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第308話 春色のお姫様

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 シャルルが腕を組んで言うと、カインも頷いた。

「みたいだな。春色の髪か……春色って何色だよ?」
「そりゃお前、ピンクとか黄色じゃないのか。何となくだが……」
「ピンク! それってもしかしてリゼちゃんでは……?」

 ライラの言葉に仲間たちは全員視線を泳がせた。心の中では皆が思っていたのだろう。

 けれど俄には信じがたいのも事実だ。彼女は何せ星の姫どころかオズワルドの持っている管理者のノートに名前が載っていたのだから。

「百歩譲ってリゼが星の姫だったとして、彼女は転生を繰り返している訳だが、それはつまり……死んだ、という事なのか?」

 恐る恐るルイスが言うと、カインは顔をしかめて呟いた。

「どう……なんだろうな」

 妖精王のノートに名前があると言うことは、リーゼロッテには妖精王の加護があると言うことだ。それはつまり星の姫ではないのではないのか。

 けれどピンクの髪の少女が星の姫だと言うのならリーゼロッテであってもおかしくはない。

 どうやら観測者にも追えなかった不思議な誘拐事件の真相は、姫を攫った当事者に直接聞かなければならないようだ。
 
 
 
「兄さま! ここだよ! 冬の庭!」

 アリスはそう言って冬の庭のドアを少しだけ開けて中を覗き込んだ。その後ろから合流したアーロとオリバーも冬の庭をアリスの後ろから覗き込み、急いで服を着込んでいる。

「子供たちはディノの寝室にどうにか入れないか試すそうだ」
「ああ、ディノの寝室なら壊れたとしても最後だろうからその方がいいね」
「残りのピンを回収次第、レックスに送るって伝えてきたっす」
「ありがと。さて、それじゃあ行こうか。皆、ちゃんとレックスの歯持ってる? それじゃあ行くよ」

 そう言ってノアが冬の庭に足を踏み入れると、中は猛吹雪だった。

「ところで凍土ってどこにあるんだろう?」

 吹き付ける吹雪を腕で避けるように顔を隠しながらノアが言うと、その場に居た全員が首を傾げた。

「分かんない」
「だよね。困ったな。何か目印みたいなもの……あ」
「あれは……お嬢様の雑巾では?」

 ノアの視線の先に何かがヒラヒラ揺れているのを見てキリが言うと、ノアもオリバーまでもが頷いた。

「ちょっと! 雑巾じゃないよ! あれは枕カバーだってば!」
「どう見ても雑巾……」

 ポツリと言ったリアンをアリスは睨みつけて枕カバーに向かって走り出す。

「こらアリス! 勝手に動かないで!」
「兄さま! この枕カバー矢印書いてあるよ!」

 アリスは木に刺さった枕カバーを広げて言うと、ノアとキリが顔を見合わせて言う。

「迷子になると困るからあそこに刺したのかな?」
「恐らくそうではないでしょうか。影の方も相当に方向音痴みたいなんで」
「誰かの為にやったとは考えないんすね、二人とも」
「え、だってアリスだもん。自分の為だよ」
「影とは言えそういう所はばっちり受け継いでいるかと」

 相変わらずの二人にオリバーは苦笑いを浮かべてアリスの元まで行くと、アリスは雑巾を回収して次の雑巾を探している。

「あっちって書いてあったんすか?」
「うん。あ! あそこだ!」

 そう言ってアリスが指さした先には崖があり、尖った岩に二枚目の雑巾が突き刺さっている。

「分かりやすくていいっすね」

 崖を見上げながらオリバーが言うと、後ろからリアンが崖を見上げて嫌そうに言った。

「まさかこれ登んの? この猛吹雪の中?」
「登らなくて大丈夫! ほらここに亀裂が入ってる! 矢印はこの亀裂を指してた! 多分!」
「不確定事項をさも確定事項のように言い切る所はリサそっくりだな」
「えー。だって、じゃあ登る?」

