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第321話 神の契約

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「ええ、そこまでは知っています。全員入れたのですか?」

 キリの言葉に従ってディノの目に映ったのはノエルだ。

『入れたよ! レックスが言うにはディノの力がここを守るのに縮小したからだって言ってた。今まで誰も入れなかったのは、ここを守るディノの力が弱かったからなんだって』
「弱かった? 強かった、ではなくて?」

 キリが問うと、ノエルの隣からレックスがひょっこりと顔を出した。

『違う。逆なんだ。ディノの守りの力が弱すぎて僕しか入れなかったんだ。でも今は核を守ってたディノの力が戻ったから全員入れた。核で何かあった?』
「キリ、ごめんちょっと代わって。レックス、核って言うのは凍土の奥にある水のある場所の事?」
『そう。それを知ってるって事は入れたんだ。そこで何かあった? 核を守ってたディノの幻影が戻るのはあそこで何かあった時だけ』
「あったよ。今はリゼがそこで眠ってる。そこにオズがやってきたんだ。オズはとうとうヴァニタスと合体したよ。でもその直後、不思議な声によってオズはそこから追い出されたんだ」
『不思議な声は星の声。そう……リゼがディノのよく言ってた姫なのか……』

 何かに納得したように頷いたレックスにノアも頷く。

「それでね、ちょっとレックスに聞きたい事があったんだ。星はこの後、大量の兵士が襲ってくるって言ってたんだけど、その兵士って言うのがもしかしたら凍結された魂なんじゃないかって話が出ててね、その凍結された魂の存在にレックスは心当たりある?」

 その言葉にレックスは一瞬目を見開いてノアを凝視した。その表情を見て察する。恐らくレックスは何か知っている、と。

『妖精王の加護を持たない、ディノが保護していた魂が地下にある。それはいつか妖精王の加護を受け取れるようになるかもしれないと考えたディノが保護していた魂』
「と、言うことは魂の保護をしていたのは……ディノ、ということ?」
『そう。アンソニーも何かしらしていたかもしれないど、僕が知ってるのはディノが保護していた魂の事だけ』
「……そう。それはどれぐらいの量?」
『ざっと数えて億は下らない』
「……億かー……ヤバいね、これは。レックス、その魂の保管場所はアンソニーも知ってるのかな?」
『どうだろう。でもオズならあるいは入れるかもしれない。ヴァニタスと合体したオズなら』

 ヴァニタスと合体したオズワルドに果たして入れない所などあるだろうか? 妖精王の地位を失ったオズワルドは簡単にディノの地下にも下りてくる事が出来たのだ。それに先程のノアの話ではオズワルドは核にまで到達したようだ。

「……だよね。アランがね、真名書から外れた魂も妖精王に帰属するって書かれた本を見つけたんだよ」
『だとしたら、オズも元妖精王で力の源は妖精王と同じだからオズにもその権利があるのかもしれない』
「僕もそう思う。ありがとう、レックス。聞きたかったのはそれだけなんだ。出来るだけ早く残りの金のピンを取り返すよ」
『うん、お願い。このままだとディノの力が暴発しちゃうかもしれない』
「え! そうなの?」
『うん。ディノは地下を守ったり自分の幻影を作る事で溜まる魔力をちょっとずつ開放してたんだ。それが今は出来ないから溜まっていく一方で、もうちょっとで部屋に入り切らなくなりそう』
「そ、それは困るね。急ぐよ」

 言いながらレックスはゆっくり振り向いてため息を落としている。言われてみればさっきまでディノの目に映っていたのはレックスだけだったのに、今はレックスの他にノエルもアミナスも、レオとカイまで映っている。これはあちらのディノの目がどんどん大きくなっていると言うことなのだろう。

「また何かあったら連絡するよ。スマホは……通じないよね?」
『無理だけど、この方法が分かったからこれで呼ぶ』
「でもそれ、ディノの目無理やり開けてるんでしょ?」
『うん。でもディノは怒ってない。大丈夫』
「そ、そう? それじゃあこれを使うよ。それじゃあね、皆も危ないことはしないように」
『父さま! 父さま達も気をつけて!』
「うん、ノエル達もね」

