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第304話 浮気は絶対に許さないから!
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そう言ってアンソニーは荒らげた口調を戻して颯爽と踵を返してどこかへ消えてしまった。
残された仲間たちはしばらく呆然とその場に立ち尽くしていたが、突然何かを思い出したかのようにノアがアリスを抱きしめる。
「アリス、ごめん……ずっと黙ってて……」
「兄さま……ちょっとだけ傷ついたからね!」
「うん……ごめん」
「いつから知ってたの?」
「いつから……えっと、学生の頃から……」
バツが悪そうにノアが視線を伏せると、アリスは驚いたように目を丸くしてノアを見上げてくる。
「学生の頃から!? え、ちょっと待って! もしかして皆も!?」
アリスが周りを見渡すと、仲間たちは全員そっとアリスから視線を外した。
「えー! ちょ、皆隠し事うますぎない!?」
「お嬢様が壊滅的すぎるのでは?」
「いや、あんたはちょっと黙ってて! マジかー……え。もしかしてルイス様も知ってた?」
「うん」
「おが屑なのに!?」
「あんた、それは流石に酷くない?」
「酷くないよ! 自他ともに認めるおが屑にまで内緒にされてたなんて!」
何がショックってそれが一番ショックなアリスだ。肩を落として落ち込むアリスの肩を、アーロが軽く叩いた。
「安心しろ、アリス。俺がそれを知ったのはこいつらよりは後だ」
「……アーロはさ、何かどっかいっつもズレてるよね。まぁいいや! で、私の本当の両親が分かったところでリズさんはママ、ユアンはパパって呼べばいいのかな!?」
「いや、それはユアンびっくりすると思うけど!? ただでさえ何か色々抱えてそうなのに、ここに来てこんな娘に育ってたとか精神崩壊するかも」
「どういう意味よ! こんな可愛い娘、嬉しいの一択でしょ!?」
「いやぁー……それはどう……っすかね」
「アリス、俺の事をパパと呼べ。今のリサの旦那は俺だ」
「だからあんたはズレてるんすよ! で、さっきアンソニーから何奪ったんすか?」
無理やり話を戻したオリバーにノアは思い出したかのようにポンと手を打った。
「そうだった! アリス、これをレックスに届けよう。これで後はカールとアメリアの金のピンだけだ」
そう言ってノアはポシェットの中から眠りドラゴンのピースを取り出した。
「うん! でもどうやって?」
「誰かひとっ走りって言いたい所だけど、ここは皆で行くほうが安全かな」
そう言ってノアが苦笑いを浮かべたその時だ。突然地面が大きく揺れた。
「な、何!? 何か地面揺れたけど!?」
突然の事にリアンは咄嗟に隣りにいたオリバーの腕を掴んでキョロキョロと辺りを見渡した。
「地震……かな」
ポツリと言ったノアにアリスも真顔で頷いて早口で言った。
「兄さま、ここ危ない気がする。それに……」
アリスはそう言って振り返ってバラの絵を見て口をつぐんだ。さっきは少しだけ枯れたと思っていたバラが、また咲いていたのだ。
「バラが……マズイな。皆、ディノの地下に移動するよ!」
ここにはもう用はない。ノアはそう言ってアリスとキリの手を掴んで走りだした。その間も地面はグラグラと揺れ、壁の一部が剥がれ落ちてくる。
「ノア様、崩れるかもしれません」
「そうだね。急ごう」
仲間たちは一心不乱に地下道を走った。ようやく春の庭までやってきてアーロがピンを使った途端、ドアが内側から勝手に開いた。
「開いたっ! ほらね! やっぱり私が居ないと……アーロ?」
「お前……誰だ?」
アーロは勝手に開いたドアから飛び出してきた少女を抱きとめると、上から下まで眺めて首を傾げた。
