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第320話 エアハグッ!

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「そ、そうなんですか?」
「そうなんですよ! マンモス出てきて洞窟に閉じ込められたり、オズとヴァニタスが合体しちゃったり、ドラゴンが来なくて野原で一晩明かしたりね!」
「……」

 叱らないと言った割に嫌味たっぷりにリアンは眉を吊り上げてじりじりとアランに近寄ってくる。こんなリアンの顔を見たら何も得る物が無かったとはとてもではないが言えない。

「で? どうなの? 何か分かったんだよね?」
「あ、えっと……」

 ずっとチビアリスの事だけを考えていたとは言えずにアランは視線を彷徨わせて必死になって考えた。そしてある文献の事を思い出す。

「そう言えば、凍結された魂についての文献があったんですよ」
「凍結された魂についての文献? どゆこと?」
「クラーク領の図書館の禁書コーナーにありまして、誰が書いたのかいつ書かれたのかも不明だったんですが、そこに書いてあったんです。凍結された魂は真名書に名前が無くとも全て妖精王に帰属する。という一文がありまして」
「真名書って……オズが持ってた本かな?」

 アリスが言うと、隣でノアが頷く。

「多分ね。で、その凍結された魂は全て今も妖精王の物って事か。なるほどね」
「ではそれを目覚めさせる事が出来るのは妖精王、という事ですかね」
「だろうね。だからオズなんだよ。元とは言え彼は妖精王だから」

 ノアとシャルの言葉に全員が黙り込んだ。

「そ、それは結局どういう事なんだ?」

 ルイスの問にノアがニコッと笑う。

「あいつらが創ろうとしてる兵士って言うのは、凍結された魂を使うって事だよ」
「そ、それは一体どれほどあるんだ?」
「さあ? 誰が、どこでそれを保存してるのか次第かな」

 肩を竦めて言ったノアにルイスは分かりやすく青ざめた。

「そもそもその凍結された魂ってなんなの? そこがよく分からないのだけれど」
「そのまんまだよ。僕がシャルの時代の妖精王にオリジナルアリスの魂を凍結させてもらってたのと同じことだと思う。誰かがいつの時代かの妖精王に頼んで魂を凍結させたんじゃない」
「そして今回、それを一斉に兵士として蘇らせようとしているのかもしれないと言うことです」
「……それは……いつ始まったかによる……わよね?」
「そうだね。ここ10年程のならそんな数でもないかもしれないけど、それこそずーっと生きてるアンソニーとかが契約してたとしたら最悪だね」
「ちょ、ちょっと待ってちょうだい! それはどれほどの数になるの!?」
「見当もつかないよ。ただ言えるのはそれらが全部オズによって解除されたら物凄い数になる事だけは間違いないよ」

 ノアのことばにそれまでじっと聞いていたアーロが口を開いた。

「少しいいか?」
「どうぞ?」
「魂の凍結と言うが、それはどんな魂だ? 魂は何度も再生を繰り返すのだろう? ノアが凍結を頼んだのは輪廻を止めようとしたんだよな?」
「そこなんだよ。僕もそれはどういう魂だろうって考えてたんだけど、もしアンソニーが真名書から消えた魂を今も凍結してるとしたら? オズ達の話ではあの本に載っている色の薄い名前は間引かれるって言ってた。そういう既に間引かれた魂を凍結してるのかなって思ったんだけど……どうなんだろうね」
「なるほど……既に間引かれた魂、か。それはありえるな。だったらレックスにでも話を聞くのが早いんじゃないか?」
「なんでそうなんのさ?」

 突然出てきたレックスの名前に子供を巻き込みたくないリアンが尋ねると、アーロは相変わらず涼しい顔で言う。

「我々の中では彼が一番長生きだろう? 見た目は確かに子供だが、この中では誰よりもお爺ちゃんだぞ?」
「お爺ちゃんってあんたね……」
「それに彼はディノの唯一の肉親だ。いや、身内? どちらでもいいが、そのディノから色んな話を聞いていると思うのだが」
「まぁアーロの言う通りなんじゃないっすかね。もしもアンソニーがそれを提案したんだとしたら、間違いなくディノも知ってるっしょ。何せ元は仲良かったみたいなんすから」

