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第307話 観測者の見解と星の真実

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「カインったら。そんな事を言ったらノアに悪いわ。それで? 転生者はそれを実行しようとしたの?」
「そうみたいです。でも出来なかった。条件が合わなかったんです。それは、妖精王の加護が彼に無かったのが原因だったようです」
「つまり、そのワームホールを使うには妖精王の加護が必要だって事か」
「はい。この星の管理者は妖精王です。その彼の加護が無い限りワームホールは作れません。そのまま月日は流れ、転生者は結婚をして二人の子供を授かりました。彼は一人に新しく作ったメイリングという国を任せ、もう一人にディノを守護する役割を与えたそうです」
「待って! どういう事? 兄弟たちは仲違いをしていた訳ではないの?」

 思わずキャロラインが叫ぶと、レスターは首を振った。

「いいえ? 観測者はそう捉えてはいませんでしたよ? 兄弟はどちらも責任感が強く、いつまでも故郷の星を忘れる事が出来ない父親を哀れんでいたそうです。兄弟は父親に言われた通り一人はメイリングを支え、一人はドラゴンの元で暮らしました。けれど二人の兄弟の責任感の強さが、後に悲劇を生みます」
「悲劇、ですか?」
「はい。悲劇……だと僕は思いました。ある日、二人はとうとう姉妹星の人とコンタクトを取ることに成功したんです」
「まさかそれがあの日記の最後の方の……?」

 ルイスは言いながら急いでノアが書き上げた日記を取り出してページをめくった。最後の方にははっきりと、妹と連絡を取る事が出来たと書かれている。

「えっと、それは?」
「ああ、レスターは知らないか! これは初代メイリング王が残した手記だ。ノアが訳してくれたんだが、ここに書いてあるんだ。妹と連絡を取ることが出来た、と」
「そうだったんですね! 観測者は姉妹星から女性がやってきたと言っていました。彼女が転生者の妹さんだったということですか!」
「なるほど、そこで繋がんのか。なぁ、これ結構重要な話なんじゃないの?」
「だと思います。観測者は凄いですね」
「メモがはかどります! ああ、ミアさんならもっと上手くまとめるんでしょうね!」

 ライラはそう言いながら鉛筆を走らせる。ここには居ないミアの代わりにしっかりメモを取っているが、情報収集能力に長けたミアの代わりを務めるのは難しい。

「大丈夫よ、ライラ。ミアはあなたが取ったメモからさらに深い情報を読み取ってくれるわ」
「そうですね! 戻ったらすぐにミアさんにこれを渡さないと! ああ、アリスの言ってた事が今になってよく分かる!」

  ふと思い出したのはテスト前に教科書全部丸暗記すればいい! と言っていたアリスだ。

 一言も聞き逃すまいとライラは耳を皿のようにしてさっきから一言一句書き留めている。アリスではないが、全てメモれば抜けはないはずだ。

 そんなライラに苦笑いを浮かべながらキャロラインはレスターに視線を送ると、レスターは続きを話しだした。

「姉妹星からやってきた人は数年こちらに居たそうです。けれど彼女はあちらへ戻ってしまった。転生者はその後はもう一切姉妹星の話をしなかったそうです。きっと妹さんに会えた事で満足したのでしょう。それからのメイリングはとても穏やかな国だったそうです。長男以外は」
「長男以外?」
「はい。長男はその後もずっと姉妹星に行く研究をしていたそうです。彼は弟の力を借りてまで姉妹星への憧れを強くしていった」
「……何故?」
「分かりません。それは観測者にも分らなかったそうです。もしもその理由が分かったら教えて欲しいと言われてしまいました」

 観測者は特殊な観測の仕方をするようで、二人の事も大まかにしか分からないと言っていたが、どうやら肝心な所が分からなくて観測者自身もモヤモヤしていたのだろう。

「ところでぇ、星のお姫様はいつ出てくるのぉ?」
「!?」

 皆がそれぞれに思案していた所に、突然ユーゴの声が聞こえてきてルイスは驚いて顔を上げた。すると、そこにはルーイとユーゴが立っている。

「い、いつ戻ったんだ! 声ぐらいかけろ!」
「すみませぇん。何か面白い話が始まったなぁって思ってぇ」
「申し訳ありません、王。邪魔をするべきではないと判断したのですが」

 悪びれる様子も無いユーゴの脇腹を小突いてルーイは頭を下げた。

「えっと、星のお姫様だよね? 彼女はしばらくはずっと眠っていたんだ。でもある日突然姿を消したって観測者は言ってた」
「姿を消した? 目覚めたという事か?」
「いいえ。攫われたそうです。それをドラゴンは酷く怒った。その怒りは星の外にまで影響があった。その時近くにあった星々には流星群が降り注ぎ、この星も割れるのではないかと思うほど大きく揺れたそうです。そのせいで海から水が溢れ、地上を7日間水浸しにしたとか」
「……それが……ディノの力……」

 妖精王にも匹敵すると言われているディノの力は、どうやら比喩でも何でも無かったようだ。怒っただけでそんな影響が出るのだ。万が一暴れでもしたら、間違いなく星は消し飛ぶ。

「姫を奪われたドラゴンの怒りを収めたのは、星の外に居た生命体だったそうです。ドラゴンは彼と対話をしていくうちに徐々に落ち着きを取り戻したと観測者は言っていました」
「待ってちょうだい。もしかしてその相手というのがオズワルドなのではなくて?」
「ああ! きっとそうだ! オズは言っていたものな。星の外の箱の中からこの星を見ていた、と」
「オズワルドって、あの女の子と旅をしている方ですか?」
「ええ、そうよ。彼は元妖精王。愛が無いからとずっと箱に閉じ込められていたそうよ」
「そんな……とても良い方でしたよ?」

 何せキャスパーを飲み込んだ妖精の傷跡を治してやるような人物だ。あの妖精は今も元気にキャスパーを咀嚼している。

「ええ。オズは決して悪い人ではないわ。ただ何も知らなかっただけよ。でも彼はアンソニー王によってこの星に呼び寄せられた。そしてまた利用されようとしている」

 キャロラインはそこまで言って拳を強く握りしめた。どうしてオズワルドがそんな目に遭わなくてはいけないのだ。彼と話をした時間なんてさほど無い。それでも彼の人となりをキャロラインはもう知っている。

「そうなんですね……。どうにかしてオズワルドを守れないのでしょうか?」
「その手立てが今は無いの。あちらがどうやってオズワルドを呼び寄せたのかも分からないし、これからオズワルドに何をさせる気なのかも分からない」
「……観測者もこんなことを言っていました。答えはもうじき出る、と。全ての答えが出た時、自分も旅立つかもしれないって」
「観測者が旅立つ時って言うのはぁ、つまりこの星の終わりって事だよねぇ?」
「なぜそうなる?」
「だってぇ、一回この星リセットしてるんでしょぉ? その時の事も観測してたって言うんなら、一つの星に観測者は一人は絶対に居るって事でしょぉ?」
「まぁ……そうなるな」
「だったらぁ、その人が居なくなる時は星が終わった時って事じゃぁん」
「……そう、だな」

 視線を伏せたルーイの肩をユーゴが軽く叩いた。

「俺達はだからぁ、そうならないように動かないとぉ。ね? 団長ぉ」
「ああ」

 ユーゴはこう見えてとてもポジティブだ。そのポジティブさにいつも救われているルーイである。

「それで、話は戻しますがその星の姫は今はどこに?」
「分かりません。星の姫は春色の髪を持った美しい女性だったそうです。攫われた後は観測者も追うことが出来なかった、と」
「観測者と言っても万能という訳ではないようですね」
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