そんなアーロの後ろから春の庭を覗き込んだアリスが少女を見て引きつる。
「絵美里じゃん! 何でこんなとこにいんのよ!」
「絵美里? これが? ルーデリアの牢にぶち込んだんじゃなかったか?」
絵美里はつい先程あの子供たちが居た部屋からシャルの手によってルーデリアの牢に送られたはずだ。それが何故こんな所に? しかも先程よりも随分と幼くなっている気がする。
首を傾げたアーロを無視して絵美里は春の庭から飛び出すと、ノアを見つけて目を輝かせた。
「乃亜! やっぱり助けに来てくれたのね!」
絵美里はノアの正面に立って目を輝かせたけれど、ノアはそんな絵美里に見向きもせずに先程から後ろばかりを気にしている。
「キリ、奥から崩れてきてる。皆! 早く春の庭に入って!」
「はい」
「っす」
「いや、それはいいけどあんた、コイツどうすんの?」
ノアに言われて春の庭にとりあえず避難したリアンは、何故か一緒にくっついてきた絵美里を指さした。
「え? ああ、どうもしないよ。そんな事より早くノエル達と合流しよう。絵美里がここに居るということは、モルガナも無事救出されたかな」
別に誰に言った訳でもないがノアが呟くと、絵美里は嫌味気に笑う。
「モルガナ? もちろんモルガナも私と一緒に助け出されたわ。あの人は餌だもの。絶望に打ちひしがれて今が食べ頃よ。そして私は救世主だから助けられて当然なの」
それを聞いてノアがにっこり微笑んで絵美里を見下ろす。
「なるほど。それで、助けたのは誰?」
「どうして教えないといけないの? あなたはアンソニーの敵でしょう?」
今までずっと誰かの為に生きてきた絵美里だ。自分の我を通すこともせず、ひたすらに誰かの為に正しく生きてきた。それなのに皆、絵美里を利用しようとする。それは絵美里が重要人物だからに他ならない。
けれどそれももう終わりだ。今度こそ乃亜を地球に連れ戻して真っ当に生きられるよう世話をしてやらなければ。可哀想な乃亜の家族は、もう絵美里しか居ないのだから。
絵美里の言葉を聞いてノアは一瞬キョトンとした顔をして、口の端だけを上げて笑った。
「そりゃそうだ。君は向こう側だもんね。まぁどのみち僕たちの人生がこの先もう交わる事は二度と無いし、今度こそ本当にさようならだ。行くよ、皆」
「どういう……ちょ、ちょっと待って! 乃亜!」
ノアはそう言ってアリスの手を掴んで春の庭を駆け出した。それに従って仲間たちも駆け出す。絵美里ももちろんノアを追いかけた。こんな所で時間を無駄にしている場合ではないのだ。アメリアとユアンはああ言ったけれど、絵美里がいなければ無事に地球に辿り着いた後に困るのは目に見えているのだから。
「アリス、先に行ってレックスにこれを!」
ノアはそう言ってアリスにアンソニーから奪ったピースを手渡した。それを受け取ったアリスは頷いてちらりとノアの後ろに視線を移し、それからノアを見上げてくる。
「兄さま、浮気は駄目だからね! 心が大空のように広い私でも、浮気だけは絶対に許さないから! ほっぺにチューとかも駄目だからね!」
「ノア様、お嬢様はほっぺにチューどころか手を繋ぐ事さえ許さないつもりです。絵美里さん限定のようですが、皮膚接触は避けた方が良いかと」
「わ、分かった。ありがとう、キリ」
既に闘志を燃やしているアリスを見てノアは青ざめてキリにお礼を言う。
「いいえ、どういたしまして。大丈夫ですお嬢様。見張りとしてリアン様を置いていきましょう」
「何で僕!?」
「あなたが一番辛辣で公平だからです。それではリアン様、ノア様の監視をお願いします」
「えー……まぁ分かったよ。ったく、夫婦揃って手間ばっかりかけさせるんだから!」
言いながらもリアンはちんたら走ってくる絵美里を見てフンと鼻を鳴らす。
「あれが自称婚約者ねぇ。走んのおっそ」