 先程レスターから聞いた話によると、アンソニーと弟の兄弟仲は良かったようだし、ディノとも別に険悪だった訳ではないようだった。

 だとすればアンソニーがその時代の妖精王とそういう契約をしていたかもしれない事をディノが知っていたとしても何も不思議ではない。

 いつの間にか戻ってきていたオリバーの言葉にノアは頷いてレックスに連絡をしてみたけれど繋がらない。どうやら地下は今や完全によそ者をシャットダウンしてしまっている状態のようだ。

「地下でさ、僕たちはディノに会ったって言ったでしょ?」
「ああ、ディノの幻影だろ?」
「そう。あのディノが消えた事でもしかしたら地下は完全に閉鎖されちゃったかも」

 ポツリとノアが言うと、仲間たちが全員ギョッとした顔をする。

「お、おい! そ、それは子供たちはどうなるんだ!?」
「……分からない。ただアリスが何も感じないみたいだから大丈夫……だと思う。思いたい」

 地下に子供達を向かわせたのは失敗だったか? ノアは背中に冷たい物が流れていくのを感じながら何となく隣のアリスを見ると、アリスは何故か膝にディノの目を置いて目を閉じて何かムニャムニャ言っている。

「アリス? 何でそれ抱きかかえてんの?」
「うん? これディノと繋がってるでしょ? だからもしかしたらあの子達に通じるかな~って思って!」

 言いながらアリスはさらにきつく目を閉じてノエルとアミナスとレックス、それから子供たち全員の顔を思い浮かべた。

 その時だ。

『母さまだ! 兄さま! 母さまがディノの目に映ってる!』
『え!? あ、ほんとだ! 母さま!』
『待って、二人ともそんな風にディノの瞼持ち上げないで』
『大丈夫です、レックス。いざとなったら我々は精製水を持っています』
『精製水でディノの眼の乾きはすぐに解消されます』
『ドライアイを心配してるんじゃないよ。眠ってるのを無理やり開くのは――特に怒ってないから大丈夫かもしれない』

 声は聞こえなくとも感覚だけは復活したが、だんだんディノというドラゴンの事がよく分からなくなってきたレックスが言うと、子供たちは全員笑った。

 そんな子供たちを見て仲間たちもホッと胸を撫で下ろす。

「繋がったーーー! 子供たち~~~~! ハグッ!」
『母さま~~! ハグッ!』
「ねぇアリス、そのたまに言ってるハグッってなんなの?」

 不思議そうにキャロラインが問うと、推しに話かけられたアリスが早口で言う。

「エアハグですよ! 汚れたりしてて抱きつけない時とかに言うんです。ハグって言われたらハグッって返さないと後で嵐のハグキスの刑なんですよ! ハグッ!」

 アリスはそう言ってキャロラインをじっと見上げると、キャロラインは引きつりながらも小声で「ハ、ハグ」と返してくれた。やはりキャロラインの人の良さは並大抵のものではない。

「キャロライン様、恥ずかしいのなら無理してお嬢様に付き合うことはありません。ところでアミナス、そちらは皆元気なのですか? 詳しい状況を教えてください……と、言いたいところですがあなたでは少々不安なのでうちの息子達かノエルに代わってください」
「ぶー!」
『ぶー!』
「いいから早く代わってください!」

 アミナスをバカにされてアミナス本人とアリスが同時に頬を膨らませた。そんな反応はまるでハンコである。そんな二人を見てノアが肩を小刻みに震わせて俯いているので、また何かのツボに入ってしまったのだろう。

『キリ! こっちは皆無事だよ。あの後僕たちはレックスと一緒にディノの寝室に避難したんだ』
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