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第315話 古代生物の復活
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そう言ってオズワルドは両手を広げた。その上に妖精王がそっと手を重ねてくる。その手を強く握ると妖精王の中に魔力が流れ込んで行った。それを感じて思わず声を出して笑ってしまう。
そんなオズワルドを妖精王は軽く睨みつけてくる。
「なんだ? 何がおかしい」
「いや、お前と魔力の交換が出来る日が来るとはね。あれほど俺の事を嫌っていたくせに」
「そ、それはお前……わ、我もお前の事はさほど……き、嫌いじゃないからな!」
「そうか。じゃあ都合がいい。まだ離すなよ」
そう言ってオズワルドは詠唱を始めた。それを聞いて妖精王はギョッとした顔をしてオズワルドを見上げる。
「お、お前これは……」
言い切る前にオズワルドはそっと手を離してまた浮かび上がると、よく通る声で言った。端正な顔に浮かんだ微笑は何かを決意したかのようにスッキリしている。
「一旦ここでお別れだ。次に会う時、俺は俺では無くなってる。じゃあな、妖精王」
「……うむ。必ずここを守る。お前との約束も!」
「ああ、頼むよ」
「……」
それだけ言ってオズワルドは姿を消した。妖精王はじっと両手のひらを見つめて呟いた。
「約束、か」
「これが……完全体」
ノアがポツリと呟いた。
オズワルドに先程まで浮かんでいた玉のような汗はもう無い。いつも無表情だったオズワルドでは絶対に浮かべないような笑みを浮かべてオズワルドはゆっくりこちらに近寄ってきた。
「渡せ。リゼは俺のだ。この星はもう終わりだ。俺はリゼを連れて旅立つ」
「旅立つ? どこへ?」
「どこでもいい。宇宙の外へ、誰の監視も無い真の自由を手に入れるために」
「……」
高いような低いような不思議な声にアリスとキリは武器を構え直したが、ノアだけはそんなオズワルドに首を傾げている。
「そんな所、あるかなぁ?」
「なに?」
「そんな都合の良い場所なんてどこにも無いよ。それに恐らくこの宇宙を出た所でまた別の支配者が居るだけだろうし、さらにその果てを見つけた時、君は絶望すると思うけど?」
「行ってみなければ分からない。それはお前たちが教えてくれた事だろう?」
「まぁそうかもしれないけど。世の中には知らない方が幸せな事だって沢山あると思うけどね。まぁ好きにすれば? 君はようやく力を得て好き勝手出来るように仕立て上げられたんだから。でも、それは一人でね? リゼは巻き込ませないよ」
そう言ってノアはアリスのポシェットに手を突っ込んだ。指先に何かツルツルした丸いものが当たったのに気づいてそれを掴む。
「リゼはオズのだ。君のじゃないよ」
ノアは掴んだそれをオズワルドが言った通り、リーゼロッテの真上に勢いよく投げた。
「二人とも、避けて!」
「うえぇぇ!? な、なん!?」
「!」
ノアの号令にアリスとキリは慌ててリーゼロッテから飛び退くと、丸い玉はリーゼロッテの真上で弾けて一瞬で緑色のドームになった。
「これは……なんだ! 入れない、何故だ!」
ドームに包まれたリーゼロッテに触れようとオズワルドがドームの隙間に腕を突っ込むが、その場所がギチギチと締まって腕が千切れそうになる。
「前にオズが言ってたんだ。木の妖精を助けた時に面白いものを貰ったってね。土があればどこにでも生える妖精の木の種なんだって」
オズワルドが完全に意識を失う前、オズワルドは叫んでいた。種を使え、と。ノアはそれを実行したにすぎない。
「ほあぁぁ……すご! ちょ、キリこれ見て! 新芽が編み込まれてる!」
