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第303話 これが私だ!
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「ね、ねぇ、チャンネルが変わるってどういう事?」
「あのね、このぬいぐるみチャップマン商会の次の新商品の試作品なの。鼻がつまみになってて、回すと登録してる人たちのスマホと連動して声が聞こえるようになってるの」
「可愛いし、これがあれば寂しくないよね~」
ローズが嬉しそうにうさぎのぬいぐるみを抱きしめていると、ふと何かに気付いたようにルークが言った。
「それってさ、相手のスマホが繋がらないと無理?」
「いいえ。スマホはあくまで登録に必要なだけ。音声を拾うための道具なだけだから、魔力がスマホに通って無くても声は聞こえるわ」
それを聞いてルークは勢いよく立ち上がった。
「でかした! それ、じいちゃん登録されてない!?」
「されてるわよ。妖精王と繋ぐ?」
「うん、お願い!」
ジャスミンはルークの言う通りクマの鼻をぐるぐると回した。すると、少しの雑音の後に、今まで全く音沙汰が無かった妖精王の声が途切れ途切れに聞こえてきたではないか!
『うむ、こんな所……いや、だが……我はもう管理者……続きはそなたに……すまん。……覚悟……はは、いや……』
途切れ途切れの妖精王の声は何だか寂しそうで、けれど何故かスッキリとしたような不思議な声だった。
「じいちゃん……どこに居んだよ」
ルークは浮かんだ涙を拭ってぬいぐるみに耳を近づけるが、音声はそれ以上良くはならない。
「とりあえず妖精王が無事だって事は分かったね! ジャスミン、ローズ、これ他には誰が登録されてるの?」
「全員よ! 母さまが全員分登録してたわ」
「ライラさん……流石です!」
感動して思わず涙ぐんだテオを呆れたように見つめながらジャスミンは鼻のつまみを回した。すると、今度はアリス達の声が聞こえてきた。
アリスは手を差し伸べながら人好きのする笑顔を浮かべて近寄ってきたアンソニーをじっと見つめていた。それは時間にすればさほどの長さでは無かったかもしれない。
けれどアリスにはそれが永遠かと思うほど長く感じた。
アリスの本当の両親はエリザベスとユアンだと言う事実を、アリスだけが知らなかった。
いや、分かっている。きっとノア達はそれをアリスが知れば傷つくだろうと思って黙っていてくれていたのだろう。
けれどそれはアリスにとっては全く嬉しくない事実だ。
アリスが顔を上げると、そんなアリスの心を察したかのようにアンソニーがさらに笑みを深めて近寄ってきた。
「アリス!」
何かに導かれるようにアンソニーに向かって歩き出したアリスを止めようとノアは手を伸ばしたけれど、生憎その手は宙を掴んだだけだった。アリスは既にアンソニーの元にふらふらと近寄っている。
「こんな時に!」
リアンは思わず爪を噛んで必死になって言い訳を考えていたけれど、騙していたのは事実なのだ。何も思い浮かばない。
アリスの為を思って選んだ事だったが、さっきアンソニーも言ったように、それは本当にアリスの為だったのかどうかは誰にも分からない。
実際にアリスは傷ついた顔をしていたし、今もアンソニーに向かって歩いている。もしもこれが原因でアリスまでもがあちらに付けば、もう確実にこちらに勝ち目は無くなってしまうだろう。
仲間たちが固唾を呑んでアリスの行動を見守る中、アリスは一瞬だけ立ち止まってこちらを振り向いたが、その目には涙が浮かんでいて誰も何も言葉をかける事が出来なかった。
「いい子だ、アリス。君はやはり賢いね。損得をちゃんと考えられる子は大好きだよ」
「……」
「さあおいで。君にも神の力を降ろそう。きっと君は素晴らしい器になれるよ」
アンソニーはそう言って両手を広げた。アリスはアンソニーの目前までやってくると、不意にニカッと笑う。
「?」
可愛くない笑い方だな。アンソニーがそう思った瞬間、突然アリスがアンソニーに真正面から勢いよく飛びついてきた。
けれどアンソニーは慌てなかった。軽々とアリスを抱きとめ薄く笑う。何故ならアリスという娘はそういう娘だからだ。破天荒でいつだってやりたい放題。愛情表現ですらもいつだってこんな具合だと知っていたからだ。