 アリスがふくれっ面で言うと、リアンは真顔で首を横に振った。

「あんたの勘を信じるよ、僕は。ほら行こ! 吹きっさらしじゃなきゃどこでもいいから!」
「リー君は寒い地方の所の子なのに寒さに弱いよね、昔から」

 ブルブル震えながらそんな事を言うリアンにノアが笑顔で言うと、リアンはノアをキッと睨んだ。

「どこで育っても寒いものは寒いし暑いものは暑いの!」
「そりゃそうっすね。それにしてもちょっと寒がりすぎっしょ。はい、これ」

 そう言ってあまりにも震えるリアンにオリバーは巻いていたマフラーと手袋を貸してやった。するとそれを受け取ったリアンはいそいそとマフラーと手袋を装着して言う。

「ありがと! はぁ……人肌の体温気持ち悪い……」
「返してくれていいんすよ?」
「冗談だってば。ありがとモブ。で、この亀裂大丈夫なの? 何か先が見えないんだけど」
「大丈夫! こっからちゃんと空気出てるもん!」

 あちらから空気が流れてくると言うことは、どこかへは繋がっているはずだと判断したアリスは、亀裂に体を滑り込ませた。

「お嬢様、万が一の時の為に皆の体をこのロープで縛っておきましょう」

 キリはそう言ってアリスの腰にぐるぐるとロープを巻いてその先にリアンをくくりつけた。さらにその先にはオリバーで、その後ろにアーロ、自分、最後尾にノアを繋ぐ。

 こうしておけば万が一誰かが足を滑らせてもアリスが一本釣りの要領で助けてくれるに違いない。

「リアン様、お嬢様がもしもどこかに落ちたら遠慮なくロープを切ってくださいね。はい、これ」
「え? 誰かが落ちた時用のロープじゃないの? これ」
「そうですが、それは我々用です。お嬢様が落ちたら話は別です。あの人はどこへ落ちようとも必ず勝手に戻って来るので、その時は遠慮なく切ってください。何も巻き添えを食う事はありません」
「……あんたさ、何回も確かめるけど本当にバセット家の執事なんだよね?」
「そうですが何か?」
「……ううん、いい。アリス! 足元ちゃんと見て落ちないように気をつけてよ!」
「もちだよ! リー君も気をつけるんだゾ!」

 すかさずこんな時でもキメッ! をするアリスを見てリアンは呆れたような顔をしてついてきた。というよりも、ロープに引きずられるようについてくる。

 亀裂の中をどんどん進むと、少しだけ開けた場所に出た。アリスは広場の真ん中まで来て立ち止まって天井を見上げると、透明な氷がドーム状になっていてとても美しい。

「ふぉぉ! リー君のとこの凍土とどっちが透明かな!?」
「間違いなくこっちだよ。すごい透明度。高そ……」

 以前は凍土の氷で生計を立てていたチャップマン家は、氷の質に関しては結構うるさい。そのリアンから見てもここの氷の質は素晴らしい。

「まるでガラスだな。で、ここからどこへ向かえばいいんだ? 次の雑巾は?」
「枕カバーだって言ってるでしょ! もう! パパったら!」

 アリスが拳を握りしめて言うとアーロが固まった。そんなアーロの様子を見てリアンはニヤニヤしながら言う。

「どう? 嬉しい? パパ呼び」
「……存外悪くないな」
「ちょっと、うっすら頬染めんの止めて」

 何故か照れるアーロをリアンは呆れたように言った。

「まぁまぁ二人とも。それよりあそこ、それが次の雑巾じゃないっすか?」

 そう言ってオリバーが指さした先にはカチカチに凍った雑巾が置いてある。その先にはいかにもな雰囲気の洞窟がある。

「よし! レッツゴー! 皆、ついてこーい!」

 はりきったアリスが歩き出そうとすると、突然ロープがグイっと引っ張られた。その勢いに思わずアリスはすっ転ぶ。
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