ノアの隣で立派なドームを見てアリスは感嘆の声を漏らした。よく見るとドームは大量の根っこと新芽で出来ていた。それらが複雑に絡み合い、今もわさわさと生い茂り続けている。
「こんな物……」
オズワルドは手を広げて何やら詠唱を始めようとしたが、それは正体不明の音によってかき消された。
『ここでは火は使えない……帰れ……帰れ……ソラに帰れ!』
「!」
音が叫んだ途端、オズワルドの体が宙に浮いた。そしてそのまま物凄い勢いで何かに上から引っ張られる。
抵抗しようと魔力を込めても音に逆らうことが出来なくて、オズワルドは気づけば地上に放り出されていた。
オズワルドが上空に無理やり放り出されたのを見送った三人は、ドームに包まれたリーゼロッテを隙間から覗き込んだ。
「これでとりあえずは安心、かな?」
ノアの言葉にアリスもキリも頷く。そこにまた声が聞こえてきた。
『ありがと……ありがと……でもまた来る……今度は沢山来る……』
「沢山? あいつらだけじゃなくって?」
アリスが問うと、音は反響しながら震えた。
『違う……違う……眠ってる魂。戦士になる……ディノ起きない……数でも勝てない……戦士……沢山……作られた戦士たち……ディノの一部を追って……追って……』
そこで音は途絶えた。辺りはシンと静まり返り、新芽のささやき声だけが聞こえてくる。
「……今のはどういう事だと思う?」
「そんなに戦士が居るのでしょうか? あちらに?」
音の言ってる意味がよく分からなくて首を傾げた二人の腕を引っ張ってアリスは洞窟の出口を目指した。
「ちょ、アリス!?」
「ここ出よう。リー君達と早く合流しなきゃ! 地上に戻って皆で集まろう、兄さま」
「それはもちろんだけど、急にどうしたの?」
「何だか嫌な感じがするの。当分は大丈夫だと思うけど、こっちも戦力集めなきゃ」
アリスの言葉にノアとキリが顔を見合わせて頷く。
「分かった。すぐに広場の三人を拾って地上に出よう。子供たちはディノの寝室に無事に入れてるといいけど」
「大丈夫です。先程話した感じ、ディノは子供たちの事を保護してくれていると思います」
「そうかな?」
「はい。アミナスのフランネルのベッドに喜んでいたみたいですから」
ミアがアミナスの為に量産したふわふわフランネルのハンカチだ。気に入らない訳がない。キリはそう付け加えてアリスとノアの後ろをついていく。
「ははは、キリはどこまでもミアさん贔屓だなぁ!」
いついかなる時でもブレないキリにノアは声を出して笑ったが、そんなノアにキリはコイツマジか、の視線を向けてくる。
「あなたに言われたくありません」
「そりゃそうだ! ん?」
ひとしきり笑っていると、前方から何やら大きな音が聞こえてきた。剣がぶつかり合う音に混じって時々リアンの悪態が聞こえてきて三人は顔を見合わせて駆け出す。
「コイツ、デカすぎ! もう! 雷使えないし!!」
リアンは真正面から突っ込んでくる大きな生き物にさっきから一生懸命クローを当てているが、いかんせん相手が大きすぎて少しの傷すらつかない。
「これ何て生き物!?」
「リー君、その鼻の威力ヤバいっす! あんま近づかないで!」
「そんな事言ったって! 近づかなきゃ僕のクローは届かないんだっての!」
「剣すら通らない。どれほど固い皮膚なんだ!」
アーロは巨体の割にすばしっこい生物の足を斬りつけるが、何の効果もなさそうでガックリと項垂れた。逃げた方がいいのだろうが、いかんせん逃げ道がこいつのせいで塞がれてしまったのだ。
それに洞窟の奥にはまだアリス達がいる。彼女たちをここに残して自分だけ逃げるなど、アーロの頭には浮かびもしなかった。
その時だ。
「やぁやぁやぁ! とうっ!」
アリスはヒラリと宙に舞い上がり、大暴れしているマンモスの上に飛び乗った。下では今しがた思い切り踏みつけたノアとキリが腰を抑えて蹲っている。