もしもアリスのこんな性格をスルガから事前に聞いていなければ、きっとアンソニーも警戒したかもしれないが、アリスの人となりを細かく聞いていたアンソニーはそんな事では驚かない。
ハズだった。
「引っかかったな!? ちぇすとぉぉぉぉ!!!!」
「なっ!?」
何事だとアンソニーが思うよりも先に手からピストルが奪われ、何かが胸元で千切れる音がした。
ハッとして胸元を見下ろすと、そこに下げていたペンダントがチェーンごと奪われている。
「!」
しまった! そう思うよりも先にアリスはアンソニーから身を翻して仲間たちの元に戻ると、ピストルをアンソニーに向けて口の端を上げて笑った。その銃口はピタリとアンソニーの胸元に狙い定められている。
「私、元AIだから絶対に外さないよ?」
「アリス、それ言っちゃ駄目だよ」
「そうですよ。そんな自虐誰も笑えませんよ」
意地悪な笑みを浮かべてそんな事を言うアリスにノアとキリがいつものように突っ込む。
「でへへ! 言ってみたかったんだもん!」
そう言ってアリスはアンソニーから奪い取ったペンダントをノアに渡すと、ノアはそれを受け取って大切にポシェットに仕舞う。
「お前……何故……そいつらはお前を裏切っていたんだぞ!?」
「裏切る? なんで? 別に私何にも裏切られてないよ?」
「誰も本当の両親の事をお前に話さなかった! それは裏切りとどう違う!? いつもあれだけ虐げられていて何故そこに戻る事が出来るんだ!」
アリスの生い立ちは結構悲惨だ。本人が重く受け止めていないだけで、普通の人間ならもっと落ち込んでも仕方ないだろうと思う程度には悲惨だ。
そこを付けば多少は揺らぐかと思ったけれど……。
「あ、それはイラッとするから聞かない方が――」
アンソニーの言葉にリアンが間髪入れずにそう言ってチラリとアリスを見た。するとアリスは案の定それを聞いてニカッと笑って自信満々に答える。
「嫌だなぁ! だって私、ヒロインだよ!? ちょっとお転婆な愛されヒロインなのに虐げられてる訳ないじゃん!」
「……は?」
「それに皆が私に黙ってたのだって私が可愛くて可愛くて仕方ないからだよ! ついでに言うと私の力が人外みたいに強いのだって愛されポイントだゾ! キメッ!」
「……」
とんでも理論を繰り出すアリスにアンソニーの口元がヒクリと引きつる。
それを見てリアンが呆れたようにポツリと言った。
「だから言ったのに。イラっとするから止めとけって」
「リー君、シッす!」
「私から言わせればあなたの方が可哀想だよ。何百年も何のために生きてきたのか分かんないけど、ぜんっぜん味方居ないじゃん。何を思い詰めてんのか知んないけどもうちょっと気楽に生きればいいのに~」
「お嬢様、あなたはそれ以上気楽に生きないでもらえると助かるのですが?」
「テヘペロ!」
これが私だ! アリスはそう言っていつものように胸を張ったけれど、そんなアリスを見てアンソニーは鼻で笑っただけだった。
「ああ、そうだった。お前はどこまでもお気楽で快楽主義者だとアルファが言っていたな。まぁいいさ。どのみち私の計画に穴はない。私は姉妹星に必ず行く。お前たちが今更止めようが関係ない」
「だーかーらー、何で姉妹星に行くために星ごと巻き込むのよ! そういうの一番迷惑なんだけど!?」
「ノア、お前なら分かるはずだよ。僕が何をしようとしてるのか」
「あのね、このぬいぐるみチャップマン商会の次の新商品の試作品なの。鼻がつまみになってて、回すと登録してる人たちのスマホと連動して声が聞こえるようになってるの」
「可愛いし、これがあれば寂しくないよね~」
ローズが嬉しそうにうさぎのぬいぐるみを抱きしめていると、ふと何かに気付いたようにルークが言った。
「それってさ、相手のスマホが繋がらないと無理?」
「いいえ。スマホはあくまで登録に必要なだけ。音声を拾うための道具なだけだから、魔力がスマホに通って無くても声は聞こえるわ」
それを聞いてルークは勢いよく立ち上がった。
「でかした! それ、じいちゃん登録されてない!?」
「されてるわよ。妖精王と繋ぐ?」
「うん、お願い!」
ジャスミンはルークの言う通りクマの鼻をぐるぐると回した。すると、少しの雑音の後に、今まで全く音沙汰が無かった妖精王の声が途切れ途切れに聞こえてきたではないか!