仲間たちが全員春の庭から出たことを確認したリアンが言うと、ノアはいつものようにニコッと笑った。
残された仲間たちはしばらく呆然とその場に立ち尽くしていたが、突然何かを思い出したかのようにノアがアリスを抱きしめる。
「アリス、ごめん……ずっと黙ってて……」
「兄さま……ちょっとだけ傷ついたからね!」
「うん……ごめん」
「いつから知ってたの?」
「いつから……えっと、学生の頃から……」
バツが悪そうにノアが視線を伏せると、アリスは驚いたように目を丸くしてノアを見上げてくる。
「学生の頃から!? え、ちょっと待って! もしかして皆も!?」
アリスが周りを見渡すと、仲間たちは全員そっとアリスから視線を外した。
「えー! ちょ、皆隠し事うますぎない!?」
「お嬢様が壊滅的すぎるのでは?」
「いや、あんたはちょっと黙ってて! マジかー……え。もしかしてルイス様も知ってた?」
「うん」
「おが屑なのに!?」
「あんた、それは流石に酷くない?」
「酷くないよ! 自他ともに認めるおが屑にまで内緒にされてたなんて!」
何がショックってそれが一番ショックなアリスだ。肩を落として落ち込むアリスの肩を、アーロが軽く叩いた。
「安心しろ、アリス。俺がそれを知ったのはこいつらよりは後だ」
「……アーロはさ、何かどっかいっつもズレてるよね。まぁいいや! で、私の本当の両親が分かったところでリズさんはママ、ユアンはパパって呼べばいいのかな!?」
「いや、それはユアンびっくりすると思うけど!? ただでさえ何か色々抱えてそうなのに、ここに来てこんな娘に育ってたとか精神崩壊するかも」
「どういう意味よ! こんな可愛い娘、嬉しいの一択でしょ!?」
「いやぁー……それはどう……っすかね」
「アリス、俺の事をパパと呼べ。今のリサの旦那は俺だ」
「だからあんたはズレてるんすよ! で、さっきアンソニーから何奪ったんすか?」
無理やり話を戻したオリバーにノアは思い出したかのようにポンと手を打った。
「そうだった! アリス、これをレックスに届けよう。これで後はカールとアメリアの金のピンだけだ」
そう言ってノアはポシェットの中から眠りドラゴンのピースを取り出した。
「うん! でもどうやって?」
「誰かひとっ走りって言いたい所だけど、ここは皆で行くほうが安全かな」
そう言ってノアが苦笑いを浮かべたその時だ。突然地面が大きく揺れた。
「な、何!? 何か地面揺れたけど!?」
突然の事にリアンは咄嗟に隣りにいたオリバーの腕を掴んでキョロキョロと辺りを見渡した。
「地震……かな」
ポツリと言ったノアにアリスも真顔で頷いて早口で言った。
「兄さま、ここ危ない気がする。それに……」
アリスはそう言って振り返ってバラの絵を見て口をつぐんだ。さっきは少しだけ枯れたと思っていたバラが、また咲いていたのだ。
「バラが……マズイな。皆、ディノの地下に移動するよ!」
ここにはもう用はない。ノアはそう言ってアリスとキリの手を掴んで走りだした。その間も地面はグラグラと揺れ、壁の一部が剥がれ落ちてくる。
「ノア様、崩れるかもしれません」
「そうだね。急ごう」
仲間たちは一心不乱に地下道を走った。ようやく春の庭までやってきてアーロがピンを使った途端、ドアが内側から勝手に開いた。
「開いたっ! ほらね! やっぱり私が居ないと……アーロ?」
「お前……誰だ?」
アーロは勝手に開いたドアから飛び出してきた少女を抱きとめると、上から下まで眺めて首を傾げた。
そんなアーロの後ろから春の庭を覗き込んだアリスが少女を見て引きつる。
「絵美里じゃん! 何でこんなとこにいんのよ!」
「絵美里? これが? ルーデリアの牢にぶち込んだんじゃなかったか?」