突然どこからともなく現れたアリスを見て、リアンとオリバーとアーロは目に見えてホッとしたような顔をしていて、どれほど自分の事を待ち望んでいたかが伺えた。
そんなオズワルドを妖精王は軽く睨みつけてくる。
「なんだ? 何がおかしい」
「いや、お前と魔力の交換が出来る日が来るとはね。あれほど俺の事を嫌っていたくせに」
「そ、それはお前……わ、我もお前の事はさほど……き、嫌いじゃないからな!」
「そうか。じゃあ都合がいい。まだ離すなよ」
そう言ってオズワルドは詠唱を始めた。それを聞いて妖精王はギョッとした顔をしてオズワルドを見上げる。
「お、お前これは……」
言い切る前にオズワルドはそっと手を離してまた浮かび上がると、よく通る声で言った。端正な顔に浮かんだ微笑は何かを決意したかのようにスッキリしている。
「一旦ここでお別れだ。次に会う時、俺は俺では無くなってる。じゃあな、妖精王」
「……うむ。必ずここを守る。お前との約束も!」
「ああ、頼むよ」
「……」
それだけ言ってオズワルドは姿を消した。妖精王はじっと両手のひらを見つめて呟いた。
「約束、か」
「これが……完全体」
ノアがポツリと呟いた。
オズワルドに先程まで浮かんでいた玉のような汗はもう無い。いつも無表情だったオズワルドでは絶対に浮かべないような笑みを浮かべてオズワルドはゆっくりこちらに近寄ってきた。
「渡せ。リゼは俺のだ。この星はもう終わりだ。俺はリゼを連れて旅立つ」
「旅立つ? どこへ?」
「どこでもいい。宇宙の外へ、誰の監視も無い真の自由を手に入れるために」
「……」
高いような低いような不思議な声にアリスとキリは武器を構え直したが、ノアだけはそんなオズワルドに首を傾げている。
「そんな所、あるかなぁ?」
「なに?」
「そんな都合の良い場所なんてどこにも無いよ。それに恐らくこの宇宙を出た所でまた別の支配者が居るだけだろうし、さらにその果てを見つけた時、君は絶望すると思うけど?」
「行ってみなければ分からない。それはお前たちが教えてくれた事だろう?」
「まぁそうかもしれないけど。世の中には知らない方が幸せな事だって沢山あると思うけどね。まぁ好きにすれば? 君はようやく力を得て好き勝手出来るように仕立て上げられたんだから。でも、それは一人でね? リゼは巻き込ませないよ」
そう言ってノアはアリスのポシェットに手を突っ込んだ。指先に何かツルツルした丸いものが当たったのに気づいてそれを掴む。
「リゼはオズのだ。君のじゃないよ」
ノアは掴んだそれをオズワルドが言った通り、リーゼロッテの真上に勢いよく投げた。
「二人とも、避けて!」
「うえぇぇ!? な、なん!?」
「!」
ノアの号令にアリスとキリは慌ててリーゼロッテから飛び退くと、丸い玉はリーゼロッテの真上で弾けて一瞬で緑色のドームになった。
「これは……なんだ! 入れない、何故だ!」
ドームに包まれたリーゼロッテに触れようとオズワルドがドームの隙間に腕を突っ込むが、その場所がギチギチと締まって腕が千切れそうになる。
「前にオズが言ってたんだ。木の妖精を助けた時に面白いものを貰ったってね。土があればどこにでも生える妖精の木の種なんだって」
オズワルドが完全に意識を失う前、オズワルドは叫んでいた。種を使え、と。ノアはそれを実行したにすぎない。
「ほあぁぁ……すご! ちょ、キリこれ見て! 新芽が編み込まれてる!」
ノアの隣で立派なドームを見てアリスは感嘆の声を漏らした。よく見るとドームは大量の根っこと新芽で出来ていた。それらが複雑に絡み合い、今もわさわさと生い茂り続けている。
「こんな物……」
オズワルドは手を広げて何やら詠唱を始めようとしたが、それは正体不明の音によってかき消された。
『ここでは火は使えない……帰れ……帰れ……ソラに帰れ!』