『うむ、こんな所……いや、だが……我はもう管理者……続きはそなたに……すまん。……覚悟……はは、いや……』
途切れ途切れの妖精王の声は何だか寂しそうで、けれど何故かスッキリとしたような不思議な声だった。
「じいちゃん……どこに居んだよ」
ルークは浮かんだ涙を拭ってぬいぐるみに耳を近づけるが、音声はそれ以上良くはならない。
「とりあえず妖精王が無事だって事は分かったね! ジャスミン、ローズ、これ他には誰が登録されてるの?」
「全員よ! 母さまが全員分登録してたわ」
「ライラさん……流石です!」
感動して思わず涙ぐんだテオを呆れたように見つめながらジャスミンは鼻のつまみを回した。すると、今度はアリス達の声が聞こえてきた。
アリスは手を差し伸べながら人好きのする笑顔を浮かべて近寄ってきたアンソニーをじっと見つめていた。それは時間にすればさほどの長さでは無かったかもしれない。
けれどアリスにはそれが永遠かと思うほど長く感じた。
アリスの本当の両親はエリザベスとユアンだと言う事実を、アリスだけが知らなかった。
いや、分かっている。きっとノア達はそれをアリスが知れば傷つくだろうと思って黙っていてくれていたのだろう。
けれどそれはアリスにとっては全く嬉しくない事実だ。
アリスが顔を上げると、そんなアリスの心を察したかのようにアンソニーがさらに笑みを深めて近寄ってきた。
「アリス!」
何かに導かれるようにアンソニーに向かって歩き出したアリスを止めようとノアは手を伸ばしたけれど、生憎その手は宙を掴んだだけだった。アリスは既にアンソニーの元にふらふらと近寄っている。
「こんな時に!」
リアンは思わず爪を噛んで必死になって言い訳を考えていたけれど、騙していたのは事実なのだ。何も思い浮かばない。
アリスの為を思って選んだ事だったが、さっきアンソニーも言ったように、それは本当にアリスの為だったのかどうかは誰にも分からない。
実際にアリスは傷ついた顔をしていたし、今もアンソニーに向かって歩いている。もしもこれが原因でアリスまでもがあちらに付けば、もう確実にこちらに勝ち目は無くなってしまうだろう。
仲間たちが固唾を呑んでアリスの行動を見守る中、アリスは一瞬だけ立ち止まってこちらを振り向いたが、その目には涙が浮かんでいて誰も何も言葉をかける事が出来なかった。
「いい子だ、アリス。君はやはり賢いね。損得をちゃんと考えられる子は大好きだよ」
「……」
「さあおいで。君にも神の力を降ろそう。きっと君は素晴らしい器になれるよ」
アンソニーはそう言って両手を広げた。アリスはアンソニーの目前までやってくると、不意にニカッと笑う。
「?」
可愛くない笑い方だな。アンソニーがそう思った瞬間、突然アリスがアンソニーに真正面から勢いよく飛びついてきた。
けれどアンソニーは慌てなかった。軽々とアリスを抱きとめ薄く笑う。何故ならアリスという娘はそういう娘だからだ。破天荒でいつだってやりたい放題。愛情表現ですらもいつだってこんな具合だと知っていたからだ。
もしもアリスのこんな性格をスルガから事前に聞いていなければ、きっとアンソニーも警戒したかもしれないが、アリスの人となりを細かく聞いていたアンソニーはそんな事では驚かない。
ハズだった。
「引っかかったな!? ちぇすとぉぉぉぉ!!!!」
「なっ!?」
何事だとアンソニーが思うよりも先に手からピストルが奪われ、何かが胸元で千切れる音がした。
ハッとして胸元を見下ろすと、そこに下げていたペンダントがチェーンごと奪われている。
「!」
しまった! そう思うよりも先にアリスはアンソニーから身を翻して仲間たちの元に戻ると、ピストルをアンソニーに向けて口の端を上げて笑った。その銃口はピタリとアンソニーの胸元に狙い定められている。
「私、元AIだから絶対に外さないよ?」
「アリス、それ言っちゃ駄目だよ」
「そうですよ。そんな自虐誰も笑えませんよ」
意地悪な笑みを浮かべてそんな事を言うアリスにノアとキリがいつものように突っ込む。
「でへへ! 言ってみたかったんだもん!」
そう言ってアリスはアンソニーから奪い取ったペンダントをノアに渡すと、ノアはそれを受け取って大切にポシェットに仕舞う。
「お前……何故……そいつらはお前を裏切っていたんだぞ!?」
「裏切る? なんで? 別に私何にも裏切られてないよ?」
「誰も本当の両親の事をお前に話さなかった! それは裏切りとどう違う!? いつもあれだけ虐げられていて何故そこに戻る事が出来るんだ!」
アリスの生い立ちは結構悲惨だ。本人が重く受け止めていないだけで、普通の人間ならもっと落ち込んでも仕方ないだろうと思う程度には悲惨だ。
そこを付けば多少は揺らぐかと思ったけれど……。
「あ、それはイラッとするから聞かない方が――」
アンソニーの言葉にリアンが間髪入れずにそう言ってチラリとアリスを見た。するとアリスは案の定それを聞いてニカッと笑って自信満々に答える。
「嫌だなぁ! だって私、ヒロインだよ!? ちょっとお転婆な愛されヒロインなのに虐げられてる訳ないじゃん!」
「……は?」
「それに皆が私に黙ってたのだって私が可愛くて可愛くて仕方ないからだよ! ついでに言うと私の力が人外みたいに強いのだって愛されポイントだゾ! キメッ!」
「……」
とんでも理論を繰り出すアリスにアンソニーの口元がヒクリと引きつる。
それを見てリアンが呆れたようにポツリと言った。
「だから言ったのに。イラっとするから止めとけって」
「リー君、シッす!」
「私から言わせればあなたの方が可哀想だよ。何百年も何のために生きてきたのか分かんないけど、ぜんっぜん味方居ないじゃん。何を思い詰めてんのか知んないけどもうちょっと気楽に生きればいいのに~」
「お嬢様、あなたはそれ以上気楽に生きないでもらえると助かるのですが?」
「テヘペロ!」
これが私だ! アリスはそう言っていつものように胸を張ったけれど、そんなアリスを見てアンソニーは鼻で笑っただけだった。
「ああ、そうだった。お前はどこまでもお気楽で快楽主義者だとアルファが言っていたな。まぁいいさ。どのみち私の計画に穴はない。私は姉妹星に必ず行く。お前たちが今更止めようが関係ない」
「だーかーらー、何で姉妹星に行くために星ごと巻き込むのよ! そういうの一番迷惑なんだけど!?」
「ノア、お前なら分かるはずだよ。僕が何をしようとしてるのか」
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