 最後にレックスの後ろから顔を出したノエルにノアは優しく微笑んだ。子供たちだけは絶対に何があっても守り通す。そんな事を心に誓いながら目をポシェットに入れると、それまでじっと話を聞いていた仲間たちを振り返る。

「だ、そうだよ」
「だ、そうだよじゃないだろ! なんだ億って! どんなに頑張ってもそんな兵士は集める事が出来ないぞ!?」
「全部の国足しても億は無理だな。ノア、どうする?」
「どうするって言ってもどうしようもないし、時間も無いんだよね。頼れるとしたら妖精王だけど……無理か」

 ポツリとノアが言った途端、部屋が光って誰かが現れた。それは他の誰でもない、妖精王だ。

「我を呼んだか?」
「妖精王じゃん! なんかめっちゃ久しぶり! ちょっと背、伸びた?」
「むぎゅう」

 突然現れた妖精王を見てアリスが妖精王に飛びついてきた。その反動で妖精王はアリスを支えきれず二人して後ろに倒れ込む。

 アリスによって押し潰された妖精王はしばらくじたばたしていたが、やがてパタリと動かなくなった。そんな妖精王を見てリアンが青ざめて叫ぶ。

「圧死する! ちょ、変態あいつ止めて!」
「アリス、妖精王ぺっちゃんこになってるよ」

 慌てたリアンの言葉にノアはアリスを妖精王からどかすと、妖精王を立たせて背中をはたいてやった。

「す、すまぬ。一瞬見たことも無い美しい川が見えた気がする。よし、次にオズと星を創る時には是非あの川を創ろう」

 言いながらソファに腰掛けてキョロキョロした妖精王を見て、キリが何かに気付いたように舌打ちして席を立った。とんだ従者である。

 しばらくするとキリが妖精王の分のお茶とお菓子を持って戻ってくる。

「妖精王どこ行ってたんだよ。フィルがずっと探してたんだぞ?」
「ああ。さっき会ってきた。他の者達にも挨拶をしていてな、ここへ来るのが遅くなってしまった」
「挨拶? なんの話?」

 怪訝な顔をしてカインが妖精王を見ると、妖精王はカインの目をじっと覗き込んで言った。

「作戦が失敗した時の挨拶だ」
「作戦って……何する気? 失敗したらどうなんの?」
「うむ。作戦の内容はここでは言えんが、失敗したら我はソラに還る。この星は競売にかかり、違う者がこの星の管理者になる」
「……は? そんなん一言も聞いてないんだけど? 何勝手に決めてんの?」

 随分とあっけらかんと言う妖精王にカインが冷たく言うと、妖精王は申し訳無さそうに視線を伏せた。

「すまん、もう決めた事だ。我もお主達と同じようにこの星を、この星に生きる生物を守りたいのだ。今回は人間同士の戦争ではない。神の戦いだ。我はもちろんその戦いに参加する」
「それは失敗しなかろうがソラに還る事になるんじゃないの?」

 キョトンとしてアリスが言うと、妖精王は首を振った。

「それについては大丈夫だ。神々の戦いはどちらかに肩入れするとかそういう次元の話ではないからな。一応ソラの契約書を確認してきたが、星を守るために戦うのは契約違反ではないのだ」
「なるほど。つまりオズと妖精王が戦う分には問題ないけど、妖精王が特定の生物を意思を持って攻撃するのはアウトって事か」
「うむ。もっと細かく言うと、我が誰かに肩入れした事によって状況が変わるような事があればアウトだと言う事だ。管理者であれば、な」

 そう言って妖精王は薄く笑った。作戦はここでは話せないが、妖精王もそうやすやすとこの星を手放す気はない。

「……どっちにしても何でそんな重要な事勝手に決めるんだよ! ちょっとは俺たちに相談すべきだろ!?」
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