「!」
音が叫んだ途端、オズワルドの体が宙に浮いた。そしてそのまま物凄い勢いで何かに上から引っ張られる。
抵抗しようと魔力を込めても音に逆らうことが出来なくて、オズワルドは気づけば地上に放り出されていた。
オズワルドが上空に無理やり放り出されたのを見送った三人は、ドームに包まれたリーゼロッテを隙間から覗き込んだ。
「これでとりあえずは安心、かな?」
ノアの言葉にアリスもキリも頷く。そこにまた声が聞こえてきた。
『ありがと……ありがと……でもまた来る……今度は沢山来る……』
「沢山? あいつらだけじゃなくって?」
アリスが問うと、音は反響しながら震えた。
『違う……違う……眠ってる魂。戦士になる……ディノ起きない……数でも勝てない……戦士……沢山……作られた戦士たち……ディノの一部を追って……追って……』
そこで音は途絶えた。辺りはシンと静まり返り、新芽のささやき声だけが聞こえてくる。
「……今のはどういう事だと思う?」
「そんなに戦士が居るのでしょうか? あちらに?」
音の言ってる意味がよく分からなくて首を傾げた二人の腕を引っ張ってアリスは洞窟の出口を目指した。
「ちょ、アリス!?」
「ここ出よう。リー君達と早く合流しなきゃ! 地上に戻って皆で集まろう、兄さま」
「それはもちろんだけど、急にどうしたの?」
「何だか嫌な感じがするの。当分は大丈夫だと思うけど、こっちも戦力集めなきゃ」
アリスの言葉にノアとキリが顔を見合わせて頷く。
「分かった。すぐに広場の三人を拾って地上に出よう。子供たちはディノの寝室に無事に入れてるといいけど」
「大丈夫です。先程話した感じ、ディノは子供たちの事を保護してくれていると思います」
「そうかな?」
「はい。アミナスのフランネルのベッドに喜んでいたみたいですから」
ミアがアミナスの為に量産したふわふわフランネルのハンカチだ。気に入らない訳がない。キリはそう付け加えてアリスとノアの後ろをついていく。
「ははは、キリはどこまでもミアさん贔屓だなぁ!」
いついかなる時でもブレないキリにノアは声を出して笑ったが、そんなノアにキリはコイツマジか、の視線を向けてくる。
「あなたに言われたくありません」
「そりゃそうだ! ん?」
ひとしきり笑っていると、前方から何やら大きな音が聞こえてきた。剣がぶつかり合う音に混じって時々リアンの悪態が聞こえてきて三人は顔を見合わせて駆け出す。
「コイツ、デカすぎ! もう! 雷使えないし!!」
リアンは真正面から突っ込んでくる大きな生き物にさっきから一生懸命クローを当てているが、いかんせん相手が大きすぎて少しの傷すらつかない。
「これ何て生き物!?」
「リー君、その鼻の威力ヤバいっす! あんま近づかないで!」
「そんな事言ったって! 近づかなきゃ僕のクローは届かないんだっての!」
「剣すら通らない。どれほど固い皮膚なんだ!」
アーロは巨体の割にすばしっこい生物の足を斬りつけるが、何の効果もなさそうでガックリと項垂れた。逃げた方がいいのだろうが、いかんせん逃げ道がこいつのせいで塞がれてしまったのだ。
それに洞窟の奥にはまだアリス達がいる。彼女たちをここに残して自分だけ逃げるなど、アーロの頭には浮かびもしなかった。
その時だ。
「やぁやぁやぁ! とうっ!」
アリスはヒラリと宙に舞い上がり、大暴れしているマンモスの上に飛び乗った。下では今しがた思い切り踏みつけたノアとキリが腰を抑えて蹲っている。
突然どこからともなく現れたアリスを見て、リアンとオリバーとアーロは目に見えてホッとしたような顔をしていて、どれほど自分の事を待ち望んでいたかが伺えた。
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