、こちらには一瞬で国を一つ滅ぼしてしまう核という武器がある事も」
核、という言葉を聞いてレヴェナが目を見開いてゴクリと息を呑んだ。
「核など……そんなもの、ある訳が……」
「無い、と言い切れて? あなた達が崇拝する姉妹星から来た方は、その核の餌食になったのでしょう? そしてこちらに居る姉妹星の人間は、その方よりもずっとずっと未来からやってきた方。これがどういう意味か、流石にお分かりでしょう?」
核など作れぬ! とアリスは言い切っていたし、ノアに至っては一番怖い武器は情報だとも言い切っていた。その情報をどう使うかで戦争の勝ち負けは決まる、と。
堂々としたキャロラインを見てレヴェナは唇を噛み締めてキャロラインを睨みつけてくる。
そんなレヴェナに畳み掛けるようにキャロラインが言った。
「おまけにあなた達には子供もおらず、どのみちメイリングには先がありませんわ。それとも、どこかにメイリング王の隠し子でもいらっしゃるのかしら?」
この言葉にレヴェナはさらに強い視線をキャロラインに向けてくる。
「無礼な! 私が愛されていないとでも!?」
「そんな事は言っていませんわ。子供が出来ない理由など沢山ありますもの。ですが、真っ先にそんな単語が出ると言うことは、あなたはアンソニー王に愛されていないのですね……可哀想な方」
「な、何ですって!? 私は! 誰かに同情されるほど落ちぶれていませんわ! 私は愛されています! この星から出る時、私も連れて行ってくれるとあの方は――」
その時だった。突然、レヴェナの体が大きく右に傾いだ。
「レヴェナ王妃!?」
思わずキャロラインが手を差し出そうとすると、レヴェナの周りに居た騎士たちが剣を差し出して来てそれは阻止されてしまう。
「王妃に触れるな! ようやくだな。おい、誰か連れて行け。王に報告も忘れるなよ!」
「はっ!」
そう言って騎士の一人が乱暴にレヴェナを担ぎ上げた。
その時、ちらりとレヴェナの手首に何か痣がある事に気付いたキャロラインがハッと息を飲むと、騎士はすぐさま踵を返して城へ戻っていく。
しばらくその場に立ち尽くしていた三人は、完全にレヴェナ達が見えなくなった所で互いの顔を見合わせる。
「まさかとは思うけれど……あいつら、王妃まで犠牲に?」
ポツリとシエラが言うと、キャロラインは眉根を寄せて頷いた。その時だ。あまりにも突然の出来事にそれまで俯いていたアーシャが、ふと何かを拾い上げて首を傾げている。
「どうかして? アーシャ」
「あ、いえ。レヴェナ様の物でしょうか? ブレスレットを落としていかれたようです」
「ブレスレット? まぁ、とても可憐なブレスレットね」
キャロラインはアーシャから受け取ったブレスレットを見て目を細めた。細かい銀細工が美しく、小さな枝珊瑚のプレートがついたブレスレットだ。
「キャロライン様……その枝珊瑚のプレート何だかその……バラに……見えません?」
ブレスレットをキャロラインの後ろから覗き込んでいたシエラが声をかけると、キャロラインとアーシャもそれに気づいたのかハッとして枝珊瑚の部分を凝視して小さな悲鳴を上げた。
「ほ、ほんとだわ! これ、バラが彫ってあるわ!」
「バラって……あの刻印ですか!?」
「そんなまさか! あ、でもそう言えばレヴェナ様の手首に何か痣があったのよ……ちょうどブレスレットが当たるような場所に……」
「それってやっぱり……」
三人はそう言ってもう一度顔を見合わせてゴクリと息を飲む。
「ちょっといい?」
「あ、セイさん。ええ、構わないわよ。どうかして?」
固まって動かない三人を見かねたのか、騎士団の中からセイが一歩キャロライン達の方に向かって歩いてきた。
「それ、見せて」
「え、ええ。どうぞ」
「ありがと」
ブレスレットを受け取ったセイはしげしげとブレスレットを見つめて顔を上げる。
「やっぱり。この珊瑚のプレートここに来るまでに店に売ってた。ここまで綺麗じゃなかったけど」
「そ、それは……どういう事?」
「もしキャロライン王妃が見たレヴェナの手首の痣がこのブレスレットによって出来たものなら、これを身に着けてる人全員が危ないかも」
「! 大変だわ!」
それを聞いてキャロラインは辺りを見渡して力いっぱい叫んだ。
「皆、聞いてください! もしもここにこの珊瑚のプレートで出来たアクセサリーを着けている方がいたら、それをすぐに外してちょうだい! ここに居なくても知り合いや家族に着けている人が居たら、すぐに外すように伝えてほしいの!」
それを聞いて集まってきていた人たちは皆、キョトンとしている。そりゃそうだ。突然やってきて王妃と喧嘩をした挙げ句、着けているアクセサリーを外せなどと言われても、皆戸惑うに決まっている。
何て説明すればいいのかキャロラインが考えていると、セイがキャロラインの前に立って大きく息を吸い込んだ。
「ここに集まっている者たち、よく考えろ。レヴェナ王妃はどうして倒れた? 彼女の手首にはバラの痣があった。そんな物がそんな場所に出来る理由は? バラの刻印は何の象徴だった? すぐさまアクセサリーを外せ。これはアンソニー王からお前達に仕掛けられた生贄の為の悪魔のアクセサリーだ」
「……」
決して声を張り上げた訳でもないのによく通るその声は、流石レヴィウスの王子だ。ノアと同じように隠しきれない威厳がある。
セイの言葉を聞いて集まっていた数人の人たちが急いで着けていたアクセサリーを外して地面に投げ捨てる。
数人がそんな行動を取るとあとはまるで波のようにその動きが伝播していき、地面には無数のアクセサリーが打ち捨てられていた。
「さあ、早く帰って周りの人達にも伝えてちょうだい! ここはあなた達の国よ! たった数人の王族の支配なんかに負けないで! あなた達がこの国を救うのよ!」
キャロラインが叫ぶと、集まった人たちは弾かれたように走り出した。 やがて広場にはキャロライン達しか居なくなる。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
120
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる