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第306話 星の観測者
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そんなシャルルの勢いに仲間たちは全員目を丸くしているが、誰も咎めたりはしない。
「えっとシャルル、とりあえず落ち着け。お前の分のお茶もすぐに用意させよう。とりあえず俺のカップを返してくれるか」
「え? ああ、すみません。今までずっと走り回っていたもので。おや、レスター王子。ようやく戻ったんですね」
「あ、はい。シャルル大公もお疲れ様です。えっと……とりあえず僕の話は後回しにした方がいいでしょうか?」
空気を読んだレスターが言うと、ルイスとカインが揃って首を振った。
「いや、レスターの話を先に聞こう。それからシャルルだ。いいか?」
時は一刻を争うことは分かっているが、レスターの話にも何か重要な秘密が隠されているような気がしてならない。
「ええ、もちろん。私の方の話はどのみち今すぐどうこうしようがありません」
「そうか。ではレスター、すまんが続きを頼む」
「は、はい! さっきも言ったんですが、妖精界には決して人前には姿を現さない、観測者という妖精が居ると言う噂を聞いた僕たちは、仲間を集めてその人を探しに行ったんです」
「観測者、ですか。初めて聞きますね」
ようやくやってきたお茶を飲みながらシャルルが言うと、レスターとカライスが無言で頷いた。
「俺も初めて聞いたんだ。観測者の存在を知ってたのは古くから居る奴らだけだった。それも並大抵の古さじゃない。いわゆる太古の昔から居るような奴らだ」
「太古の昔から……伝説級の妖精たちですか」
「そうなんです。彼らの多くはもう噂だけになっていてどこから探せばいいか途方にくれていたのですが、ルウが海の妖精とコンタクトを取ることに成功して、そこからどうにか観測者と呼ばれている人物に辿り着く事が出来たんです!」
あの時の事は今思い出しても胸が熱くなる。ルウが助けたアザラシの妖精から海の妖精に繋がりが出来て、そこから大地の伝説級妖精にコンタクトを取ることが出来たのだ。
「凄いな! 流石レスターだ! お前は俺の自慢のはとこだ!」
思わずルイスが立ち上がると、レスターは照れたように笑って首を振る。
「凄いのは僕ではなくて、協力してくれた皆のおかげなんです。それでとうとう観測者に出会うことが出来ました。彼の容姿や住んでいる場所などはお教えすることが出来ないのですが……」
それが観測者との約束だ。この星の話をする代わりに自分の事は絶対に誰にも漏らすなと約束させられた。彼の存在は世界には必要不可欠だが、それは誰にも知られてはいけないようだ。
レスターの言葉に仲間たちは全員が頷き、話の続きを待っている。
「観測者はこの星が出来た時からこの星を観測していたそうです。一度この星が炎に焼かれ、一人のドラゴンを除いて全ての生命が終焉を迎えた時の事も彼は観測していました」
「ディノ、ね。レックスの話と同じだわ」
キャロラインが言うと、隣でライラがミアの代わりに一生懸命メモを取りながら頷く。
「それからどうしたの?」
「はい。星の終焉が訪れる前、ドラゴンには当時想いを寄せる人が居たそうです。それが星の姫、イノセンス」
「……イノセンス。直訳すれば無垢とか純真とかですか」
シャルがポツリと言うと、レスターとカライスとロトが揃って目を丸くしてシャルを見つめる。
「ど、どうして分かったんです? えっと、そのお姫様と言うのは無垢で純真な星の娘だったそうなんです。妖精とも人間とも違う、言わば星の化身のような」
「大地の化身アリスと通じる物がありそう……」
「ライラ? それは私達が勝手に言っているだけよ」
たしなめるようにキャロラインが言うと、ライラは静かに首を振った。
「いいえ。アリスは誰が何と言おうと大地の化身です。それは未来永劫代わりません。すみませんレスター王子、続きをお願いします」
「あ、は、はい。えと、そのイノセンス姫は星を焼き尽くそうとした業火を止めようと、自らの命と引き換えに業火を収めたそうなんです」
「……なんて事」
「彼女は星を守る為に星の中心で永遠の眠りにつく事を選びました。業火の後に現れたヴァニタスという魔物を抱いて」
「ヴァニタス……出たな」
苦虫を潰したような顔をしてルイスが言うと、隣でカインが何かに納得したように頷いている。
「それでディノは地下に潜ったのか。だがあの不思議な地下はディノが創った訳では無かったんだろう?」
地上に嫌気がさしただけと言うには少し引きこもりが過ぎやしないかとずっと思っていたが、そういう理由があったのだとしたら、納得がいく。
「はい。地下には当時からいくつもの地下通路があったそうです。それは星とイノセンスの為に作られた古代妖精たちの努力の結晶だったと観測者は言っていました。ディノが地下に潜った一番の理由は、イノセンスを守るためだったそうです。誰も彼女を起こしてしまわないように。もう二度とあんな悲劇が地上で起こらないように。ところが」
「異世界からある人物が現れた。だろ?」
「そうです。メイリングにある日突然現れた異世界から来た人間は、姉妹星に戻る為の研究を始めたそうです。それはディノの為でもあったのだと観測者は言っていました」
「ディノの為? 何故だ?」
「異世界人は一人の少女を守って自分の人生の全てを投げ出そうとしているドラゴンを可哀想に思ったようです。異世界人は自分の意思とは反して全てを無理やり奪われた訳で、そんな彼からしたら自ら人生を手放そうとしているドラゴンを可哀想に思ったのかもしれません」
「それは分かるけれど、どうして異世界に戻ることがディノの為になるの? 異世界にディノを連れて行く気だったと言うこと?」
「いえ。彼が研究を続けていくうちに、ある事が分かったようなんです。それは、ゲートと呼ばれる物だそうで」
「ゲート……?」
「はい。時間軸を移動する術と言いますか、輪と言いますか、僕にもちょっとよく理解出来なかったんですが、時を自由に行き来することが出来るのだと言っていました」
「ああ、ワームホールですね」
「知っているのか!? シャル!」
「知っているも何も、私はしょっちゅう使っていますよ? まぁ私が使えるのは決められた時間軸を移動するためだけの物ですが」
シレッとそんな事を言うシャルに仲間たちは久しぶりにシャルのチートな能力を思い出した。
「そうだったな……お前は過去と現在を行き来していたな……」
ルイスが半眼になってシャルを見ると、シャルは素知らぬ顔をしてお茶を飲んでいる。
「そのワームホールってのは、誰でも自由に行き来できるもんなの?」
カインの問にシャルは首を横に振った。
「いいえ。ある一定の条件が必要ですが、私はそれを誰にも教えるつもりはありませんよ」
「なるほど。てことは、その条件さえクリアすれば誰でも行き来出来るって事か」
「誰でもというと少し語弊がありますけどね」
「つまりあれか? あいつらはその条件を無理やり揃えようとしているという事か?」
「そうなんだろうな。レスター、それでなんでそれがディノの為になるの?」
「転生者は世界の時間を戻そうと考えたようです。そうすれば本来あるべき姿の世界に戻るだろう、と」
「ノアみたいな奴だね。姉妹星のやつはそんな奴ばっかなのかな?」
呆れたようなカインにキャロラインが苦笑いして言った。
「本当ね。でもどちらも誰かの為なのよね……まぁ、副産物的に自分たちもその恩恵に与ろうとしたのかもしれないけど」
「いや、ノアは元々は完全に自分の事だけ考えてたと思うけどね」
ノアの性格をよく知っているカインが言うと、仲間たちは全員が何かを思い出すように視線を彷徨わせて曖昧に頷く。
「えっとシャルル、とりあえず落ち着け。お前の分のお茶もすぐに用意させよう。とりあえず俺のカップを返してくれるか」
「え? ああ、すみません。今までずっと走り回っていたもので。おや、レスター王子。ようやく戻ったんですね」
「あ、はい。シャルル大公もお疲れ様です。えっと……とりあえず僕の話は後回しにした方がいいでしょうか?」
空気を読んだレスターが言うと、ルイスとカインが揃って首を振った。
「いや、レスターの話を先に聞こう。それからシャルルだ。いいか?」
時は一刻を争うことは分かっているが、レスターの話にも何か重要な秘密が隠されているような気がしてならない。
「ええ、もちろん。私の方の話はどのみち今すぐどうこうしようがありません」
「そうか。ではレスター、すまんが続きを頼む」
「は、はい! さっきも言ったんですが、妖精界には決して人前には姿を現さない、観測者という妖精が居ると言う噂を聞いた僕たちは、仲間を集めてその人を探しに行ったんです」
「観測者、ですか。初めて聞きますね」
ようやくやってきたお茶を飲みながらシャルルが言うと、レスターとカライスが無言で頷いた。
「俺も初めて聞いたんだ。観測者の存在を知ってたのは古くから居る奴らだけだった。それも並大抵の古さじゃない。いわゆる太古の昔から居るような奴らだ」
「太古の昔から……伝説級の妖精たちですか」
「そうなんです。彼らの多くはもう噂だけになっていてどこから探せばいいか途方にくれていたのですが、ルウが海の妖精とコンタクトを取ることに成功して、そこからどうにか観測者と呼ばれている人物に辿り着く事が出来たんです!」
あの時の事は今思い出しても胸が熱くなる。ルウが助けたアザラシの妖精から海の妖精に繋がりが出来て、そこから大地の伝説級妖精にコンタクトを取ることが出来たのだ。
「凄いな! 流石レスターだ! お前は俺の自慢のはとこだ!」
思わずルイスが立ち上がると、レスターは照れたように笑って首を振る。
「凄いのは僕ではなくて、協力してくれた皆のおかげなんです。それでとうとう観測者に出会うことが出来ました。彼の容姿や住んでいる場所などはお教えすることが出来ないのですが……」
それが観測者との約束だ。この星の話をする代わりに自分の事は絶対に誰にも漏らすなと約束させられた。彼の存在は世界には必要不可欠だが、それは誰にも知られてはいけないようだ。
レスターの言葉に仲間たちは全員が頷き、話の続きを待っている。
「観測者はこの星が出来た時からこの星を観測していたそうです。一度この星が炎に焼かれ、一人のドラゴンを除いて全ての生命が終焉を迎えた時の事も彼は観測していました」
「ディノ、ね。レックスの話と同じだわ」
キャロラインが言うと、隣でライラがミアの代わりに一生懸命メモを取りながら頷く。
「それからどうしたの?」
「はい。星の終焉が訪れる前、ドラゴンには当時想いを寄せる人が居たそうです。それが星の姫、イノセンス」
「……イノセンス。直訳すれば無垢とか純真とかですか」
シャルがポツリと言うと、レスターとカライスとロトが揃って目を丸くしてシャルを見つめる。
「ど、どうして分かったんです? えっと、そのお姫様と言うのは無垢で純真な星の娘だったそうなんです。妖精とも人間とも違う、言わば星の化身のような」
「大地の化身アリスと通じる物がありそう……」
「ライラ? それは私達が勝手に言っているだけよ」
たしなめるようにキャロラインが言うと、ライラは静かに首を振った。
「いいえ。アリスは誰が何と言おうと大地の化身です。それは未来永劫代わりません。すみませんレスター王子、続きをお願いします」
「あ、は、はい。えと、そのイノセンス姫は星を焼き尽くそうとした業火を止めようと、自らの命と引き換えに業火を収めたそうなんです」
「……なんて事」
「彼女は星を守る為に星の中心で永遠の眠りにつく事を選びました。業火の後に現れたヴァニタスという魔物を抱いて」
「ヴァニタス……出たな」
苦虫を潰したような顔をしてルイスが言うと、隣でカインが何かに納得したように頷いている。
「それでディノは地下に潜ったのか。だがあの不思議な地下はディノが創った訳では無かったんだろう?」
地上に嫌気がさしただけと言うには少し引きこもりが過ぎやしないかとずっと思っていたが、そういう理由があったのだとしたら、納得がいく。
「はい。地下には当時からいくつもの地下通路があったそうです。それは星とイノセンスの為に作られた古代妖精たちの努力の結晶だったと観測者は言っていました。ディノが地下に潜った一番の理由は、イノセンスを守るためだったそうです。誰も彼女を起こしてしまわないように。もう二度とあんな悲劇が地上で起こらないように。ところが」
「異世界からある人物が現れた。だろ?」
「そうです。メイリングにある日突然現れた異世界から来た人間は、姉妹星に戻る為の研究を始めたそうです。それはディノの為でもあったのだと観測者は言っていました」
「ディノの為? 何故だ?」
「異世界人は一人の少女を守って自分の人生の全てを投げ出そうとしているドラゴンを可哀想に思ったようです。異世界人は自分の意思とは反して全てを無理やり奪われた訳で、そんな彼からしたら自ら人生を手放そうとしているドラゴンを可哀想に思ったのかもしれません」
「それは分かるけれど、どうして異世界に戻ることがディノの為になるの? 異世界にディノを連れて行く気だったと言うこと?」
「いえ。彼が研究を続けていくうちに、ある事が分かったようなんです。それは、ゲートと呼ばれる物だそうで」
「ゲート……?」
「はい。時間軸を移動する術と言いますか、輪と言いますか、僕にもちょっとよく理解出来なかったんですが、時を自由に行き来することが出来るのだと言っていました」
「ああ、ワームホールですね」
「知っているのか!? シャル!」
「知っているも何も、私はしょっちゅう使っていますよ? まぁ私が使えるのは決められた時間軸を移動するためだけの物ですが」
シレッとそんな事を言うシャルに仲間たちは久しぶりにシャルのチートな能力を思い出した。
「そうだったな……お前は過去と現在を行き来していたな……」
ルイスが半眼になってシャルを見ると、シャルは素知らぬ顔をしてお茶を飲んでいる。
「そのワームホールってのは、誰でも自由に行き来できるもんなの?」
カインの問にシャルは首を横に振った。
「いいえ。ある一定の条件が必要ですが、私はそれを誰にも教えるつもりはありませんよ」
「なるほど。てことは、その条件さえクリアすれば誰でも行き来出来るって事か」
「誰でもというと少し語弊がありますけどね」
「つまりあれか? あいつらはその条件を無理やり揃えようとしているという事か?」
「そうなんだろうな。レスター、それでなんでそれがディノの為になるの?」
「転生者は世界の時間を戻そうと考えたようです。そうすれば本来あるべき姿の世界に戻るだろう、と」
「ノアみたいな奴だね。姉妹星のやつはそんな奴ばっかなのかな?」
呆れたようなカインにキャロラインが苦笑いして言った。
「本当ね。でもどちらも誰かの為なのよね……まぁ、副産物的に自分たちもその恩恵に与ろうとしたのかもしれないけど」
「いや、ノアは元々は完全に自分の事だけ考えてたと思うけどね」
ノアの性格をよく知っているカインが言うと、仲間たちは全員が何かを思い出すように視線を彷徨わせて曖昧に頷く。
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