絵美里はつい先程あの子供たちが居た部屋からシャルの手によってルーデリアの牢に送られたはずだ。それが何故こんな所に? しかも先程よりも随分と幼くなっている気がする。
首を傾げたアーロを無視して絵美里は春の庭から飛び出すと、ノアを見つけて目を輝かせた。
「乃亜! やっぱり助けに来てくれたのね!」
絵美里はノアの正面に立って目を輝かせたけれど、ノアはそんな絵美里に見向きもせずに先程から後ろばかりを気にしている。
「キリ、奥から崩れてきてる。皆! 早く春の庭に入って!」
「はい」
「っす」
「いや、それはいいけどあんた、コイツどうすんの?」
ノアに言われて春の庭にとりあえず避難したリアンは、何故か一緒にくっついてきた絵美里を指さした。
「え? ああ、どうもしないよ。そんな事より早くノエル達と合流しよう。絵美里がここに居るということは、モルガナも無事救出されたかな」
別に誰に言った訳でもないがノアが呟くと、絵美里は嫌味気に笑う。
「モルガナ? もちろんモルガナも私と一緒に助け出されたわ。あの人は餌だもの。絶望に打ちひしがれて今が食べ頃よ。そして私は救世主だから助けられて当然なの」
それを聞いてノアがにっこり微笑んで絵美里を見下ろす。
「なるほど。それで、助けたのは誰?」
「どうして教えないといけないの? あなたはアンソニーの敵でしょう?」
今までずっと誰かの為に生きてきた絵美里だ。自分の我を通すこともせず、ひたすらに誰かの為に正しく生きてきた。それなのに皆、絵美里を利用しようとする。それは絵美里が重要人物だからに他ならない。
けれどそれももう終わりだ。今度こそ乃亜を地球に連れ戻して真っ当に生きられるよう世話をしてやらなければ。可哀想な乃亜の家族は、もう絵美里しか居ないのだから。
絵美里の言葉を聞いてノアは一瞬キョトンとした顔をして、口の端だけを上げて笑った。
「そりゃそうだ。君は向こう側だもんね。まぁどのみち僕たちの人生がこの先もう交わる事は二度と無いし、今度こそ本当にさようならだ。行くよ、皆」
「どういう……ちょ、ちょっと待って! 乃亜!」
ノアはそう言ってアリスの手を掴んで春の庭を駆け出した。それに従って仲間たちも駆け出す。絵美里ももちろんノアを追いかけた。こんな所で時間を無駄にしている場合ではないのだ。アメリアとユアンはああ言ったけれど、絵美里がいなければ無事に地球に辿り着いた後に困るのは目に見えているのだから。
「アリス、先に行ってレックスにこれを!」
ノアはそう言ってアリスにアンソニーから奪ったピースを手渡した。それを受け取ったアリスは頷いてちらりとノアの後ろに視線を移し、それからノアを見上げてくる。
「兄さま、浮気は駄目だからね! 心が大空のように広い私でも、浮気だけは絶対に許さないから! ほっぺにチューとかも駄目だからね!」
「ノア様、お嬢様はほっぺにチューどころか手を繋ぐ事さえ許さないつもりです。絵美里さん限定のようですが、皮膚接触は避けた方が良いかと」
「わ、分かった。ありがとう、キリ」
既に闘志を燃やしているアリスを見てノアは青ざめてキリにお礼を言う。
「いいえ、どういたしまして。大丈夫ですお嬢様。見張りとしてリアン様を置いていきましょう」
「何で僕!?」
「あなたが一番辛辣で公平だからです。それではリアン様、ノア様の監視をお願いします」
「えー……まぁ分かったよ。ったく、夫婦揃って手間ばっかりかけさせるんだから!」
言いながらもリアンはちんたら走ってくる絵美里を見てフンと鼻を鳴らす。
「あれが自称婚約者ねぇ。走んのおっそ」
仲間たちが全員春の庭から出たことを確認したリアンが言うと、ノアはいつものようにニコッと笑った。
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